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『 』様。
私は手紙を出しました。一体誰に出した手紙なのか、分からずじまいなのですが、とにかく手紙を出してみました。
その手紙というのはつまりあなたが手にしているこれなわけで、今わたしはこれが一体誰に届いたのか、思いを巡らしているところです。
まあしかし、インターネットなどと言うものを日常的に使っていると、こんなことは珍しくもありません。私がただひとりに届けばいいと思っていたものまで、平気な顔をして外を歩いていくので、まったく、困ってしまいます。
けれどこの手紙は今の話とは少し違うような気がしています。誰に届くか分からないところは確かに同じかもしれませんが、決定的な差がありますね。私自身、この手紙を誰に向かって書いているのか、全く分からないままなのですから。
私が前に一度だけお話しさせていただいた『 』さんでしょうか?それともいつもノートを見せてくれる『 』さんでしょうか?夜中に電話をしたこともある『 』さんでしょうか?本当に、全く心当たりがないのです。
ならどうしてこんな手紙を書いているのかというと、それも私自身全く分からないのです。一体何故なんでしょうね。
そうそう、手紙ですから、何か近況をお伝えした方が宜しいでしょうか。
最近私はさほど深く考えることもなく、平和な毎日を送っています。まあ、それぞれの日にそれぞれの良さ悪さがありますから、何も感じないと言うことはありませんが、誰もが感じる、ありふれたものでしょう。まあ、毎日をのらりくらりと過ごしています。
最近アリの巣を見かけましたが、あれは面白いですね。新宿なんかに行くと、あれとそっくり同じ光景が見られます。新宿の方が多少彩りがあるような気もしないわけではないですが、あの黒い集団がわさわさと隊列を組みながら歩いていくさまは、拡大コピーされたアリを思い起こさせます。
そして、学校。こちらの方が近いかもしれませんね。全員が全員真っ黒ですから。特に女子校などは似通った部分が大いにあると感じます。働きアリというのは、どれもみんな雌らしいですね。そしてその中で特別な栄養を与えられ生まれたものだけが女王アリになれるそうです。こればっかりは運なのでしょうね。
運と言えば、先日とある神社でおみくじを引きました。三人でおみくじを引いたのですが、三人が三人とも大吉でした。これはよほど運がいいことなのでしょうか?それとも大吉しか入っていなかったのでしょうか。名目は「恋愛おみくじ」でしたから、もしかしたら神主さんが二人連れのことを考慮して大吉ばかり入れたのかもしれませんね。
そういえばその、一緒におみくじを引いた人々と、早く一人暮らしがしたいというような話をしました。私はさほど強く一人暮らしを望んでいるわけではないですが、彼らの話を聞いているとそれも楽しそうだなという気になりまして、いろいろ想像して楽しんだのです。そのことについてお話ししましょう。
まず、狭くてもいいから、風通しのいい部屋がいいというような話をしました。ごく最近部屋に、人間様の食器を勝手にかぶる不届きな黒い虫を発見したせいもあり、私はそれに心から同意しました。
そして、食器をあつめるのも楽しそうだということになり、街の雑貨屋で見つけたものから、高級品まで、なにがいい、いやこちらの方がと話が及んだのです。
今私は誰にこの手紙が届いているのか分かりませんが、もし私がどこかにひとりで暮らす際には、ワイルドベリーの食器一式、それがなければ割れた皿でも構いません、お譲りいただければと思います。
だんだんと、読んでいてお疲れのことと思います。けれど宛先の分からない手紙を出すときには二千字以上書くのが礼儀だとどなたかから聞いた気がするので、読み手書き手双方少々疲れながらですが、このままあと少しおつきあいいただければと思います。
しかし、読み手が誰だか分からない手紙というのは難しいものですね。誰かに宛てた手紙を、誰に見られてもいいように少しだけ書き換えるのは容易なのですが、『 』さんに宛てた手紙を書くのは全くはじめてのことで、一体どこから書けばいいのやら、そしてどこまで書いていいのやら、見当も付きません。
おっと、ここで五枚。これで二千字でしょうか?
私はそろそろ終わりにしようと思います。早々に引き上げること、どうか礼儀知らずと思わないでください、『 』さん。これから私はあの人に宛てた手紙を書く予定です。そのあの人の中に『 』さんが入っているかもしれませんから。そちらの手紙はこんな読んで良いことも悪いこともないようなものではなく、たったひとりに宛てた、読んでいて心が動くようなものにすることをお約束いたします。
『 』様、こんな手紙にお付き合いいただきありがとうございました。これでおしまいでしょうか?それとも私が、あなたただひとりに手紙を書く日がこれから来るのでしょうか?
私はこのごろ、こんな事ばかり思っているのです。答えは出ませんが、ともあれ、身体にはお気をつけください。
二〇〇一年八月二十一日
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これは、学校の課題の作文賞用の文章です。
ただ、先生が読むためだけに、書く。
ただ、審査されるために、書く。
「このごろ思うこと」
というのが、課題でした。
一体誰が、誰に読まれるかもわからないものに、
誰に読ませるのかも自分で分かっていないものに、
本当に今真剣に考えていることなどを書けるというのでしょう?
それを、古文の堤中納言物語「よしなしごと」にかけて書いてみました。
「私なんてこんなつまらないことしか考えていませんよ。
大切な事なんて貴方に言えるわけないでしょう?」
そう言う文章です。^_^;
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