| *夢を見せる機械(改訂版) |
アカネ、タケル、少女、あかね、しずく、ゆき、母、先生(45分)
(舞台の前に少女が一人立っている)
少女 明日はあの人の誕生日。何を買ってあげようかな?あ、手作りのものがいいのかなぁ?そうだ、ケーキを作っていこう。きっと喜んでくれるよね。
(少し考える様にして)
何だってしてあげたい、、、、あの人になら。
(舞台薄暗く。人影がみえる)
アカネ 本当?
少女 え?
アカネ それは夢。貴女がそのひとに見せている、夢。
少女 ゆめ?
アカネ それは本当の貴女じゃない。ただの演技。偽物。
少女 あなたは?
アカネ 夢。
(少女、椅子に座り、本を開く)
少女 ・・・どうしても、思い出せない人がいました。
たいせつなひと、必要なひと。
どこへ、行ったのですか?
あれは、夢だったのですか?
夜になれば見えてきて、昼になればかき消える 。
いつかは消えて、塵となり またあたらしい世界を作る。
そう、一つだけ、覚えています。
星のような、ひとでした。
・・・思い出して下さい。あなたの大切な夢を。
(アカネ、客席に向き直る。舞台明るく)
アカネ そう、私はあの人の夢でした。私がこれからお話しするのは、ひとつの星の物語。消えていった、夢の話です・・・・・。私があの人と出会ったのは、もう一年も前のこと。あの人は夢の中で、そう私の中で眠っていました。あの人が目覚めたその時、私も目覚めたのです。私は夢。あの人の薄く目覚めた無意識は、私。
(アカネ、壊れた人形のように椅子に座る。客席の後ろからタケルがやってくる)
タケル ここは・・・・・・どこだ?全部がぼやけていて、まるで夢の中みたいだ。・・・夢?そうだ!俺は昨日勉強をして、そのまま寝たんだ。ってことは、ここは俺の夢の中か?
(舞台に向かって歩きながら)
タケル 夢か・・・・小さい頃、よく公園の夢を見たっけ。楽しかったなぁ。最近は夢なんて見てなかったから、なんだか懐かしい感じがする。
(アカネを見つけ)
タケル 人形・・・・・か?
(タケル、おそるおそるアカネに触れる。アカネが目覚める)
アカネ タケル・・・様?
タケル お前は何だ!
アカネ お久しぶりです!タケル様。
タケル 何で人形が動くんだ!
アカネ ずいぶん長い間夢を見ていなかったのですね。覚えていますか?昔見た楽しい夢を。一緒に遊んで、公園に行って、学校に行って。
タケル そんなことはどうでもいい!何で人形が動くんだ!
アカネ (微笑って)ここは貴方の夢の中。何が起こっても不思議ではありませんよ。
タケル そうか、ここは俺の夢の中だもんな。人形が動くなんて、変な夢だな。
アカネ ここは貴方が無意識で造り上げている世界。あなたが私を望んだから、わたしはここにいる。
タケル そうか、お前は俺の夢の中の登場人物って訳だな。
アカネ ええ。ここはあなたの願いがすべて叶う世界。
タケル お前、名前は?
アカネ アカネ。
タケル アカネ・・・・・? お前、どうしてその名前なんだ?
アカネ 私には分かりません。きっとあなたが無意識で望んだこと。
タケル そう・・・か。お前、「久しぶり」って言ってたよな。俺、前にお前に会ったか?
アカネ あなたが今まで見てきた夢、それは全部私です。あなたの無意識、それが私。
タケル じゃあ、小さい頃に見た公園の夢や、学校の夢なんかもお前なのか?
アカネ そう。私はあなたが望んだものを見せる。あなたが子供の頃、熱を出して外に行けなかったとき、私は公園や遊び相手になった。あなたが野球大会で勝ちたいと思えば、その勝利の瞬間を夢で見せた。
タケル お前は、夢なんだな?俺の空想を現実に見せる、「夢」なんだな?
アカネ ええ。私は夢。あなたの夢の、機械人形。
(アカネだけに明かりが。)
アカネ 私はただ嬉しかった。タケル様に、私を創り出した人に久しぶりに会えたこと。私はあの人の夢。あの人は、もう一人の私。私に分かるのはそれだけで、それだけで良かったんです。けれどひとつ、分からないことがありました。タケル様が私に望んだものは、なに?
(舞台明るく、目覚ましの音が鳴り、タケルの母の声。)
母 タケル!起きなさい!
タケル 母さんの声・・・・・・?
アカネ 朝が来たんです。あなたは夢から覚めないといけません。
タケル そう、か。もう朝なのか。それにしても変な夢だな。人形が動いて、その人形が「朝が来る」なんて言う夢は初めてだ。
アカネ 明日も、ここで会っていただけますか?
タケル 二日連続で同じ夢を見ろっていうのか?そんな器用なこと、俺には・・・
アカネ 出来ます。あなたが私を望んでくれれば、私はいつでも現れる。
タケル まぁ、良く分かんないけど、努力はしてみるよ。
アカネ ありがとうございます。タケル様。
母 タケル!あかねちゃんが迎えに来てるわよ!早く起きなさい!
タケル 母さんが呼んでる。もう行くよ。
アカネ ええ。タケル様。
(舞台薄暗く、アカネにだけ明かりが)
アカネ その時は、さほど気にもしませんでした。私と同じ名前の少女がいる。何故私が彼女と同じ名を与えられたのかなんて、考えもしなかったのです。
少女 焦げたトースト 散らばるテスト
壊れた傘に すり切れた靴
不思議な夢から 抜け出た場所は
いつも通りに 時間が過ぎて
焦げたトースト 散らばるテスト
壊れた傘に すり切れた靴
ごくごく普通の朝が来て
夢のことなど 忘れてく
アカネ あの人の日常がどうだろうと、私にとってはどうでもいいことでした。私は夢。あの人の心の中の物語の登場人物。あの人が眠れば私は現れて、いっしょに楽しい時を過ごすだけ。・・・・私は「夢」を見せるだけ。
少女 あの人が学校で何をしていても、私には関係ない。毎週土曜日に会って、それだけで楽しくて。
アカネ そう、貴女はその人の日常を知らない。
少女 違う!あたしは彼のこと、全部知ってる!
アカネ 「だって私はあの人を好きだもの。一緒にいて、楽しいもの。」
少女 どうしてそれを・・・
アカネ 私もそう思っていた。けれど私は・・・・・
少女 あなたは?
アカネ ただの、夢だった・・・・・
少女 私も同じ?私は、あのひとが見たがっているものを見せているだけなの?誕生日にはケーキを作って、あの人のためなら何だってする女の子。私のこの気持ちは、ただの演技なの?あの人の「日常」のなかには、私はいないの・・・・・・?
(舞台明るく、母現れる)
母 ほら、いい加減起きなさい!あかねちゃんはしずくと一緒に先に行っちゃったわよ!
タケル あ、おはよう母さん。
母 なんであんたは早く起きるって事が出来ないの。ほら、時計見てみなさい。
タケル 八時半。それがどうかしたのかよ。
母 あんたねぇ、学校って何時からはじまるものだか分かってる?
タケル 今日・・・・・何曜日?母さん。
母 「月曜日」よ。
(間)
タケル どうして起こしてくれなかったんだよ!
母 何度も起こした!起きなかったのはあんたよ!
タケル くそ・・・・。また「遅刻魔」って、あかねにからかわれちまう。
母 そんなにからかわれるのがイヤなら早く起きればいいでしょう。
タケル 分かったよ。起きればいいんだろ、起きれば。
母 朝ご飯は?
タケル いらねえよ。
母 そう。じゃあほら、とっとと着替えてきなさい1
(タケル去る。そして戻ってくる)
タケル いってきます!
母 ちょっとタケル!お弁当いらないの!
タケル 戻ってるヒマはない!
母 投げるわよ!
タケル (母が投げたお弁当を受け取り)ありがとう!いってきます!
(チャイムの音。タケルが戻ってくると舞台には少女が。)
あかね 遅刻魔。
タケル まだ遅刻じゃない!
あかね チャイムが鳴ってる間に飛び込んできたくせに。
タケル チャイムが鳴り終わってないからいいんだ!
あかね ふぅん。あんた、寝坊もしたでしょ。
タケル ・・・何で知ってるんだよ。
あかね あのさぁ、あたし、毎日しずくちゃんと一緒に学校行くのよ。知らないわけ無いでしょう?まあ、本当はあんたとも一緒に行く予定だったけど、毎日起きてこないから。
タケル あ、先生が来た。
(二人とも席に着く)
先生 みんな席に着いてるな?よし、授業だ。
(先生、黒板に何か書き始める。)
タケル なぁ、あかね。
(アカネ、何か気づいたように)
アカネ ・・・・タケル様? 私は目覚めて、タケル様の所へ行こうとしました。
少女 そして?
アカネ 私はいつも通りタケル様が夢の世界へ来るものだと思っていました。けれど、呼ばれたのは私じゃない。私と同じ名前の、現実の少女。
あかね なによタケル、今授業中なのよ。
タケル いや・・・・なんでもない。
あかね 変なの。
アカネ 私?あそこにいるのは、私?
少女 あそこにいるのが、あなた?
アカネ 私はあの人の夢。あの人が見たがっているものを見せる、夢。だとしたらタケル様が私に望んだのは・・・
タケル あかね、ちょっと、ノート貸してくれないか?
あかね また寝てたんでしょ。それで昨日の授業聞いてないんだ。
タケル うるさいなあ。とりあえず貸せって。
あかね なによそれ。あたしはあんたにノート「貸してあげる」のよ?理由くらい教えてくれたっていいじゃない。
タケル 分かった。認める。俺は昨日寝てたし、ノートも取ってなかった。
あかね 最初から正直に言ってればいいのよ。はい。貸してあげる。
タケル いつもどうも。
あかね いえいえ。毎度のことですから。
先生 何しゃべってるんだ!そこ!愛の告白でもしてるのか?遅刻魔タケル!
タケル な・・・・・そんなんじゃないです!誰がこんな男女と。
あかね なによ男女って!
タケル お前のことだよ!
あかね 言ったわね!
タケル ああ、言った。
あかね なによ!最悪!女の敵!
タケル 「女の敵」じゃないだろ。「男女の敵」・・・・あ、「鬼ババの敵」かな?
あかね もう怒った!ノート貸してやんないからね!
タケル ・・・ちょっと待った。それは困る。
先生 おまえらなあ、夫婦喧嘩は休み時間にやってくれないか?
あかね こいつと夫婦なんて死んでもヤです!
タケル こっちだって願い下げだよ。不器用鈍感女!
あかね 鈍感って何よ。
タケル 気づかないのを鈍感って言うんだよ!
アカネ あのひとの気持ちが私に伝わってくる・・・・タケル様、あの娘のことが好きなんだ。私と同じ名前の少女・・・あかねさんが、好きなんだ。
少女 どうしてあなたは、「アカネ」なの?今ならそのわけが分かる?
アカネ ええ。・・・そのとき、私は分かったのです。何故私が「アカネ」と言う名なのか。
少女 どうして?
アカネ あなたはそれを聞く勇気がある?
少女 聞く勇気?
アカネ しょうがない・・・・しょうがないのよ。私たちはただの夢。私は・・・・・・
(アカネ、何か言おうとするが、聞こえない。全員動きが止まり、少女だけに明かりが。)
少女 私があの人に会うときは、いつも髪の毛はおろして、眼鏡は外して。短すぎないスカートに、少しちっちゃめのバッグ。そう言う格好が似合うって言ってくれる。どうしてそう言ってくれるのかなんて、考えたこともない。きっと私にはそう言う格好が似合うんだ。だから、そう言ってくれるんだ。そう、そうなんだ。
アカネ あなたに似合うからじゃないかも知れない。
少女 どういうこと?
アカネ その人の本当に好きな人は、そういう格好をしているのかも知れない。可愛らしくて、ひかえめで。
少女 もしそうだとしたら?
アカネ もしそうだとしたら・・・・・私の考え通りだとしたら・・・
少女 私は?
アカネ (哀しそうに微笑いながら)あなたも、私も、ただの夢。ただの・・・・代用品。
(舞台薄暗く、タケルがやってくる)
タケル アカネ!
アカネ タケル様。来て下さったんですね。
タケル すごいなぁ。二日連続で同じ夢を見たなんて初めてだ。
アカネ あなたの願いが、それだけ強いんですね。
タケル 願い?
アカネ 「星に願いを」って、よく言いますよね。星と、夢は同じ。私も願いによって初めて意味を持つようになるんです。
タケル なんか、難しそうな話だな。勉強は苦手なのに。
アカネ 難しく考える必要はありません。ほら、昔の人たちの作った神話、あれはもともとバラバラに散らばっている星を線でつないで、それに想像で形を与えているんです。そしてそれを「星座」と名付け、その星の動きから「神話」を作った。
タケル それと、夢と、どう関係があるんだよ。
アカネ 星なんて、遠い宇宙に光っているだけでしょう?それに人間は形を与え、様々なストーリーを創り出す。私たち夢も、夢を見る本人の想像力や何かを見たいという願いがなければただの無意識に過ぎません。
タケル だから、その「願い」ってなんなんだって聞いてるんだよ。
アカネ 二日連続で同じ夢を見ると言うことは、よほど「私」に対する願いが大きいと言うことです。私に形を、名前を与えているのはあなたなんです。タケル様。
タケル お前に対する願い?昨日あったばかりのお前に「願い」を持っているって?
アカネ 「私」・・・・・正確に言えば、「アカネ」。
タケル 「アカネ」・・・・・?
アカネ よほど好きなんですね。あかねさんのことが。
タケル だっ・・・・・誰があんな男女・・・・・・
アカネ 私にはわかります。あなたがあかねさんを好きなこと。
タケル どうしてそんなことが言える!
アカネ 言ったでしょう、私はあなたの無意識です。あなたの感じていることは、どこかから私に流れ込んでくる。
タケル ああもう、わかったよ。確かに俺はあかねが好きだ。
アカネ そう・・・・そうですよね。
タケル 何だ、からかわないのか。
アカネ え?
タケル 俺の友達にこういう話するとさ、絶対にからかわれるんだよな。「何だおまえ、じゃあいつもの悪口は「好きな子はいじめちゃえ」ってやつか?」って。
アカネ からかったり、しません。きっとタケル様は本当にあかねさんのことが好きなんですよね。だから、笑ったりしません。
タケル やめてくれ、そういわれると・・・・・
アカネ 照れくさいですか?
タケル そうじゃないけど、なんて言うか・・・・・・
アカネ 恥ずかしい。
タケル まぁ、そんなところだ。
アカネ これで私もすっきりしました。
タケル 何が?
アカネ 私がなぜ生まれてきたのか。
タケル へ?
アカネ 私は、いつも何かの代わり・・・・代用品でした。あなたが熱を出して友達に会えなければ、その代わりを。あなたが空を飛んでみたいと願えば、夢の中でそれを叶えてきた。そして今度は・・・・・
タケル あかねの、代用品・・・・・・・?
アカネ (うなづき)そう、私はいつも代用品なんです。夢の中で、あなたの望む世界を作る。私は夢です。タケル様。
タケル 代用品か。なら、どうしてあかねと同じ、人間にならなかったんだ?
アカネ それはきっと、あなたがあかねさんを本当に好きだから。
タケル いや、だから、理由を聞きたいんだよ。俺は。
アカネ 私はあかねさんとは違う顔、違う声、違うからだを持っています。そして私は機械人形。人間ではなくて、ただの機械なんです。
タケル (うなづく)
アカネ あなたはこれがただの夢だということをよく分かっている。だから、私はあかねさんではないし、本物の人間ではないこともよく分かっているはずです。
タケル なるほど、俺が頭のどっかで「ただの代用品」って分かっているからお前は人形なんだな。
アカネ (少し悲しそうに)・・・・・・はい。
タケル あ、え〜と、代用品って言うか、代わりって言うか・・・・
アカネ いいんです。私はあなたのための夢ですし、あなたが楽しんでくれさえすれば。
タケル お前、いやじゃないのか?
アカネ 平気です。私はあなたの一部。あなたが私に「何か」を望んでくれなければ、私は現れることすら出来ません。
タケル そうか・・・・・お前は人間じゃないんだもんな。俺の作り出した物語の、ただの登場人物にすぎないんだよな。小説や劇と同じだ。読み終えたり観終わったりすれば、跡形もなく消えちまう。
アカネ ・・・・・・・・ええ。
タケル (疑うように)お前、本当にそれでいいのか?
アカネ (哀しそうに微笑いながら)・・・・・・・・・・・平気です。私は夢。あなたの夢の、機械人形。
(舞台うす暗く。しずくの声が。)
しずく お兄ちゃん!いい加減起きてよ!
(答えはない。アカネ、タケル、声を聞いている。)
しずく もう・・・・・ねぇお母さん、お兄ちゃん起きないよ。
母 ちょっとタケル!あんたまた遅刻するつもりなの!?
(答えはない。)
母 タケル!
しずく お兄ちゃん!
(アカネ、一礼をして去ろうとする。)
タケル アカネ!
(舞台明るく。しずくと母がいる。)
しずく お兄ちゃん、あかねお姉ちゃん来てる。
タケル あ・・・・?ああ。
しずく 分かってるんだったら、さっさと起きてよね!
タケル ・・・今何時?
しずく 八時。
タケル もう、出かけなきゃなんないのか。
しずく 当たり前。
タケル あかねが来てるのか?
しずく 知ってたんでしょ?名前呼んでたもん。
タケル え?
しずく お兄ちゃん、あたし先に行くけど、早く追いついてね。今日は大事な話があるの。
タケル 大事な話?
しずく ああ!あたしまで遅刻しちゃう!お母さん、あたしもう行くね。
母 行ってらっしゃい。
(しずく去る)
タケル 名前を?
母 呼んでたわよ。引き留めるみたいに。
タケル そう、か・・・・・・・
母 ははぁ、さてはあんた、あかねちゃんに惚れてるね?
タケル ばっ・・・・・馬鹿なこと言わないでくれ。あんなオトコオンナには用がない!
母 ほんとにあんたって、顔にでるのねぇ。
タケル そうじゃない。そうじゃなくって、あれは別のヤツを呼んでたんだ。
母 あんなに必死になって呼ばなきゃならない、「あかね」って子が他にいるわけ?
タケル そいつは俺の・・・・・・・(言いかけて)いや、何でもない。ただの夢だから。
母 ほら、やっぱり夢に見るほど好きなんじゃない。
タケル だから違う!
母 ほらほら、こんなことしてる間に遅刻だよ!
タケル 話のばしたのは母さんだろ。
母 そんなことはいいから!行ってらっしゃい!
タケル また話をそらそうとする・・・・・
母 グチグチ言ってないで、とっとと行きなさい!
タケル 行ってきます!しずく!おい!ちょっと待てよ!
(母去る。タケル、しずくとあかねに追いつく。)
あかね 珍しいわね。
タケル 珍しいよな。俺が遅刻しないなんて。
あかね なんだ、言い返さないの?
タケル 事実は潔く認めようと思ってさ。
あかね (皮肉っぽく)素敵な心がけね。
タケル そりゃどうも。
しずく そうそう、お兄ちゃん、さっきの大事な話なんだけど・・・・・・
タケル ああ、何だ?
しずく (考えて)やっぱり後でいいや。ホームルーム終わったら、あたしお兄ちゃんの教室に行くね。
タケル 分かった。
あかね あ、タケル、あんた課題ちゃんとやった?今日までよ、社会のレポート。
タケル は?社会?何のレポートを書くんだよ。
あかね 課題図書読んで、レポート書くのよ。
タケル (何か言おうとする)
あかね 言っておくけど、あたしのレポート写すわけには行かないからね。そっくりだとばれちゃうから。
タケル やっぱり、だめかなぁ・・・・・・・
あかね 頑張って今日中に書くことね。自業自得よ。
しずく お兄ちゃんってさあ、だらしないよね。
タケル 悪かったな。
しずく こんなののどこがいいんだろ・・・・・・?
あかね どうしたのしずくちゃん。何か気になることでも?
しずく あ、こっちの話です。
タケル おっと、予鈴が聞こえてる。急がなきゃな。
(タケル、あかね席に座り、しずく去る。)
先生 おお?今日は遅刻魔が席に着いてるな。変わったこともあるもんだ。
あかね ねえねえ、さっきしずくちゃんが言ってた「大事な話」。何だと思う?
タケル そんなの、俺が知ってるわけないだろ。
あかね 誰かからの「愛の告白」ってヤツだったりして。
タケル あるわけないだろ、そんなこと。
あかね それもそうね。
タケル ずいぶんはっきり言うな。
あかね うそはつかない主義なのよ。
タケル ああ、そうですか。
先生 遅刻魔!社会のレポートはやってきたか!?
タケル え?あ、まだ、です。
先生 また深山に写させてもらうんだろう。
あかね 安心してください。今回は写させませんから。
先生 今日までだからな。
タケル はぁい。
先生 じゃあ、今日のホームルームはこれで終わりだな。
(先生去る、しずくが現れる)
あかね タケル、しずくちゃんが来てる。
タケル どこに?
あかね あそこ。
しずく お兄ちゃん、こっちこっち。
タケル (しずくのところへ行き)何だよ、その「話」って。
しずく それがね・・・・・・ねぇ、ゆき!おいでよ。
(ゆき現れる。アカネが立ち上がる。)
アカネ そこにいたのは、まだ小さな少女。その少女に、なぜか私は惹かれました。このこと私は同じ。ふとそんな気がしたのです。
しずく あたしの友達のゆきちゃん。
タケル ああ、いつもバカな妹がお世話になっていまして。
しずく お兄ちゃん!
タケル で?この子がどうしたって?
しずく あのね、ゆきちゃんは・・・・・・
(チャイムの音。先生がやってくる)
先生 何だ遅刻魔。下級生の女の子に囲まれて。
タケル そんなんじゃありません!
ゆき あたし、やっぱり後でいいよ。
しずく どうして!?今言うんでしょ?
アカネ 私は気がつきました。この少女と、私が同じように持っている感情。・・・・きっとタケル様は気がついていない。無意識の中で、私だけが知っていること。
(舞台薄暗く)
少女 あの人に好かれたいから。だから私はあの人の夢になるの。
アカネ 私はあの人の夢だから。それはよく分かっているから。
少女 そういうことでしょう?
アカネ そう。あの少女も、きっとどこかで分かっている。タケル様に好きな人がいること。自分はただ可愛い女の子を演じるだけだと言うこと。
少女 でも・・・・・あたしは分かるなぁ。その気持ち。
アカネ どうして?私はタケル様の夢。でもあの子は違うはず。誰かの夢になる必要なんかないでしょう?
少女 それでも、何かしてあげたいって思うの。その気持ちも嘘だとしても、そう思うから。
アカネ 代用品でもかまわないのね?
少女 それであの人が、私を少しでも好きになってくれるなら。
アカネ 私もそう思っていた。でも・・・・・・私はタケル様にとって、代用品にすらなれなかった!
少女 何か、あったの?
アカネ チャイムが鳴って、しかたなく二人が帰った後。あのひとは眠ってしまいました。そして、私の元へやってきたのです。
(タケルがアカネの元へやってくる)
タケル あれ・・・・?俺、眠ってるのか?
アカネ 授業中なのに、いいんですか?
タケル まぁ、いつものことだから。先生だって気にしないだろうし。
アカネ 本当にいいんですか?
タケル あんまりいいこととは言えないけど。でもお前だって話し相手がほしいだろう?
アカネ 私のことならかまいません。起きますか?
タケル いや、いいよ。俺だってお前と話すのは嫌いじゃないから。
アカネ ・・・ありがとうございます。
タケル いいよ。そんなに改まらなくたって。・・・ところでさ、聞きたいことがあるんだけどな。
アカネ 何ですか?
タケル さっきの子・・・・・ゆきちゃんだっけ?何を言いに来たんだろうって思ってさ。
アカネ タケル様には分からなかったんですね。
タケル 当たり前だろ。何も言わないまま帰っちゃったんだから。・・・・ってことは、お前に聞いても分からないってことか。お前は俺の夢なんだから。
アカネ いいえ、分かります。タケル様も、心の奥では分かっている。
タケル どういうことだ?
アカネ 私には分かりました。彼女の心が。
タケル ちょっと待てよ。何でお前に分かって、俺に分からないんだ?
アカネ 私はあなたの無意識。無意識でたくさんのことを知っていても、本人には分からないものなんです。
タケル へぇ・・・・そんなもんかな。で、何を言おうとしてたんだ?
アカネ 「あなたのことが好きだ」と。
タケル ・・・・・・・・は?
アカネ あの子を見たときに、私にはすぐ分かったんです。あの子と私は同じ。同じ心を持っている。
タケル お前とあの子が同じ?
アカネ そう。同じ。
(舞台薄暗く)
アカネ あのひとに好きな人がいることは分かっている。
少女 分かっているならどうして諦めないの?
アカネ 分かっているから、それでも近づきたいから。
少女 どうやって近づくの?
アカネ 代わりになるの。
少女 代わりに?
アカネ 本物にはなれない。でも精一杯演じるの。あなたのように。
少女 ・・・・・私があの人に会うときは、いつも髪の毛はおろして、眼鏡は外して。短すぎないスカートに、少しちっちゃめのバッグ。
アカネ ・・・そういう格好が似合うって言ってくれる。どうしてそう言ってくれるのかなんて、考えたこともない。きっと私にはそう言う格好が似合うんだ。だから、そう言ってくれるんだ。そう、そうなんだ。
少女 それが、あなたの気持ちだったの?
アカネ これが私の気持ち。そして、あの子の気持ち。
(少女去る)
タケル そうか・・・お前はそういう風に思ったのか。
アカネ ええ。もしかしたら私が思っただけかもしれません。でも、きっと、あの子はあなたのことが好きなんです。タケル様。
タケル でも、お前の想像なんだろ?
アカネ ただの想像かもしれない。でも、私の心の中で彼女はあなたのために精一杯頑張っている。
タケル それがもし本当だとしたら・・・・どうすりゃいいんだろ、俺。
(舞台明るく)
しずく ねぇ、ゆきちゃん、本当にこんな居眠り魔のことが好きなの?
ゆき そんなに無理に起こさなくてもいいよ。受験生だし、家での勉強とか大変なんでしょ?
しずく お兄ちゃんが勉強してるところなんか、一度も見たことないよ。ちょっとお兄ちゃん!起きてよ!
アカネ ・・・・・あの子の言葉は、本当ですね。
タケル そうらしいな。きっと、一生懸命になってくれてるんだろうな。]
しずく どうするの?考え直すなら今だよ?
ゆき 考え直すことなんてないよ。タケル先輩は覚えてないかもしれないけど、ずっと、この人といれたら楽しいだろうなって思ってた。廊下でしずくと楽しそうに喧嘩してるところとか、走って学校くるところとか見てると、あたしまで楽しくなってくるの。
しずく ゆき・・・・・それ、ほめてるの?けなしてるの?
ゆき けなしてなんかない!本当に、楽しそうだなぁってずっと思ってたの。
しずく こんな馬鹿なお兄ちゃんに本気になるなんて・・・・・・ゆきも相当の物好きね。
ゆき 物好きでもいい。あたし、本気だから。
アカネ どうするんですか?タケル様。
タケル (頭を抱え)どうしてよりにもよって俺なんだろう?あんなに一生懸命になるんなら、もっといいやつに一生懸命になればいいのに。
アカネ そう、私も思います。
タケル そうだよな。どうして別のヤツじゃないんだろう?
アカネ そうじゃなくて、あの子がどうしてあんなに一生懸命になる必要があるのか・・・・・
タケル え?
アカネ 私はタケル様の夢ですけど、あの子は誰の夢にもなる必要はないはず。
タケル ・・・・・・お前、何言ってるんだよ・・・・・・!
アカネ 何かを演じる必要などないのに。あの子のいる世界は小説の世界でも舞台の世界でもない。読み終わったり観終わったりすれば消えてしまうような世界ではないのに。
タケル お前、分からないのか?好きなやつがいたら、一生懸命好かれようとするだろ?俺があかねに話しかけたり、あかねを笑わせようとしたりする。それも必要ないって言うのか!
しずく ああ、チャイムが鳴っちゃう。お兄ちゃん!昼休みに屋上で待ってるからね!ちゃんと来なさいよ!
(しずく、ゆき去る)
タケル お前は所詮ただの夢だよ!感情も人格もない!
アカネ 違う!私はただ・・・・・・
タケル あの子とお前が同じだと?あの子は一生懸命じゃないか。少なくとも俺にはそう見える。それに比べてお前はどうだ。一生懸命になる理由すらないんじゃないか!
アカネ ・・・・・・・・。
タケル お前はただの、物語の登場人物にすぎないんだよ!紙一枚の厚さしかない、薄っぺらな夢だ!
(タケル去る、舞台薄暗く、少女がやってくる)
アカネ 私は、ただの夢??私は、あのひとが見たがっているものを見せているだけなの?実現することのない物語を延々と演じ続けるの?私のこの気持ちは、ただの・・・演技?あの人の「日常」のなかでは、私は紙一枚の厚さしかない「人形」なの?
少女 それが嫌だったのね?
アカネ 嫌・・・・・じゃない。だってそれが私の役目。あの人の空想を現実に見せる「夢」
少女 ならどうして、あなたは泣いているの?
アカネ 泣いてなんかいない。
少女 いいえ、泣いているでしょう?
アカネ 涙は出ていないわ。
少女 それでも、泣いているんでしょう?
アカネ ・・・・・・・・・・・わからない。
少女 わからない?
アカネ 私はあの人の夢なのに。私はあの人なのに。どうして私たち、別々の心を持っているの?
少女 みんな持っているはず。いつもの自分とは違う心を。そう、あなたも。
アカネ あなたは、だれ?
少女 その前にあなたが答えて。あなたは、だれ?
(少女去る)
アカネ 私は夢。タケル様の、夢の機械人形。人間が星に願いをかけるのと同じように、ばらばらの星が想像で形を与えられるように、私はただそこにあるだけ。何の意味も持たない。確かな姿もなければ、確かな声もない。あの人が眠りから覚めれば消えてしまう夢。本を閉じたらいなくなってしまう登場人物と同じ、客席が明るくなれば何も見えなくなる舞台と同じ。本当の体はない、声もない。そして、心もない・・・・・・!
(アカネ、去ろうとしながら)
アカネ 私は、本物になれない薄っぺらな夢です。・・・・・・意味もない夢です。タケル様。
(客席の明かりがうすくつき、アカネ去る)
(しずく、ゆき現れる。タケルが客席の後ろから歩いてくる)
しずく お兄ちゃん!
タケル やっぱりここでいいんだよな。間違ってたらどうしようかと思ってた。
ゆき ごめんなさい。呼び出したりして。きっと忙しいのに・・・・・・
しずく 何言ってるの!この遅刻魔兼居眠り魔兼宿題忘れ魔のお兄ちゃんが忙しいわけないって!
タケル おい、しずく、いくら何でもその言い方はひどくないか?
しずく 本当のことでしょ?
タケル そりゃそうだけど・・・・・そんな言い方はないだろう?
しずく じゃあ、もっと適切な言い方ならいいのね?
タケル ああ。
しずく (ゆきに)じゃあ、改めて言うわね。今月の遅刻回数十七回、居眠りは一日一時間半が平均、宿題は七回中六回忘れてきてるお兄ちゃんよ。
タケル おい!
しずく 適切に、的確に言ったわよ?
タケル だからお前は・・・・・・
ゆき (小さく笑いながら)本当に、楽しそうですね。
タケル (しずくととっくみあいをしながら)これのどの辺が楽しそうに見える?
ゆき すごく、楽しそうです。喧嘩したり怒ったり、わらったり。
しずく ほら!(と、タケルの手を離し)ちゃんと聞いてあげてよ。
ゆき あたし、ずっと見てたんです。先輩がそうやって毎日を楽しそうに過ごしているところ。
タケル (目をそらそうとしながら)しずく!勝負を放棄するのは卑怯だぞ!
しずく そんなことはどうでもいいのよ!
タケル いや、どうでもよくない。絶対に俺に対する無礼を謝ってもらうぞ。
しずく じゃあ謝るわよ!だからまじめに話を聞いて!
タケル ダメだ。ちゃんと、心から土下座しろ!
しずく 何よ!何であたしがお兄ちゃんに土下座しなきゃいけないの?
タケル あんなにひどい言い方だ。土下座くらい当たり前なんだよ!
しずく 最低!か弱い女の子にそんなことさせるなんて。
タケル か弱い女の子がどこにいるって?
しずく あたしよ!
タケル バカなこと言うなよ。か弱い女の子っていうのはたった一人の兄に向かって暴言はいたりしないんだよ!
しずく あたしは違うって言いたいのね?
タケル もちろん。
しずく じゃあそれでいい。ここに本物の「か弱い女の子」がいるわ。
タケル え?あ、ああ。
しずく ゆきちゃんなら文句ないでしょ?
タケル いや、まぁ・・・・
しずく お兄ちゃん!
ゆき ・・・・・あたしが何を言おうとしてるか、知ってるんですね。
しずく 知ってる、って・・・・・そうか! さっきあたしとゆきがしゃべってたから!
タケル ・・・・・。
しずく 知ってるんだったらどうして答えてあげないの?
ゆき いいの、しずく。先輩、困ってる。
タケル いや、俺は・・・・・
しずく はっきりしてよ!だいたいお兄ちゃんは・・・・・
ゆき (しずくを制し)もう一度だけ、言わせてください。
しずく ゆき・・・・・
ゆき そして、答えてください。あたしは先輩が好きです。つきあって・・・・・もらえますか?
タケル ・・・・・・・・。
しずく お兄ちゃん。
タケル ・・・・・断る。ごめん。悪いと思ってる!・・・でも、断る。
ゆき ・・・分かりました。
しずく ちょっと、ゆき!
ゆき ありがとうございました。タケル先輩。
しずく (ゆきを追いながら)ゆき!
(しずく、ゆき去る。アカネがやってくる)
アカネ その夜、タケル様はまたここにやってきました。けれど私はあの人の前に出ていくことが出来ませんでした。・・・・・私の姿は、ぼやけ始めていたのです。
(少女がやってきて)
タケル ・・・・今日はずいぶんぼやけた世界だな。霧の中みたいだ。
(アカネを少し探し)
タケル 今日はアカネはいないんだな。まあいい、一人でのんびりするか!
アカネ 私は陰から、タケル様を見ていました。・・・望まれていない夢は、現れるべきじゃない。
少女 会いたくなかったのね。
アカネ 私の姿がぼやけ始めたのは、きっとタケル様が私を望まなくなったから。薄っぺらな夢に会う必要などないと感じていたから。
少女 あの人があなたに会いたくなかったんじゃない。あなたがあの人に会いたくなかったのよ。
アカネ 私が?
少女 よく思い出してみて。その後にあの人がなんて言ったか。
アカネ その後・・・・・・?
少女 続きを見せてあげるわね。
タケル ・・・これは、夢なのか?自分以外のだれがいるわけでもない夢なんて、つまらないな。
( 辺りを見回し)
タケル なんて言うか・・・・・・役者のいない舞台みたいな・・・・・いや、客のいない映画とか・・・?
(客席を歩きながら)
タケル こういう何かが足りない感じ、どう言ったらいいんだろう?・・・芯のないえんぴつ?ちょっと違うな。・・・・・どうせこの中にいても暇なだけだ。こういうこと考えてても損はないよな。
(タケル、歩きながら)
タケル 定期券がない定期入れ、色のない色鉛筆、溶けかけてるアイスクリーム、シロップのないかき氷。
(タケル、スポットをずらしながら)
タケル 光のないステージ、( 音響をとめ)音のないシーン。・・・・どれもちょっとずつ違うな。・・・心のないつきあい、愛のない結婚。
ドラマに出てくるヤツだな。・・・・現実でもか。あとは・・・・油揚げのない「赤いきつね」。
(立ち止まり)
タケル 今の、かなりイイ線いってるな。「油揚げのない「赤いきつね」」。しずくと母さんに全部油揚げ食べられて、うどんだけ食ったことがあった。あれと似てる。
アカネ これが、何だって言うの?タケル様は私を望んでいるわけじゃない。だから私は現れることが出来なかったのよ!
少女 あの人の中で、「油揚げのない「赤いきつね」」ってどんなものだか分かる?
アカネ ・・・いいえ。
少女 一番重要なものがない、つまらないもの。
アカネ それとこれとは関係がないわ。
少女 本当にそう思う?
アカネ 私は星と同じだもの。いつもばらばらに空にあって、想像で姿を与えられる。私はいつもここにいる。でも、望まれなければ現れることは出来ない。
少女 もしも、星が夜空から逃げてしまったら?
アカネ 星が、逃げる?
(目覚ましの音)
少女 そのまま朝が来た。そのときあの人の口から出た言葉。
タケル もう朝か。学校へ行かなくちゃならないんだな。・・・・・・そうだ、いいたとえを思いついた。「赤いきつね」も悪くなかったけど・・・・・こっちのほうがずっといい。
(去ろうとしながら)
タケル 星のない、夜空みたいだ。
(タケル去る)
少女 あなたは現れることが出来なかったんじゃない。現れなかったの。
アカネ どうして・・・・?私にそんなことをする理由はないのに。
少女 星が夜空から逃げたのは、逃げたかったから。
アカネ 私はあの人の夢よ?あの人に望まれれば現れて、望まれなければ消えるのが仕事なのに・・・・。それに、星が逃げたいから逃げたってことは、星が姿を与えられるのはどうして?何かを想像してほしいから、ああいう風に並んでいるのだとでも言うの?
少女 もしかしたらそうかもしれない。
アカネ どうしてあなたはそんなことを知っているの?・・・・あなたは、何者?
少女 それを聞く前にあなたがだれなのか答えてって言ったでしょう?
アカネ 私は・・・・夢よ。あの人に夢を見せるの。
少女 ・・・・どうして?
アカネ 私が夢だから。
少女 理由はないの?
アカネ ええ。決まっていたの。生まれる前から。
少女 違う。理由があるはずよ。
アカネ どうしてそんなことが言えるの?
少女 これからあなたが話してくれることを知っているから。
アカネ どうして知っているの?
少女 あなたの感じていることが、どこかからあたしに流れ込んでくるから。
アカネ もしかしてあなた・・・・・・・
少女 さあ、続きを話して。あたし、ちゃんと聞いておきたいの。
アカネ 眠りから覚めた後、あのひとのいつも通りの朝が始まりました。・・・タケル様は、ずっと昨日の少女のことを気にしていました。あのひとの感じていることは、絶えず私に流れ込んでくるのです。
タケル 母さん・・・・・・・しずくは?
母 もう学校に行ったわよ。
タケル は!?もうそんな時間?
母 起こそうかと思ったんだけど・・・・・・しずくが「こんな最低なお兄ちゃんなんか、遅刻しちゃえ!」ってすごい剣幕で言ってたから、つい・・・・・・
タケル あの野郎・・・・・・・!
母 お、タケル、応戦するの?久しぶりに我が家が戦争になりそうね。
タケル ・・・・・・・・・・・・やっぱり、いいや。
母 え?兄弟喧嘩はしないの?
タケル 「最低」ね・・・。確かにその通りなんだから。
母 ちょっとあんた、おかしいわよ。学校休む?
タケル 行くよ。弁当ある?
母 はい。(と、手渡す)
タケル なぁ、母さん。
母 なによ、改まって。
タケル 例えば母さんが誰かに「好きだ」って告白して、断られたらどう思う?
母 何?あんたまさかしずくに告白されたの?ダメよ!兄弟同士は。いとこなら結婚OKだけど・・・・
タケル 違う!とりあえず答えてくれよ。
母 少なくとも怒ったりはしないわね。
タケル じゃあ、どう思う?
母 泣いたりはするかも知れない。
タケル ・・・・・・そうか。
(タケル、軽く会釈をして去る)
母 何があったか知らないけど、せいぜい頑張るのね。タケル。
(母去り、タケル、あかねが現れる。先生がやってくる)
先生 遅刻魔。
タケル はい。
先生 何回目だ。
タケル 十八回目です。
先生 今日は何日だ。
タケル 二十五日。
先生 昨日をのぞいて毎日遅刻だな!
タケル ・・・・・まぁ、はい。
先生 ・・・・・・なんだか張り合いがないな。足りないものがある。
タケル いや、俺、普通ですけど。
先生 違う。深山のつっこみだ。深山!お前が一緒になってタケルにつっこんでくれないとつまらないじゃないか。
あかね 私、今日、こいつと口聞きたくないんです!
先生 ・・・夫婦喧嘩か?いや、離婚訴訟か。
タケル 冗談やめてください!(あかねに)お前、何怒ってるんだよ。
あかね 自分の胸に聞いてみたら?
タケル お前を怒らせるようなこと、したっけ?
あかね 何よ!あんなひどいことしといて!
先生 タケル・・・・・・ついにやっちゃったのか・・・・・
タケル へ?
先生 いや、お前の気持ちはよく分かる。しかし深山を傷つけるようなことはしちゃいかん。
タケル ちょっと待ってください先生。俺は・・・・・
先生 何も言わなくていい。お前が何をやったかくらい、みんな分かっているよ。
タケル だから俺に心当たりなんて・・・・・
先生 だれも怒ったりはしない。お前が無理矢理深山にキスしたくらいで。
タケル 違います!
先生 な・・・・まさかその先まで・・・・
タケル 先生、それ以上言うとキレますよ。俺。
先生 ・・・・マジで、事実なのか・・・・・?
タケル 違うって言ってるでしょう!
先生 何だ。それならいいんだ。
タケル 全くどうして先生は・・・・
(あかね立ち上がる。タケルを叩く)
タケル おい、あかね!
あかね 最低男!
(あかね去る。タケルが追いかける。)
タケル おい、あかね!ちょっと待てよ!
あかね ・・・・・・!
タケル 事情を説明してくれよ!
あかね 自分の胸に聞いてみたらって言ってるでしょ!
タケル なにもやましいところなんかないって!
あかね (立ち止まり)女の子を振ったことなんて、やましいことの対象にもならないって言うのね。
タケル ちょっと待てよ・・・・・・何でだよ。
あかね 覚えておくようなものでもないのね。
タケル そうじゃない!そうじゃなくて、お前が・・・・どうして・・・
あかね しずくちゃんから聞いたわ。いい子なのに!
タケル 知り合い、なのか?
あかね 部活の後輩よ!いつも、タケルのことを楽しそうだって言ってた。あの子本気だったのに・・・・どうして理由もなく断ったのよ!
タケル 違う!理由はあった。
あかね なによその理由って。
タケル いや、あの、それは・・・・・
あかね やっぱり言えないんじゃない。
タケル 言えないけど、理由はあるんだよ!
あかね 舌先三寸でごまかそうとしないで!
タケル あかね・・・・・
あかね あんたってもっといいヤツだと思ってた。遅刻魔だけど、頼まれたら嫌とは言えなくて、しゃべってても楽しい。宿題は忘れるけど、面白くてやさしいヤツだと思ってたわよ!なのに何?それは嘘だったって訳?
タケル ・・・・・・・・。
あかね 最低よ。
先生 二人とも!授業はもう始まってるんだぞ!
あかね 今行きます。
(タケル、立ったまま)
先生 タケル!
(立ったまま)
アカネ ・・・・・・あのひとは、傷ついていました。私にそのまま流れ込んでくる感情。どうしようもないもの。そして私はあることを思いついたのです。
先生 授業に出ない気か!?
タケル あ、いえ。出ます。
先生 早く来い!
(タケル、席に座る)
タケル なんだよ・・・・・あの鈍感女。
(タケル、眠り始める)
先生 教室に入ったとたん居眠りか。まぁ、こいつらしいといえばそうか・・・・・・
(舞台一瞬真っ暗に、そして、明るく)
あかね タケル!ちょっと起きなさいよ!
タケル え?
先生 無駄だぞ深山。こいつは寝たらなかなか起きない。
あかね 分かってますけど・・・・・またあたしのノート写す気?
先生 ノート提出でタケルのノートを見たら、お前のとそっくりで笑えたよ。もちろん字は深山の方がずっとキレイだった。
あかね タケルの字なんかと一緒にしないでください!
先生 分かった分かった。おい!タケル!起きろ!
タケル 先生・・・・・・・。
あかね ほら!一度くらいは自分でちゃんとノートとりなさいよ。
タケル あかね・・・・・?お前、俺と口きかないんじゃなかったのか?
あかね あんたと口きかないんだったら、あたし、だれと喧嘩したらいいのよ。
先生 お前らの喧嘩は学校名物だからな。
あかね 先生。どういう風に名物なんですか?
先生 もちろん、「夫婦喧嘩〜素直になれない二人の日常〜」だよ。
あかね ヤです。あたし。
先生 まぁ、本当のことだからしょうがないじゃないか。
あかね 先生!
タケル 待て・・・・・何がどうなってるんだ?
先生 おい深山。こいつはどうやら寝過ぎで頭がおかしくなったらしいぞ。
あかね ねえちょっとタケル、大丈夫?
タケル (先生に)俺は・・・・・どうしてこんな風に?
先生 いつも通りだよ。授業中寝た。なかなか起きない。今回の授業は新しい単元で聞いてないと分からない。だから深山がお前を起こした。
あかね あんた、夢と現実の区別が付いてないんじゃないの?
タケル 待った。どっちが現実だ?
先生 やっぱり頭の線がおかしくなってるんだな。
タケル こっちが現実か?
あかね 何言ってるのよ、はい、ノート。
先生 お前のノートと深山のノートはいつもそっくりだからな。たまには違ったのを書け。
タケル そうか・・・・・・夢だったのか。
あかね どんな夢見てたの?
タケル お前と喧嘩する夢だよ。
あかね いつものことじゃない。
タケル そうじゃないんだ。いつもみたいな喧嘩じゃなくて、もっと本気なんだ。それでお前は俺のことを嫌いになったんだ。
あかね 気にしない方がいいわよ。そんな夢。
先生 ああ、悪夢は忘れるに越したことはない。先生だって子供の頃には・・・・
タケル 先生の話はいいから、授業をしてくださいよ。
先生 まぁいいじゃないか。これくらい。
タケル 珍しく俺が起きて、授業を受けようって言ってるんですよ。こんなチャンスは滅多にない。
先生 ・・・・・・・・・あ、ああ。
あかね ほんとに滅多にないわよね。タケルが授業を受けたのなんて、小学校一年の時以来じゃない?
先生 そんなに前からなのか?こいつの居眠り癖は。
あかね そう。聞いてくださいよ。小学校の頃もあたしが・・・・・・
タケル 先生、授業!次の単元って、何でしたっけ?
先生 聞きたいんだよ。お前の居眠りの話が。
タケル ・・・・・・何でさっきから授業をさけるんですか・・・・・・?
先生 避けてなんかない!
タケル じゃあ授業をしてください。
先生 ・・・・・・・・。
タケル ・・・・・(考えて)・・・アカネ!
あかね な、何よ。あたしは隣にいるんだからもっと静かに・・・・・
タケル (無視して)アカネ!
(舞台暗く。あかねと先生の動きが止まり、アカネがやってくる)
アカネ タケル・・・・・・・様・・・・。
タケル これはどういうことだよ。え?!
アカネ ・・・・・・・・。
タケル 結局お前の目的は何だ!俺を夢の世界に引きずり込むことか?!
アカネ ・・・・・・・・。
タケル さっき、先生は授業が出来なかった。本物なら出来るはずだ!何故か?
アカネ ・・・・・・・・。
タケル 俺がまともに授業を聞いたことがないからだよ!とぎれとぎれに聞いたことはあっても、はっきり聞いたことがなかったからだ。だからお前の作った先生は授業が出来なかったんだ。
アカネ ・・・・・・・ええ。
タケル アカネ、お前は何をしたいんだ?それともこれを仕組んだのはお前じゃなくて、俺だって言うのか?
アカネ ・・・・分かりません・・・・・。
タケル 俺がこうして寝てる間に、あいつは怒ってるんだ。俺は誤解を解かなきゃいけない。寝てる暇なんか・・・・・偽物につきあってる暇なんかないんだよ!
アカネ 偽物・・・・・・・?
タケル そうだよ!最初にお前と話をしたとき、とても寂しそうなヤツだと思った。代用品になれればいいなんて、哀しいと思った。俺がお前を怒鳴りつけたときも、悪かったと思った。お前は俺のために「代用品」になろうとしてくれていたんだと思っていたからな。でも、今は違う。
アカネ 私は、偽物ですか・・・・?薄っぺらな夢ですらない、何かの代用品ですらない、意味のない偽物ですか?
タケル お前は俺のことを何とも思っていないだろう?
アカネ ・・・分からない・・・・・・分からないんです!
タケル 俺はあかねの誤解を解きに行く。もう偽物の中に来たりはしない。
アカネ ・・・・タケル様・・!
タケル 消え失せろ!
(スポットが客席を照らす。客席の電気、舞台の電気が一斉につき、幕が閉まる。タケルは 出口から出てゆく)
アカネ (閉まった幕を手で押しのけながら)・・・・・さようなら。
(アカネ、幕の中に去ろうとする。アカネに光が当たったまま、客席は暗く戻る)
少女 ・・・・・そして、あなたは消えたのね。
アカネ あなたは・・・・知っていたんでしょう?なのにどうして私にこんな話をさせたの?
少女 さあ・・・・・?でも、あなたが心のどこかで話したいと思っていたからだと思う。
アカネ もう答えてくれるでしょう?あなたは、だれ?
少女 あたしはあなたの無意識。・・・あなたの夢よ。
アカネ やっぱりそうなのね。
少女 あたしが最初に普通の子として出てきたのは、あなたが信じたいと願っていたから。
アカネ だれのことを?
少女 あの人を。そして、全部を。
アカネ そうね・・・・そして、話したくなってきた。
少女 話せば自分を知ることが出来るの。だからあたしに話したのよ。
アカネ 私はタケル様の夢なのに、その夢にも心があって、夢があるのね。・・・それに願いも。
少女 それはあたしも同じよ。あたしにだって夢がある!
アカネ その夢にも夢がある?
少女 もちろん。そしてあの人も誰かの夢かも知れない。
アカネ タケル様が?
少女 どこかの物語の登場人物なのかも知れない。真っ暗な部屋で、夢を演じているのかも知れない。自分でも気づかずに。
アカネ そして、その物語を夢見た人も・・・・・・?
少女 別の夢の登場人物かも知れない。
アカネ みんな、同じだったのね。でも、今気づいてももう・・・・・
少女 ・・・・ねえ、よく思い出してみて。
アカネ 何を?
少女 あなたは私に、あったことを語ってくれた。それは何故?
アカネ 私が話したかったからでしょう?
少女 そうじゃなくて・・・・・どうしてあなたは話が出来たの?
アカネ ・・・・・・まさか!
少女 あなたは望まれなくなって、それが辛くて一度消えたはず。どうしてあなたは、ここにいるの?
アカネ ・・・・考えられるのはひとつだけ。でも・・・・
少女 「でも」じゃないわ。ほら!
(タケルが後ろから走ってくる)
タケル アカネ!
アカネ タケル様!
(少女、いすに座る)
アカネ どうして・・・・・・絶対にこないと言っていましたよね?
タケル 考えたんだ。お前は俺の夢だけど、お前には心が本当にないのかって。何も考えずに、俺をだまそうとしたのかって。
アカネ ・・・・・私も、あのときは分かりませんでした。でも、私には心があります!
タケル そう・・・・・そうだよな。俺だって物語の登場人物かも知れないんだ。気づかなかっただけで。
アカネ みんな同じです。星は、ばらばらに並んでいるんじゃないかも知れない。この世界を作った誰かがわざと、あんな風に並べたのかも知れない。物語を作ってほしくて。
タケル 俺、もう一年間もまともな夢を見ていなかったんだよな。
アカネ あかねさんの誤解は解けましたか・・・・・?
タケル 実は・・・・今、つきあってる。
アカネ (笑って)おめでとうございます!
タケル なぁ、アカネ。
アカネ 何ですか?
タケル 「アカネ」・・・・って言う名前、いいのかなぁと思って。
アカネ どうしてですか?
タケル 代用品みたいだろ。それじゃ。
アカネ じゃあ、今日タケル様が夢の中に来たのは・・・・・やっぱり・・・・
タケル あかねを望んだ訳じゃない。単なる話し相手でもない。俺は、お前に会いたかったんだ。
(少女、本を開く)
少女 ・・・どうしても、思い出せない人がいました。
たいせつなひと、必要なひと。
どこへ、行ったのですか?
あれは、夢だったのですか?
夜になれば見えてきて、昼になればかき消える 。
いつかは消えて、塵となり またあたらしい世界を作る。
そう、一つだけ、覚えています。
星のような、ひとでした。
・・・思い出して下さい。あなたの大切な夢を。
そして・・・・歩き出してください。
あなたの大切な夢とともに。
タケル 俺の好きなのはあかねだけど、お前も・・・嫌いじゃない。
アカネ ・・・・好きって言うとあかねさんに怒られるんですね。
タケル ばれたか。あいつ以外と嫉妬深いんだ。
アカネ 私のことを嫌いじゃなくて、それで?
タケル ・・・友達になろう。
アカネ 会えるのは夜だけですね。
タケル 昼も会えるさ。居眠りするから。
アカネ ・・・・私、あなたが好きです。
タケル え?
アカネ そこから、始まってるんです。今までのことすべてが。
タケル ゆきちゃんとも、友達になったんだ。だから、友達になろう。
アカネ ・・・・・・・はい。
(目覚ましの音)
タケル 起きなくちゃな。今はみんなで一緒に学校に行ってるんだ。遅れるわけには行かない。
アカネ 分かってます。また、明日、ここで。
タケル すぐに会えるさ。今日は家庭科があるから、その時間に。
アカネ (笑いながら)分かりました。じゃあ、
タケル 行って来る。
アカネ ええ・・・・行ってらっしゃい。タケル様。
(音楽の始まりと共に明かりが消え、真っ暗になる。だんだん客席の明かりがつく。そして、幕の閉まった舞台だけが残る。)
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