*夢を見せる機械

アカネ、タケル、あかね、しずく、ゆき、先生、母(45分)

(客席の電気が消える。場内からはざわめきが消えていく。闇。少女にだけ明かりが。)

少女   (ページをめくりながら)・・・どうしても、思い出せない人がいました。
     たいせつなひと、必要なひと。
     どこへ、行ったのですか?
     あれは、夢だったのですか?
     夜になれば見えてきて、昼になればかき消える 。
     いつかは消えて、塵となり またあたらしい世界を作る。
     そう、一つだけ、覚えています。
     星のような、ひとでした。
     ・・・思い出して下さい。あなたの大切な夢を。

(幕が開く。舞台の上に少女がいる。彼女は動かない。まるで壊れた人形だ。)
(音楽が途絶える。そして一人の少年が舞台の後ろから歩いてくる。)
タケル  ここ・・・・・・・どこだ?なんだか分かんないところだなあ。
(立ち止まり、)
タケル  なにもない。全部がぼやけていて、なんだか夢みたいだ。待てよ。夢。そうだ!俺は確か昨日勉強して、そしてそのまま寝たんだ。ってことは、これは俺の夢の中か?
(再び歩き始めて)
タケル  夢なんか見るのは久しぶりだな。小学校の時以来だ。なんだか懐かしい感じがする。
(少女に気づき、)
タケル  あれ・・・・・・?
(少女の元に駆け寄って、)
タケル  人形・・・・・か?
(タケル、おそるおそる彼女にさわる。彼女の瞳が開く。)
アカネ  タケル・・・・様?
タケル  ・・・・・・・・・!(驚く)
アカネ  お久しぶりです。タケル様。
タケル  待て!お前はなんだ!?
アカネ  覚えていらっしゃらないのですか?
タケル  何で人形が動くんだ!
アカネ  (ほほえみながら)ここはあなたの夢の中。何が起こっても不思議はありませんよ。
タケル  そうか。やっぱりここは夢の中なんだ。・・・・・ところで、覚えてないってどういうことだ?
アカネ  私はあなたの夢。ずっとずっと昔、あなたが胎児だった頃からの、あなたの夢です。
タケル  俺の夢?
アカネ  はい。そうですね・・・・・夢にも人格があるんです。それが私、あなたの夢。
タケル  そうか、人格のある夢か・・・・
アカネ  そして今私はここにいる。
タケル  お前、名前は?
アカネ  アカネ。
タケル  あか・・・・・ね?
アカネ  ええ。
タケル  なぜ、その名なんだ?
アカネ  分かりません。ただ、そういう気がするのです。私はアカネ。あなたの夢の、機械人形。
(音楽が流れ始める。暗い中にタケルが一人たたずんでいる。)

タケル  あれから毎日俺は夢を見る。そしてアカネと共に時を過ごすのだ。。アカネは俺の夢だ。けれど俺が思いもしないようなことを話す。たまに考える。アカネは一体何なのか。けれどそんなことはどうでもいい。俺の夢の中の機械人形、アカネ。それで十分だ。・・・・ただ一つ、気になることがある。アカネ!
(舞台明るく。)
アカネ  どうなさったんですか?タケル様。
タケル  「アカネ」その名前だ。どうして「彼女」と同じ名前なんだろう?
アカネ  タケル様?
タケル  ああ、なんでもない。アカネ、さっきの話の続きは?
アカネ  星の話ですか?
タケル  そうだ。宇宙の話だ。
アカネ  宇宙に散らばっている星達は生まれたときに最も強く輝いているんです。青白くて、まるでダイヤモンドのように。けれど。
タケル  年月がたつごとに巨大化し、赤く、鈍い光になっていく。だろう?
アカネ  ええ。そして最後には爆発し、消滅してしまう。
タケル  長い年月がかかるんだろう?
アカネ  そうですね。でもこれだけ。私たちが知っているのは、これだけなんです。
タケル  ・・・・話すのに二分もかからないな。
アカネ  そう。けれど私たちはここからいろいろなことを考えることが出来ます。たとえば、「いのち」
タケル  そういう学校の先生みたいな事言い出さないでくれよ。
アカネ  すみません。
タケル  いや、謝らなくてもいい。続けてくれよ。その話。
アカネ  タケル様は、消滅した星がどうなるか知っていますか?
タケル  消滅した星は、消滅した星だろう?
アカネ  違うんです。宇宙の中にチリになって散らばっていくんです。そしてそれがまた集まって、新しい星になってゆく。
タケル  それで?
アカネ  どうしてだと思います?

タケル  え?
アカネ  どうして、また星になるんだと思います?
タケル  変なこと言うなあ。(笑いながら)星になりたかったから、とか言って欲しいのか?
アカネ  ・・・・・きっと、そうなんじゃないでしょうか?
タケル  アカネ、お前は俺の夢だよな。
アカネ  はい。
タケル  どうして俺が考えたこともないことを言うんだ?俺は星の事なんて考えたこともないのに。
アカネ  どんな人間でも無意識があります。そしていろんな事を想い、夢見る。私はあなたの夢です。タケル様。
タケル  アカネ、お前は・・・・・なんなんだ?
アカネ  私はあなたの夢。そしてもしかしたら・・・・
タケル  もしかしたら?
アカネ  私は、あなたなのかも知れません。
タケル  ・・・・・そうか。もう一人の俺、か。(かすかに目覚まし時計の音)
タケル  朝だ・・・・・・・・
アカネ  朝・・・・・・・・・・・・
タケル  夢から覚めないとな。アカネ、今日はありがとう。
アカネ  そんな・・・・私はただおそばにいただけです。なにも・・・・
タケル  いや、お前のそばだと、なんだか落ち着くんだ。ありがとう。
アカネ  そろそろ夜が終わります。お別れですね。(目覚まし時計の音、少し大きく。)では。(去ろうとする)
タケル  アカネ!
アカネ  ?
タケル  あ、ええと・・・・じゃあ。
アカネ  (微笑みながら)・・・・・・・ええ。タケル様。

少女   起きてください
     日常があなたを待っていて
     また普通の朝が始まる
     焦げたトースト 散らばるテスト
     壊れた傘に すり切れた靴
     起きて下さい 
     日常があなたを待っている 

(目覚まし時計の音が大きくなっていく。母が現れる)
母    タケル!あんたいつまで寝てるの!いい加減に起きなさい!
タケル  母さん・・・・・・
母    まったく。今何時だと思ってるの!
タケル  何時・・・・・って・・・(時計を見る)へ?
母    何度起こしても起きないんだから。
タケル  ・・・・・・ねえ、母さん。
母    なに?
タケル  この時計、進んでたりしない?
母    あってるわよ。八時半。
(間)
タケル  どうして起こしてくれなかったんだよ!
母    何度も起こした!あんたが起きなかっただけよ!まったく・・・・・あかねちゃんは一時間前に登校したって言うのに・・・・・
タケル  あいつは部活があるからだろ。
母    ぶつぶつ言わないで早く行きなさい!ほら!
タケル  はいはい。いってきます!

(母が去って、学校。ざわめきの音。)
タケル  走って学校に着くと、まだ先生は来ていなかった。その代わりに俺の視界に飛び込んできた、見慣れた顔。幼なじみの深山(みやま)あかねだ。生意気で、女らしくなくて、気が強くて。・・・・・けれど。
あかね  遅刻魔。
タケル  うるさい。
あかね  タケルって昔からそうだったよね。小学校の頃から。遅刻ばっかりしててさ。しょっちゅう立たされてるの。
しずく  へぇ〜!そうだったんだ。まあ、そうなんじゃないかなって気はしてたけど。
タケル  あかね、お前もうちょっと女らしくできないのか?
あかね  遅刻魔に言われたくないわよ。あ、授業が始まる!しずく、行こう。
しずく  あ、先に行ってて。あたし、この遅刻魔くんに言いたいことがあるから。ね。雅樹。
あかね  そう。じゃあ、先に行ってるね。
しずく  うん。
(間)
しずく  ねえ。遅刻魔さん。
タケル  俺の名前は、タケルだ。
しずく  分かった分かった。タケル君。
(チャイムの音)
タケル  あ、授業だ。(去ろうとする)
しずく  逃げるんじゃないの。
タケル  なんだよ。早く言えよ。
しずく  あんた、あかねのことが好きなんでしょ。
タケル  ・・・・・・・・・・・・。
しずく  ほら、やっぱり
タケル  ちょっと待てよ。おれは、何も・・・・・
しずく  言わなくたって、顔に書いてあるのよ。いつもあかねのこと気にしてる。でしょ?
タケル  誰があんな・・・・
しずく  あんな、何?
タケル  ・・・・・・・・・・・。
しずく  生意気で、女らしくなくて、気が強くて、でも・・・・かわいくて。
タケル  黙れよ。
しずく  いつも笑ってて、きらきらしてて、きれいで。
タケル  黙れって言ってるだろ。
しずく  いいんじゃない?あかねなら。女のあたしから見たっていい娘よ。
タケル  だから、俺は・・・
しずく  何なのよ。
タケル  ・・・・・・あんな女に興味はない!
しずく  へぇ〜、それってほんと?
タケル  決まってるだろ。
しずく  ほんとに?
タケル  当たりまえだ。
しずく  あ、そう。だったらあたしあかねにそう伝えてくるから。
タケル  へ?
しずく  かまわないわよね。ほんとに興味ないんだったら。
タケル  いや、でも、それは・・・・・・
しずく  ああ、もう。じれったい!結局、好きなの?嫌いなの?
タケル  ・・・・・・・好き、だ。
しずく  なるほど、ね。そっちが本当か。じゃあ、あかねに言っておいてあげるね。
タケル  ちょっ・・・・ちょっと待て!それは・・・・
しずく  (無視して)ああもう、授業が始まっちゃう。あかねが待ってる。
タケル  (引き留めて)言うなよ。分かったか、言うなよ。
しずく  はいはい。あんたも授業に遅れないようにね。遅刻魔さん。
タケル  俺の名前はタケルだ!

(タケル、席に着く。先生がやってくる。)
先生   お、今日はみんな席に着いてるな。ええと、どっからだったかな?
タケル  六十八ページ。
先生   珍しいな。遅刻魔タケルが。じゃあまず、問題集六十八ページ。
(先生、授業を始める。タケル、何かを思い出すように)
タケル  遅刻魔、か。小学校の時からあかねに言われてたっけな。あのころはただ生意気な女だと思ってた。そして中学校に入って、スカートのまま走り回って女らしくないと思った。先生に怒られても平気でいて、気の強い奴だと思った。そして、今は・・・・・あいつを・・・・・・

(間)

タケル  考えるな。あかねの事なんか。あんな女。あんな・・・・・・あかね。

(間)

タケル  そうだ、眠ろう。眠ればなにも考えなくてすむ。眠れば、俺だけの「アカネ」がいる。
(タケル、眠る。)
先生   おい、そこ!寝るんじゃない!おい!

少女   授業を放り出して
     星を見たいと思った。
     おもちゃの指輪で 誓った愛と
     少女漫画を なぞった台詞
     この世界をぬけだして
     この世界をぬけだして
     星を見に行くんだ

(舞台一度薄暗く。気がつけばアカネが立っている。)
アカネ  タケル様!
タケル  アカネ。
アカネ  どうなさったんですか?こんな時間に・・・
タケル  星の話を聞きに来たんだ。お前の知っている星の話を。アカネ、星はどうして星になるんだっけ?
アカネ  星になりたいから。きっと、そうです。
タケル  なあ、アカネ。
アカネ  なんですか?タケル様。
タケル  お前はどうして人形の形をしてるんだ?どうして人間じゃないんだ?
アカネ  ・・・・・・・どうしてだと思います?
タケル  (笑いながら)機械人形になりたかったから、か?
アカネ  ええ。きっと。
タケル  (冗談っぽく)で、その理由は?
アカネ  タケル様、覚えていますか?
タケル  何を?
アカネ  昔、タケル様と私が別れたときのことを。
タケル  別れた?
アカネ  私はあなたの夢です。あなたが昔、子供だったとき。あなたは私の所へよく来て下さいました。そんなあなたが、いつしか夢を見なくなった。・・・・・・私から、離れていった。
タケル  ・・・・・・・・。
アカネ  そのとき、思ったんです。どうして私は心を持っているんだろうかって。こんな事になるのなら、こんな別れが来るのなら、心がなければいいのに。人形のように、機械のように、何も想わずいられたら、どんなに幸せだろう・・・・・・・そう、想ったんです。
タケル  アカネ。
アカネ  願いは聞いてもらえました。星が星になるように、私も機械人形になることが出来ました。けれ       ど・・・・・・・
タケル  けれど?
アカネ  (さみしそうにほほえみながら)神様って、きっとすごく厳しい方なんですね。私、まだ心があります。どうしてでしょう?どうして、私から心を奪って下さらなかったんでしょう?いつかまた別れなければならないのに。いつかまた忘れられてしまうのに。なのに、なのに!
タケル  ・・・・・・・・・。
アカネ  どうして、でしょう・・・・・・・
タケル  ・・・・・・。
アカネ  ・・・・。
タケル  ・・・・・・アカネ。
アカネ  なんですか?タケル様。
タケル  (アカネと目を合わせる)・・・・・・。
アカネ  (タケルと目を合わせる)・・・・・・?
(突然舞台が明るくなり、)
先生   おい!遅刻魔タケル!起きろ!
(間。タケル、吹き出す。アカネもつられて笑い出す。)
アカネ  (笑いながら)戻った方がよろしいですよ。タケル様。
タケル  (笑いながら)そうするよ。
(舞台、少し暗く。明るくなると先生が)
先生   おい!起きろって!一週間で試験だぞ!
タケル  あ、おはようございます。
先生   挨拶をしている場合か!まったくもう。
(チャイムが鳴る。)
先生   ああ、時間か。じゃあ、今日の授業はここまで。(と、言いつつ去る。)
タケル  アカネ、そして・・・・・あかね。どうして夢の中のアカネは、あの名前なんだろう?
あかね  (タケルに近寄りながら)あ、タケル、いたいた。
タケル  何の用だ?
あかね  あたしの後輩のゆきちゃんが、あんたを捜してたから。(と、しずくに)どこで待ってるって言ってたっけ?
しずく  屋上。
あかね  そうそう、屋上で待ってるって。
しずく  (あかねに)一体何の用だと思う?
あかね  さあ?
しずく  ちょっと、遅刻魔くん。はやく屋上に行ってあげなさいよ。女の子待たせるつもり?
タケル  あ、ああ。
あかね  ほら!早く行きなさいよ。まったくもう。のろいんだから。
タケル  うるさいな。行けばいいんだろ。行けば。
(タケル去る)
しずく  で。あかね。
あかね  何?
しずく  タケル君とは、どういう関係なわけ?
(間)
あかね  ・・・・・・どういう・・って・・・・、幼なじみだけど?
しずく  いや・・・・そう言う事じゃなくて。要するにタケル君のことをどう思ってるのかって聞いてるのよ。
あかね  バカだって思ってるけど?
しずく  あんたねえ。あたしが言ってるのは、好きなのか嫌いなのかって事なの!
あかね  別に・・・・・・。
しずく  ああ、もう。じれったい!結局、好きなの?嫌いなの?
あかね  どっちでもいいじゃない。そんなの。
しずく  (ため息を付く)
あかね  どうしたの?
しずく  いや、あんたたち、いいカップルだわ。
あかね  (やや憮然として)何よ。それ。あたし別にタケルのことなんか好きじゃないわよ。タケルだって、あたしのこと鬼ババだとか男女とか言うんだから!
しずく  本当にタケル君、そう思ってると思う?
あかね  当たり前でしょ。
しずく  まあ、いいけどさ。あたしにはあんたたちがいいカップルに見えるってだけの話よ。
あかね  あたしはイヤよ。
しずく  ほんとに?
あかね  絶対、イヤ。
(あかね、しずくが去る。タケルが客席の後ろから現れる。ゆきが、舞台上に現れる。)
タケル  俺は屋上へ歩いていった。あかねの後輩が、俺に一体何の用なんだろう?
ゆき   先輩!
少女   ------声をかけてきた あの娘
タケル  あ、やあ。
少女   ------応える自分もバカらしくて
ゆき   こんにちは、大島ゆきです。何度か、お会いしてますよね。
タケル  あかねの後輩だよな。あかねから聞いたことがある。いい娘だって。
ゆき   そんなこと、ないです。
タケル  で、俺に用って何なんだ?
ゆき   先輩、好きなひと、いますか?
タケル  え?
少女   ------意外な一つの質問も
ゆき   好きなひと、いますか?
タケル  え、いやそれは・・・・・
少女   ----ありふれている小説のうち
ゆき   (さみしそうに)いるんですか・・・・・・・・?
タケル  いや・・・・え〜と、そう言うわけでもないんだけど、その・・・だから・・・・・つまり・・・
ゆき   (うれしそうに)いないんですか!
タケル  え、ああ、ええ?
ゆき   もしいないんだったら、考えてみてくれませんか?
タケル  ええ?な、何を?
少女   ----けれど、今、思う
ゆき   ・・・・あたしの、ことを。
少女   ----当事者は、大変だ。
(しずく、現れる)
しずく  よっ!色男!
タケル  お前ら・・・・あっ!そうだ!(しずくに)おい!あかねは居ないだろうな。あかねに聞かれたら・・・・
しずく  聞かれたら、困るわよねえ。
タケル  おい、居ないんだろうな!
しずく  さあねえ。
タケル  居るのか!?
しずく  (笑いながら)居ないわよ。(ゆきに)ごめんね。聞くつもりじゃあなかったんだけど。
ゆき   あ、はい・・・・・
タケル  本当にいないか?嘘じゃないな。
しずく  居ないってば。で、どうするの?遅刻魔さん。
タケル  どうする、って?
しずく  この娘への答えよ。
タケル  ・・・・・・・・・・・。
しずく  どうするつもりなの!
ゆき   しずく先輩。いいんです。
しずく  ゆきちゃん・・・。
ゆき   考えておいて下さい。あした、また、ここで。
(ゆきが去る。)
タケル  知ってたのか・・・・・?
しずく  ええ。
タケル  どうしよう・・・・・・
しずく  よく考えるのね。言っとくけど、断ったらあかねは怒るわよ。ゆきちゃんは大事な後輩だもの。ゆきちゃんは真剣だわ。そしてあんたも真剣なんでしょう?
タケル  ・・・・・・。
しずく  タイムリミットは明日ね。どうしたってあなたの自由よ。(去る)
タケル  断ればいいんだ。断れば。・・・・でも・・・・あかね。
(舞台暗く。すぐに明るくなる。そこにはアカネが。)
アカネ  タケル様。
タケル  アカネ。
アカネ  ・・・・なにか、あったんですか?
タケル  どうしてそう思う?
アカネ  なにか、表情が違いましたから。もしよろしければ、私にお話下さい。ここは夢の世界、誰に聞かれることもありません。
タケル  ・・・・・・・。
アカネ  タケル様・・・・
タケル  なぁ、アカネ。
アカネ  何でしょう?
タケル  もしおまえが俺のことを好きで、そう俺に言って、もし俺がお前のことを嫌いだって言ったら、どう思う?
アカネ  ・・・・きっと、死んでしまいます。
タケル  ?
アカネ  私はあなたの夢。あなたが望んでいなければ、すぐにあなたの中から消え去り、忘れられてしまうでしょう。
タケル  ・・・・・・・。
アカネ  タケル様?
タケル  死んでしまう、か・・・・・・
アカネ  一体何があったんですか、私に出来ることなら、何でも・・・
タケル  じゃあ、星の話を。
アカネ  星の、はなしを?
タケル  星は、星になりたいから星として生まれてくる。そこまでは聞いた。じゃあ星以外の物はどうだ?
アカネ  きっと同じです。私は今ここにいる。それは私がタケル様の夢でいたいから。
タケル  要するに願いは叶うと言うんだな。
アカネ  ええ、願いは叶います。きっと願いは叶うから、そう願うしかないから。
タケル  ・・・・・そうか、じゃあアカネ、質問だ。
アカネ  はい、何でしょう?
タケル  死んだ物を取り戻せるか?
アカネ  え?
タケル  そうだ。お前は願いによって全てが存在していると言った。だったら、俺が死んで、生き返ることを望んだらまた生き返れるか?
アカネ  それは・・・・・出来ません。
タケル  願いは叶わない、っていうわけだ。
アカネ  いいえ、願いは叶います。きっと。
タケル  じゃあもう一つ質問だ。俺が誰かに嫌われて、今までの親しさが消え失せたら、それを取り戻せるか?!
アカネ  ・・・・・・・ええ。
タケル  出来るわけがないだろう!?あいつは俺に話しかけることすらしないだろうさ!
アカネ  取り戻せます。そう願っていれば。大切な人をきっと取り戻せます!
タケル  俺は信じられないな。
アカネ  私はあなたの夢です。私はあなたです!あなたの心のどこかには、こうして信じている私がいます。
タケル  あかねを知らないお前に何が分かる?あの女はそこらのバカな女とは違うんだよ!すぐに気分の変わるような、いい加減な女じゃないんだよ!
アカネ  ・・・あか・・・・ね?

少女   思いもかけず、口にした
     たったひとつの あの言葉
     どんなに短い 言葉でも
     なんだか妙に重くって
     思わず
     吐き出してしまったのかも知れない

タケル  俺・・・・・今何を言った?
アカネ  「あかねを知らないお前に何が分かる?」と。
タケル  そうか、言ってたのか・・・・・
アカネ  どなたですか?私のことではありませんね。
タケル  あかねは・・・・あかねだ。
アカネ  そう、ですか。きっとタケル様はその方がお好きなんですね。
タケル  いや、そうじゃなくて・・・・・
アカネ  違うんですか?
タケル  いや、それも違う。
アカネ  じゃあ、好きなんですね?
タケル  いや、だから・・・
アカネ  (小さく笑いながら)もういいです。タケル様。ちゃんと分かりましたから。
タケル  ・・・・・・。
(かすかに目覚まし時計の音)
アカネ  朝、ですね。
タケル  すぐに会いに来る。どうせ授業中寝るからな。(去ろうとする)
アカネ  タケル様!
タケル  何だ?
アカネ  きっと、願いは叶います。だから嘘を付かないで下さい。
タケル  願いは叶う、か。そう願うしかないんだな。
(アカネ去る。母登場。)
母    (顔をタケルに近づけて)お〜き〜ろ〜!!
タケル  (目えをこすりながら)ああ?
母    お〜き〜ろ〜!!
タケル  うわっ!(その場から離れる)
(間)
タケル  なんだ、母さんか。
母    なんだと思ってたのよ。
タケル  妖怪かなんかだと思った。
母    ・・・・言ったわね。
タケル  ああ、言った。
母    この・・(と、タケルを軽く殴ろうとするが、やめて)こんなことしてる場合じゃないわ。もう八時。
タケル  そんなに急ぐ時間でもないじゃないか。
母    あかねちゃんは三十分前に登校したわよ。
タケル  だから、あいつは部活があるからだって。
母    ぶつぶつ言わないで、早く行きなさい!
タケル  そうか・・・今日、言わなきゃいけないんだよなぁ・・・・
母    ぼけっとしてないで、着替えてさっさと行きなさい!
タケル  行って来ます。
(母去る。しずく、あかねがやってくる)
あかね  めずらしい。今日は早いのね。
タケル  ああ。
あかね  昨日のゆきちゃんの話、なんだったの?
タケル  ああ。
あかね  ・・・・あんたねぇ、人の話、聞いてる?
タケル  ああ。
あかね  ちょっと、タケル!
タケル  うるさいなぁ、どっか行けよ、男女。
あかね  男女とはなによ!
しずく  まぁまぁ、あかね、落ち着いて。ゆきちゃんの話の内容なら、あたしが教えてあげるから。
あかね  だってしずく、男女なんて言われて黙ってろって言うの?
しずく  そうは言わないけど・・・遅刻魔くんもいろいろあるみたいだしさ。
あかね  (タケルをのぞき込みながら)なんかあったの?
タケル  ・・・・・・・。
あかね  そっか、いろいろ大変なのか。じゃあ、許してあげる。
タケル  そいつはどうも。
しずく  あかね、授業始まる。
あかね  ほんとだ。行こう。(タケルに)なんか良く分かんないけどがんばりなさいよ!遅刻魔!
(二人去る)
タケル  お前のことで大変なんだよ。鈍感女。
(タケル、机で寝る体勢に。先生が来る)
先生   (タケルに)寝不足か?
タケル  いいえ。
先生   じゃあ起きろ。
タケル  寝不足ですから。(と言って寝る。)
先生   一体何が言いたいんだ、こいつは・・・・・みんな、こいつはもうほっとけ。じゃあ、問題集七十二ページ。
(舞台薄暗く。アカネが現れる。)
アカネ  お待ちしていました。タケル様。
タケル  俺、もう寝たのか。寝ることにかけては天才的なんだな。
アカネ  タケル様、どのようにおっしゃったんですか?その・・・・貴方を好きな少女に。
タケル  まだ、何も言ってない。会ってないんだ。
アカネ  そうですか。・・・タケル様、私と一つだけ、約束していただけませんか?
タケル  何を?
アカネ  自分に嘘を付かないことを。あなたの中のもう一人のあなた・・・・・私に、嘘を付かないで下さい。
タケル  分かってる。
アカネ  なら、いいんです。約束なんて必要ありませんでしたね。私はあなた。私はあなたがする事を全て信じるしかありません。
タケル  ・・・なぁ、一つ聞いてもいいか?
アカネ  ええ。
タケル  お前、俺のこと好きか?
アカネ  ええ。もちろんです。
タケル  どうして?
アカネ  どうしてでしょう?
タケル  分からないのか?
アカネ  はい。
タケル  そうか・・・
アカネ  けれど、それでいいんです。私はアカネ、あなたの夢の、機械人形。それで十分です。
タケル  そうだな。
アカネ  そして、あなたはあなた。好きなものは好きだし、嫌いなものは嫌い。愛しているものは、愛している。・・・・みんな、それだけです。それだけで、いいんです。
タケル  ああ。・・・・。(と、何かに気づく)
アカネ  どうなさったんですか?タケル様。
タケル  声が聞こえる。
アカネ  声が?
タケル  きっと授業が終わったんだな。起きろって言ってる。
アカネ  ・・・・・私には、聞こえません。どなたの声なんですか?
タケル  あかねだ。あかねの声だ。
アカネ  あ、少しだけ聞こえます。けれど、どうしてあかねさんの声だと?
タケル  俺があの鈍感女の声を聞き違えるはずがないからな。じゃあ、行って来る。アカネ。
アカネ  はい。タケル様。
(アカネ去る。あかね、しずくが現れる)
あかね  ちょっと!起きなさいよタケル!
しずく  ゆきちゃんが待ってるのよ!
あかね  タケル!!
タケル  ・・・・ああ?
あかね  ほら!ゆきちゃんが屋上で待ってるんだってば!告白されたんでしょ、応えてあげなさいよ!
タケル  あ、そうか。・・・・って、何でお前が知ってるんだよ、あかね。
あかね  しずくから聞いたのよ。さっさと行ってあげなさいよ!
しずく  ほら、早く!
タケル  分かった分かった。行く。
あかね  待ち合わせの時も「遅刻魔」って呼ばれたいわけ?
タケル  ・・・・・うるさいな。
しずく  早く行きなさいよ!
タケル  分かったよ!
(しずく、あかね去る。ゆきが来る。)
タケル  あ、ごめん。遅れた。
ゆき   いいんです。それより・・・・・
タケル  ・・・・・・・。
ゆき   先輩?
タケル  ごめん。
ゆき   ・・・・・・分かりました。
タケル  いや、悪いと思ってる。だから・・・・その・・・・ああ、なんか俺、言ってることが少女漫画みたいだな。はっきり言う。俺には好きな女がいる。男みたいで鬼ババで、鈍感でやかましくて、生意気で・・・・可愛い女だ。
ゆき   あの・・・・それ・・・・。
タケル  いいか、誰だか分かっても。、絶対に言うな。理由はないけど、言うな。
ゆき   ・・・・ええ、分かりました。あかね先輩には内緒にしときます。
タケル  頼むから、言うなよ。
ゆき   あの・・・・先輩。
タケル  何だ?
ゆき   やっぱり先輩って、素敵な人ですね。
タケル  は?
ゆき   あたし、ふられましたけど、嫌われてはいませんよね。だったら、あかね先輩の次に候補に入れといてくださいね。
タケル  ・・・・・ごめん。
ゆき   いいんです。悲しいですけど、いいんです。

(ゆきが去る。)

タケル  いいんだ。これで、いいんだよな。・・・・アカネ。

(タケル去る、しずく、あかねが現れる)

あかね  どうだった?タケル、頼まれたら断れない性格だからいいって言ったんでしょ。
ゆき   ・・・・・・・・。
しずく  ゆきちゃん?
あかね  まぁ、あいつが断るわけないもんね。こんな可愛い子に告白されて、断るバカなんていないわよ。他に好きな女の子とかいれば話は別かも知れないけど。タケルにかぎってそんなことはないだろうし。
ゆき   ・・・・・・・。
あかね  ・・・・・ゆき、ちゃん・・・・・?
ゆき   ええ、好きな女の子とかいれば、話は別ですよね。
しずく  断られたのね。
ゆき   ・・・・・・はい。
あかね  ・・・・うそでしょ?
ゆき   本当です。(あかねが何か言おうとするが、それを制して)でもいいんです。次の候補にって、言って来ましたから、・・・・・・・・いいんです!
(ゆき去る)
あかね  あいつ・・・・・・!(去ろうとする)
しずく  あ、ちょっと、あかね!
(あかね、しずくが去る。タケル、歩いてくる)
タケル  あれで、いいんだ。あとはどうなっても・・・・・・あかねが、なんと言っても・・・
(タケル机で寝ようとする。気が付くとそこにはアカネが)
タケル  なぁ、アカネ。
アカネ  ええ、あれで、よかったんです。
タケル  そうか、そうだよな。あとは、あかねがなんて言うかだな。
アカネ  きっと、怒っていません。・・・・そう、願っているのでしょう?
タケル  そうだと、いいな。
アカネ  たとえあかねさんがなんと言っても、私はあなたの味方です。・・・私は、あなたの夢です。タケル様。
タケル  なんと言っても、か・・・・・
(あかねがやってくる)
タケル  (寝ぼけながら)あかね・・・・・?
あかね  あんたってさ、ああいう事する人だったのね。
タケル  ああいうこと?
あかね  何よ!あんた、ゆきちゃんがどれほど傷ついたか分かんないの?あの娘笑ってた!がんばって、笑ってた!あんたに迷惑かけたくないから、泣きたいのに笑ってた!
タケル  黙れよ。鬼ババ。(アカネの方を向き)・・・・願いは、全て叶う訳じゃないんだな。
アカネ  ・・・・・・タケル様・・・・・・。
あかね  どうしてあんな事言ったのよ!好きな娘もいないくせに・・・・・気分でふったわけ?
タケル  うるさいんだよ。
あかね  ・・・・・・あんたって・・・もっといいやつだと思ってた。バカで、頼まれたらイヤとは言えないお人好しで、口が悪くて遅刻魔で・・・・でも、悪い奴じゃないって思ってた。けど・・・あんたって最低ね。
タケル  (アカネに)今からお前の所に行く。お前だけは俺の味方だ。
あかね  なにぶつぶつ言ってるのよ、タケル!聞いてるの!?
タケル  聞いてねえよ、鈍感女!
(タケル、アカネの方に行く。あかね、しばらくタケルの席を見つめるが、去る。)
アカネ  ・・・・・・・・。
タケル  ・・・・・・・・。
アカネ  あの、タケル・・・
タケル  さっき、さぁ・・・・・・
アカネ  え?
タケル  あの娘が、言ってたんだよ。「ふられたけど、嫌われてないから」って。
アカネ  ・・・・・・・・。
タケル  「ふられてないけど、嫌われる」だもんなぁ・・・・(笑う)なぁ、アカネ。
アカネ  ・・・・・すみません。
タケル  お前が謝ることはないだろう?と、いっても、「願いは叶う」っていうのは嘘だったからな。謝ってもらってもいいわけだ。
アカネ  ・・・・・・すみません。
タケル  (思いついたように軽く)そうだ、お前、責任をとれ。
アカネ  責任?
タケル  俺はあかねに嫌われた。その責任を、アカネ、お前がとれ。
アカネ  あの、私は何を・・・・
タケル  簡単さ!お前も、「あかね」だろう?
(タケル、アカネにキスをする)
アカネ  何を・・・・・
タケル  お前は俺だ。お前は俺の夢だ!さあ、俺に夢を見せてみろ!・・・・おれはあかねに嫌われてはいない。あかねの後輩も、俺のことを好きな訳じゃない!そんな夢を見せるんだ!
アカネ  ・・・・タケル様。
タケル  ・・・・・見せてくれよ・・・夢を・・・
アカネ  ・・・・分かりました。私は「アカネ」。あなたの夢の、機械人形。
(舞台薄暗く。しずく、あかねのいるところに明かりが)
しずく  ちょっと言い過ぎたんじゃない?
あかね  そんなことない。あいつ・・・・・・・最低よ。
しずく  でも・・・・
あかね  だって、そうでしょう?理由もなく断ったのよ!ゆきちゃんがどうしてタケルなんかを好きになったのかは知らないけど、ゆきちゃん真剣だったのよ。可哀想じゃない!
しずく  理由もなく?
あかね  そうよ!好きな娘もいないくせに・・・・・・
しずく  本当にそう思ってるの?
あかね  え?
しずく  もうちょっと気を付けて見てなさいよ。タケル君も、ゆきちゃんも。
あかね  どういうことよ?
しずく  (笑いながら)まぁ、その鈍感さがいいところなのよね。あかねは。(去る)
あかね  ちょっと、何が言いたいのよ、しずく!(去る)

(舞台明るく)
タケル  アカネ・・・・
アカネ  ?
タケル  ・・・・悪かった。
アカネ  かまいません。私はあなたの夢です。タケル様。
タケル  そうか・・・・・俺、ずっと眠っててもいいのかなぁ・・・
(チャイムの音)
アカネ  一度、家に帰る時間ですね。
タケル  起きないとな。(去ろうとする)
アカネ  タケル様!
タケル  ん?
アカネ  なにか辛いことがあれば、眠っていいんです。何も考えないで、ただ、眠ればいいんです。
タケル  (うなずき、去る)

アカネ  私はあなたの夢です。あなたの叶わなかった願いの・・・・代用品です。

少女   焦げたトースト 散らばるテスト
     壊れた傘に すり切れた靴
     おもちゃの指輪で 誓った愛と
     少女漫画を なぞった台詞
     意外な一つの質問も
     ありふれている 小説のうち

     かなわなかった 願いのかけら
     全部があわさり 夢になる
 
     焦げたトースト 散らばるテスト
     壊れた傘に すり切れた靴
     おもちゃの指輪で 誓った愛と
     少女漫画を なぞった台詞
     意外な一つの質問も
     ありふれている 小説のうち

(タケル、舞台端に立ち)
タケル  ・・・・そんな本当の世界から
     抜け出したいんだ
     けれどそれは叶わないから
     僕は夢見る

(タケルがやってくる)
タケル  アカネ?
アカネ  タケル様。
タケル  会いに来たんだ。俺はずっと眠ってる。なんにも考えないことにしたんだ。
アカネ  ・・・・・タケル様、星の話をしてもいいですか?
タケル  めずらしいな。お前が自分から話をするなんて。いいよ、話してくれ。
アカネ  昔、まだ人間が火を持たなかった頃、星は闇の中のただ一つの光でした。人々は闇の中ではそれを頼って暮らしたんです。
タケル  それはそうだろうな。それで?
アカネ  けれどそのうち火を自在に操れるようになり、星の光はあまり省みられなくなったんです。・・・星は、火が消えたときの代用品になってしまった。
タケル  ああ、それで?
アカネ  夢も同じです。夢は昔は希望だった。いずれ叶う願いの道しるべだったんです。・・・・けれど今は、叶わなかった願いの代用品に過ぎません。
タケル  ・・・・・何が言いたい。
アカネ  何も。いいんです。ただ・・・・・
タケル  ただ?
アカネ  ・・・・・・・・。
タケル  言うんだ。
アカネ  ・・・・ひとつだけ、聞かせて下さい。
タケル  ?
アカネ  ・・・・・・私は、代用品ですか?
タケル  何バカなこと言ってるんだ、俺はお前を・・・・
アカネ  答えて下さい!私は、あなたの願いの、叶わなかった願いの代用品ですか!?
少女   ----そんな本当の世界から
タケル  それは・・・・
アカネ  私は・・・・もう一人のあなたです!私が生まれてきたのは、代用品になるためですか?
少女   ----抜け出したいんだ
タケル  (黙っている)
アカネ  タケル様!
少女   ----だけどそれは叶わないから、僕は・・・・・
タケル  ・・・そうだ。
少女   ----夢見る。
アカネ  そうですか・・・私は、代用品なんですね。
タケル  (ためらいながら)分からない。でもきっとそうなんだ。
アカネ  私、考えたんです。何故私が「アカネ」と言う名なのかを。それはきっと、タケル様が望んでいた物があかねさんだったから。
タケル  そうか・・・・俺が望んでいたから、お前は「アカネ」だったのか・・・・
アカネ  願いは、叶うって言ったでしょう?嘘じゃあないんです。私はあなたの夢です。夢の中でなら、嘘じゃあないんです。
(目覚まし時計の音)
アカネ  朝、ですね。
タケル  アカネ・・・・もう、ここに来るのは最後かも知れない。
アカネ  ・・・・ええ。
タケル  お前はあかねの代用品になる必要なんかないんだ。俺は、本物のあかねに嘘を付かないで、言うんだ。今決めた。はっきり言わないとあの鈍感女は分からないらしいからな。
アカネ  わかりました。・・・ただ、あなたには決めなければならないことがあります。
タケル  決めなければならないこと?
アカネ  ええ。星の運命を、決めるんです。

少女   叶わなかった 願いのかけら
     全部があわさり 夢になる

     もしも願いが叶うなら
     夢は崩れて 塵となる

     どこかで 偽物の夢を壊して
     どこかで 本物の願いに逢って

     さよならなのかもしれない
     さよならなのかも、しれない

アカネ  もう、私は必要ありません。だから、今まで私があなたの願いを叶えたように、今度はあなたが私の願いを叶えて下さい。
タケル  どうするんだ?
アカネ  私を、殺して下さい。

少女   また、別れがくるならば
     いっそ心をなくして欲しい
     けれど願いは叶わずに
     忘れられる 時が来る

アカネ  消えてしまいたいんです。もう何も、感じたくないんです・・・
タケル  アカネ・・・・
アカネ  タケル様も、代用品なんかいらないんです。あなたには、本物のあかねさんがいる。・・・・夢はいつか忘れられてしまいますけど、それでいいんです。それで皆、本当に大切なものを知るんです。
タケル  そうか・・・・消えるのか。
アカネ  ええ。でも、辛くはないんです。私はあなた。消滅した星のように塵になって消えても、あなたが望めばまた生まれてくるかも知れません。
タケル  俺は、どうすればいいんだ・・・・?
アカネ  忘れて下さい。私のことを。
タケル  忘れる?
アカネ  そう、私を忘れて、本当に大切なひとのことだけを想って下さい。私からの、最期のお願いです。
タケル  あかねの、事だけを、か。
アカネ  さあ、行って下さい。朝です。
タケル  (舞台に背を向け、歩き出す)・・・・アカネ。
アカネ  (瞳を閉じながら)何ですか?
タケル  言い訳かも知れないけど、俺はお前が好きだったんだと思う。あかねの代用品じゃなくて、やっぱり、それなりに好きだったんだと思う。
アカネ  ありがとうございます。タケル様。
タケル  (舞台の方を向き)さようなら。また会う日まで。
アカネ  ええ。また、会う日まで。
(アカネ去る)
(舞台徐々に薄暗く。アカネ、壊れた人形のようになる。そして真っ暗になり、また明るくなるとそこには母がいる。)

タケル  (ソファーから起きあがりながら)あ・・・・・?
母    あら、今日はやけに早いわねぇ。(タケルを見て)あら、やだ。泣いてるの?(笑いながら)怖い夢でも見たのかしら?
タケル  そんなんじゃない。ただ、哀しかったんだ。
母    何かの夢を見てたのね。どんな夢?
タケル  ・・・・・思い出せない。なんにも、覚えてないんだ。
母    夢なんてそんなもんよ。大事なことほど覚えてないの。
タケル  母さん、今、何時?
母    七時二十分よ。そろそろあかねちゃんが通るんじゃないかしら。
タケル  そうか、あかねが通るのか。(出かけようとする)
母    ちょっと!どこ行くつもり?
タケル  学校。
母    こんな早い時間に?まあ、悪い事じゃないけど・・・
タケル  行って来ます。
(ドアを開けて出ようとする。客席の後ろからあかねとしずくが)
あかね  だから、あたしのどこが鈍感なのよ。
しずく  だから、どうして遅刻魔くんがゆきちゃんの申し出を断ったか、考えてみてよ。
あかね  そうよ!何で断ったりするのよ!
(タケル、家の中に戻る)
母    どうしたの?
タケル  いや、何でもない。(ドアに耳を当てる)
しずく  だから、あの遅刻魔くんには好きな娘がいたって言う事よ。
あかね  へ〜え、誰よ。その「好きな娘」って。
しずく  だから・・・・・
(タケルが飛び出す)
タケル  おはよう。
あかね  ・・・・・・・。
しずく  (小さな声で)どうして出てきたのよ!
タケル  お前が言おうとしたからだ!
しずく  言っちゃえば、誤解がとけるじゃない!
タケル  とにかく言うな。
しずく  ・・・・わかったわよ。でも、だったらどうやって誤解とくつもりなのよ!
タケル  (しばし考え)・・・・・俺が、言う。
しずく  無理に決まってるでしょ?言う度胸あるの?遅刻魔くん。
あかね  さっきから何こそこそ言ってるのよ?
しずく  気にしないで、こっちの話だか・・・・
タケル  あかね。
あかね  (つっけんどんに)何よ?
タケル  俺には好きな女がいる。男みたいで鬼ババで、鈍感でやかましくて、生意気で・・・・可愛い女だ。

あかね  (つっけんどんに)あ、そう。その娘の名前は?
タケル  深山あかね。
あかね  はぁ?
しずく  あかね。この遅刻魔くんは、あかねのことが好きだって言ったのよ。
あかね  冗談止めてよ。
タケル  冗談は言ってない。
(後ろからゆきがやってくる)
しずく  ゆきちゃん!
あかね  なあ、ゆきちゃん、どうやってタケルに断られたの?
ゆき   (タケルの様子をうかがいながら)え、あの・・・・・
タケル  言っていい。
(客席の一番後ろに、しずかに真っ白な服を着たアカネが現れる)
ゆき   あの、好きなひとがいるからって・・・・・
あかね  で、その好きな人の名前は?
ゆき   (再び様子をうかがう)
タケル  言っていい。
ゆき   ・・・・・あかね先輩です。
しずく  だから、ほんとなんだってば。あかね。
(間)
あかね  (いたずらっぽく)ふぅん、そうだったんだ。
タケル  あ、いや、だから・・・・
あかね  (いたずらっぽく)でも、あたしはイヤだからね。タケルとつきあうの。
しずく  あ〜あ、言われたわね。遅刻魔くん。
タケル  ふられても、嫌われてはないよな?
あかね  まぁね。
タケル  じゃあ、候補に入れといてくれよ。
あかね  そうね・・・・考えとくわ。
タケル  (ゆきに)大島さん、だったっけ。
ゆき   「ゆき」でいいです。
タケル  俺達、ふられたけど嫌われてないって事で、仲良くしよう。
しずく  (笑いながら)何よ、それ
ゆき   ええ。一緒に頑張りましょう。
あかね  (笑いながら)やっぱりタケルって、バカなんだから。

(舞台薄暗く、タケル、あかねストップ。アカネのいるところに明かりが)
アカネ  夢はただの夢で
     幻でしかない
     本当に大切な物は
     幻ではない

     大切な何かを
     見つけるために
     あなたが去ったなら
     送り出してあげよう
     
     哀しくても
     心から
     
     微笑みを浮かべて

(アカネ、舞台を真っ直ぐ見つめ、一礼する。)
アカネ  行ってらっしゃい。タケル様。

(明かりが消える。少女に明かりが。)

少女   どうしても、思い出せない人がいました。
     たいせつなひと、必要なひと。
     どこへ、行ったのですか?
     あれは、夢だったのですか?
     夜になれば見えてきて、昼になればかき消える 。
     いつかは消えて、塵となり またあたらしい世界を作る。
     そう、一つだけ、覚えています。
     星のような、ひとでした。
     ・・・思い出して下さい。あなたの大切な夢を。
(明かりが消える。舞台暗転。幕が閉まる)

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