| *確かそこには空があった(私的にまだまだ改善の余地有り) |
(マナ、ユウト、男、少年、サンタ、天使、少女、彼氏、彼女、キィ、ドー、アイ、ラック、駅長、モモ)2時間
薄暗い中、人影。
真ん中に、白い服の少女が立っている。
ばらばらと、声が聞こえる。
アソビ あなたは、どこへ行ったのですか?
ラック あなたは、どこへ行ったのですか?
アイ あなたは、どこへ行ったのですか?
ダマシ あなたは、どこへ行ったのですか?
天使 あなたは、どこへ行ったのですか?
マナ あたし・・・・・どこに行けばいいの?
サンタ あなたは、どこへ行ったのですか?
サギ あなたは、どこへ行ったのですか?
駅長 あなたは、どこへ行ったのですか?
キィ あなたは、どこへ行ったのですか?
ドー あなたは、どこへ行ったのですか?
マナ、顔を上げ
マナ ぐるぐると回り続ける終わりのない運命から、あたしは今、叫び声をあげる。心の中、時空を貫いて世界中に響く歌を歌ってみせる。
舞台、だんだんと暗くなっていく。
マナ AaaaAAAAaaaaaa・・・・・・・・・
マナの声、だんだんと小さくなっていく。
電車の音。
舞台明るく。
座席にはギターを持ったユウトと、モモが座っている。
駅の構内放送が聞こえてくる。
「代々木、えー代々木、です。駆け込み乗車は、危険ですのでおやめください」
モモ あたし、次の駅で下りるからね。
ユウト 分かってるって。
モモ ・・・・・・。
ユウト ・・・・・。
少しの沈黙。
ガタン、ゴトンと、電車の音だけが響く。
ユウト 山手線って、ずっと同じ所を回るんだよな。
モモ うん。一周するとだいたい一時間くらいかかるんだって。
ユウト じゃあ、これで二十四周すれば一日か。
モモ 人生八十年としてさ、何回まわったら一生が終わるんだろう?
ユウト 二十四かける三百六十五で・・・・・ええと・・・
モモ 八千七百六十。
ユウト やけに早いな。
モモ ほら、これ。(キーホルダーを見せ)計算機持ってるから。
ユウト なるほど、そういうことか。で、それに八十をかけると?
モモ 八千七百六十かける八十で、七十万八百。
ユウト 凄い数だ。
モモ そうかなぁ?あたしは、百万くらいいくと思ってたのに。
ユウト 百万と言えばさ、もし百万円があったら何する?
モモ 百万円?あたしは・・・どうしようかなぁ。
ユウト 俺はCDをいっぱい買うかな。
モモ (笑いながら)なにそれ。そんなにCD買いたいの?
ユウト じゃあ、お前だったらどう使うんだよ。
モモ う〜ん、貯金?
ユウト 何だそれ、オバサンくさいなぁ。
モモ うるさいわね。
ユウト ああ、怒るなよ。
モモ そんなに怒ってないけどさ。
ユウト あ、そう。
再び少しの沈黙。
規則正しい電車の音が続いている。
モモ 優斗、さっきの、もう一回見せて。
ユウト さっきの?ああ、あの歌詞か。
モモ 自分で書いたんでしょ。
ユウト うん。
モモ 「空を見に行こう、消えてゆく雲。いつも僕らの上にある、蒼い蒼い世界の果てへ」・・・ロマンチックすぎじゃない?
ユウト そうかなぁ?
モモ 「輝く空を無くしたんじゃない 初めて世界と出会ったんだ。灰色のビル抜け出して いつかどこかで見つけた君を」うん。クサいよ。やっぱり。
ユウト そうか・・・・そうだよなぁ、クサいよな。
モモ 書き直すの?
ユウト うん。どうせ、メロディーに乗せただけだからさ。
電車が止まる音。そしてドアが開く音。
駅のざわめきが聞こえる。
かすかに、新宿駅という放送が聞こえる。
モモ あ、あたし、下りるね。
ユウト ああ、じゃあ。
モモと入れ替わりにスーツの男と少年が入ってくる
「新宿、えー新宿です。駆け込み乗車は、危険ですのでおやめください」
男、少年、席に座り、それぞれ好きなことをし始める。
ドアが閉まる音、そして再び電車の音が規則正しく鳴り始める。
男 (ボールペンを落とし)あ。
ユウト あ、どうぞ。
男 どうも。
ユウト すいてますね。
男 日曜日の午前ですからね。今日は特にすいてますが。
ユウト 塾のテキスト・・・先生ですか?
男 ええ。小学生のね。これから授業に。
ユウト へぇ。
少しの沈黙。
電車の音が響く。
突然ブレーキ音。電車止まる。
舞台、少し薄暗く。
少年 事故?
ユウト 何か、あったんでしょうか。
男 さあ。
ユウト 長引かないといいですね。
男 そうですね。
ドアががたがたと動き始める。
男 あのドア・・・・動きませんでしたか?
ユウト まさか。
少年 がたがた、いってた。
男 何でしょうね。
ユウト さあ。
音、大きくなる。
そしてマナが突然ドアをこじ開けて入ってくる。
三人、呆気にとられている。
車内をくるっと見回して、三人に気づく。
男、ユウト、少年、驚いたまま。
マナ、明るく挨拶をする。
マナ こんにちは。
三人 ・・・・・・・・。
マナ 挨拶くらいしてよ。
男 ・・・こんにちは。
少年 ・・・こんにちは。
ユウト ・・・こんにちは。
マナ あなたたちが、あたしと一緒に旅に出る人たちね。
ユウト (男に)あの・・・知り合いの方ですか?
男 違いますよ。
ユウト (少年に)知り合い?
少年 知らないよ。
マナ 何をそんなに驚いてるの?
三人 ・・・・・。
マナ まぁいいけど。あたしはマナ。これからあなた達と一緒に人を探しに行くの。
男 何かの芝居かな。
マナ やだ。お芝居じゃないわよ。
ユウト 人を捜す?
少年 何のこと?
男 この娘、ちょっとアレなんでしょうか?
マナ あたしはおかしくなんかないわよ!(ユウトの持っている歌詞を見て)あ、これ・・・
ユウト な、何ですか?
マナ これ、本当?
ユウト は?
マナ これよ。(紙を手に取り)
ユウト あ、ちょっと!
マナ 「いつかどこかで見つけた君を、そんなにキレイじゃないけどさ、本物の輝きに満ちた 空まで」
・・・ねぇ・・・本当にあたしを連れて、空まで行ってくれる?
ユウト そんなの無理ですよ。
マナ そうか・・・・やっぱり嘘なんだ。
ユウト 嘘っていうか・・・ただの歌詞だし。
マナ 空・・・・・か。(窓に近寄り)空に行けたらいいのに。
男 あなた、こんな都会の、灰色の空を眺めたって、楽しくないでしょう。
マナ 灰色の空?何のこと?
男 東京の空ですよ。排気ガスで薄暗いでしょう。
マナ この空が灰色なの?
男 都会の空ですから、灰色でしょう。私も毎日見ているし。ほら、そっちの窓の外にも。
マナ ちょっと見てみてよ。あたしには灰色には見えないの。
男 目が悪いんじゃ・・・(座席の後ろの窓の外を見て)ちょっと、見てみてください!
ユウト え?
男 街がない!新宿のビル街も、灰色の空もない!
少年 本当だ!
男 あっち側はたしかに・・・・・
ユウト 見てください!あっちの窓も景色が変わってる!
男 何だって?!
ユウト ただ地面が広がってる・・・・真っ青な空と、地面だけだ!
少年 これは山手線だろ?都心のあたりをぐるぐる回る、緑色の電車。
男 そうだ。山手線のはずなんだ。なのに・・・・これは何だ?
ユウト こんなとこ、東京にはない。日本全国探したって無いような景色じゃないか!
少年 見て!あそこ!ビルがちょっとだけ見えてる!
男 都庁だ!
ユウト でも、だんだんぼやけてくみたいだ。
少年 あ・・・だんだん消えてく・・・・・
男 ・・・・・見えなく、なった・・・・
三人 ・・・・・・・。
マナ ねえ、ヤマノテセンって何のこと?
男 私達・・・・何処か違う世界に来てしまったんでしょうか。
少年 ・・・・・地平線が見えてる。
ユウト 世界が、青と白に分けられてるみたいだ。ここは・・・どこだ?
マナ ここは心の一次元よ。ヤマノテセンって何の事よ。
少年 心の一次元?
ユウト 何のことだ?ここ・・・・どこなんだよ!
男 ちょっと落ち着きましょう。(ユウトに)あなたは、山手線に乗ってましたよね。
ユウト 乗ってました。間違いなく。
男 (少年に)君は?
少年 新宿から、乗った。
男 そして私も新宿から山手線に乗った・・・・ここまでは普通なんですよね。
ユウト この娘が入ってきた所から、何かおかしくなったんだと思いますけど。
男 (マナに)心の一次元って言いましたね。あなた、何か知っているんでしょう?。ここはどこなんですか!
マナ だから、心の一次元よ。
ユウト その「心の一次元」っていうのは?
マナ 心がそこにある一次元、心が動きだして二次元。心が体に乗った三次元、心が叫びだして四次元。
少年 よく分からない。
男 つまり、ここはどこなんですか?
マナ 心の中よ。
ユウト 心の中?
マナ そう。喜怒哀楽に、嫉妬や憎悪。嘘や慈愛や優しさや、いろんな物が詰まった所。ここは心の一次元よ。
ユウト 君は?
マナ あたし?あたしは、マナ。
男 夢でも見てるんだな。
マナ 夢だと思うんだったら、ほっぺたつねってあげようか?
男 え?(つねられて)あ、痛っ!
少年 大丈夫ですか?
男 平気だ。
マナ あんたたち、外から来たのよね。安心していいわよ。全然危ない所じゃないから。
ユウト 心の中・・・・って・・・大変なことになりましたね。
男 電車は止まったまま、そして周りは訳の分からない景色。
少年 外に出られるのかな。
男、ドアをこじ開けようとする。
マナ 出たって変わらないわよ。だって、あたしはそこから入ってきたんだから。
男 (ドアをこじ開ける)
マナ 出てもいいけど、逃げないでね。あんた達はあたしと一緒に旅をするんだから。
男 もし逃げたら?
マナ 追いかけて連れ戻すわ。
少年 じゃあどっちみち、この変な所から出られないのか。
沈黙。
三人、黙ってしまう。
優斗、突然顔を上げる。
ユウト ・・・風が吹いてきた。
少年 本当だ。気持ちいい風。
三人 ・・・・・・・。
少年 ・・・・僕・・・夢見てるのかなあ。
ユウト ・・・・そうだよなあ、夢だよな。いつの間に眠っちまったんだろ。
男 やっぱり、夢だと思うかい?
少年 最近「銀河鉄道の夜」って読んだんだ。あれにちょっと似てるから。あれも電車に乗って、不思議な世界に行く話だろ?
男 あれはねぇ、電車じゃなくて鉄道なんだよ。
少年 あれも結局夢みたいなもんだったんだろ?きっとこれも一緒だよ。
男 そうだよな。どう考えたってこんなことが現実にあるはずがない。
ユウト (マナに)どうして俺らはこんな所に来たんだ?
マナ あたしが呼んだから。
ユウト 君が?
マナ そう。あたしが。
少年 どうして?
マナ 分かんない。誰かに来て欲しいと思ったら、あんた達が来たの。
ユウト 何だそりゃ。ここまでわけわかんない夢は初めてだ。
マナ ねえ、あたしと一緒に、旅に出てくれる?
ユウト 旅?
マナ あたし、一緒に旅してくれる人が欲しかったの。心の中の旅。
少年 やだって言ったら?
マナ 一生ここから出られない。
少年 ・・・それは、やだ。
男 つまり、これが夢だろうと夢じゃ無かろうと、取りあえず私達はここにいるしかないんですね?
マナ あたしと一緒に旅に出てくれないならね。
男 君が、私達の運命を握ってるって訳か。
マナ そう言う訳じゃないけど。この世界ではあたしが一番強いの。だからあたしがあんた達と一緒に旅をしたいと思っている限り、あんたたちはここから出られないと思うわ。
ユウト ・・・・君は何者なんだ?
男 ここの住人なのか?
マナ そう。あたしは心の中にすんでるの。
少年 ねーちゃん、僕の心の中にも住んでるのか?
マナ 「ねーちゃん」って何よ。突然。
少年 とりあえずおばちゃんじゃないから、ねーちゃんだろ?
マナ 確かにあたしは「おばちゃん」じゃないけど・・・あたしは「マナ」よ。
ユウト マナ。
マナ え?
ユウト ごめん。そう呼べばいいのか?
マナ いいわよ。それで。何?
ユウト この電車に乗ってると、俺たちはどうなるんだ?
マナ この電車に乗り続ければ、心の一次元を旅できるわ。駅もあるし、街もあるのよ。
男 心の中に街が?なんだか童話みたいだな。
少年 面白そう。
マナ あたしと一緒に、旅に出てくれる?
ユウト 山手線で眠っている間に夢の中の旅か。それも悪くないな。
男 諦めるんですか?
ユウト 夢の中の旅と思えば、面白いじゃないですか。
男 でも・・・三人が同じ夢を見たりするでしょうか?
ユウト でも、こんなことが本当にあるわけないと思って。それに夢だったら、目が覚めれば自動的に元の山手線の中に帰れるでしょう。
男 それはそうですが、私は急いでるんですよ。
ユウト だって、どうしようもないじゃないですか。眠っちゃってるんだから。
男 それはそうですけど・・・・
マナ 一緒に来てくれる?心の中の、捜し物の旅。
少年 捜し物?
マナ ・・・後で話すわ。
ユウト 全く変な夢だな。けど、面白そうだから行ってみるよ。その「旅」とやらに。
男 私も・・・ここではそれしか出来ないみたいですし・・・・
マナ (少年に)あんたは?
少年 面白そうだから行く。
マナ じゃあ決定ね。
少年 僕、こういう冒険みたいなの結構好きなんだ。
ユウト 俺もわくわくしてるよ。もうずっと長いこと忘れてた。
男 私は急いでるんですけどね。
マナ 往生際が悪いわね。行くの?行かないの?
男 ・・・・行きます。変な夢だと思って諦めますよ。
マナ よし、ぐるぐると回り続ける電車に乗って、心の一次元の旅に・・・出発!
三人 しゅっぱ〜つ。
電車の音、だんだん小さくなり消える。
舞台薄暗く、少年に明かりが。
キィ、ドー、アイ、ラック登場
カケラたちも出てくる。
みんな、練習したり遊んだりしている
少年 夏。体育の授業。体育は、算数よりは好きだ。国語よりも好きだ。でも理科と音楽には、ちょっと負ける。今日はバスケットボール。ドリブルの練習。
キィ あたし、体育って大好き。
ドー そうか?俺は嫌いだ。
ラック 上手くできないからだろ。
ドー うるさいな!
キィ あれ?あなた、やらないの?
アイ あたし、ボールなんてうまく使えないもの。凄く下手だから・・・
ラック 練習すればすぐ出来るようになるさ。
少年 だん、だん、だん。ボールの音が規則正しく鳴り続ける。今日は晴れ。夏だから暑い。・・・だん、だん、だん、同じ音が頭の中をぐるぐる回る。練習は三十回。最後の一回は地面に思い切りボールをぶつけて、大きく弾ませて。蒼い、蒼い空まで。
キィ あ、優斗。そっちにボール転がっちゃった。取ってくれる?
少年 あ、ああ。はい。
キィ ありがと。
少年 (ボールを遊ばせながら)大きく弾ませて、蒼い、蒼い空まで・・・・
電車の音。舞台明るく。
マナ どう?ちょっとはこの世界に慣れた?
ユウト まあ、ある程度は。
男 童話の世界の中にいると思っておけばいいんですよね。
少年 「銀河鉄道の夜」なんか読んだからこんな夢見たんだ。
ユウト 読みたくなかったのか?
少年 うん。
ユウト ならどうして読んだんだよ。
男 分かった、読書感想文だろう。
少年 そう。みんな読むんだ。
ユウト 俺もむかし読まされたなあ。小学五年のときだっけ。
男 私も小五のときでしたよ。(少年に)君は、何年?
少年 僕?五年だよ。
男 みんな小五で読まされるんですね。
マナ みんなこの世界のこと夢だと思ってるの?
ユウト だって、夢だろ。
マナ まあいいけど。あ、もうちょっとで次の駅よ。
男 何駅ですか?
マナ 「始まりの駅」なんてどう?
ユウト マナが決める訳じゃないだろ。
マナ だって、駅に名前なんて無いから、あたしが名前を付けたっていいでしょ。
男 名前がないんですか。
マナ 心の中で名前がハッキリしているものなんて少ないわよ。人間はただ喜んだり、怒ったりしてるわけじゃないわ。喜びながら悲しんだり、悲しみながら楽しんだり。あるでしょ?そういうこと。
少年 分かる。いつも吠える犬が死んだとき、ちょっと嬉しかったけど・・・ちょっと悲しかった。
マナ そしてそう言う感情を表す言葉は、まだないの。
男 まだ信じられない。ここは本当に心の中なんですか?
マナ だから、信じたくなければ信じなくていいわよ。ただの夢だと思ってても構わない。
ユウト 「心の一次元」か。
マナ 一つの点なのよ。あるかどうか分からないくらい小さな、線と線の交わり。
ユウト 電車がゆっくりになってきた。もう止まるのかな。
マナ あ、ほら!そこに見えてきた。「始まりの駅」が。
電車の音が途絶え、ドアが開く。
駅長 マナ。お客さんだね。
マナ そうなのよ。迷い込んできたの。
駅長 へぇ。
マナ 人を捜してもらおうと思って。
ユウト そういえばさっき言ってたな。誰か捜してるのか?
マナ 駅長さん、紙、ある?
駅長 紙?これでいいですか?(ポケットからメモ帳を出す)
マナ 待ってね。今、捜して欲しい人を描くから。
少年 どうやって捜すの?
マナ 駅の近くには街があるの。その街を手分けして捜すのよ。
男 案内してくれるんじゃなかったんですか?
マナ 道は教えてあげるから。
ユウト 俺、方向音痴だからなぁ。
男 私もですよ。
駅長 大丈夫です。この駅から次の駅までは、大通りがまっすぐ通ってますからね。間違えようがありません。
マナ そしてあんたは(と、ユウトをひっぱって)あたしと一緒に電車に乗るの。
少年 じゃあ僕と、この人だけで捜すの?
ユウト ちょっと待てよ。何で俺だけ・・・
マナ 説明は後。とにかくあたしと一緒に電車に乗って。
男 そして私達は街中を捜すわけですか。
駅長 街は二つあるんですよ。駅のこっち側と、向こう側。
少年 じゃあ、一人ずつ別々に捜すってこと?
マナ そういうこと。(紙に描き終わり、手渡す)はい。
男 (紙を受け取り)何だ・・・?サンタクロース?
少年 (紙を受け取り)これは・・・?天使かな?ねーちゃん、絵上手いなー!
ユウト 俺は?
マナ これ。(紙を渡す)
ユウト (受け取り)何だよ、俺だけ絵じゃないのか。「歌を歌わない歌うたいと、誰の物でもない真実」なんか、アレだな。かぐや姫にプロポーズした人たちになった気分だ。
男 絶対に手に入らない物を要求するんですよね。・・・そもそもサンタクロースなんて実在するのかぁ?
少年 僕の方も、天使なんてホントにいるのかなぁ?
マナ それは頑張って捜してよ。それが旅の目的なんだから。
ユウト なぁ、マナ。
マナ 何?
ユウト 「誰の物でもない真実」って、結局何なんだ?
マナ だから、それを捜すのがあんたの仕事なんだってば。
ユウト (駅長に)あの、これはどういうことなんでしょう?
駅長 この「心の一次元」では、人や物、場所にそれぞれ意味があるんですよ。
ユウト 意味?
駅長 そうです。心の中にあるもの。喜怒哀楽に、嫉妬や憎悪、嘘や慈愛や優しさや、名前すらも無い感情。この世界にある物はみんな、心の中の想いや思想が形になったものなんです。
ユウト で、その中で「歌を歌わない歌うたいと、誰の物でもない真実」というのを見つけろと。
マナ そういうこと。あんたのは特に重要だから、ちゃんと見つけてね。
駅長 大変な捜し物を頼んだね。
マナ そう?意外とすぐに見つかるかも知れないわよ。
男 (駅長に)ちょっと、このあたりの地図というか・・・・説明をしてもらえませんか?私は未だにここがどこなのかすらよく分からないんですよ。
駅長 あっちの出口から街へ出てください。そうするとここに、大きな市場があります。
男 野菜とか売ってるんですか?
マナ そんなもの売ってないわよ。何度も言うけど、ここは「心の中」よ。
男 じゃあ、何を売っているんだ。
駅長 ここでは、言葉を売っています。恋人達のための愛の言葉をね。
ユウト 言葉を、売る?
マナ そう。十円、百円、百万円。一億円出したって買えない言葉もあるわ。
少年 どんな風に売ってるの?
駅長 それ相応の形をして売ってますよ。石ころの形、ゴミの形、一輪の花の形に、宝石の形。
マナ 同じ言葉でも、石ころになってるのもあればダイアモンドになってるのもあるわ。
男 なんだか・・・分からないものがさらに分からなくなってきたんですが。
マナ つまり、言葉の価値が決められるところよ。想いが言葉になって出ていくときの、値段が決められるところ。
男 はぁ?その場所が、そう言う意味を持ってるんですか?
マナ 行ってみれば分かるわよ。その市場を歩き続けると、次の駅に着くの。
男 よく分からないけど・・・まあ、道は分かりました。
マナ (少年に)あんたは?道聞かなくていいの?
少年 一応聞いとく。
マナ そっちの出口を出ると、雑貨を売っている店がいくつかあるの。その店がある通りをまっすぐ行けば次の駅。
ユウト そこでは何を売ってるんだ?
マナ 人形とか、小物とか。箱庭遊びのための道具。
男 箱庭遊び?
駅長 害のない遊びですよ。箱庭の中に世界を作る遊び。シナリオを作って、人形達を動かして遊ぶんです。
男 して、その意味は?
駅長 夢や、頭の中のイメージを造るところです。想像力とでも言いますかね。
少年 へぇ。
マナ そうだ、大事なことを忘れてた。
少年 何?
マナ 切符よ。切符。普通に電車に乗ってるんだったら切符なんかいらないけど、街に出るんだったら必要よね。
男 普通に乗ってても、切符は必要でしょう。
マナ 電車の中で生まれて、電車の中で死ねば切符はいらないわ。
駅長 七十万八百回ぐるぐると同じ所を回り続ければ、ね。
ユウト さっき俺が喋ってたことじゃないか。
マナ あ、そうなの?
少年 電車の中で生まれて電車の中で死ぬなんて事、あるわけ無いじゃないか。
駅長 そう言いますけどね、ほとんどの人は途中下車なんてしないんですよ。
少年 訳が分からないや。
男 ここでは何かを分かるって事を諦めた方がいいみたいだよ。
ユウト そうみたいですね。
マナ 駅長さん、切符。
駅長 はいはい。今持ってきます。
ユウト 俺も切符を持ってたほうがいいのかな。
マナ 一応ね。駅長さんが持ってきてくれるわよ。
駅長 (戻ってきて)はい。切符です。大切な物なのでみなさんなくさないように。
男 これをなくさないようにして、街に出ればいいんですね?
少年 僕も、街に出ればいいの?
マナ そうよ。頑張って捜してきてね。
ユウト 俺は?
マナ あたしと一緒にまたこの電車に乗るの。(男、少年に)ほらほら、あんたたちはさっさと出かける!
男 じゃあ、なんだかよく分からないけど行ってきます。
少年 僕も、良く分かんないけど。
マナ 行ってらっしゃい。
駅長 お気をつけて。
二人去る
マナ じゃあ、あたし達は電車に。
ユウト あ、ちょっと、ひっぱるなよ!
駅長 行ってらっしゃい。
ユウト 訳分からないけど、行ってきます。
駅長 お客さんがた、みんな同じこと言いますねえ。
マナ 出発するわよ。駅長さん、また。
駅長 お客さんを困らせるなよ。
マナ 努力するわ。
ドアの閉まる音。駅長去る。
小さく電車の音が聞こえる。
ガタン、ゴトンと、規則正しい音が響く。
マナ ・・・・ねえ、あんた、名前は?
ユウト 俺?俺は優斗。
マナ 変わった名前ね。
ユウト そうか?
マナ (ギターを指さして)それ、楽器でしょ?
ユウト あ?ああ。そうだけど?
マナ さっき、「歌詞」って言ってたわね。歌やるの?
ユウト やるよ?それがどうかしたのか?
マナ 教えて。
ユウト ここで歌うのか?電車の中で?
マナ あたし達以外誰もいないわよ。
ユウト じゃあ、ちょっと音に合わせて見ろよ。ええと。(ギターを取り出し、はじく。)
マナ へえ、そんな音が出るんだ。
ユウト ちょっと待てよ、音あわせなきゃいけないから・・・・・よし。(はじき)この音、出してみろよ。
マナ この音?え〜と・・・AaaaAAAaaaaaaaa・・・・
ユウト お前・・・・綺麗な声してるじゃないか。
マナ あたし、歌習うのって初めてなのよ。
ユウト でも、綺麗な声してる。
マナ ねえ、どうして歌うの?
ユウト どうしてって・・・・面白いから。
マナ それだけ?
ユウト それだけって・・・・何か他に理由あるのか?
マナ 叫びたくならないの?強く、弱く、祈るように。
ユウト 叫ぶ?
マナ ねえ、歌を歌ったら、世界中のみんなに届くかな。あたしの声。
ユウト 世界中?それは無理だろ。
マナ ・・・・そうよね。届かないよね。
ユウト お前は、どうして歌いたいんだ?
マナ 分かんない。
ユウト ・・・そうか。
マナ 追求しないのね。
ユウト ここでは分からないことの方が多いみたいだからな。心の中に街があって、人がいて。それが全部意味を持ちながら動いて、一つの心を造ってるなんてさ。どうせ夢なんだろうけど。
マナ 優斗がいつもいるところでは、分かることの方が多い?
ユウト そりゃあそうだよ。少なくとも俺が普通にいるところでは、電車が思い通りに動いたりすることはないし、周りの景色が突然変わることもない。山手線が止まるのは事故か故障で、新宿の空は変わらず灰色のままだ。
マナ 変なの。
ユウト 変って、何が。
マナ 電車が故障したら止まるっていってたけど、ならどうしてその電車は故障するの?
ユウト そんなの知らないよ。機械の老朽化とかじゃないのか?
マナ 空は変わらないまま灰色だって言うけど、変わらない空なんてあるの?
ユウト そりゃあちょっとは変わるかも知れないけど。
マナ 優斗のいる場所の方が、ずっと変。
ユウト そうか?俺はここの方が変だと思うけど。
マナ 空に行きたい。空っぽで、でも全部がある空の中へ。
ユウト お前、家族とかいないのか?
マナ 知らないわ。そんなの。
ユウト 知らない、って・・・自分のことだろ。
マナ 知らないんだからしょうがないじゃない。
ユウト 友達とかは?
マナ 知らない。あたしの周りには誰もいないもの。
ユウト どうして。
マナ みんな、いつもあたしを捜してる。でもあたしを見つけるとすぐ怖がって逃げちゃうの。
ユウト お前を捜してて、見つけるんだろ?ならどうして逃げるんだ。
マナ 逃げるのはあたしじゃないんだから。そんなのあたしが知るわけないでしょ。
ユウト 一人なのか。
マナ うん・・・・・。ねえ、またその楽器の音、聞かせて。
ユウト 歌うのか?
マナ うん。
ユウト よし、じゃあ・・・(はじく)
マナ AaAAAaaaaAAaaaaaaaaaAA・・・・・・
マナの声が響く。
だんだん小さくなり、市場のざわめきが聞こえてくる。軽快な音楽。
カケラたち、音楽にのって動く。
カケラたちが男に話しかけようとするが、男はそれを交わしながら歩く。
やがて音楽フェードアウト。男は疲れてがらくたの上に座る。
男 駅から出てみたはいいけど・・・・どうすればいいんだ?「暗闇の中幸せそうな恋人達とサンタクロース」って、結局何なんだよ。
ラック そこのお兄さん!お一ついかがですか?
男 え?何ですか?
ラック このルビー!こんなすばらしいのはなかなかありませんよ。
キィ あら。それなぁに?
ドー おいおい、また買い物か?
キィ だって、お買い物って楽しくって。ドーも何か買ったら?
ラック これはですねぇ、昔の恋人に刺殺された女性の最期の「愛してるわ」ですよ。
キィ いいじゃない。いくら?
ラック 百万くらいでしょうかね。
ドー 最期の言葉にしては妙に安くないか?
キィ そうねえ。
ラック 実はですねえ、今のはお芝居の中での話で。
ドー じゃあそれはイミテーションなのか!俺達を騙す気だったな?
ラック そんなつもりじゃありませんよ。
キィ あ、ほら、そっちに素敵な指輪があるわ!
ドー おい、キィ、ちょっと待て!
キィ、ドー去る
男 あのぉ・・・
ラック はい、なんでしょうか?
男 ・・・それ、なんなんですか?
ラック ああ(ルビーを見て)これは女優の迫真の演技ですよ。今はイミテーションですけど、誰か本物にしてくれる人を捜してるんです。
男 イミテーションが本物になるんですか?
ラック この言葉を使う人次第でね。これを買った人がいつかこれ以上の輝きを持つ「愛してるわ」を口にしたら、このルビーは本物になれますよ。言葉の価値は言葉そのものより、それを使う人の心で決まるんです。本物か偽物かって言うのは、使う人の心次第ですよ。
男 はあ、つまりこれは言葉なんですか。
ラック そうです。「愛してるわ」っていう言葉。
男 訳の分からない世界だ・・・・・どうしてこんな物を売ってるんです?
ラック ここは言葉の市場ですからね。このあたりでは愛の言葉のたたき売りセールをやってますが。
男 心の中では、いつもこんな事が行われているわけですか。
ラック まあ、ここは心の一次元ですから。お客さんはここの人じゃありませんね。迷い込んだんですか?
男 ええ。サンタクロースを捜すように言われてまして。
アイ (とぼとぼと歩いてきて)おじさん、サンタクロースの知り合い?
男 おじさん?
ラック アイ、「お兄さん」だろ。
アイ 早くサンタクロースを捕まえに行ってよ。
男 サンタクロースを、捕まえるって言うのは?
ラック ああ、サンタクロースってのはこの辺で有名な泥棒なんですよ。
男 泥棒!?
ラック この子の店は僕の向かい・・・・あそこなんですがね、何度か被害に遭ってるんです。(アイに)ほら、この人が捕まえてくれるから、ほら、泣くなよ・・・
アイ ホントに捕まえてくれる?
男 いや・・・・サンタクロースって言うのは、本当に泥棒なんですか?私の知っているサンタというのは赤い帽子に赤い服、大きな袋を担いで歩き、プレゼントを配ってまわるやさしいおじいさんなん ですが。(絵を見せ)ほら、こんな感じで。
ラック とんでもないですよ。大きな袋は担いでますがね。中身は全部盗品です。それに、こんな赤い服なんか着ちゃいませんよ。顔は似てますけどねぇ。
アイ あたし、サンタクロースがよく来る公園知ってるの。そこに行けば捕まえられるわ。
男 捕まえられるって・・・サンタクロースが泥棒・・・・ねぇ。
アイ あたし、案内できるわ。そこの公園まで。
男 そうだ、(アイに)そこの公園に、カップルっているかな。幸せそうな。
ラック ああ、あそこは夜の公園だから、いっぱいいるよな。
男 夜の公園?
アイ ずっと夜なの。朝も昼もなくて、ずっと暗いまま。
男 この世界にはそんなところもあるんですか。・・・ここでは、場所とか人とかに意味があるんだそうですね。その場所の意味は?
ラック 人の愛情の、一番暗くて暖かい部分ってとこでしょうかね。
男 へぇ・・・・夢でこんな物を見るとは、私もなかなか想像力があるんだな。
ラック しかしあそこはカップル専用の公園ですよ。一人で行くとね、目立ちますよ。
アイ だからあたしが案内するの。
男 君と二人か。
アイ 嫌なの?
男 いやいや。で、どうしてサンタクロースがそこに来るって分かるんだい?
アイ いつも誰かを捜しに来るらしいの。(ラックに)聞いたことあるでしょ。
ラック ああ。あそこで愛の言葉を盗んでるって言う噂も聞くけど。
男 サンタクロースも捜している人がいるのか。
ラック お客さん、何も捜していない人なんていませんよ。誰だって心の中ではいつも何かを捜してるんで す。
アイ おじさん、公園に行く?
男 私の名前はね、高橋優斗って言うんだよ。「お兄さん」は構わないけど、「おじさん」はやめてくれないか?
アイ お兄さん、行く?
男 ああ、行くよ。案内してくれるんだよね。ええと、アイちゃんだったよね。
アイ あたしについてきて。こっちこっち!
男、アイ、ラック去る。
静かながらにテンポのいい音楽。
少年、等間隔に並ぶカケラたちの間をすり抜け、またすり抜ける。
少年とカケラの目が合うたびに、カケラは首を振る。
どの店にも天使などいない。
音楽フェードアウト。少年はまた、落胆しながら店を出る。
少年 すいません、ありがとうございました。・・・あ〜ぁ。店がこんなに並んでるなんて言わなかったじゃないかぁ。この中のどれかなんて・・・あ、もう一件あった。
少年、立ち止まり
少年 天使の置物だ・・・あれ?(絵をポケットから取り出し)そっくりだ!
アソビ いらっしゃいませ。
少年 あ、ええと・・・・
アソビ 何か、お探しですか?
少年 あの・・・・僕・・・
アソビ あ、もしかして迷い込んだんですか?ここの人じゃないですよね。
少年 あ、そうなんです。山手線に乗ってたら、こんなところに来ちゃって。
アソビ ヤマノテセン?
少年 乗り物の、名前です。
アソビ それ、詳しく教えてもらえませんか?
少年 え?どうしてですか?
アソビ 私、この「箱庭雑貨店」のオーナーなんです。ここで売る小物にその「ヤマノテセン」っていう乗り物も加えたいと思って。
少年 別にいいけど・・・何のために山手線の小物を?
アソビ 箱庭遊びは世界を作る遊びですから。いろんな小道具があった方が面白いんですよ。ほら(と箱を見せ)こういう風な箱の中に、世界を作って遊ぶんです。
少年 その箱のなかに何か入ってるんですか?
アソビ ええ。ほら。世界という名のオルゴールボックス。開ければ一つの世界が広がって、音楽を奏で始めるの。
アソビ、箱を開ける。
キィ、ドー、アイ、ラック登場。
カケラたちも出てくる。
キィ あたし、体育って大好き。
ドー そうか?俺は嫌いだ。
ラック 上手くできないからだろ。
ドー うるさいな!
キィ あれ?あなた、やらないの?
アイ あたし、ボールなんてうまく使えないもの。凄く下手だから・・・
ラック 練習すればすぐ出来るようになるさ。
ドー 早くボール渡せよ。
キィ あ、はい。
ラック (アイに)投げてごらんよ。
アイ うん・・・・・・
少年 ちょっと待て、これ・・・・僕の学校の風景じゃないか!
アソビ (ふたを閉めて)どうですか?お気に召しました?これは私の作った箱庭なんですよ。
少年 あ、うん・・・・
アソビ こんなのもありますよ。
カケラたち、キィ、ドー、アイ、ラックと同じ動きをする。
ミラーハウスのようだ。
少年 面白ーい。
アソビ (ふたを閉めながら)もしここにある商品がお気に召さなかったら、オーダーメイドもあるんですよ。好きなシナリオさえおっしゃってくだされば、その通りに・・・・
少年 この中の会話は全部あなたのシナリオ通りなんですか?さっきの、僕の学校のも?
アソビ ええ。
少年 ほんとに、本物みたいだったのに。
アソビ この箱庭も一つの世界です。本物といえば本物だし、偽物と言えば偽物。箱庭を見る人の心次第ですよ。この音楽が心の中にどれほど強く響くのか。本物よりも強い偽物もあるんです。
少年 変なの。
アソビ そうですか?・・・で、あなたは結局何を買いに来たんでしょう?
少年 僕は物を買いに来たんじゃありません。店先に天使の置物が置いてあったから、気になって。
アソビ 天使の置物?
少年 えっと、ですね。(絵を出して)このひとを探してるんです。
アソビ あら・・・・・私、知ってます。
少年 ほんとですか!僕、その人を捜して次の駅までつれて行かなきゃいけないんです。
アソビ でもまぁ、よくここまでそっくりに描けるわね。ちょっと待っててくださいね。今呼んできます。
少女、少年去る、
電車の音。
遠くから、マナの声。
マナ AAaaaaAAaaaaaaaaa・・・・・
ユウト 上手いじゃないか。
マナ ありがとう。
ユウト 歌うって気持ちいいだろ。
マナ うん。
ユウト 声がこう、響いてくのがいいんだよな。
マナ ねえ、歌って何だと思う?
ユウト 歌?文化の一種とか?
マナ あたし思うの。歌は叫びだわ。音楽に叫びを乗せて響かせるの。叫びの響き、それが歌。
ユウト へぇ。
マナ もしかしたら音の叫びかも知れない。獣じみた本能から叫び出すの。
ユウト 本能?
マナ 心の中にあるどこか。点の中の点。叫びがわき出る場所。
電車の音。
規則正しく鳴り続ける。
マナ 優斗、見て!
ユウト 何だ?(と窓を見る)
マナ ほら、キレーな空!
ユウト ああ。確かに綺麗だな。・・・でも、お前は見慣れてるんじゃないのか?
マナ どうして?
ユウト だって、ここに住んでるんだったら毎日見てるだろ。俺はいつも灰色の空の下にいるけど。
マナ いつも見てても、綺麗だよ。
ユウト そういうもんかな。
マナ うん。それに今日は一人で見てるんじゃないから。
ユウト お前が今俺達に捜させてるのは、空を一緒に見るための仲間か?
マナ そうかもしれない。
ユウト 曖昧な答えだな。
マナ だって誰を捜してるのかなんて、あたしにも分からないもの。
ユウト は?お前が捜してるのは、(メモを取りだし)「歌を歌わない歌うたいと、誰の物でもない真実」と・・・後何だっけ。天使と、サンタと・・・・他に誰かいたっけ?
マナ 覚えてない。
ユウト 何だよそれ。お前が探せって言ったんだぞ。
マナ どうせ捜しても捜しても、あたしの見つけたい人は見つからない。
ユウト お前、誰を捜してるんだ?
マナ 分かんない。
ユウト 恋人とか?
マナ まさか。
ユウト じゃあ、誰を捜してるんだ。
マナ 誰か。
ユウト 誰かって、誰だよ。
マナ あたしを捜してくれる誰か。
ユウト さっき、みんながお前を捜してるって言ってたじゃないか。
マナ でもあたしを見つけるとみんな逃げちゃう。
ユウト さっき駅長さんが言ってたな。この「心の一次元」にあるものはみんな意味を持ってるんだって。喜怒哀楽に、嫉妬や憎悪。嘘や慈愛や優しさや、名前すらも無い感情。マナ、お前、何者だ・・・・・?
マナ あたしは、あたしよ。
ユウト それ、答えになってないぞ。
マナ じゃあ優斗、あなたは、何者?
ユウト 俺は、高橋優斗。学生。趣味は音楽。好きな食べ物はチョコレートアイス、嫌いな物は納豆。
マナ ほら、結局それしか言えないじゃない。
ユウト それしか・・・って、結構いろいろ言っただろ。
マナ 自分がどんな意味を持って今ここにいるのか、言ってみてよ。
ユウト そんなの・・・・分かんないよ。
マナ 分かんないでしょ。
ユウト ああ。
マナ ・・・・いいなぁ。
ユウト 何が。
マナ あたしね、自分がなんなのか、なんとなく分かる気がするの。
ユウト ならいいじゃないか。分からないよりは。
マナ あたしね、多分、とても強いの。どんな物にも負けないくらい強いの。
ユウト へぇ。
マナ あたしは誰の物にもならない。あたしは、あたしでいることのプロフェッショナルなの。
ユウト かっこいいじゃないか。
マナ 誰もあたしに近寄れない。
ユウト ・・・・・。
マナ あたしは、誰の物にもなれないの。
ユウト ・・・・お前は、お前を見つけだしてくれる誰かを待ってるんだな。
マナ そう。待ってるの。・・・あたしを捜そうとしている人はいっぱいいて、その人達はあたしのことを待ってる。そしてあたしは捜してくれる人を待ってる。捜してくれる人を、捜してる。
ユウト 待ったり、捜したり、そればっかりだな。
マナ ほんと。待ってる時間と捜してる時間をとったら、何にものこらないみたい。
ユウト これ・・・・夢なのか?それとも現実?
マナ どっちでもない。ここは心の一次元。
ユウト そうか。
マナ 待ったり、捜したり、捜したり待ったり。
ユウト ・・・・・。
マナ 空に溶けたら、きっと全部があるよね。何にもないけど、きっと全部があるよね。
ユウト そうかもな。
マナ 空に、行きたい。見つからないのに捜したり、どこへも行けないのに何処かへ行こうとしたりしなくていいところに行きたい。
ユウト 空が好きなんだな。行ってみたくなるくらいに。
マナ うん。からっぽで、でも全部がある空の中へ。
規則正しい電車の音、だんだんと小さくなっていく。
舞台暗くなる。ムードのある音楽。
夜の公園。
カケラたちがカップルになり、右へ左へうっとりしながら歩いている。
キィとドーがいる。こちらも夜を満喫している。
アイ、男がやってくる。
アイ ここよ。
男 本当に「夜の公園」なんだね。公園に入ったとたん、この暗さだ。
アイ 声が聞こえる。
男 声?
アイ 愛の言葉。甘い言葉に甘い嘘、自己満足に妄想狂。
男 そう言うモノが、聞こえるのかい?
アイ いっぱい聞こえる。定番の口説き文句とか、限りなく真実に近い血みどろの嘘とか。
男 そんなに汚いものなのかな。愛の言葉って。
アイ お兄さんには聞こえないの?
男 聞こえないよ。
アイ そうなんだ。
男 聞こえないのは残念だけど、聞きたくない気もするね。
アイ あたし、帰った方がいいかなあ。
男 帰るように言われてるんだったらそのほうがいいね。
アイ じゃあ、あたし帰るね。(去ろうとする)
男 あ、案内してくれてありがとう!
アイ うん。
アイ去る。
キィ、ドー、ベンチの上でいちゃつく。
カケラたちも。
男、気まずそうにしている。
意を決してカケラたちのカップルに近づくが、にらまれて戻る。
もう一組に近づくが、同じく。
そして、キィとドーのもとへゆく。
男 (キィに)あのぉ・・・・
キィ なーに?なんか用?
男 あのですね、お邪魔だとは分かっているんですが、ちょっと・・・
ドー 分かってるんだったら、邪魔しないでもらえるかな。
男 いえ、分かっているんですが、聞きたいことが。
キィ 聞きたい事って、何なの?
男 あのですね。人を捜しているんですが、サンタクロースってご存じありませんか?
ドー ああ、あの有名な泥棒か。
男 やっぱりサンタは泥棒なんですか。・・・こんな顔らしいんですけど。
キィ あら、よく似てるわね。あの泥棒に。一種のマニアみたいよ。綺麗な言葉を見つけるとかならず盗りにくるの。
男 はぁ、サンタは、言葉を集めてるんですか。
キィ 何のためにあんなにたくさんの言葉を集めてるのか知らないけど、そうみたいよ。
ドー 誰かにプレゼントするためだって聞いたことがありますけどね。
男 さっきそこの市場で聞いたんですが、サンタは誰かを捜してるそうですね。
キィ そりゃあ、何にも捜してない人なんているわけないじゃない。
男 あなた方も何かを捜してるんですか?
キィ もちろんよ。(ドーに)ねえ。ドー。
ドー ああ。
男 あなたたちは、恋人同士ですよね。
ドー ええ、そうですよ。
男 そんなに幸せそうなのに、まだ何か足りないんですか。
キィ 足りないわ。
男 何が。
キィ いっぱいあるけど・・・・・
男 例えば、何ですか?
ドー 例えば・・・・真実?
キィ そうね。どこにあるのか分からない真実は、みんなが捜してるわ。
男 真実・・・真実ですか。
キィ あなたは何かを捜していないの?
男 私は別に。
ドー じゃあどうしてサンタを捜してるんですか?
キィ (耳を澄まし)あら?
ドー ・・・・歌?(と、男の腹に耳を近づける)
男 マナっていう女の子に頼まれまして。声が綺麗でしたね。(自分の腹を指さし)ああ、ちょうどこんな声の。って、ええっ!?
キィ ・・・この歌歌ってる子を、知ってるの?
男 え、ええまぁ・・・・しかし何で私の・・・・
男、何かに気づき、ポケットから絵のカードを取り出し
男 絵が・・・・?
サンタ、目の前を横切る。
それを追いかけカケラたち、サギ、ダマシ。
すぐに去る。
男 (手に取った絵と見比べ)今のは・・・・・?
サンタ、再び横切る。
去ろうとするが、男の持っているカードが気になる様子で、戻ってくる。
その間にサギ、ダマシがサンタを 捕まえる
ダマシ やっと捕まえたぞ・・・!
サギ この中にあるのかしら?
男 あの、ちょっと・・・・
サギ 何よ。
男 これが、サンタクロースですか?
ダマシ はい。泥棒です!(袋をあさりながら)あんたもいっしょにどうですか?
男 ・・・・意外と簡単に見つかるもんですねぇ。仕組まれたみたいだ。
サンタ だから俺は今日は盗みををしに来たんじゃないんだよ!j
男 やっぱり、言葉を盗んでいるというのは本当なんですか。
サンタ 盗んでますよ。
男 どうして。こんな訳の分からない世界でも、盗みはいけないことでしょう。
サンタ 人から奪ってまで、言葉を捧げたい人がいるんでね。それより、俺が気になってるのはあんたのその歌ですよ。さあ、俺がほしがってるものはどこですか。
サギ 欲しいものって?
男 ・・・・・え?
サンタ 来て欲しいって言いましたね。いいですよ。ついていきますよ!
ダマシ あなたがこいつをおびき寄せるために協力してくれた訳ですか。ありがたい。(カードを見て)何ですか?そりゃ。
男 ああ、これは・・・(カードが再び歌い始める)
サギ うた・・・?
サギ、キィ、ドー、ダマシの様子が変わる。
皆、引きつけられたようになっている。
サギ ねぇ、この歌・・・・
ダマシ こんな声だったよな・・・・?
男 みなさん?どうしたんですか?
四人 (答えはない)
男 (サンタに)あなたは平気なんですね。あのー、みなさん、どうしたんでしょう?
サンタ 歌のする方にこいって言ったでしょう!またどっかに連れていく気ですね。
男 (サンタに)・・・飲み込みが早いですね・・・・次の駅まで、一緒に。
ドー ・・・あの歌を歌っている子の所に行くのか?
男 ええまあ。
サギ ・・・あたしたち、連れていってくれない?
キィ あたしも。
男 変な人たちですねぇ。・・まぁ別にいいですけど。じゃ、行きますよ!
ドー 道は分かるのか?
男 ・・・分かりません。
キィ 次の駅って言ってたわね。ほら!早く!(とっとと行ってしまう)
男 (サンタに)妙な人たちですねぇ・・・・あ、さっき言ってた欲しいものって何なんですか?
サンタ 知って、どうするんだ?
男 単なる好奇心ですけどね。そんなにいいものなんだったら私もと思って。
サンタ 好奇心、ね。
男 あ・・・・・すみません。
一瞬の沈黙。
サンタ ・・・真実さ。
男 真実?
男、彼氏、彼女、サンタ去る。
オルゴールの音とともに、カケラたちが踊る。
かすかに雑貨店の店内音楽が聞こえる。
箱庭雑貨店。
アソビが、人形を引きずってくる。
少年 この人形が、天使ですか?
アソビ ええ。ちょっと待ってくださいね。(と、天使をイスに置き、手をたたく)
天使 (ぴょこんと起きあがり) 初めまして。
アソビ (少年に)あ、びっくりした?
少年 ちょっと。
アソビ この店で一番古い人形よ。昔はこれでも自分から話せたんだけど、パーツ取っちゃったから、いまはこうやって手をたたいてやらないと。
少年 え?どうして取っちゃったんですか?
アソビ 自分からパーツをあげたいって言ってたのよ。故障した人形にね。
少年 あの、あなたを捜してる人がいるんです。次の駅にいっしょに行ってくれますか?
アソビ (手をたたく)
天使 さがしてるひと?
少年 うん。
アソビ 行っていいわよ。ずっと倉庫に眠ってたんだから。たまには散歩してきたら?パーツも付け替えてあげるわよ。(手をたたく)
少年 倉庫に?だってさっき・・・
天使 いりません。
少年 何で?(アソビに目配せし、手をたたいてみる)
天使 ひとにみんなあげるのがしごとだから。
アソビ 最初からそればっかりなのよね。昔は捜してる人の話とか、自分からよくしてたんだけど。
ラック、アイがやってくる。
ラック 今日の分の言葉をお届けにあがりました。
アソビ あ、ありがとう。
アイ 宝石でしょ、で、さっきラックの店で売れ残ってたイミテーションのルビー。あとは野の花一輪と、紙屑みたいな言葉がたくさん。
ラック (少女に)あの子、迷い込んできたのか?
アソビ そうみたい。どうして?
ラック さっき俺達のところにも来たんだよ。迷い込んだ人が。
アイ 違う時空からのお客さんだったみたい。このひとよりずっと年とってた。
ラック ずっと、ってほどでもなかったけど。サンタクロースを捜してたんだ。
アソビ この子はね、天使を捜してたんだって。だから今会わせてあげてるの。
少年 (ラック達に近寄り)これ・・・・何ですか?
ラック ああ、これ?これは言葉だよ。箱庭の中で使う台詞のための。
アイ (品物を見せながら)「愛してるわ」、「さよなら」、「また明日」、「元気でね」、「そうですか」、「何?」、「ああ」・・・・いっぱいあるけど。
少年 それが、言葉なの?
アイ そう。今言ったみたいな言葉が、形になったもの。言葉の市場から持ってきたの。
少年 (少女に)何に使うんですか?
アソビ 箱庭のシナリオを書くときに、台詞にするの。
ラック ここの店はお得意さまなんだ。売れ残りもそこそこの値で買い取ってくれるし。
アソビ でもね、まだ最高級の言葉にはお目にかかったことがないのよ。
少年 最高級の言葉って?
アソビ その言葉で作った台詞が、本物に聞こえるような力を持った言葉。偽物ですら本物にする力。
少年 それ、どんなものなんですか?
天使 真実。
アソビ あら!自分からしゃべれるの!
天使 歌が、きこえたから
少年 歌・・・? あ!
ラック なんだい?そのカード。
少年 (カードを耳に当てながら)カードが歌ってる。あのねーちゃんの声にそっくりだ・・・
アソビ へぇ・・・そのカードがあると話せるの。なら、このまま会話出来るってわけね。・・・あたしね、時々考えちゃうのよ。真実なんて本当に存在するのかって。
天使 どうしてですか?
アソビ 箱庭を作ってるでしょ、そうするとだんだん分からなくなってくるの。
アイ 何が?
アソビ 箱庭の世界は造られた偽物だけど、一個の世界には違いないでしょ?だったらそれは本当なのか、それとも嘘なのか。
天使 何が嘘で何が本当かなんて、分かりません。
アソビ そりゃあそうよね・・・あら?あなた、濡れてるじゃない。どうしたの?
少年 そとに置いてあったからじゃないの?
アソビ この人形が? だってこれは倉庫に・・・
天使 その歌の声の人が
アソビ え?
天使 出してくれました。そして、歌のする方に行けば捜している人に会えると。
ラック (カードを耳に当て)気になる歌だな・・・
アイ ・・・・ほんと。引き寄せられるみたい。
アソビ この歌を歌ってるの、何者なのかしら・・・(少年に)知ってるの?
少年 うん。天使を捜してくるように僕に頼んだのは、その人です。
天使 ここで待っていれば、私が捜している人に会えるって。全部を人にあげてまで欲しいものも手にはいるって。
アイ その人とどこで会ったの?
少年 前の駅で。・・・・っていうか、突然山手線に入ってきたんだけど。(天使に)ねえ、欲しいものってさっき言ってた、真実ってヤツ?
天使 そう。人にすべてをあげてでも、あの人から欲しかった・・・真実。
舞台薄暗く、ユウトに明かりが。
キィ、ドー、アイ、ラック登場。
ユウト 夏。学校帰り。今日作った歌詞を友達に見せた。授業中さらさら書いて、そのまま眠ってしまった。化学の授業。退屈な声が頭をぐるぐる回る。なんだか電子も、原子核の周りを回っているらしい。ぐるぐる、ぐるぐる。それから先はもう覚えてない。そして、放課後。
キィ 「空を見にゆこう 消えていく雲 いつも僕らの上にある、蒼い蒼い世界の果てへ」
ドー 「輝く空を無くしたんじゃない 初めて世界と出会ったんだ。灰色のビル抜け出して いつか何処かで見つけた君を」
アイ 「そんなにキレイじゃないけどさ 本物の輝きに満ちた、空まで」
ラック 「明日へ行こう、歌を歌おう 終わらない答え見つけよう」
ユウト どうかなぁ、やっぱりクサいかなあ。
アイ うん。
キィ クサいよ。
ドー かなり。
ラック 相当。
ユウト そうか、やっぱり、クサいか。
ユウト、紙を破く。
キィ 破かなくたっていいじゃない。
ユウト いいんだよ。
ラック ちょっともったいないな。
ユウト びりびりと破いた紙が、風に舞い散る。大きく風が吹いて、ぐるぐると渦を描きながら空まで。ぐるぐる回り続ける原子で出来た地球が、ぐるぐると太陽をまわる。全部同じ渦を描きながら、蒼い、蒼い空まで。
ドー あ〜あ、紙くず捨てていいのかよ。
ユウト いいだろ、これくらい。
アイ 後で怒られるかも知れないわよ。
ユウト 風に巻かれて渦を描きながら、蒼い、蒼い空まで・・・・・・
カケラたち、並ぶ。
人混みをかき分けるようにそれを押しのけ、
男、サンタ、サギ、ダマシ、キィ、ドーが現れる。
路上。
男 ああ、見つかってよかったですよ。これで私もまともな場所に帰れます。
サギ サンタを捜すの、頼まれたの?
ダマシ (サンタに)さっき、呼ばれてここに来たんだって言ってましたよね。
サンタ ああ。呼ばれましたよ。
ダマシ 俺も呼ばれたんです。
サギ 嘘ばっかり言って。結局あの娘来なかったじゃない。
サンタ あなた達もマナに呼ばれたんですか?
ドー マナって言う子なのか?これを歌っているのは。
男 ちょっと待ってください。マナは最近、あなた達に会ってるんですか?
ダマシ 最近も何も・・・・・今日、サンタを追いかけろって言われたんですよ。袋の中にいいものが入ってるからって。
サギ あたしたちを呼んだのは、白い服着た女の子よ。あの歌の声の。
男 私は呼ばれた訳じゃありません。マナに、あなた達を捜してくるように頼まれたんです。
サンタ マナが?
ダマシ それはおかしいですよ。俺達はその、マナって子にここに来るように言われて、来たんですから。
男 私だって、あなた達を捜して次の駅まで連れていくように頼まれたんですよ?
サンタ 彼女は俺たちの居場所を知ってますよ。俺たちを呼んだのは彼女なんだから。探す必要なんかない。
男 なら、どうして・・・・・?
サンタ ・・・・仕組まれたんですね。
男 仕組まれた?
サンタ 全部マナのシナリオ通りだったんですよ。何も知らないあなたに、私達を捜すように言う。そして私達は見つかりやすいように、この公園に集められる。
男 私たち?私が捜せと言われているのはあなただけですよ。
キィ (絵を指さし)じゃあ、これは何なの?
男 この人影ですか?四人か・・・
ダマシ おれたちなんじゃないのか?
男 まさか。
ドー しかし、必要のないものを絵に書き込むことはないだろう?
サギ そうよねぇ。この陰だって、女二人に男が二人。あたしたちにそっくりだわ。
男 ちょっと待ってください。じゃあマナは私に嘘をついて、居場所の分かっているあなた達を捜すようにし向けたって事ですか?
サンタ きっと何か考えがあったんだと思いますよ。彼女にも。
男 考えって・・・・
サンタ 例えば、あなたを俺達に会わせたかったとか。
男 何のためにそんなことを。
ダマシ それはマナ以外誰も知らないんじゃないですか。
男 あの・・・・この世界では、みんなが意味を持ってるんですよね。
サンタ そうですよ。みんながみんな、いろんな意味を持って生きている。例えば俺は「人から奪ってまで、あなたにあげたかった」と言う願いです。
男 じゃあ、あなたが捜している人は?
サンタ 捜しているのは「人にすべてを挙げてでも、あの人から欲しかった」という想い。
男 それはみんな、一つの心の中に存在するんですか?
サンタ 一つの心の中にも、いろんな心があふれているんですよ。心の中で、心と心がぶつかり合って、想いがひしめき合っている。自分の意味を満たしてくれる人を捜して、待ち続けて。ぶつかり合う心は音を奏で、やがて一つの歌になる。どんな世界に行こうとも、心は心を捜しているんです。
男 どんな世界でも、って・・・・私のいる世界では別に誰も何も捜していませんよ。
サンタ そんなことはないはずです。あなたの心は何かを捜しているはずだ。
男 へぇ、そういうものでしょうか・・・・あなたたちは、どんな意味があるんですか?
キィ あたしは、「喜び」。きっと一番原始的な喜び。
男 そちらの方は?
ドー 「怒り」だよ。喜怒哀楽のうちのひとつ。
男 あなたがたは?
サギ あたしたちは「中途半端な幸せ」かしら。
ダマシ 一緒にいて、楽しくて。でも空に溶けることは出来ない。
男 空に、溶ける?
サンタ 完全に満たされた想いは、空に染み込んで溶けて行くんですよ。みんな、一緒に空に溶ける運命の相手を捜しているんです。
男 消えるわけですか。
サンタ そうとも言えますね。空っぽになるんです。満ち足りた空っぽに。
サギ あたしたちは二人一緒にいても、空には行けないの。この人のことをどこまで信じたらいいのか、あたしにはまだ分からない。
ダマシ 俺のほうも、どこまでこいつを信じたらいいのか分からない。
サギ どこまでが本当の気持ちなのか、分からないんです。あたしたち。
ダマシ だからあの歌を、あの歌を歌っているマナを捜してるんです。
サギ あの、化け物みたいにヒトを引きつけるちから。
男 ・・・さっきから聞きたいと思っていたんですが、マナは一体どんな意味を持ってるんですか?心の中にある、感情や想いの中で、彼女の意味は?
サンタ すべての人が捜しているものですよ。誰のものでもない、そしてみんなが持っている。感情や想いより、もっと強いもの。
男 誰のものでもないのに、みんなが持ってるんですか。そりゃあちょっと哲学的だなぁ。
サギ あなたの中にも。
男 私の心の中に、あの娘が?
ダマシ マナだけじゃありません。僕たちみたいな「中途半端な幸せ」や、この泥棒みたいに「人から奪ってまであなたにあげたかった」と言う想い、同じところをぐるぐると回り続ける電車や、愛の言葉のたたき売り市場も、みんなあなたの心の中にある。
男 私の心の中には、こんな訳の分からない世界が広がっているわけですか。
サンタ この世界があなたの心の中にあるんじゃありません。あなたの心が、この世界なんです。
男 この世界が、私の心?
サギ そしてあなたの心もマナを捜しているはずです。
男 教えてください。あの娘は一体、なんなんですか?
サンタ 俺達は何も知りません。ただ、とても大切で、探し続けなければならない物だとしか。
男、黙ってしまう
ダマシ どうしたの?
男 いえ、ふと、 私は昔もここに来たことがあるような気がしまして。
サンタ そうかも知れませんね。
男 この世界のことを、私は知っている気がする。あの、マナのことも。
男、何かに気づいたように
男 あの娘は、心の中で一番強くて・・・・気まぐれで・・・・誰のものにもならない、けれどみんなが心の中に持っている・・・・・・・そう確かあの娘は・・・
再び少しの沈黙。
男、突然顔を上げる。
男 ・・・・真実?
キィ 真実?
サンタ 言葉にすると、そんなに短くなっちまうもんですかね。
男 これは、夢なんですか?本当に心の中にやってきたみたいな気がする。山手線で眠っている間のただの夢だなんて、とても思えない。
サンタ あなたの心の中の真実は、きっとあなたに思い出してもらいたかったんですよ。
男 思い出す?何をです。
サンタ あなた自身の心の世界を。
電車の音。
男、サンタ、彼女、彼氏去る。
マナ、ユウトが座っている。
電車の中。
ユウト なぁ、マナ。
マナ 何?
ユウト 捜さなくていいのか?「歌を歌わない歌うたいと、誰のものでもない真実」。
マナ まだ見つからない?
ユウト 何だよ。お前が俺に頼んだんだろ。お前もちょっとくらい探せよ。
マナ ・・・・・・・。
ユウト そもそも、電車に一緒に乗れなんて言うからいけないんだよ。全然探せないじゃないか。
マナ 優斗、あたしがどうして人を捜してるか分かってる?
ユウト 捜してくれる人を捜してるからだろ?
マナ それも、あるけど。
ユウト 他に何かあるのか?
マナ あたしが捜したら、誰かがあたしのこと捜してくれると思ったの。
ユウト 同じ事じゃないか。
マナ 全然違う。あたしは誰かを捜したくて捜してる訳じゃない。
ユウト 捜して欲しいから、捜してみてるって事か?
マナ うん。そう。
ユウト 他の二人は、見つかったのかなあ。
マナ 見つかってるんじゃない?
ユウト どうしてそう思うんだ?
マナ 何となく。
ユウト ふぅん。
電車の音。
規則正しく響く。
マナ ねえ、歌、うたえる?
ユウト 一応いくつかなら歌えるけど。どんなのがいい?
マナ 本物の歌。嘘じゃない歌が聴きたい。
ユウト 嘘じゃない歌?なんのことだ?
マナ ユウトが、本当に歌いたい歌。
ユウト 歌いたい歌・・・・?別にないけど。
マナ 歌えないんだ。
ユウト だから、いくつかなら歌えるって言ってるだろ!
マナ だって、本物の歌は歌えないんでしょ。
ユウト その「本物の歌」ってなんだよ。
マナ 心がそこにある一次元から、心が叫び出す四次元まで、心の中、世界中に響くような歌。
ユウト そもそも、何言ってるのかわからないんだけど。
マナ あたしね、ユウトに歌を教わりたかったの。本物の歌を。でも優斗は歌わないんだね。
ユウト ちょっと待て・・・・・お前が言ってた「歌を歌わない歌うたい」って、もしかして俺のことか?
マナ さあ。
ユウト お前、最初から分かってて俺をこの電車に乗せたのか?
マナ さあ。
ユウト ・・・・・・マナ。
マナ 知らない。
ユウト ・・・・・。
マナ 怒らないの?
ユウト ・・・・なんか、理由があったんだろうと思ってさ。
マナ ・・・・・。
沈黙。
ガタン、ゴトンと、電車の音は鳴り続ける。
マナ ・・・・世界ってね、箱庭みたいなの。
ユウト 箱庭?
マナ 駅で話したでしょ。箱庭雑貨店の話。あそこに行くと、いろんな人形とか小物とかが置いてあって、それを使って世界を作るの。箱の中に、世界を。
ユウト オブジェみたいな物を作るのか?
マナ ううん。世界を作るの。シナリオを作れば人形達はその通りに動く。箱の中だけの偽物の世界だけ ど、その中で暮らしている人形達にとっては、本物になるでしょ?
ユウト 自分がシナリオ通りに動いてるって知らなければ、そう言うことになるんだろうな。
マナ 箱庭はただの偽物。でも、中にいる人たちにとっては本物。だったらこの世界だって偽物かも知れない。
ユウト 俺達がそれに気づかないだけで、ってことか?
マナ 優斗だって、他の誰かが作ったシナリオの通りに動いてるのかも知れない。でしょ?
ユウト ああ。
マナ 偽物は本物かも知れない。本物は偽物かも知れない。
ユウト うん。
マナ 言葉だってそう。嘘をついて、それがいつの間にか本当になってたらそれは真実?聞いた嘘を嘘だと知らずに口にしたら、それは嘘?
ユウト 分かんないことだらけなんだな。「真実はどこにあるのか?」ってことだ。
マナ そうよ。あたしは一体どこに行けばいいの?
少しの沈黙。
ぐるぐると回り続ける電車の、規則正しい音。
マナ ねえ、あたしが優斗をこの電車に乗せたの、どうしてだと思う?
ユウト どうしてって、歌を教わりたかったんじゃないのか?
マナ でも、あなたが「歌を歌わない歌うたい」だって最初から知ってたとしたら?
ユウト ・・・・・歌わないって分かってる奴に歌を教わるなんて、おかしいって事になる。
マナ どっちかが嘘って事よね。でもね、あたし、両方本当みたいな気がしてるの。
ユウト 両方本当だったらおかしいじゃないか。
マナ うん。でも両方本当の気がする。両方嘘みたいな気もするけど。
ユウト お前結局何考えてるんだ?
マナ 分かんない。自分でも。
ユウト 何が本当なのか?
マナ うん。全然分かんない。・・・・・でも、ひとつだけ本当だって思える瞬間がある。
ユウト どんなときだ?
マナ 想いが、空に溶けていく瞬間。
ユウト 想いが、空に溶ける?
マナ そのうち分かるわ。優斗に見せてあげる。
ユウト その瞬間があるから、お前は空に行きたがってるのか?
マナ だって、あたしが本当だって思える瞬間はその時だけだもの。あたしが行くべきだって思える場所 は、空だけだもの。
ユウト お前が捜せって言ったものは「歌を歌わない歌うたいと、誰の物でもない真実」だよな?
マナ そうよ。
ユウト 俺が歌を歌わない歌うたいなら・・・・なぁ、マナ。
マナ なあに?
ユウト お前、捜してもらいたかったのか?
マナ そう。見つけてもらいたかったの。
ユウト 俺・・・・お前が何者なのか分かってきた気がする。
マナ ・・・・そう。
ユウト でも、どんどん分からなくなってきてる気もする。
マナ その二つが一緒だったら、おかしいじゃない。
ユウト うん。でもそう言う気がするんだ。本当に、そうなんだ。
カケラたちが行き交っている。
路上。
全員、話しながら歩いている。
ラック なるほど・・・。
少年 どうしたの?
ラック いや、この絵のことだよ。
アソビ この絵が、どうかしたの?
ラック ほら、会ってない人のことをここまでそっくりに描けるなんておかしいじゃないか。そっちのお人形さんがその、マナって子に会ったんなら説明が付く。
少年 そっか。あのねーちゃん、天使のこと知ってたのか。
アイ 変ね。マナはあなたに天使を捜すように頼んだんでしょう?
少年 うん。頼まれた。
アイ ちょっと待って、じゃあ、マナは天使の居場所を知っていたのにこのひとに「探して欲しい」って頼んだの?
ラック 一体何のために・・・・・?
少年 え?じゃあ、僕がこの人を捜すために歩き回ったのは、無駄だったって事?
アソビ そうなるわね。どうして、嘘をついたのかしら。
アイ みんなが捜している物ほど、ミラーハウスみたいに嘘がいっぱい。
少年 あのねーちゃん、うそつきなのかぁ。
アイ そうじゃないわ。みんなが知っているものは、嘘のつきようがない。けれどみんなが知らなくて、みんなが捜している物の正体は誰にも解らない。確かにあるはずなのに、本当は存在しない偽物なのかもしれない。
少年 ふぅん。
アイ ここはあなたの心の中なのに、何にも知らないのね。
少年 ここが、僕の心の中?
ラック (アイに)さっきお前が送っていった人、あの人もこの子と同じ人だろ?
アイ そりゃあそうよ。ここはこの人の心の一次元だもの。
少年 あの人って、あの男の人?
アソビ サンタクロースを捜してたって人ね。
少年 全然分からない。あの男の人が僕と同じ人?
ラック 君、名前は?
少年 僕?僕は高橋優斗だけど。
アイ あの人も、同じタカハシユウトなの。
アソビ あなたは、あなたの心の中に迷い込んだのよ。
少年 僕と一緒に山手線に乗った人は、男の人と、ギター持ったにーちゃんと、僕。
ラック 駅長さんから切符をもらっただろ、見せて。
少年 はい。(渡す)
ラック 一九九三年、八月十五日。・・・他に乗ってた人たちの切符には、もっと先の日付が書かれているはずだよ。
少年 じゃあ、あの二人の人たちは僕の未来って事?
天使 そう。あなたの心の中の真実が、あなた達を呼んだの。
少年 ここは僕の心の中で、あのねーちゃんは僕の心の中にいて・・・・あのにーちゃんや男の人は僕の未来の姿?
アソビ そう。
少年 ここが僕の心の中なら、君たちは?
天使 私は、あなたの心の中にある想い。「人にすべてを挙げてでも、あの人から欲しかった」という想い。
少年 君たちは?
ラック 僕は「楽しみ」。そして・・・・
アイ あたしは、「哀しみ」。
ラック 他に「喜び」、「怒り」がいるんだ。これでもう分かるだろ。
少年 喜怒哀楽の?
ラック その通り。この世界では珍しい、名前のある感情さ。
少年 (少女に)あなたは?
アソビ あたしは世界を作るの。ありえない物を創る「遊び心」。あなたが見てる夢とか、あなたが想像してることを作ってる。あなたが眠ってる間の夢は、私が作ってるのよ。
少年 じゃあ、さっき見せてもらった箱庭が学校の風景と一緒だったのは?
アソビ あなたの心の中のイメージだもの。あなたの世界の現実がつながってたってことよ。
アイ で、マナのいるところに連れてってくれるんでしょ?
少年 うん。でも、どうしてみんながあのねーちゃん、マナを捜してるの?
天使 だれにも解らないわ。ただ捜して、捜して、捜し続ける。
アソビ 私たちはあなたの心の中にある「心」だけれど、みんながみんな迷路の中にいるみたいなのよ。迷路に入ったら、出口を捜すしかない。理屈なんか無いわ。
少年 へぇ、だいたい分かったけど、じゃあどうしてあのねーちゃんは僕に天使を探させたんだろう?
天使 きっと、知ってもらいたかったんじゃないでしょうか。
少年 何を?
天使 あなたの心の迷路のこと。もっと、深く広く。
電車の止まる音。
ドアが開く音。
マナ、ユウトがやってくる。
駅。
ユウト ここが、次の駅なのか?
マナ うん。
ユウト こんなに短い時間で、あの二人本当に見つけられたのかなぁ。
マナ ちゃんと見つかってるよ。必ずみんなここに来る。
ユウト どうしてそんなにはっきり言い切るんだよ。
マナ だって、ユウトはもう見つけたでしょ?あたしの捜して欲しい人。
ユウト ああ。
マナ ねえ、あたしにもその楽器さわらせて。
ユウト ギター?ああいいよ。
マナ (かき鳴らす)
ユウト 下手だなぁ。こうやるんだよ。
マナ あ、やっぱり。
ユウト やっぱりって、何が?
マナ あたしがやれば、優斗もやってくれるんだなあと思って。
ユウト 偶然だろ。
マナ 違うよ。
ユウト 偶然だ。
マナ 違う。あたしがあたしを見つけてくれる人を捜してたら、ちゃんと優斗はあたしを見つけてくれた。
ユウト 最初から俺を捜してたのか?
マナ ここは優斗の心だもの。あたしは優斗の心の中にいる。
ユウト ・・・俺と一緒にこの世界に来ちまった人たち、災難だったなぁ・・・・・
マナ なんで?
ユウト 関係ないのに巻き込まれてさ、人の心の中なんて訳の分かんない世界を旅させられて。
マナ 人のじゃないよ。あの人たちは自分の心の中を旅してるのよ?
ユウト だって、ここは俺の心の中なんだろ?
マナ そんなこと言ったって、あれも優斗だもの。
ユウト 何言ってるんだ。俺は俺、あの人たちはあの人たちだろ。
マナ 切符見てみてよ。
ユウト 切符?二〇〇〇年、八月十五日。
マナ 他の二人が持ってた切符は、一九九三年八月十五日づけのヤツと、二〇〇七年八月十五日づけの切符。
ユウト 同じように山手線に乗ったのにどうして日付が違うんだ?
マナ あれは別の時空から来た優斗だから。
ユウト あれが、俺?
マナ 昔の優斗と、未来の優斗。片方は心の一次元のことを知らない。そしてもう一人は忘れてる。だから二人には旅をしてもらったの。
ユウト 俺・・・・・昔もここに来たことがあるのか?
マナ うん。そして未来でも、優斗はまたここに来るのよ。
ユウト 旅をしてもらった、ってことは・・・・・お前そっちでも何か仕組んだのか!
マナ だって・・・・・優斗に見せたいものがあったから。
ユウト 見せたいもの?
マナ 想いが、空に溶ける瞬間。心が溶けあって、空に溶けて、満ち足りた空っぽになって消える瞬間。
ユウト お前が行きたがってる、空に行く瞬間か。
マナ ねえ、あたしが誰だか分かる?
ユウト お前は、マナだろ?
マナ 気づいてるんでしょ?あたしがここ・・・優斗の心の中でどんな意味を持ってるか。
ユウト お前は一人の人間だよ。お前は、お前だ。
マナ あたしから逃げない?
ユウト 逃げないよ。
マナ へぇ。
駅長がやってくる。
駅長 あの人たちは帰ってくるかな。捜し物を見つけて。
マナ 絶対帰ってくる。
ユウト 駅長さん。同じ電車に乗ってたんですか?
駅長 私は案内人ですからね。案内人が客から離れてどうします。
マナ 空、綺麗だね。
ユウト ああ。
マナ 優斗は空に行きたくなったりしない?
ユウト 俺のいる世界・・・・・東京では、排気ガスで空は汚れてるんだ。
マナ 排気ガス?
ユウト 俺とか、周りの人たちとかが出した空気のゴミのことだよ。それで空は灰色に見えるんだ。
マナ 優斗は、空が嫌いなの?
ユウト 嫌いってことじゃないんだけど、行きたくなったりはしないな。
マナ ふぅん。
駅長 (ユウトに)ところでお客さん、捜し物は見つかりましたか?
ユウト 見つかりました。「歌を歌わない歌うたいと(マナの方を見て)誰のものでもない真実」。
幕内から声が聞こえる。
ドアをがたがたさせるような音、
男の声。
男 すいません!駅長さん、開けて下さい!
マナ (ユウトに)ね、ちゃんと来たでしょ。
ユウト あの人が、未来の俺なのか。
男 駅長さん!マナ!ちゃんと連れてきましたよ。サンタクロースと恋人たち・・・・「誰かから奪ってまであなたにあげたかった」想いと、中途半端な幸せを。
マナ (駅長に) 入れて挙げて。
駅長 (うなずき、去る)
男、サンタ、彼氏、彼女がやってくる。
あとから、キィとドーもやってくる。
駅長、戻ってくる。
男 連れてきましたよ。あなたのシナリオ通りに動いて。
マナ お帰りなさい。
サンタ マナ、ここにいれば彼女はやってくるか?
マナ もうちょっと待って。あなたの運命の相手はもうすぐちゃんと来るわ。
ユウト 運命の相手?
男 まったく、このカードには驚かされましたよ。突然歌い出すんだから。
キィ、ドー、マナに背中を向けてしまう。
彼氏と彼女も、背中を向けてしまう。
男 どうしたんですか?
キィ 何でもないわよ。
ダマシ いや・・・・・まっすぐ見られないんです。
ドー どうして、でしょうね。
幕内から声が聞こえる。
ドアをがたがたさせるような音。
少年の声。
少年 連れて来たよ!
マナ 駅長さん。
駅長 分かりました。
少年、少女、天使、アイ、ラックがやってくる。
駅長、戻ってくる。
少年 ねーちゃん、僕のこと騙しただろ。
マナ あたしは騙してなんかいないわよ。
少年 じゃあどうして嘘ついたんだ。
マナ だって、せっかくここに来てくれたんだもの。この世界のこともっと良く知ってもらおうと思って。
少年 この世界、僕の心の中なんだろ?
マナ そうよ。あなたの心の中。
ラック、アイ、少女も背中を向けてしまう。
少年 どしたの?
ラック いや、迷路から抜け出したかったはずなんですが。
アイ あたしも。
マナ (ユウトに)ね。みんなあたしを捜してるのに、あたしを見つけると逃げちゃう。
ユウト お前は、誰かのものになりたいのか?
マナ うん。でも、あたしを手に入れたがっている人たちは、あたしを見つけると(キィやラックたちを見て)こうよ。
男 (ユウトに)君・・・・・・名前は?
ユウト 高橋優斗。
男 (少年に)君も?
少年 うん。僕の名前は高橋優斗。
ユウト (男に)あなたも、ですよね。
男 はい。
マナ 切符、貸して。
少年 はい。(渡す)
ユウト はい。(渡す)
男 どうぞ。(渡す)
マナ ほら、よく見て。一九九三年八月十五日、二〇〇〇年八月十五日、二〇〇七年八月十五日。
男 ・・・・初めまして。過去の「私」たち。
ユウト 初めまして。過去の俺と、未来の俺。
少年 初めまして。未来の「僕」たち。
マナ あたしがこの世界にあなた達を呼んだのはね、これを見せたかったからなのよ。
天使、サンタが歩み寄る。
マナ ほら、運命の相手とは無事に会えたでしょ?
天使 ・・・・・・はい。
マナ 「人から奪ってまであの人にあげたかった」想いと、「人にすべてをあげてまで、あの人から欲しかった」願いがいっしょになって空に溶けるの。あたしが行きたかった空に、空っぽで、でも全部がある空に溶けるの。
サンタ ・・・・宝石を、いっぱい持ってきました。綺麗な言葉を。
天使 何も持っていません。ただこの瞬間のために、捨ててきました。
ダマシ (振り返り)俺達だって・・・・冗談でここまで来た訳じゃないんだ。
キィ あたしたちだって・・・・・
マナ 本当?
キィ、彼氏、止まってしまう。
マナ ね。優斗。
ユウト え?
マナ 世界中みんなこの調子。愛してるとか、幸せだとか、悲しいとか嬉しいとか、殺してやりたいとかみんないろんな事言うの。でも、「本当?」って聞くと、いつもこう。
男 マナ。
マナ 質問だらけの迷路。壁に書かれた百億の問題。一つも答えが出ていないのに、偶然出口を見つけたら?(いたずらっぽく)ねぇ、ほら、聞いてみましょうか?愛し合う二人。(彼氏、彼女に近寄り)間に入って言うの。「本当?」ねえ、あたしを手に入れたいの?
サギ え?ええ。
マナ あたしがあなた達の物になったら、一生あんた達離れられないわ。ずうっと一緒。幸せ?
ダマシ それは・・・
マナ 夢見がちな店員さん、(少女に近づいて)言葉が欲しい?作ったすべてが本物になる、そんな言葉が欲しい?
アソビ ええ。
マナ でも、その言葉で作られた世界は、もう一つの「本物」。あなたの物じゃなくなるのよ。あなたはもう、夢で遊べないわ。
アソビ え?
マナ それでも欲しい?
アソビ それは・・・・・
マナ (サンタ、天使に近寄り)手、握ってみて。
サンタ え?
天使 こう、ですか?
光。
気がつくと、天使とサンタは消えている。
沈黙。
少年 消えた・・・・・
アイ あの泥棒・・・ホントにいなくなっちゃった。
マナ 怖い?怖いんでしょう。出口を出たら何にもないの。あの二人はもう消えたのよ。空に行ったの。からっぽで、全部がある空に行ったの。心なんてこんな物よ。運命の相手を捜して、見つけて。それだけだわ。
キィ あたしたちも・・・・・消えるの?
マナ そうよ。心と心がクロスした点に、あたしがいれば、こういう風に消えちゃうの。
キィ (去ろうとする)
マナ 逃げるの?
キィ え・・・
マナ 好奇心でみんな来るのよ。そしてあたしを見ると逃げ出すの。
ユウト あの二人は・・・・満ち足りた空っぽになったのか?
マナ 分かんない。またああいう感情が生まれてくるのかもしれない。そしてまた運命の相手を捜し始めるのかもしれない。答えをえぐり出したら、その答えは意味が無くなる。そしてまた、新しい答えを捜しはじめる。
マナ (アイ、ラックに近寄り)ねえ、歌、聞かせて?
ラック 歌?
マナ あたしの聴きたい歌。聞かせて。
アイ そんなの、分かんない。
マナ じゃあ、ここへは来ないで。その歌を見つけるまで。
アイ、ラック、後ろを向いて止まる
キィ あたしたちは?
マナ あなた達も。あたしが聴きたい歌、聞かせてくれる?
ドー どんな歌なんだ?
マナ 分からないなら、ここへは来ないで。その叫びを理解するまで。
キィ、ドー、後ろを向いて止まる
マナ あなた達は、歌える?
サギ 歌うって・・・・どうやって?
マナ 強く、弱く、祈るように。
ダマシ どういうことだ?
マナ 聞こえない?
サギ 良く・・・・・分かんないわ。
マナ なら、ここへは来ないで。ちゃんと歌が聞こえるまで。
彼氏、彼女、後ろを向いて止まる
マナ あなたは?
アソビ 歌って、何のことなの?
マナ 見えないの?
アソビ 見えない・・・・って?
マナ 見えないんだったら、ここへは来ないで。沸き上がる歌を感じるまで。
少女、後ろを向いて止まる
マナ ね、みんなこうなるの。あたしはメデューサの首だわ。怖いもの見たさで近づいて、見る直前で逃げ出して。挙げ句の果てにはバケモノ扱い。
少年 メデューサって?
男 神話に出てくる怪物だよ。それを見るとからだが石になっちゃうんだ。
マナ もしかしたらパンドラの箱かもね。誘惑に負けて開けてみたら、中から出てきたのは病気に憎悪、飢えに嘘。
ユウト でも、最後に出てきたのは希望だろ。
マナ ふぅん。そうだっけ。
ユウト なぁ、マナ。さっきの二人は、どうして空に行けたんだ?
マナ 声が聞こえたの。
ユウト 声?
マナ 心がそこにある一次元から、心が叫び出す四次元まで、心の中、世界中に響くような声。
男 どこから?
マナ どこかから。あの二人が、どこかから叫んでた。
幕内から声が聞こえる。
サンタ AAaaAAaaAAAAaaaa・・・・・
天使 AAAaaAaaaaaaaaaaAAa・・・・・
マナ (男に)ねえ、約束覚えてる?
男 約束?
マナ 覚えてないの?
男 何の、約束だい?
マナ うそつき。
マナ、客席に向かって歩き始める
男 は?え?ちょっと、どこ行くんですか!
マナ どこか。
男 どこか・・・・って・・・
マナ 本物の歌がわき出る場所。探しに行くの。
少年 僕たちの切符は?
ユウト そうだ。切符、返してもらわないと。
マナ 嫌。
少年 返してくれなきゃ僕たち帰れないんだぞ!
マナ 嫌よ!
ユウト マナ!
舞台薄暗く、男に明かりが。
キィ、ドー、アイ、ラック男の周りに。
男 夏。授業まであと十五分。山手線の中、早く、早くと心ばかりが空回りを続ける。ガタン、ゴトン、規則正しい電車の音は、頭の中をぐるぐる回り続ける。
駅のざわめき。ドアが開く音
キィ キャッ!
男 あ、すみません。下ります、通してください!
男、満員電車から抜け出す
男 ぐるぐると回り続ける山手線。時計は、ぐるぐると同じところを一周する秒針で早くしろと告げる。今日の範囲は宮沢賢治。「銀河鉄道の夜」ぐるぐると回り続ける山手線が、もし、もしも螺旋を描きながら空までいったなら。蒼い、蒼い空まで、行けたなら。
ラック ちょっと、どいてもらえませんか!
男 あ、はい!・・・ぐるぐると回り続ける山手線を、少しでも上へ上げて、螺旋を描きながら空まで。いつか、あの童話のように、蒼い、蒼い空まで・・・・
舞台明るく。
男 駅長さん、やっぱり切符がないと帰れないんですよね。
駅長 そりゃあ、そうですよ。切符がなければ電車に戻ることは出来ません。
少年 僕たち帰れないの?
ユウト そういうことになるのかなぁ・・・・・
男 夢から覚めたら山手線の中だった、なんて都合のいいことにはなりませんよね。
少年 どうして僕こんなところの来ちゃったんだろう?
駅長 マナがあなたを呼んだから、じゃないんですか?
少年 だからさ、何で呼ばれたのかって聞いてるんだよ。
ユウト 俺は、前にここに来たんだろ。(少年を指し)こいつとして。
駅長 ええ。そのはずですよ。
ユウト 全然覚えてない。ってことは、おまえもそのうちこの世界のことなんかきれいさっぱり忘れてしまうってことだ。
少年 にーちゃんがここにいるって事は、僕は無事に帰れるって事だよね。
男 分からないですよ。私もこの世界の事なんて全然覚えていなかった。あなた達の顔を見ても、何も気づかなかった。いくつもある歴史の可能性のうちのひとつが私だとしたら、あなたたちと私は関わりのない「同一人物」ってことになるのかもしれない。
少年 難しいことはいいからさ、僕は帰れるの?それともこのままなの?
駅長 それはマナに聞いてみないと・・・・・・
客席の後ろから、かすかに声。
マナ AaaAAaaaaaaa・・・・・・・
ユウト 今・・・・
男 どうしたんですか?
ユウト 今、歌が聞こえた。
少年 何も聞こえなかったよ。
マナ AaaAAaaaaa・・・・・・
ユウト ほら!
少年 聞き間違いじゃないの?
ユウト 聞き間違い?違う!はっきり聞こえた!
男 私には何も聞こえませんよ。
少年 あのねーちゃんの声なの?
ユウト そうだ。マナの声だ。
男 どこから、聞こえる?
ユウト どこかから。
少年 どこかからじゃ分かんないよ。切符をもらって、帰らなくちゃ行けないんだから。
ユウト、歩き出す。
男 あ、ちょっと、どこに・・・・
駅長 行ったって無駄ですよ。
男 無駄、とは?
駅長 さっきマナが言っていたでしょう。歌を見つけることが出来ないなら、叫びを理解することが出来ないなら、「来るな」と。
少年 そんなこと言ったって、切符が。
駅長 切符なんか無くたって乗せて挙げますよ。
少年 え?じゃ、あのにーちゃんは?
男 おーい、君!
駅長 (男を制しながら)あの人は、あのまま行っていいんですよ。
少年 どうして。帰れなくなっちゃうじゃないか。
駅長 あなたは知らない。そしてあなたは忘れているけれど、とても大切なんです。すべての時空にいる「あなた」にとって。
ユウト マナ!
マナ AaaaAaaaa・・・・
ユウト なんだよ、ここ。
マナ どこか。本物の歌が湧き出る、どこか。
ユウト 切符、返せよ。帰れないだろ。
マナ ねえ、あたしの歌上手かった?
ユウト 今はそんなこと聞いてるんじゃないんだ。
マナ 答えてよ。どうだった?
ユウト ああ、上手かったよ。だから返せ。
マナ やだって言ったら?
ユウト 俺達は、一生ここから出られない。だろ?
マナ そう。そうよ。
ユウト どうして返さないんだよ。
マナ 返したら、優斗はここから逃げるもん。
ユウト はぁ?
マナ あの男の人、見たでしょ?あたしとの約束なんか全然覚えてないの。約束なんてそんなものよ。優斗が逃げないって言ったって、そのうちどうせ逃げ出すんだわ。
ユウト お前、何回繰り返してるんだ?こういう風に俺達を呼んで、旅をさせて。
マナ 分かんない。何百回も、何千回も同じことした気がする。でも、初めてみたいな気もする。ぐるぐる回ってるの。同じところを、ぐるぐる、ぐるぐる回ってるの。
ユウト 逃げないから、返せ。
マナ 本当?
ユウト ああ、本当だ。
マナ 本物の歌、歌ってくれる?
ユウト 歌えるようになったら歌ってやるから、返せ。
マナ ほんとに歌ってくれる?
ユウト お前、疑り深いな。本当だって言ってるだろ。
マナ 嘘なんでしょ。
ユウト だからホントだって言ってるだろ!
マナ 嘘よ。
ユウト ホントだ。
マナ 嘘。
ユウト 本当。
マナ 嘘。
ユウト 本当。
マナ 嘘!
ユウト 本当だ!
マナ 嘘よ嘘。絶対嘘!
ユウト なんか・・・・ ガキの喧嘩みたいになってきたな。
マナ だって、優斗が嘘つくから。
ユウト 嘘じゃない。・・・なあ、マナ。お前、自分が本物だって言って欲しいんだろ?「真実」なんてただの夢まぼろしじゃないって、言って欲しいんだろ?
マナ ・・・言って欲しいわよ。あたしのいていいところがあるのか、教えて欲しいわよ!
ユウト だったらまず信じて見せろ。探して欲しいから探したように、信じて欲しいなら信じて見せろ。歌って欲しいなら歌って見せろ、叫んで見せろ!
マナ え?
ユウト それとも怖いのか?お前の行きたがっていた空に行くのが。
マナ どういう意味?
ユウト ここで俺の言うことを信じて、想いがぶつかり合って空に消えていくのが怖いのか?
マナ 怖くないわよ。
ユウト 本当に?
マナ 本当よ。
ユウト 本当に?
マナ ・・・・・。
ユウト 怖いのか。
マナ 分かんない。
ユウト 分かんないなら探せ。
マナ 探す?
ユウト 探して、探して、探して。
マナ それでも見つからなかったら?
ユウト また探す。
マナ めちゃくちゃね。
ユウト ちょっと、歌、歌って見ろよ。
マナ 何で?
ユウト 声、覚えておくからさ。
マナ 声を?
ユウト 俺が普通の世界に戻ったら、俺は本物の歌を探し続ける。お前は俺の心の中で、いるべき場所を探し続ける。
マナ それで?
ユウト もし、どうしても叫びたくなったら、心の中から叫んでみせろ。心がそこにある一次元から、心が叫び出す四次元まで、心の中、世界中に響くような歌を、空に向かって歌ってみせろ。
マナ そしたら、どうなるの?
ユウト 俺も歌ってみせる。心がそこにある一次元から、心が叫び出す四次元まで、心の中、世界中に響くような歌を。
マナ クサいこと言うのね。
ユウト うるさいな。
マナ あたしが歌ったら、優斗も歌ってくれるの?
ユウト ああ。どんなに遠くからでも聞こえるように、空に向かって歌ってみせる。だから切符返せ。
マナ うん。
ユウト 物わかりがいいじゃないか。(受け取ろうとし)え?
マナ (逃げながら)切符は返さないの。
ユウト どうして。
マナ あたしはあたしが分からないから。気まぐれで、ふらついてばっかりいるあたしが分からないから。
ユウト そしたら俺、帰れないじゃないか。
マナ あたしは逃げ出すの。空に行くために地面にはいつくばって、同じところを回り続けるの。
ユウト ぐるぐる?
マナ ぐるぐる。
ユウト 同じところを回り続けて、それから?
マナ 空へ。
ユウト 空へ?
マナ 蒼い、蒼い空へ。歌を歌うの。空の上から地の底まで、世界中に響く歌を歌ってみせる。
ユウト それから?
マナ 捜すの。
ユウト 何を?
マナ 見つからない何かを。
ユウト 俺が言ったみたいにか。
マナ そう。
ユウト 切符は、マナが持ち続けるのか。
マナ 駅長さんに言っておいてあげる。だからもう一回、切符を受け取りに来て。本物の歌が歌えるようになったら。
ユウト 裏切り者。
マナ 裏切り者と笑うがいいわ。一生あんたを忘れないから。
ユウト それは、俺に言ってるのか?
マナ 忘れないから、忘れるなって言ってるのよ。(去ろうとする)
ユウト ちょっと待った。声、聞かせろって。(ギターをはじく)
マナ この音?えーと、AaaaAAaaaa・・・・・・
ユウト AaaAaaaaaa・・・・・・
男 今、声が・・・・
駅長 そうですか?私には何も聞こえませんでしたよ。
少年 僕も聞こえた。歌みたいな。
駅長 どんな歌でしたか?
少年 空に吸い込まれそうな歌。
駅長 そろそろ乗ってください。途中下車のお客さんがた。あなたはこちらの車両に、そしてあなたはこっち。
少年 どうして別々なの?
駅長 同じ一つの点から枝分かれした、それぞれの世界に帰るために。
男 もう、発車なんですか?
駅長 ええ。
ユウト 待ってください!
駅長 お帰りなさい。また失敗でしたね。
ユウト 失敗?何のことですか?
駅長 途中下車の代金を、ついに取り戻せなかったって事ですよ。
男 途中下車の、代金?
駅長 普通の人は夢の中、電車に乗った車窓からこの世界を垣間見るだけです。あなたたちは何度も何度も途中下車をする。代金を取られるのは当然です。
ユウト 何を、取られたんですか?
駅長 マナに会ったでしょう。そして彼女に逃げられた。
少年 何?あのねーちゃん、逃げたの?
駅長 あなたは無くしたんですよ。あなたの真実をね。
ユウト 違いますよ。
駅長 と、言いますと?
ユウト 無くしたんじゃない。出会ったんです。初めて本物の歌に、会ったんです。
駅長 そうですか。そういう解釈もあるのかもしれませんね。発車します。宜しいですか?
ユウト はい。
少年 いいよ。
男 これで帰れるんですね。
少年 あれ?
男 どうしたんだい?
少年 声が、聞こえる。
マナ AaaaaaaaaaAaaa・・・・・
ユウト ホントだ。歌が聞こえる。
男 忘れられない声ですね。たとえ忘れてしまっているとしても。
少年 うん。
ユウト なあ。
少年 何?
ユウト 忘れるなよ。
少年 うん。
駅長 発車します。
ガタン、ゴトンと、電車の音が規則正しく響く
マナの声、突然ぷつんととぎれる。
舞台明るく。
座席にはギターを持ったユウトと、モモが座っている。
駅の構内放送が聞こえてくる。
「代々木、えー代々木、です。駆け込み乗車は、危険ですのでおやめください」
モモ あたし、次の駅で下りるからね。
ユウト 分かってるって。
モモ ・・・・・・。
ユウト ・・・・・。
少しの沈黙。
ガタン、ゴトンと、電車の音だけが響く。
ユウト 山手線って、ずっと同じ所を回るんだよな。
モモ うん。一周するとだいたい一時間くらいかかるんだって。
ユウト じゃあ、これで二十四周すれば一日か。
モモ 人生八十年としてさ、何回まわったら一生が終わるんだろう?
ユウト 二十四かける三百六十五で・・・・・ええと・・・
モモ 八千七百六十。
ユウト やけに早いな。
モモ ほら、これ。(キーホルダーを見せ)計算機持ってるから。
ユウト なるほど、そういうことか。で、それに八十をかけると?
モモ 八千七百六十かける八十で、七十万八百。
ユウト 凄い数だ。
モモ そうかなぁ?あたしは、百万くらいいくと思ってたのに。
ユウト 百万と言えばさ、もし百万円があったら何する?
モモ 百万円?あたしは・・・どうしようかなぁ。
ユウト 俺はCDをいっぱい買うかな。
モモ (笑いながら)なにそれ。そんなにCD買いたいの?
ユウト じゃあ、お前だったらどう使うんだよ。
モモ う〜ん、貯金?
ユウト 何だそれ、オバサンくさいなぁ。
モモ うるさいわね。
ユウト ああ、怒るなよ。
モモ そんなに怒ってないけどさ。
ユウト あ、そう。
再び少しの沈黙。
規則正しい電車の音が続いている。
モモ 優斗、さっきの、もう一回見せて。
ユウト さっきの?ああ、あの歌詞か。
モモ 自分で書いたんでしょ。
ユウト うん。
モモ 「空を見に行こう、消えてゆく雲。いつも僕らの上にある、蒼い蒼い世界の果てへ」・・・ロマン チックすぎじゃない?
ユウト そうかなぁ?
モモ 「輝く空を無くしたんじゃない 初めて世界と出会ったんだ。灰色のビル抜け出して いつかどこかで見つけた君を」うん。クサいよ。やっぱり。
ユウト そうか・・・・そうだよなぁ、クサいよな。
モモ 書き直すの?
ユウト いや、やっぱりこれでいいんだ。
モモ ふぅん。どうして?
ユウト 歌が、聞こえるんだ。
モモ 歌?
ユウト 心の中、世界中に響くような歌。
モモ 変なの。
薄暗い中、マナ、舞台に。
マナ Aaaaaaaaa・・・・
ユウト ほら、もうそこまで来てる。
モモ え?
キィ、ドー、アイ、ラック、彼氏、彼女、少女、サンタ、天使、駅長ばらばらと出てくる。
そして、男、少年も。
弱く、そしてだんだん強く、歌を、歌う。
一人一人の歌が、空に向かう。
風になり雲になり、あるいは空を突き抜けて。
歌。
キィ AaaaaaAA・・・・・
ドー AAaAaaaaaa・・・・・
アイ aaaAAAAaaa・・・・・
ラック AaaaaaaaaaAaaa・・・・
ダマシ AaaaaaAAaaa・・・・・
サギ AaaAaaaaa・・・・・
アソビ AaAaaaaAAA・・・・
サンタ AAaaaAaaaaa・・・・
天使 aaAAAaaaa・・・・
駅長 AAaaaaa・・・・・
強く、弱く、祈るような声は一つの歌になる。
ユウト、静かに、叫び始める。
ユウト 叫んで見せろ、叫んでみせろ!お前のその言葉が本物ならば叫んでみせろ!お前の言葉が本物ならば、それを証明してみせろ。世界中に響く歌を、空の上、地の底まで響く歌を歌ってみせろ!
マナ AAaAaaaaaa・・・・・
歌の中で、少年が叫び始める。
少年 だん、だん、だん、同じ音が頭の中をぐるぐる回る。最後の一回は地面に思い切りボールをぶつけて、大きく弾ませて。蒼い、蒼い空まで。
少年、再び歌う。 そして優斗が叫び始める
ユウト びりびりと破いた紙が、風に舞い散る。大きく風が吹いて、ぐるぐると渦を描きながら空まで。ぐるぐる回り続ける原子で出来た地球が、ぐるぐると太陽をまわる。全部同じ渦を描きながら、蒼い、蒼い空まで。
ユウト、再び歌う。そして男が叫び始める。
男 ぐるぐると回り続ける山手線を、少しでも上へ上げて、螺旋を描きながら空まで。いつか、あの童話のように、蒼い、蒼い空まで・・・・
三人、渦を描くように位置を変え、同時に叫ぶ。
少年 びりびりと破いた紙が、風に舞い散る。大きく風が吹いて、ぐるぐると渦を描きながら空まで。ぐるぐる回り続ける原子で出来た地球が、ぐるぐると太陽をまわる。全部同じ渦を描きながら、蒼い、蒼い空まで。
ユウト ぐるぐると回り続ける山手線を、少しでも上へ上げて、螺旋を描きながら空まで。いつか、あの童話のように、蒼い、蒼い空まで・・・・
男 だん、だん、だん、同じ音が頭の中をぐるぐる回る。最後の一回は地面に思い切りボールをぶつけて、大きく弾ませて。蒼い、蒼い空まで。
ユウト ・・・あの世界で叫びを聞いた。今、何処かから沸き上がってくる歌と同じ音を聞いた。
周りの歌、少しずつ小さくなりながら
電車の音。
男 ガタンゴトン。
ユウト ガタン。
少年 ゴトン。
ドー ガタン。
キィ ゴトン。
ダマシ ガタン。
サギ ゴトン。
サンタ ガタンゴトン。
天使 ガタン。
駅長 ゴトン。
アイ ガタン、ゴトン。
ラック ガタン。
アソビ ガタン、ゴトン。
マナ ぐるぐると回り続ける終わりのない運命から、あたしは今、叫び声をあげる。心の中、時空を貫いて世界中に響く歌を歌ってみせる。
マナ AAaaAaaaa・・・・・・
再び、静かに、けれど力強く、歌。
ユウト そしていつかきっと・・・・・・
ユウト、マナに手をさしのべる。
舞台薄暗くなっていき、マナの声が途絶える。
幕。