| 「シノサカくんとマチコさん」 |
シノサカ一号〜五号、マチコ一号〜四号。(45分)
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シノサカ 年齢は二十六歳。八月十日生まれ。 ♂@ バカップル・マイハニィ聖子 ♂A 営業二課。ヒラ。 ♂B 銀行清掃員バイト。 ♂C 英検三級チャレンジャー。 ♂D 凡庸な留守番係り。 マチコ 年齢は二十七歳。五月十一日生まれ。 ♀@ バカップル・ダァリン小池 ♀A 雑誌「くいだおれ」記者。 ♀B マックのバイトおねぇさん。 ♀C 凡庸な留守番係り。 大宮聖子 シノサカの恋人。二十一歳、父親の体が悪く、看病。すこしバイトも。父と散歩中シノサカと知り合う。夜の星空について話し、意気投合してつきあい始めた。つきあって八ヶ月。シノサカの無邪気なところが好き。「シノサカくん・シノサカ・あなた」 小池政志 マチコの恋人。マチコのからっとした気性に好感を抱いた。自転車会社に勤める平社員。バードウ オッチングが趣味。忘れたい女の過去有り。マチコとはつきあって一年半。一人暮らし。「マチコ・あんた・お前・マチコちゃん」 |
暗い舞台。明るい客席。
音響による話し声。わらわらわらわらと言う音声に紛れて会話が聞こえる。
「ひとりだけってずるくねー」
「みんなで行くとかそういうのやなんだけど」
「ならお前あっちいけよ」
「やっぱ本能としてさあ」「しっぽ踏んでるしっぽ!」
「うっせーな」「っていうかさ」
「あ、やばい。酸にやられたくさい」
「しっぽ動かないし」「あとはまかせたぁ!」
「あんた元気だね」「ミトコンドリア!」
客席暗くなり。
「だからさ。やっぱひとりだけってずるいと思うんだよ。」
「どうするつもりだ」
「酵素を工夫して」
「俺賛成」「せーの、だな」
「どうするよ」
「もう俺達だけか」「時間ねぇぞ」
「行くぞ!せーの!わぁああぁああぁあっ!」
静寂。人の気配。
と、二カ所に明かりがつく。そしてその一つに飛び出す人影。
♂一号 俺は、スゴい!
何故なら俺は、ブンレツできーる!
ぼうっと明かりがつく。青い系統の服を着た人々。
と、♀一号飛び出し。
♀一号 そしてあたしも!
ブンレツできーる!
と、赤い系統の服の人々も。
全員、ポーズを決め。
そして、すぐに見えなくなる。
♂一号 そうさマルチパーソナリティーな僕ら。社会のゆがみ宇宙のゆがみ。神様だって分からない。
♀一号 第一階層第二階層、一号二号三号四号!さまよう迷宮心の迷宮、髪の毛一本ブンレツできーる!
♂一号 嫌なことなど忘れたいから、そうさ僕らはブンレツできーる!貴女を見つめてただ一途、仕事もバイトも勉強も、家の用事もお断り!
♀一号 命短し恋せよ乙女、女の気持ちの吹き溜まり。ココロとココロがぶつかり合って、所狭しところころ並ぶ。
♂一号 一人が二人、二人が三人。どんどん増えるブンレツショウ。
♂♀ 我ら、特殊能力を兼ね備えた人類。
♂一号 シノサカ。(ゼッケン見せ)
♀一号 マチコ。(ゼッケン見せ)
♂♀ ・・・そう。そんな私たちでも、真っ当な人間ではない痛み押し隠しながら 恋 をする。愛するひととの当たり前のしあわせ。今は五月。中野区本町安アパートに変わらず巡り来る中央線の響き、そして、朝。
中央線の響き。
五月の中旬を過ぎた金曜日の朝。
安いアパートの一室。中野区くらい。
♂二号は玄関に。これから仕事。今日も靴には消臭剤。
♂三号は忘れ物を取りに部屋に。新人に仕事を教えに行くところ。
♂一号は洗面台で歯磨き。これからデート。
♀一号は部屋で旅雑誌をひらいている。彼女は今日はヒマ。
照明フェードインしつつ。
♂二号 いってきます。
♀一号 いってらっしゃーい。なに忘れ物?
♂三号 ああちょっと。トイレ?ったく。ああ?すぐ出ます。
舞台明るくなり。
♀一号 あんたも今日出るの?
♂一号 あー。(一度洗面所に戻り、うがい)三号もう出た?
♀一号 出たよ。「山梨県ブドウ狩り」。何?巨峰かね。・・・書いてないし。
♂一号 山梨か。
♀一号 うん。
♂一号 星綺麗だよ。けど春はな。冬の方がさ、いいんだけど。今何時?
♀一号 うんー。
♂一号 ねえちょっと。
♀一号 どしたよ。
♂一号 いい。(ポケットから携帯を出し)あともうちょいか。府中までどれくらい?
♀一号 チャリなら四時間くらい。
♂一号 もう聞きませんよ。
♀一号 ねえねえ、今度さ、あの人と山梨行こうと思うんだけど。
♂一号 泊まってきたら。
♀一号 車だとどんなもん?ちょっと長距離だから。
♂一号 あー、どうだったかな。二時間かかんないと思うけど。小池さん?
♀一号 他に誰がいるっての。ダァリンはひとりですー。
♂一号 へーそうですか。なんで車?
♀一号 あの人さ、前肉離れ起こしたんだよね。しかも普通のサイクリングロードで。
♂一号 やりこんでるお前とは違うんだよ。
♀一号 でもあたしも筋肉はおかしいって。ね、シノサカシノサカ。
♂一号 何でございましょう。
♀一号 (肩もみの体制)はい。
♂一号 ったくよ。(当分もみ)
♀一号 あーそこそこ。いたたたたた。あんた時間は?
♂一号 やべ。行って来る。(玄関へ行き、五号を出し)よいしょっと。ふー。お前さ。
♀一号 なに。
♂一号 ちゃうちゃう。
♀一号 あ。留守役くんねー。
♂一号 じゃあさ、五号頼むわ。宅配便な。十時半から十一時半。うん。よろしく。行って来る。と。ちょっとどいて。マチコ。どっかおかしくないか?おい。
♀一号 ネクタイおかしい。
♂一号 それはいい。聖子に結び直してもらう。うわあ着信一件。マイハニィ。いつのまに。
♀一号 ネクタイぐらい結べるようになれば?楽しんでこいよ。
♂一号 おー。
ドアの音。♂一号はデートに行った。
玄関先から、♂五号。
♂五号 マチコさん。あっと。すいません。
♀一号 何。何あやまってんの。
♂五号 (交換ノートを手元まで持ってきて)あ、なんでもないです。
♀一号 ねえねえ留守役くん。好きな人と行くんだけど。
♂五号 山梨ですか。
♀一号 巨峰もおいしそうなんだけどさ。この文学・歴史の旅も棄てがたいわけよ。
♂五号 もうちょっと遠くは。千葉の海とか。
♀一号 チャリで?それキツい旅だよ。
♂五号 自転車、ですか?すいません。一番のマチコさんはそうでしたよね。そう。そうでした。すいません。
♀一号 そんなあやまんなくても。ひとの趣味なんかねえ。では問題です。恋人の名前は?
♂五号 待って下さい。池がつく人。
♀一号 留守役くんあんまり出されないもんね。わかんないか。
♂五号 小池さん。
♀一号 すごいじゃん。よくできました。ね、肩もんでくんない?
♂五号 (肩もみ)
♀一号 (携帯をいじって。見ているのは小池のメール)ねえさー。
♂五号 はあ。
♀一号 昔の女って、忘れられないもの?
♂五号 あんま、そういうのないんですけど。
♀一号 聞きたいの。ほらなんかないの?
♂五号 体験談はありません。
♀一号 男なりの推測で。
♂五号 推測?待って。何が聞きたいんですか。
♀一号 なんかさぁ・・・・。・・・・ううん。なんでもない。いい。
♂五号 気になる。
♀一号 なんでもない。
♂五号 教えてくれないと肩もみません。はい終了。
♀一号 やだ。いい。なんでもない。
♂五号 (封筒を取り出し、はり始める)
♀一号 まあいいや。いわないよ。あたし。テレビつけていい?
♂五号 あんまいいのないですよ。
テレビの音。
♀一号 (新聞で)「おかずのクッキング」、健康百科・・・「今日の料理」あ、みそいりたまご。
♂五号 もしかしてお腹減ってます?
♀一号 (テレビ切り)ううん別に。
♂五号 鍋、ありますよ。四号さんの。
♀一号 なになべ?
♂五号 とりだんごです。
♀一号 とりだんご二つ。野菜いっぱい。汁すくなくてよし。
♂五号 あれでいいですか?あのちょっと深いヤツ。
♀一号 うんよろしく。
冷蔵庫を開ける音。食器の音。電子レンジの音。
♀一号 ラップかけた?
♂五号 めんどくさくて。
♀一号 明治ちゃんに怒られちゃうよ。あのこキレイ好きじゃんよ。
♂五号 家事全般四号さんですからね。
♀一号 あたしできないからね。まかしちゃってんの。こういうとき便利だよね。あつつ。
♂五号 (封筒をかばい)気つけてくださいよ?いちおう仕事なんですから。
♀一号 ごめん。ちょっとうすくちかなあ。
♂五号 ちょうどいいですよ。そんなもんで。
♀一号 うんー。(食べ終わり)ま、こんなもんか。
♂五号 まだありますけど。
♀一号 ダイエット。
♂五号 それくらいでいいと思いますよ。
♀一号 やなの。ひまー。あーあ。
間。その後、チャイムの音。
♂五号 (玄関へ)
♀一号 宅配?(ノートをいじりはじめる)
♂五号 はい。あ、はい。ありがとうございます。はーい。
♀一号 何だった?
♂五号 デパートから。何でしょうね。
♀一号 ねえさー、これ何? あんたのでしょ。何よ。
♂五号 まあまあ。まーまーまー。
♀一号 ふーん。ま、いいや。(携帯に気づく。小池からのメールがあった。)あ。へへ。
♂五号 にやけないでくださいよ。
♀一号 にやけてない。
♂五号 にやけてます。
♀一号 そうかあ?あ、ねえ、英語君ってどうなったの?
♂五号 四号さんはまだです。
♀一号 四級。
♂五号 ええまあ。ダメですよ。四号さんは、彼なりにがんばってるんだし。
♀一号 家事能力検定とかないのかな。そしたらこっちの四号うけさせんのに。
♂五号 でも、彼女もぬけてるとこありますからね。わかりませんよ。あ、でも本番は強いかな。
♀一号 (携帯に女友達から電話が)あ、ちょっとごめん。はいもしもし。何?どしたの。食事?なんかあった?元気ないよ。うん。ううん。分かる。はいはい。ううん、まだ食べてない。まだまだ平気よー。今家。そっちは?あ、うん分かった。たぶん一時間くらい。じゃあ今から行く。今日?全然。ヒマだから。うん。じゃ、今から出るわ。うん。はい。はいはいあそこね。待っててよ。うんごめん。じゃあねー。ばいばーい。
♂五号 片づけときます。
♀一号 ありがと。(洗面所へ化粧しに。)明治ちゃん出してったほうがいい?あ、やだ。ついちゃった。どうする?あんた一人でいい?(ジャケット羽織ってでてくる)
♂五号 お願いします。
♀一号 わかった。(ものをかき集め、バッグに入れて)じゃ、行って来るわ。
♂五号 はい。
♀一号 (玄関で)よーいしょっと。何時になるか分かんないけどさ、夕方になるとそっちの、北っかわの窓に猫くるから。餌やっといて。ほか?それだけそれだけ。うん。行って来る。できれば食器あらっといて。あとお風呂ね。よろしく。あっと、明治ちゃんちょっと。二号のさ、原稿なくしちゃったん だ。さがしといてくれる?絶対怒られる。ごめんね。ごめん。じゃね。
マチコ一号は友人との食事に行った。
マチコ四号と、シノサカ五号。
♀四号 ・・・五号さん。(だきしめる)
♂五号 手伝おうか。
♀四号 え?
♂五号 捜し物。
♀四号 いいよ。そんなの。まだまだ時間あるんだから。ね。(ノートを見て)かして?
♂五号 一番のマチコさんに見られたよ。
♀四号 中身?
♂五号 鍵はここ。
♀四号 もう。びっくりさせないでよ。見つかったら怒られるでしょ。
♂五号 一号さん達も相手いるんだから。そんなじゃないって。(一瞬の沈黙)・・・あのさ。
♀四号 (窓を見ながら)なあに。
♂五号 いや。
♀四号 お茶、いれようか。鍋食べた?どうよ。
♂五号 うん。
♀四号 雨降ってきそう。
♂五号 洗濯物は。中いれる?
♀四号 今日はバスタオルだけ。読んでいい?
♂五号 もちろん。ほら。(鍵を投げ、せんたく取りに)
♀四号 なんか、さ。
♂五号 どうした。
♀四号 もう、何冊目だっけ。
♂五号 忘れた。
♀四号 五年、だね。
♂五号 そんな経ってない。四年と半年くらいだ。
♀四号 年、とっちゃったぁ。
♂五号 いくつだったっけ。
♀四号 あのときは、二十三だったよ。
♂五号 そっか。
♀四号 うん。なつかしい。(食器を片づけつつ)ちょっとごめんね。
♂五号 あ、悪い。・・・・ちょっと。(マチコ四号を抱きしめる)
♀四号 やだ。なあに。ちょっと。
♂五号 髪きれいだなと思って。いい匂い。何?
♀四号 おねえさんにもらったの。香水。
♂五号 三号さんのか。
♀四号 食器、かたづけるから。
♂五号 うん。
マチコ四号かたづけ。
♂五号 彼女さ。
♀四号 おねえさん?
♂五号 髪の毛気にしてたよ。痛んでるって。君、キレイだよね。
♀四号 そんなことないよ。あたしあの人みたいにちゃんとやってないし。
♂五号 やりすぎんのも良くないよ。
♀四号 (お茶持ってきて)香水、どう?きつくない?
♂五号 全然。いいと思うよ。あ、前焦がしたトースト、とっといたけど。
♀四号 ありがとう。どこ?
♂五号 冷蔵庫。
♀四号 あ、そっちでもいいな。どうしよ。
♂五号 何に使うの。
♀四号 脱臭剤。炭だから。けっこう効くよ。冷蔵庫とか、靴箱とかにって思って。
♂五号 ああ、靴箱ね。
♀四号 働いてる方、いらっしゃるじゃない?
♂五号 二号さん、気にしてたな。
♀四号 営業で・・・これから夏でしょ?何かした方がいいかなって。
♂五号 夏は上司のイライラも増すんだって。愚痴は良く聞くよ。
♀四号 その上あんなに気にしてたら、身が持たないと思うんだ。だから足の問題だけでもさ。なにしてん の?
♂五号 さがしてんの。
♀四号 何?
♂五号 記者の方の原稿。
♀四号 ごめんなさい!いい、やるよ。
♂五号 手伝うって。
♀四号 いいってば。こっちの問題だし。ねえ、一号さんに頼まれたのあたしだから。ねえってば。
♂五号 いいんです。やりますー。見せたいものもあるから。
♀四号 何?
♂五号 お楽しみ。(さがしつつ)前さー。
♀四号 うんー。
♂五号 ノート、なくしちゃって。
♀四号 ひどいなぁ。
♂五号 っていうかさ、棚に入れて鍵かけといたんだけど、あかなくて。分かんなくなってさがしまくってたんだよね。そしたら三号さんが。あの人すごいんだわ。
♀四号 捜し物?
♂五号 あけちゃうんだよ。針金で。
♀四号 うっそだあ。
♂五号 ほんとだって。知らなかった?
♀四号 あんまりしゃべらないんだもの。銀行で働いてることくらいしかしらなかったよ。何?鍵あけるの?ほんとに?
♂五号 銀行とかって時間に厳しいらしくてさ。すぐに鍵閉めちゃうらしいんだ。で、掃除がおわんなかったとするだろ、やっちゃうんだよ。掃除。
♀四号 鍵開けて?
♂五号 鍵開けて。
♀四号 えー。うそ。
♂五号 それがホントなんだよ。
♀四号 できちゃうのかな。あれ。ピッキングとか。
♂五号 そんなことしないって。(本を見つけ)あった。
♀四号 あ、あった?・・・なあに、それ。
♂五号 まあまあ。(本を開け)キレイだろ。
♀四号 わぁ・・・・月?
♂五号 見せたくてさ。
♀四号 ありがと。一番さんの?
♂五号 読んでたら見つけて。気に入った?
♀四号 うん。ありがとう。
♂五号 どういたしまして。
♀四号 (見入った後視線を逸らし)はー。どこにあると思う?
♂五号 あそっか。それは?テレビの上の。
♀四号 それはねえ、単語集。
♂五号 四号さんの。
♀四号 そ。前に一緒に作ったの。「pretend」「make believe」。あのひと、すっごく熱心にやんの。手が 真っ黒だった。
♂五号 (手に取り)「make difference」「matter」あれ、これ君の字?
♀四号 赤い方はそう。はやく受かると良いよね。
♂五号 まあ、気長にね。英検っていつ?
♀四号 いつだっけ。
♂五号 いつだっけ。
♀四号 あ、これ?都内ラーメン百十七軒。
♂五号 資料じゃない?
♀四号 ううん、中に入ってる。おいとけばいいか。
窓を見る。中央線の音。
カラスの声。突然、ラジオの英会話が始まり、二人びっくりする。
タイマーだった。すぐに切る。
四時四十五分の音楽。
♀四号 (封筒を引き寄せ)やる。
♂五号 ああ。
♀四号 (しばらく貼り)ねえ
♂五号 うん。・・・うん。
♀四号 (ノートに目をやり、すこしいじって)これから、どうなるんだろうね。
窓に目をやる二人。中央線の音。
明かり、フェードアウト。
と、二カ所に明かりが。
♂一号 もしもし、聖子ちゃん?(あ、なんだぁ。どしたの)いやさ、あ、今時間だいじょぶ?(うん、なんもしてない)届いたよ。(あ、ほんと)あれやっぱいいね。あのさ、一番小さいフライパン、あれもらっていい?うちのがおかしくなっちゃってさ。はげてきた。あ、なに?どうした?待ってる待ってる。はいはーい。
♀一号 小池くん?やだー、どうしたの。うん。って、仕事は?(終わったとこ。これから空いてる?)空いてる空いてる。うん。うんー。うん。え?なんでもないなんでもない。ちょっとコンタクトずれただけ。平気だって。だいじょぶ、なおった。あ、ちょっと待ってね。
♀一号 (動作で、シノサカに、「声下げてよ」)
♂一号 (「そっちこそ」)
♀一号 (「バーカ!」)
♂一号 (「たーこ!」「ブース!」「あっかんべー!」)あ、はいはい。全然。あー、そうか。お父さん は。ああ。うん。お大事にとお伝え下さい。それでさー、
♀一号 (大声で)ごめんねー。うん。テレビ。つけてる。ごめんね。ごめん。壊れててさ、消せないんだ わ。そうそ、もう、困っちゃって。
♂一号 (「うるさいんだけど!」)
♀一号 (「そっちの方が」)え?うん。行こうか。前行ったサイクリングロード、短くて気持ちよくて良 かったんだけど。もう桜は無理。でもいい感じだと思う。ほら、運動しなくちゃ。近いよ。遠くな い。そうそう、そこ。改札でいい?行くよ。お昼は?そっか。じゃあつまめるもの持ってく。
♂一号 気にしないで。気にしちゃダメだ。聖子ちゃん。世の中には知っちゃいけないこともある。ってことにしといて。そう。よろしく。話戻そう。渋谷のプラネタ、そう、しまっちゃうんだよ。知ってた?(前も言ってたよ)そうだっけ?うん。行かない?予約しといた。最後なんだよ。そう。最近多いんだ。経営難ってやつでさ。うん。六月の初め。ありがとう。ああ。あとあれどうだった?あのさ、あれ良くない?日食。そう。今度調べとく。あ、そうかそうか。ごめん。ああ。また。
♀一号 おっけー分かった。お酒は?そっか。うん。だいじょぶ。じゃあまた、あとでね。
♂♀ うん。じゃあね。ばいばい。
照明明るく。
部屋の中。
♀一号 うーるーさーいー。
♂一号 そっちこそ、なんで人が電話してるときに取るよ?
♀一号 かかってきたから。
♂一号 そうかよ。
♀一号 そうだよ。
♂一号 写真集どこやった?
♀一号 知りません。
♂一号 捜してよ。
♀一号 やだよ。あーっ!なにこれ、あんたのじゃないの?
♂一号 なに勝手にもってってんだよ。
♀一号 いつも言ってるでしょ。あたしの部屋にもの置くな。
♂一号 いいじゃんよ別にもとから散らかってるんだし。第一知らねえよ。
♀一号 はい契約違反ー。領地拡大。(シノサカのものを押しのけて)
♂一号 わー。ひっで。
♀一号 どっちが。
♂一号 ・・・ここは俺の領地なんだな。
♀一号 ああそうさ?なんか文句あるのかよ。・・・行かなきゃ。(飲み物取りに台所へ)
♂一号 入るなー。
♀一号 そうくるか。
♂一号 どうだ、まいったか。
♀一号 ・・・あんた、これからどうすんの。
♂一号 買い物。誕生日近いんだよ。さー、でかけるか。(洗面所へ悠然と行き、帰ってくる。)
♀一号 (シノサカが洗面所に行っている間ライン引きをし、)えーと、地図地図。
♂一号 なに。(どかして)はいはい。いってきまーす。
♀一号 入るなー。
♂一号 マチコ。
♀一号 んー?なにかなー?
♂一号 おーいー。
♀一号 交換条件。
♂一号 分かりました。どうぞ女王様。
♀一号 (洗面所へ)
♂一号 トイレ行きたかったんだろ。
♀一号 うるっさい!あーもう、遅れちゃう。ごめん、ごめんねダァリン。
♂一号 あのさ、
♀一号 なに。
♂一号 なんていうんだっけ。あの、あれ。花で。茎がしっかりしてて、コスモスみたいな花びらの。
♀一号 なにそれ。
♂一号 赤とか、オレンジとかので。
♀一号 あ、待って。分かる。分かるけどわかんない。
♂一号 何だっけ。
♀一号 あー、あー、あー、デイジー。じゃなくて。
♂一号 ダリア? ちがったっけ。
♀一号 ちがう。何だっけ。
♂一号 待って。待って。
♀一号 ・・・・・・・・・。
♂一号 ・・・・・・・・・。
♀一号 ガーベラ!
♂一号 そうだガーベラ!あれとさ、チューリップと、バラ。何もらったら嬉しい?
♀一号 直接聞けば。
♂一号 それはやだ。
♀一号 なに。何用?
♂一号 だから誕生日。
♀一号 今だったらさ、百合とか。あ、スズラン?
♂一号 スズランなー。花束にできんの?
♀一号 売ってる売ってる。
♂一号 白百合もすてがたいけど。
♀一号 (本を持ち出し)花言葉。スズラン。意識しない美しさ、純粋。山百合(白)、威厳、甘美。
♂一号 スズランで。・・・なあ。
♀一号 なにさね。
♂一号 女々しい?
♀一号 いいんじゃない?
♂一号 そうか?普通花言葉とかしらべなくない?
♀一号 調べたのはあたしでしょうよ。
♂一号 そうか。
♀一号 あー遅れる!(メモ板を見て)あ、二号仕事だ。出そう出そう。原稿本棚ね。じゃーねー。
マチコ二号残される。
♂一号 ども。
♀二号 原稿どこ?
♂一号 そっちの本棚に。
♀二号 あんた一号?ビタミン知らない?
♂一号 マチコが確か。
♀二号 あのこ、飲んだか。
♂一号 あそーだ。恋人と行くような店しりません?
♀二号 食事?
♂一号 ケーキとか。
♀二号 首尾範囲外。ラーメン食うとこなら分かるけど。よっこらせっと。出かけんの?
♂一号 はあ、まあ。
♀二号 あー、吐きそう。出かけるんだったら鍵出して鍵。
♂一号 鍵?ああ。
♀二号 そ。資料入れがあかねーんだわこれが。
♂一号 今日はどこに?
♀二号 隠れた名店特集。
♂一号 何軒。
♀二号 五。もどさなきゃ身体が腐る。
♂一号 そうじは。
♀二号 それも含めてあんたんとこの三号にまかせるからいい。ねー一号、急いでる?
♂一号 いいえ。
♀二号 あ、でもいいわ。鍵にやらせる。はいはい、でたでた。また恋人?
♂一号 誕生日なんすよ。あいつ。
♀二号 いいね若いもんは。なに?
♂一号 財布なくて。あれ?
♀二号 のろい。とっとと行けば?あった?はいはい。いってらっしゃいね。三号出してけよ。
一号ドアを閉める。
三号。会釈しながら出てくる。
♀二号 よー、鍵。それ開けられる?
♂三号 あの、道具は。
♀二号 知らんよ。
♂三号 (道具捜しながら)すいません。
♀二号 いーえ。げ。きもわる。
♂三号 ちょっと。あ、それです。
テレビをつける二号。鍵開けはじめる三号。
♀二号 よくやるね。ラーメンとか食べ放題とかさ。うわー、見てるだけで胃が。
♂三号 あんたみたいな食べる人が言っても説得力はありません。
♀二号 喧嘩売ってる?
♂三号 いえ。
♀二号 (テレビ切り)いらいらしてるか。
♂三号 まあ、新人が。
♀二号 心身が?
♂三号 新人です。
♀二号 聞いてやろうじゃないか。新人が。
♂三号 仕事覚えが悪い。
♀二号 ほかには。
♂三号 いえ、いいです。
♀二号 言え。
♂三号 女の子が。
♀二号 主語で切るんじゃありません。が?
♂三号 ・・・・。
♀二号 なに、かわいかったか?いくつ?
♂三号 十八です。
♀二号 若いなー。で、なんにそんなにいらいらと。
♂三号 別に二号さんにじゃありません。
♀二号 あたしじゃないのは知ってるっつーの。ほら、泥を吐け。
♂三号 まあ、不公平さを。
♀二号 誰に。
♂三号 あの人に。
♀二号 そっちの?
♂三号 (うなづく)
♀二号 一号。
♂三号 言ってしまえば。
♀二号 ねえあたし、あんたに言ってないよねえ。
♂三号 は?
♀二号 実はさ、こっちでもあるわけよ。そういうの。だいたいさ、あの子たち誰の給料で食ってんの。
♂三号 僕らの。
♀二号 だろ?なのにこっちはなんで小遣いもらってやりくりしてるわけ。おかしくない?
♂三号 あきましたよ。
♀二号 どーも。
♂三号 ちょっと見てくださいね。この中に、さびがあったんです。ほら、これ。
♀二号 話し逸らすなよ。
♂三号 趣味の話くらいはさせてもらいます。でかいでしょ?こういうの、あるんですよ。古いものだと特 に。
♀二号 なんで古いか知りたい?あのね、お金がないの、働いてんのにないの。買えないの。
♂三号 鍵、かしてください。あ、ほら、入る入る。だいじょぶですね。
♀二号 あんたさあ、
♂三号 はい。
♀二号 うれしい?
♂三号 まあ、はい。
♀二号 なんでこんなの趣味なの。
♂三号 天体観測とかと違って、お金かかりませんから。
♀二号 案外と皮肉屋だね。
♂三号 まあ。お金もないですし。あの人みたいに楽しいことばっかりでもないですし。
♀二号 今何時?
♂三号 十二時半です。
♀二号 あーうざったい、もうちょいだ。あたしだってさ、仕事は嫌いじゃないよ。でもなんであんたそんなにのーてんきなんだー!
♂三号 みんなそう思ってますよ。二号さんだってきっと。るすさんとか英検とかは分かんないけど。
♀二号 そっちの二号は、もう買収済み。
♂三号 は?
♀二号 営業とはね、大分前から話し合ってるんだ。あーあ、時間だ。今日も食うぞー!うええ。
♂三号 お疲れさんです。
♀二号 あんたもな。あ、詳しいことは、その本棚の下に紙があるはず。それに書いてある。オネェのこしてく。まあ、話し合っておいてよ。
♂三号 あ、あのひとも?
♀二号 恋愛馬鹿が思うほど、仕事もバイトも楽じゃないって。オネェも不満たらたらだよ。
♂三号 三号さんも、意外とストレスためてるんですねえ。
♀二号 いけいけ不景気!おし、出るか。よっこらせ。あの話しといたよ。化粧品?うごかしてるわけない。馬鹿。うん。そこにいんの鍵。いい?あんた眠いの?知るか。黙って。仕事。遅れる。はいはい。 うっさい。怒るよタコ。オネェのくせに。いいんだよあたしゃ女棄ててるから。はい、バイバイ!
マチコ二号は仕事へ出ていった。
残されたシノサカ三号、紙を出して見ている。
眠そうなマチコ三号。
♀三号 なにさおじさんオンナのくせに。あら、三号さん。ひさしぶり。
♂三号 この、「B」って。「プロジェクトB」
♀三号 あ、うん。ぶっこわし。ぶっこわし〜♪と。
♂三号 へえ。
♀三号 ねえ三号さん、お仕事どう?
♂三号 いえ、ぼちぼち。
♀三号 バイトでしょ?
♂三号 長いスけどね。
♀三号 やだ、髪の毛変になってる。痛んじゃったんだよね。(洗面所へ)
♂三号 と、すいません。
♀三号 あたしもさ、バイトじゃない。だから理解るんだ。三号さんのキモチ。
♂三号 マクドナルドと共通点なんかあるんですかね。
♀三号 あるよー?春じゃない。
♂三号 春?
♀三号 こない?新人君。
♂三号 あー。来ますね。(ノートいじりながら)
♀三号 かわいくない?
♂三号 はい。まあ。
♀三号 こっちはね、高校生がかわいーの。特に男の子。
♂三号 女の子は。
♀三号 あんまし。うるさいし。お客にいい男いるとすぐきゃーきゃー言うし。ねえ、今日の予定は?
♂三号 体調悪いヤツがいたから。
♀三号 そう。なにしてんの?
♂三号 鍵見ると開けたくなるんですよね。
♀三号 ふうん。楽しいの?
♂三号 はい。
♀三号 なんでもできるね。
♂三号 はい?
♀三号 盗みとか。
♂三号 しません。(開けた)
♀三号 あ、すごいすごい。ねえちょっと。(肩たたきを始める)
♂三号 すんません。
♀三号 いいよ別に。働く男に弱いのよ。
♂三号 ・・・・・。
♀三号 照れてる?ふふ。
♂三号 ・・・・・。
♀三号 あたし、いくつくらいに見える?
♂三号 二十七。
♀三号 ・・・・・。
♂三号 え?先週誕生日でしたよ、ね。
♀三号 ははは。そうだね。
♂三号 ・・・・・・・・。
♀三号 ・・・・・・・・。
♂三号 (携帯がなり)もしもし。はい。はい。やっぱ休みましたか。大丈夫です。はい。お疲れさまです。
♀三号 (肩たたきをやめ)。
シノサカ三号、一通り身支度をして。
♂三号 あの、三号さん。二十四とか。もっと。・・・・英検残していきます。いってきます。
残されたマチコ三号。
♂四号 あの。
♀三号 英語君?
♂四号 どうか、しましたか。
♀三号 ううん。ちょっとね。
♂四号 これ見てください。ほらあ、良くできてる。
♀三号 単語帳。
♂四号 そうだ、考えました。あれ。
♀三号 見せて。
♂四号 (単語帳見せ)ここに。
♀三号 うん。まぁいいかな。
♂四号 友達、欲しいなあって。
♀三号 そう。
♂四号 (カレンダー見て)ああ、近いなあ。
♀三号 三級?
♂四号 来週日曜。
♀三号 そう。
♂四号 一号さん、なにしてますかね。
♀三号 こっちのはダァリン小池とバカップルよ。(あごでメモ板をさす)
♂四号 ほんとだ。いいなあ。あ、猫。餌を。
♀三号 なんもないよ。
♂四号 牛乳。
♀三号 はいはいはい。なついてるね。
♂四号 はい!友達です。たまに入ってくるし。あったかいんで。おい、おいで。・・・・あ。
♀三号 あ、メール。
♂四号 仕事ですか?
♀三号 うん。
♂四号 ほんとに?
♀三号 ゆきずりデート。
♂四号 三号さん。
♀三号 嘘よ。バイトの男の子にマニュアル渡しに行くの。恋人なんかいるわけないでしょ。
♂四号 ぼく、勉強してます。
♀三号 そう。閉じこもって?
♂四号 それくらいしかね。
♀三号 ま、ね。ひとりで、いい?
♂四号 四号さんいるとうれしいです。
♀三号 ひとりでいてちょうだい。
♂四号 なんで。
♀三号 英語君がね、楽しそうにするのはいやなのよ。
♂四号 他人の不幸は蜜の味、ですか?
♀三号 死なばもろとも。旅は道連れ?
♂四号 世は情け。わかりました。
♀三号 あの楽しそうな人たち、気に入らないでしょ?同じ。
♂四号 分かってます。僕、がんばりますから。
♀三号 別に欲求不満でもないけどね。あーあ、また高校生でもひっかけるか。バカップルの一つや二つしてみたいっての。じゃね。すぐ、戻るわ。
残されたシノサカ四号。
英語の勉強。
♂四号 「take my lover back to」
「take a fancy to」
「fall in love with you」
「fall back on」
「keep company with you」
「keep in touch with you」
「get rid of the past」。
チャイムの音。扉をたたく音。
四号、玄関へ。
♂四号 え?どうしたんですか!え、ちょっと、二号さ・・・・記者さん。あ、はい。僕同居人です。はい。具合が。いえ、そんな。有り難うございます送っていただいて。あ、はい、だいじょぶです。 ちょっ、ちょっと、(毛布とクッションを用意し)待って下さいね。(水を取りに台所へ)
♀二号 うええ。いたたたたたたたた。あいたたた。あ、へーきへーき。どうぞ心配なさらずに。
♂四号 水を・・・・
ハイヒールの足音。
はっとするふたり。
♂四号 (目配せして)二号さ・・・・・
♀二号 すいませんねえ、若林さん、目、つむってくださいませんかね。あーっ待って!その場で。こっち向いて。耳ふさいで。はい、ちょっとストップねー?・・・オネェ?
♂四号 あの、はい。三号さんだと思います。
♀二号 オネェだったらその場で消すからね。あーきもわる。ったく。(玄関へそーっと行き)あ、あ、あ、まだまだまだまだ。まだ目開けちゃダメ。耳もダメ。(足音に耳をすまし)
♂四号 (足音が止まった)・・・お帰りなさい。
♀二号 (小声で)ごめん!(手をたたく)
一瞬の間。
♀二号 はいはい、いいよ。ない。意味なんてありません。はいはい、分かっておりますとも。うええええええ。
♂四号 分かりました。ちゃんと休ませます。今日は本当に有り難うございました。
ドアを閉める音。
♀二号 ごめん、三級。
♂四号 いえ。水です。
♀二号 どうも。おべんきょはいいのかい?
♂四号 はい、まあ。熟語覚えたりしてたんですけども。あの。
♀二号 ああ?
♂四号 誰ですか?あの人。
♀二号 担当。
♂四号 そっか。
♀二号 なんで。
♂四号 僕、ここから出ることほとんどないじゃないですか。うらやましくて。
♀二号 そう。あ、来た。うああ。(トイレに駆け込む)
♂四号 (水をくみなおす)
♀二号 げ。あー。(トイレ流す)
♂四号 はい。
♀二号 ありがと。あー。うえ。もういっちょ。(トイレへ)(すぐに流す)あ、三級、営業まだ?
♂四号 帰ってません。
♀二号 Bのことはあんた知ってんだっけ。
♂四号 考えておきました。
♀二号 そっか。あたしもなんか考えとくかね。
四号、英語のテープをイヤホンで聴き始める。
二号横になり、資料の整理。
♂四号 イーヴン、アーティスト、セイ、ザット・・・
♀二号 見たくない・・・・あーあ。
♂四号 (飽きて眠る)
♀二号 「仕事の邪魔」とでも言うか。前の子は忙しかったらしいしな。
♂四号 (携帯が鳴る)(起きない)
♀二号 三級!さんきゅー!・・・営業?もしもし?あたし。寝てんの。そうそう。英語は今家。へいよ。いまどこ。靴!靴なんか見たって良くならないと思うけど。そう、かえってくんの。うるさいな。待ってるよ。
食後の体操を始める二号。
寝ている四号。
中央線の音。
音量最大にし、テープを回す。
♂四号 わあ!(はずし)二号さん。
♀二号 悪いね。営業帰って来るって。話があるんだけどさ。
♂四号 ・・・分かりました。
♀二号 あれ、どこ?
♂四号 単語帳に。
♀二号 そ。・・・お帰りだ。ほれ。
♂四号 (玄関へ行きながら)カップ麺がありますからって、伝えといて下さい。
♀二号 了解。
♂二号 (手をたたき)ただいま。
♀二号 おかえり。今日あたりどうかね。
♂二号 やるのか。
♀二号 あんたあたしの昔の男役やんの、どう思う?
♂二号 何だそれは。
♀二号 代わりにこっちはオネェ派遣。昔の女役。
♂二号 勝手にしろ。聞いてくれよ。係長に言われたんだ。
♀二号 まだ聞くなんて言ってないだろうがよ。
♂二号 靴をな、買い換えろって。金がないわけじゃないだろうだとさ。
♀二号 生憎ないんだよね。それが。こっちも愚痴ろうか。
♂二号 聞いてやるよ。なんだ。
♀二号 今日はラーメン四杯だった。
♂二号 腹減ってるから。
♀二号 どんなにあんたが腹減ってようとね、いいか、最初はトンコツだ。店の人はいい人だった。ラーメン一筋だ。スープにも自信がある。言ってる意味分かる?
♂二号 分かるよ。
♀二号 二件目は味噌。細麺大盛り。野菜たっぷり。三件目はしょうゆ。チャーシュー六枚。四軒目もしょうゆ。こっちもチャーシュー。しかも餃子とセット。死ぬだろうよ?
♂二号 で、任務を全うしてきたわけだ。ごくろう。
♀二号 ホントは五軒。
♂二号 ダメじゃんよ。
♀二号 時間ないからもう取材できない。と、すると、五軒目は記事書けない。そのぶん減給。で、あたしの小遣いは?
♂二号 言うな。俺はな?靴を買った。本が買えない。小遣いがない。ああ、もういい。
♀二号 そうだ、三級からの伝言。カップ麺あるって。
♂二号 お。(立ち上がる)
♀二号 あたしの視界で食べるなよ。
♂二号 湯、わかすわ。
♀二号 あー、また気持ち悪くなってきた。・・・・書かなきゃ。
♂二号 (台所で) あー、野菜食うか。やさいーと。(包丁で切る音)
♀二号 (携帯が鳴る)一号だ。馬鹿。あのこ。はい?もしもし?はぁ?聞こえない。今どこにいんの。遅れる。そうですか。今日はどうだった?うん。はい。へえそうですか。あーわかった。いいから。電話代かさむ。そりゃよござんしたね。へいへい。じゃね。ちょっとさ、切らせて。ちょっと頼むから。仕事。お金かかってんの。はい。じゃね。
♂二号 で?
♀二号 ごめん、三号呼んで。説明して。もう決めた。
♂二号 こっちの電話番号いるか?
♀二号 オネェにかけさせる。こっちは、これね。(紙切れを渡す)
♂二号 どうなりますかね。
♀二号 知るか。
♂二号 ま、実はこっちもキてたけどな。(携帯メール見せる「プレゼント買ったため小遣い減額一号よ り。」)
♀二号 これ今日の?
♂二号 昨日の。
♀二号 アンタも役者だね。期待株だ。(紙切れを集め、単語集を開け)
♂二号 男は不言実行。どれ?(各原稿を見て)これはどうだ?
♀二号 いや、いいんじゃない?そのまま言わせた方が。うっぷん晴らしうっぷん晴らし。
♂二号 俺は押さえるかな・・・・さて、やるか。
♀二号 あぁ。
うなづきあうふたり。
舞台真っ暗に。
留守電の声。
「小池です。ただいま電話に出ることが出来ません。ピーッと言う発信音の後にメッセージをお願いしま す」
「ピーッ。あ、もしもし?あたしだけど。今日のあなた何なわけ?わがままばっか言うしさ、別れてもい いんだけど。どうすんの?ちょっといい加減疲れてきたし。プレゼントももらわないしね。今度はなんか 買ってね。しつれーしまーす。」
「ピーッ。あとさ、あんまり電話かけないでもらえませんかね。具合悪いの。ああもう今も吐きそう。あ んなに食べさせてさ、太るっつーの。ああもう、肩も痛いし頭痛はするし。気持ち悪い。仕事も忙しいん だからちゃんと考えて。明日明後日空いてないんでよろしく。」
「ピーッ。すいません。マチコの・・・やっぱり失礼します。」
「ピーッ。元カレが優しくしてくれてるから心配しないでね。バイバーイ」
「大宮です。ただいま留守にしています。発信音の後にメッセージをどうぞ。」
「ポーッ。あの、こんにちは。最近家にこもって勉強ばかりです。いかがおすごしですか?たまには会っ てみませんか?友達になりたいと思います。いつも、会ってるんですよね。でも僕じゃないんです。失礼 します。」
「ポーッ。聖子さん?昔彼と付き合ってたものです。最近彼情緒不安定で・・・・なんだか、すいませ ん、。あたし、ちゃんとしますから。心配なさらないで。そちらもまだお若いのに大変だと思います。 こっちで何とかしますので。本当にごめんなさい。失礼いたします。」
「ポーッ。天文なんてお金のかかる趣味はもう止めようかと思っています。どうお考えでしょうか。明日 はバイトです。予定はキャンセルでお願いします。」
「ポーッ。仕事が忙しい。もう嫌だ。もうやめておこうかと思う。呼ばれた。また。」
「ポーッ。聖子ちゃん?明日プラネタ行こうな、わすれんなよ。」
電話の音。ツーツーツーツーツー・・・・
舞台明るくなりつつ。
♀一号 ただいまー。遅くなって・・・二号?・・・仕事か。シノサカー?・・・帰ってないし。
(ノートに気づき、開け)え?え?え?ちょっとぉ、明治ちゃん・・・・留守役くんと?困った子だなあもう。うわー。クサいし。とっちめたるっ。はー。
(携帯に気づき)あ、録音一件。小池だぁ。ふふ。
聞き慣れた、声。何処か沈んでいる。
留守録への怒り。哀しみ。マチコに対する絶望。
否定はしない。好きになれなくなってしまった。
別れ。
♀一号 なん・・・・え?ちょっ・・・・
小池にかける。取られない。「電話にお出になりません。」
小池にかける。取られない。「電話にお出になりません。」
小池にかける。取られない。「電話にお出になりません。」
小池にかける。取られない。「電話にお出になりません。」
小池にかける。取られ・・・一瞬で切られる。
♀一号 (崩れる)
(考え、三号に連絡)もしもし。何した?うるさい。応えて。ほら、怒ったりしないよ?言ってごらん?ね、何した。ねえ。何したよ。何した?何した?何した?何した?ほら・・・・・消えちまえ!
と、シノサカ五号。郵便局から帰ってくる。マチコに気づき立ち止まる。
♂五号 ・・・・あの。
♀一号 ほっといて。
♂五号 そのノート。
♀一号 いーよ。幸せにやって。・・・・・消えて。目の前から。すぐに。
♂五号 分かりました。え?おかえりなさ・・・・
と、ドアを開ける音。手をたたく音。
シノサカ一号。
♂一号 ただいま。
♀一号 ・・・・・おかえり。
♂一号 はー。なんかある?おい。なんかあるかって聞いてんだよ!
♀一号 何怒鳴ってんの?渋谷は?今週中じゃないと閉まっちゃうんでしょ。行けば?ちょっと!
♂一号 ああ。悪い。
♀一号 またネクタイおかしいー。ほらあ、ちゃんとして!
♂一号 ああ。
♀一号 行けば!
♂一号 (チケット出し)やる。六月一日。夕方の回。
♀一号 いらない。
♂一号 お前・・・留守電。
♀一号 いーの。もういいの。あんたはどうぞお幸せに。
♂一号 幸せに見えるか?見えるか?なあ。マチコ。見えるか?なあ。おい。なぁ・・・・・
♀一号 な、何?
♂一号 ネクタイ、結んでくれ。
♀一号 ねえちょっとあんた。
♂一号 女のくせに結べないのかよ。
♀一号 ・・・・・・ん。
♂一号 きちんとさ、
♀一号 うん。
♂一号 治せ、って。ブンレツショウ。お父さんと、二人は無理だって。力不足だって。他に、いい、人が。
♀一号 痛いよ。
♂一号 ああ。おかしーってさ。
♀一号 うん。あのね。分かんないんだって。昔のひと、思い出して。もう、分からないって。好きだったって。ね、聞いて?
♂一号 ん。
♀一号 やられたね。
♂一号 やられた。
♀一号 やられちゃったあ。あはは。
♂一号 三号とか消した?
♀一号 もう消した。
♂一号 駅前のマック大騒ぎだったよ。人間消滅。
♀一号 やっちまった。ごめん、それどけて。
♂一号 (山梨・巨峰のパンフをしまい)あーあ。何か、食う?
♀一号 寝る・・・・
♂一号 そうか。
明かり、暗く。
夜。
毛布をかぶるマチコ。
と、上着を脱ぎ捨てる。
♂一号 どうした?
♀一号 はやく洗いたい。
♂一号 なんで。
♀一号 だって、残り香・・・・今日・・・・
♂一号 もうわかった。おやすみ。
♀一号 もう一回だけ。もう一回だけ。(小池にかける。着信拒否)ふふ。ふふふふ。ねーシノサカー。
♂一号 んー?なんだー?
♀一号 拒否られたー。あははは。ふふ。嫌われちゃったあ。
♂一号 別れだ別れ!くそ!ばーか!優し・・・せい・・・
♀一号 馬鹿!名前呼ぶな!ほら!がんばっていこう!しりとりっ!り!
♂一号 りんどう
♀一号 うみ
♂一号 水着
♀一号 ぎょうざ
♂一号 雑踏
♀一号 嘘
♂一号 ソクラテス・・・・スズラン。
♀一号 だめ、終わっちゃう。一人いっこ。す。するめ。
♂一号 メス
♀一号 スクーター
♂一号 あ、朝
♀一号 さよなら。・・・冗談!さ、さ。
♂一号 ラッコ。寝ようか。マチコ。
♀一号 こ・・・こ・・・こい・・・小池く・・・・
中央線の響き。終電。
静かになり、朝。小鳥の声。
♀一号 おはよう。
♂一号 うわ。おはよう。何してんの。
♀一号 荷物、まとめて。ねえシノサカ、あたし、ブンレツできなくなっちゃったあ。
♂一号 はぁ?はい髪の毛抜いて。はい吹いて。お前真剣にやってないだろ?
♀一号 できなくなった。だからここ居たってしょうがないでしょ?
♂一号 待て馬鹿女。
♀一号 なんだとこらぁ。めーわくかけたくないから出てくって言ってるでしょ?
♂一号 ブンレツできないんだろうよ。どうやって食ってくんだよ。
♀一号 てきとーに。パートくらいだったら出来るでしょ?
♂一号 まだ立ち直ってもいないくせに。
♀一号 あんたに言われたくはないね。
♂一号 ネクタイ。
♀一号 自分でやれば。
♂一号 ネクタイプラス家事。
♀一号 あたしに惚れたかー?女の涙は甘い蜜ってね。
♂一号 ネクタイプラス家事。プラスココロの絆創膏。
♀一号 ・・・・・。
♂一号 ・・・・・。
♀一号 マイナス肩もみ。やってくれる?
♂一号 分かったよ。
♀一号 いいの?マジ?
♂一号 五号がさ、出せないんだ。その分さ、お前・・・・
♀一号 (ノート持ち)やろっか?
♂一号 こっぱずかしい。
♀一号 いいじゃんよ。留守番人生スタートか。いいの?仕事に出さなくて。
♂一号 もっと朝早くに二号も三号も出かけた。稼ぎはいいからな。
♀一号 全員であたしに惚れてくれりゃあなー。貢いでもらえるけど。
♂一号 まあのーのーと暮らせるから。
♀一号 納得してんの?そっちの。みんな。
♂一号 小遣いを上げた。恋愛禁止令を解いた。以上。終了。
♀一号 うまいね。
♂一号 まあ。人にやさしく在ろうかと。
♀一号 今日は?
♂一号 一日ヒマでございますよ。
♀一号 なんか作ろうか。炒飯くらいしかできないけどさ。その前に肩もんで。あ、コーヒー飲む?
♂一号 テレビ、と。あ、これうまそう。
♀一号 食べたらさ。
♂一号 ん?
♀一号 行こうか。山梨。
♂一号 春だからな。五月は乙女座だ。泊まってくるか?
♀一号 (うなづく)
明るい音楽。
無言の中、楽しそうに準備する二人。
ふっと明かりが消える。曲小さくなり、中央線の音。
また曲が大きくなる。明るく、大きく。
幕。
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