「シノサカくんとマチコさん」

シノサカ一号〜五号、マチコ一号〜四号。(45分)

シノサカ 年齢は二十六歳。八月十日生まれ。
マチコとの同居生活は五年目。
至って健康だが、子供の頃に大病を何回かやっているかもしれない。
生活は比較的規則的で、三食食べる。
友人に相談されることも多い。
案外しっかり、きっちりしている所があり、部屋もそれなりに。
しかし、ちょっと時間にはルーズ。

♂@   バカップル・マイハニィ聖子
     天文ファン☆『聖子と一緒に星を見るんだー!』
     マチコの肩もみをする。
     愛読書・天文ガイド、天文年鑑。天体写真も。
     「二号(二号)、三号(三号)、四号(四号)、五号(五号・るすばん)」
     「♀一号(マチコ・お前)、二号(彼女・食べる人)、三号(彼女)、四号(四号さん)」

♂A   営業二課。ヒラ。
     足がクサイのがコンプレックス。
     きちょうめん。室井管理官タイプ。
     愛読書・星の王子様。
     「一号(ヤツ・あいつ・あんた)、三号(バイト)、四号(四号)、五号(るすばん)」
     「♀一号(そっちの一号さん)、二号(あんた)、三号(彼女・若作り)四号(そっちの留守役)」

♂B   銀行清掃員バイト。
     趣味は鍵開け。
     普段は無口だが、鍵のこととなると饒舌。
     清掃員としては、着実に働いている。
     「一号(あの人・あなた)、二号(あの人・あなた)、四号(英検・あなた)、五号(るすさん)」
     「♀一号(彼女)、二号(食べる人)、三号(あのひと)、四号(そっちのるすさん)」

♂C   英検三級チャレンジャー。
     『英語であそぼう』その他子供向け英語番組視聴者。
     幼稚なところがあるが、熱心。必死。
     今まで書きためた単語ノートが宝物。
     「一号(一号さん)、 二号(仕事人さん・二号さん)、三号(鍵屋さん)、五号(るす役さん)」
      「♀一号(そっちの人)、二号(記者さん)、三号(マックの人)、四号(四号さん)」

♂D   凡庸な留守番係り。
     内職として封筒貼り。手が暇なときやる。
     ♀Cと好き合っている。
     「一号(一番さん)、二号(二号さん)、三号(三号さん)、四号(英検の人・四号さん)」
     「♀一号(一番のマチコさん)、二号(記者の方)、三号(あの彼女)、四号(君・彼女)」

マチコ  年齢は二十七歳。五月十一日生まれ。
ブンレツしていたシノサカをデパートの屋上の遊園地で発見。
声をかけて友人になり、同居をもちかけた。五年間の同居。
不健康な生活。夜中まで起きている。
食事も、時間帯がばらばら。
整理整頓は苦手だが、約束に遅れるようなことはほとんどない。
交友関係が広い。

♀@   バカップル・ダァリン小池
     サイクリングが趣味。山道でもゆく。
     シノサカいびりが趣味。
     ちょっと下ネタ好きだが、からっとしている。
     愛読書・関東の旅のパンフレット。
     「二号(二号)、三号(三号)、四号(るすばん・明治ちゃん)」
     「♂一号(シノサカ・あんた)二号(企業戦士君)三号(鍵)四号(英語君)五号(留守役君)」

♀A   雑誌「くいだおれ」記者。
     栄養剤で生きている。
     ドリンクやサプリメント、青汁を集めるのが趣味。
     胃薬は持ち歩いている。
     好きな食べ物・ラーメン。
     「一号(あのこ・あんた)、三号(あのおネェ・あんた)、四号(るすばん)」
     「♂一号(一号)二号(営業)三号(鍵)四号(三級)五号(あっちのるすばん)」

♀B   マックのバイトおねぇさん。
     バイトの男の子に二十二歳と偽る。
     見破られると、本当は二十四だという。
     お客の中からいい男を見つけるのが趣味。
     化粧は念入り。
     「一号(彼女・一号)、二号(おじさん・二号さん)、四号(四号さん)」
     「♂一号(あの人)二号(企業戦士君)三号(三号さん)四号(英語君)五号(るすばんさん)」

♀C   凡庸な留守番係り。
     鍋料理が得意。
     手作り鳥団子は絶品。
     たまごやきも上手い。
     ♂Dと好き合っている。
     「一号(一号さん)、二号(あの人・二号さん)、三号(彼女・おねえさん)」
     「♂一号(一番さん)二号(働いてる方)三号(銀行の方)四号(英語のひと)五号(五号さん)」

大宮聖子 シノサカの恋人。二十一歳、父親の体が悪く、看病。すこしバイトも。父と散歩中シノサカと知り合う。夜の星空について話し、意気投合してつきあい始めた。つきあって八ヶ月。シノサカの無邪気なところが好き。「シノサカくん・シノサカ・あなた」

小池政志 マチコの恋人。マチコのからっとした気性に好感を抱いた。自転車会社に勤める平社員。バードウ オッチングが趣味。忘れたい女の過去有り。マチコとはつきあって一年半。一人暮らし。「マチコ・あんた・お前・マチコちゃん」

   暗い舞台。明るい客席。
   音響による話し声。わらわらわらわらと言う音声に紛れて会話が聞こえる。
   「ひとりだけってずるくねー」
   「みんなで行くとかそういうのやなんだけど」
   「ならお前あっちいけよ」
   「やっぱ本能としてさあ」「しっぽ踏んでるしっぽ!」
   「うっせーな」「っていうかさ」
   「あ、やばい。酸にやられたくさい」
   「しっぽ動かないし」「あとはまかせたぁ!」
   「あんた元気だね」「ミトコンドリア!」
   客席暗くなり。
   「だからさ。やっぱひとりだけってずるいと思うんだよ。」
   「どうするつもりだ」
   「酵素を工夫して」
   「俺賛成」「せーの、だな」
   「どうするよ」
   「もう俺達だけか」「時間ねぇぞ」
   「行くぞ!せーの!わぁああぁああぁあっ!」
   静寂。人の気配。
   と、二カ所に明かりがつく。そしてその一つに飛び出す人影。

♂一号  俺は、スゴい!

     何故なら俺は、ブンレツできーる!

   ぼうっと明かりがつく。青い系統の服を着た人々。
   と、♀一号飛び出し。

♀一号  そしてあたしも!

     ブンレツできーる!

   と、赤い系統の服の人々も。
   全員、ポーズを決め。
   そして、すぐに見えなくなる。

♂一号  そうさマルチパーソナリティーな僕ら。社会のゆがみ宇宙のゆがみ。神様だって分からない。
♀一号  第一階層第二階層、一号二号三号四号!さまよう迷宮心の迷宮、髪の毛一本ブンレツできーる!
♂一号  嫌なことなど忘れたいから、そうさ僕らはブンレツできーる!貴女を見つめてただ一途、仕事もバイトも勉強も、家の用事もお断り!
♀一号  命短し恋せよ乙女、女の気持ちの吹き溜まり。ココロとココロがぶつかり合って、所狭しところころ並ぶ。
♂一号  一人が二人、二人が三人。どんどん増えるブンレツショウ。

♂♀   我ら、特殊能力を兼ね備えた人類。
♂一号  シノサカ。(ゼッケン見せ)
♀一号  マチコ。(ゼッケン見せ)

♂♀   ・・・そう。そんな私たちでも、真っ当な人間ではない痛み押し隠しながら 恋 をする。愛するひととの当たり前のしあわせ。今は五月。中野区本町安アパートに変わらず巡り来る中央線の響き、そして、朝。

   中央線の響き。
   五月の中旬を過ぎた金曜日の朝。
   安いアパートの一室。中野区くらい。
   ♂二号は玄関に。これから仕事。今日も靴には消臭剤。
   ♂三号は忘れ物を取りに部屋に。新人に仕事を教えに行くところ。
   ♂一号は洗面台で歯磨き。これからデート。
   ♀一号は部屋で旅雑誌をひらいている。彼女は今日はヒマ。

   照明フェードインしつつ。

♂二号  いってきます。
♀一号  いってらっしゃーい。なに忘れ物?
♂三号  ああちょっと。トイレ?ったく。ああ?すぐ出ます。

   舞台明るくなり。

♀一号  あんたも今日出るの?
♂一号  あー。(一度洗面所に戻り、うがい)三号もう出た?
♀一号  出たよ。「山梨県ブドウ狩り」。何?巨峰かね。・・・書いてないし。
♂一号  山梨か。
♀一号  うん。
♂一号  星綺麗だよ。けど春はな。冬の方がさ、いいんだけど。今何時?
♀一号  うんー。
♂一号  ねえちょっと。
♀一号  どしたよ。
♂一号  いい。(ポケットから携帯を出し)あともうちょいか。府中までどれくらい?
♀一号  チャリなら四時間くらい。
♂一号  もう聞きませんよ。
♀一号  ねえねえ、今度さ、あの人と山梨行こうと思うんだけど。
♂一号  泊まってきたら。
♀一号  車だとどんなもん?ちょっと長距離だから。
♂一号  あー、どうだったかな。二時間かかんないと思うけど。小池さん?
♀一号  他に誰がいるっての。ダァリンはひとりですー。
♂一号  へーそうですか。なんで車?
♀一号  あの人さ、前肉離れ起こしたんだよね。しかも普通のサイクリングロードで。
♂一号  やりこんでるお前とは違うんだよ。
♀一号  でもあたしも筋肉はおかしいって。ね、シノサカシノサカ。
♂一号  何でございましょう。
♀一号  (肩もみの体制)はい。
♂一号  ったくよ。(当分もみ)
♀一号  あーそこそこ。いたたたたた。あんた時間は?
♂一号  やべ。行って来る。(玄関へ行き、五号を出し)よいしょっと。ふー。お前さ。
♀一号  なに。
♂一号  ちゃうちゃう。
♀一号  あ。留守役くんねー。
♂一号  じゃあさ、五号頼むわ。宅配便な。十時半から十一時半。うん。よろしく。行って来る。と。ちょっとどいて。マチコ。どっかおかしくないか?おい。
♀一号  ネクタイおかしい。
♂一号  それはいい。聖子に結び直してもらう。うわあ着信一件。マイハニィ。いつのまに。
♀一号  ネクタイぐらい結べるようになれば?楽しんでこいよ。
♂一号  おー。

   ドアの音。♂一号はデートに行った。
   玄関先から、♂五号。

♂五号  マチコさん。あっと。すいません。
♀一号  何。何あやまってんの。
♂五号  (交換ノートを手元まで持ってきて)あ、なんでもないです。
♀一号  ねえねえ留守役くん。好きな人と行くんだけど。
♂五号  山梨ですか。
♀一号  巨峰もおいしそうなんだけどさ。この文学・歴史の旅も棄てがたいわけよ。
♂五号  もうちょっと遠くは。千葉の海とか。
♀一号  チャリで?それキツい旅だよ。
♂五号  自転車、ですか?すいません。一番のマチコさんはそうでしたよね。そう。そうでした。すいません。
♀一号  そんなあやまんなくても。ひとの趣味なんかねえ。では問題です。恋人の名前は?
♂五号  待って下さい。池がつく人。
♀一号  留守役くんあんまり出されないもんね。わかんないか。
♂五号  小池さん。
♀一号  すごいじゃん。よくできました。ね、肩もんでくんない?
♂五号  (肩もみ)
♀一号  (携帯をいじって。見ているのは小池のメール)ねえさー。
♂五号  はあ。
♀一号  昔の女って、忘れられないもの?
♂五号  あんま、そういうのないんですけど。
♀一号  聞きたいの。ほらなんかないの?
♂五号  体験談はありません。
♀一号  男なりの推測で。
♂五号  推測?待って。何が聞きたいんですか。
♀一号  なんかさぁ・・・・。・・・・ううん。なんでもない。いい。
♂五号  気になる。
♀一号  なんでもない。
♂五号  教えてくれないと肩もみません。はい終了。
♀一号  やだ。いい。なんでもない。
♂五号  (封筒を取り出し、はり始める)
♀一号  まあいいや。いわないよ。あたし。テレビつけていい?
♂五号  あんまいいのないですよ。

   テレビの音。

♀一号  (新聞で)「おかずのクッキング」、健康百科・・・「今日の料理」あ、みそいりたまご。
♂五号  もしかしてお腹減ってます?
♀一号  (テレビ切り)ううん別に。
♂五号  鍋、ありますよ。四号さんの。
♀一号  なになべ?
♂五号  とりだんごです。
♀一号  とりだんご二つ。野菜いっぱい。汁すくなくてよし。
♂五号  あれでいいですか?あのちょっと深いヤツ。
♀一号  うんよろしく。

   冷蔵庫を開ける音。食器の音。電子レンジの音。

♀一号  ラップかけた?
♂五号  めんどくさくて。
♀一号  明治ちゃんに怒られちゃうよ。あのこキレイ好きじゃんよ。
♂五号  家事全般四号さんですからね。
♀一号  あたしできないからね。まかしちゃってんの。こういうとき便利だよね。あつつ。
♂五号  (封筒をかばい)気つけてくださいよ?いちおう仕事なんですから。
♀一号  ごめん。ちょっとうすくちかなあ。
♂五号  ちょうどいいですよ。そんなもんで。
♀一号  うんー。(食べ終わり)ま、こんなもんか。
♂五号  まだありますけど。
♀一号  ダイエット。
♂五号  それくらいでいいと思いますよ。
♀一号  やなの。ひまー。あーあ。

   間。その後、チャイムの音。

♂五号  (玄関へ)
♀一号  宅配?(ノートをいじりはじめる)
♂五号  はい。あ、はい。ありがとうございます。はーい。
♀一号  何だった?
♂五号  デパートから。何でしょうね。
♀一号  ねえさー、これ何? あんたのでしょ。何よ。
♂五号  まあまあ。まーまーまー。
♀一号  ふーん。ま、いいや。(携帯に気づく。小池からのメールがあった。)あ。へへ。
♂五号  にやけないでくださいよ。
♀一号  にやけてない。
♂五号  にやけてます。
♀一号  そうかあ?あ、ねえ、英語君ってどうなったの?
♂五号  四号さんはまだです。
♀一号  四級。
♂五号  ええまあ。ダメですよ。四号さんは、彼なりにがんばってるんだし。
♀一号  家事能力検定とかないのかな。そしたらこっちの四号うけさせんのに。
♂五号  でも、彼女もぬけてるとこありますからね。わかりませんよ。あ、でも本番は強いかな。
♀一号  (携帯に女友達から電話が)あ、ちょっとごめん。はいもしもし。何?どしたの。食事?なんかあった?元気ないよ。うん。ううん。分かる。はいはい。ううん、まだ食べてない。まだまだ平気よー。今家。そっちは?あ、うん分かった。たぶん一時間くらい。じゃあ今から行く。今日?全然。ヒマだから。うん。じゃ、今から出るわ。うん。はい。はいはいあそこね。待っててよ。うんごめん。じゃあねー。ばいばーい。
♂五号  片づけときます。
♀一号  ありがと。(洗面所へ化粧しに。)明治ちゃん出してったほうがいい?あ、やだ。ついちゃった。どうする?あんた一人でいい?(ジャケット羽織ってでてくる)
♂五号  お願いします。
♀一号  わかった。(ものをかき集め、バッグに入れて)じゃ、行って来るわ。
♂五号  はい。
♀一号  (玄関で)よーいしょっと。何時になるか分かんないけどさ、夕方になるとそっちの、北っかわの窓に猫くるから。餌やっといて。ほか?それだけそれだけ。うん。行って来る。できれば食器あらっといて。あとお風呂ね。よろしく。あっと、明治ちゃんちょっと。二号のさ、原稿なくしちゃったん だ。さがしといてくれる?絶対怒られる。ごめんね。ごめん。じゃね。

   マチコ一号は友人との食事に行った。
   マチコ四号と、シノサカ五号。

♀四号  ・・・五号さん。(だきしめる)
♂五号  手伝おうか。
♀四号  え?
♂五号  捜し物。
♀四号  いいよ。そんなの。まだまだ時間あるんだから。ね。(ノートを見て)かして?
♂五号  一番のマチコさんに見られたよ。
♀四号  中身?
♂五号  鍵はここ。
♀四号  もう。びっくりさせないでよ。見つかったら怒られるでしょ。
♂五号  一号さん達も相手いるんだから。そんなじゃないって。(一瞬の沈黙)・・・あのさ。
♀四号  (窓を見ながら)なあに。
♂五号  いや。
♀四号  お茶、いれようか。鍋食べた?どうよ。
♂五号  うん。
♀四号  雨降ってきそう。
♂五号  洗濯物は。中いれる?
♀四号  今日はバスタオルだけ。読んでいい?
♂五号  もちろん。ほら。(鍵を投げ、せんたく取りに)
♀四号  なんか、さ。
♂五号  どうした。
♀四号  もう、何冊目だっけ。
♂五号  忘れた。
♀四号  五年、だね。
♂五号  そんな経ってない。四年と半年くらいだ。
♀四号  年、とっちゃったぁ。
♂五号  いくつだったっけ。
♀四号  あのときは、二十三だったよ。
♂五号  そっか。
♀四号  うん。なつかしい。(食器を片づけつつ)ちょっとごめんね。
♂五号  あ、悪い。・・・・ちょっと。(マチコ四号を抱きしめる)
♀四号  やだ。なあに。ちょっと。
♂五号  髪きれいだなと思って。いい匂い。何?
♀四号  おねえさんにもらったの。香水。
♂五号  三号さんのか。
♀四号  食器、かたづけるから。
♂五号  うん。

   マチコ四号かたづけ。

♂五号  彼女さ。
♀四号  おねえさん?
♂五号  髪の毛気にしてたよ。痛んでるって。君、キレイだよね。
♀四号  そんなことないよ。あたしあの人みたいにちゃんとやってないし。
♂五号  やりすぎんのも良くないよ。
♀四号  (お茶持ってきて)香水、どう?きつくない?
♂五号  全然。いいと思うよ。あ、前焦がしたトースト、とっといたけど。
♀四号  ありがとう。どこ?
♂五号  冷蔵庫。
♀四号  あ、そっちでもいいな。どうしよ。
♂五号  何に使うの。
♀四号  脱臭剤。炭だから。けっこう効くよ。冷蔵庫とか、靴箱とかにって思って。
♂五号  ああ、靴箱ね。
♀四号  働いてる方、いらっしゃるじゃない?
♂五号  二号さん、気にしてたな。
♀四号  営業で・・・これから夏でしょ?何かした方がいいかなって。
♂五号  夏は上司のイライラも増すんだって。愚痴は良く聞くよ。
♀四号  その上あんなに気にしてたら、身が持たないと思うんだ。だから足の問題だけでもさ。なにしてん の?
♂五号  さがしてんの。
♀四号  何?
♂五号  記者の方の原稿。
♀四号  ごめんなさい!いい、やるよ。
♂五号  手伝うって。
♀四号  いいってば。こっちの問題だし。ねえ、一号さんに頼まれたのあたしだから。ねえってば。
♂五号  いいんです。やりますー。見せたいものもあるから。
♀四号  何?
♂五号  お楽しみ。(さがしつつ)前さー。
♀四号  うんー。
♂五号  ノート、なくしちゃって。
♀四号  ひどいなぁ。
♂五号  っていうかさ、棚に入れて鍵かけといたんだけど、あかなくて。分かんなくなってさがしまくってたんだよね。そしたら三号さんが。あの人すごいんだわ。
♀四号  捜し物?
♂五号  あけちゃうんだよ。針金で。
♀四号  うっそだあ。
♂五号  ほんとだって。知らなかった?
♀四号  あんまりしゃべらないんだもの。銀行で働いてることくらいしかしらなかったよ。何?鍵あけるの?ほんとに?
♂五号  銀行とかって時間に厳しいらしくてさ。すぐに鍵閉めちゃうらしいんだ。で、掃除がおわんなかったとするだろ、やっちゃうんだよ。掃除。
♀四号  鍵開けて?
♂五号  鍵開けて。
♀四号  えー。うそ。
♂五号  それがホントなんだよ。
♀四号  できちゃうのかな。あれ。ピッキングとか。
♂五号  そんなことしないって。(本を見つけ)あった。
♀四号  あ、あった?・・・なあに、それ。
♂五号  まあまあ。(本を開け)キレイだろ。
♀四号  わぁ・・・・月?
♂五号  見せたくてさ。
♀四号  ありがと。一番さんの?
♂五号  読んでたら見つけて。気に入った?
♀四号  うん。ありがとう。
♂五号  どういたしまして。
♀四号  (見入った後視線を逸らし)はー。どこにあると思う?
♂五号  あそっか。それは?テレビの上の。
♀四号  それはねえ、単語集。
♂五号  四号さんの。
♀四号  そ。前に一緒に作ったの。「pretend」「make believe」。あのひと、すっごく熱心にやんの。手が 真っ黒だった。
♂五号  (手に取り)「make difference」「matter」あれ、これ君の字?
♀四号  赤い方はそう。はやく受かると良いよね。
♂五号  まあ、気長にね。英検っていつ?
♀四号  いつだっけ。
♂五号  いつだっけ。
♀四号  あ、これ?都内ラーメン百十七軒。
♂五号  資料じゃない?
♀四号  ううん、中に入ってる。おいとけばいいか。

   窓を見る。中央線の音。
   カラスの声。突然、ラジオの英会話が始まり、二人びっくりする。
   タイマーだった。すぐに切る。
   四時四十五分の音楽。

♀四号  (封筒を引き寄せ)やる。
♂五号  ああ。
♀四号  (しばらく貼り)ねえ
♂五号  うん。・・・うん。
♀四号  (ノートに目をやり、すこしいじって)これから、どうなるんだろうね。

   窓に目をやる二人。中央線の音。
   明かり、フェードアウト。
   と、二カ所に明かりが。

♂一号  もしもし、聖子ちゃん?(あ、なんだぁ。どしたの)いやさ、あ、今時間だいじょぶ?(うん、なんもしてない)届いたよ。(あ、ほんと)あれやっぱいいね。あのさ、一番小さいフライパン、あれもらっていい?うちのがおかしくなっちゃってさ。はげてきた。あ、なに?どうした?待ってる待ってる。はいはーい。

♀一号  小池くん?やだー、どうしたの。うん。って、仕事は?(終わったとこ。これから空いてる?)空いてる空いてる。うん。うんー。うん。え?なんでもないなんでもない。ちょっとコンタクトずれただけ。平気だって。だいじょぶ、なおった。あ、ちょっと待ってね。

♀一号  (動作で、シノサカに、「声下げてよ」)
♂一号  (「そっちこそ」)
♀一号  (「バーカ!」)
♂一号  (「たーこ!」「ブース!」「あっかんべー!」)あ、はいはい。全然。あー、そうか。お父さん は。ああ。うん。お大事にとお伝え下さい。それでさー、
♀一号  (大声で)ごめんねー。うん。テレビ。つけてる。ごめんね。ごめん。壊れててさ、消せないんだ わ。そうそ、もう、困っちゃって。
♂一号  (「うるさいんだけど!」)
♀一号  (「そっちの方が」)え?うん。行こうか。前行ったサイクリングロード、短くて気持ちよくて良 かったんだけど。もう桜は無理。でもいい感じだと思う。ほら、運動しなくちゃ。近いよ。遠くな い。そうそう、そこ。改札でいい?行くよ。お昼は?そっか。じゃあつまめるもの持ってく。
♂一号  気にしないで。気にしちゃダメだ。聖子ちゃん。世の中には知っちゃいけないこともある。ってことにしといて。そう。よろしく。話戻そう。渋谷のプラネタ、そう、しまっちゃうんだよ。知ってた?(前も言ってたよ)そうだっけ?うん。行かない?予約しといた。最後なんだよ。そう。最近多いんだ。経営難ってやつでさ。うん。六月の初め。ありがとう。ああ。あとあれどうだった?あのさ、あれ良くない?日食。そう。今度調べとく。あ、そうかそうか。ごめん。ああ。また。
♀一号  おっけー分かった。お酒は?そっか。うん。だいじょぶ。じゃあまた、あとでね。
♂♀   うん。じゃあね。ばいばい。

   照明明るく。
   部屋の中。

♀一号  うーるーさーいー。
♂一号  そっちこそ、なんで人が電話してるときに取るよ?
♀一号  かかってきたから。
♂一号  そうかよ。
♀一号  そうだよ。
♂一号  写真集どこやった?
♀一号  知りません。
♂一号  捜してよ。
♀一号  やだよ。あーっ!なにこれ、あんたのじゃないの?
♂一号  なに勝手にもってってんだよ。
♀一号  いつも言ってるでしょ。あたしの部屋にもの置くな。
♂一号  いいじゃんよ別にもとから散らかってるんだし。第一知らねえよ。
♀一号  はい契約違反ー。領地拡大。(シノサカのものを押しのけて)
♂一号  わー。ひっで。
♀一号  どっちが。
♂一号  ・・・ここは俺の領地なんだな。
♀一号  ああそうさ?なんか文句あるのかよ。・・・行かなきゃ。(飲み物取りに台所へ)
♂一号  入るなー。
♀一号  そうくるか。
♂一号  どうだ、まいったか。
♀一号  ・・・あんた、これからどうすんの。
♂一号  買い物。誕生日近いんだよ。さー、でかけるか。(洗面所へ悠然と行き、帰ってくる。)
♀一号  (シノサカが洗面所に行っている間ライン引きをし、)えーと、地図地図。
♂一号  なに。(どかして)はいはい。いってきまーす。
♀一号  入るなー。
♂一号  マチコ。
♀一号  んー?なにかなー?
♂一号  おーいー。
♀一号  交換条件。
♂一号  分かりました。どうぞ女王様。
♀一号  (洗面所へ)
♂一号  トイレ行きたかったんだろ。
♀一号  うるっさい!あーもう、遅れちゃう。ごめん、ごめんねダァリン。
♂一号  あのさ、
♀一号  なに。
♂一号  なんていうんだっけ。あの、あれ。花で。茎がしっかりしてて、コスモスみたいな花びらの。
♀一号  なにそれ。
♂一号  赤とか、オレンジとかので。
♀一号  あ、待って。分かる。分かるけどわかんない。
♂一号  何だっけ。
♀一号  あー、あー、あー、デイジー。じゃなくて。
♂一号  ダリア? ちがったっけ。
♀一号  ちがう。何だっけ。
♂一号  待って。待って。
♀一号  ・・・・・・・・・。
♂一号  ・・・・・・・・・。
♀一号  ガーベラ!
♂一号  そうだガーベラ!あれとさ、チューリップと、バラ。何もらったら嬉しい?
♀一号  直接聞けば。
♂一号  それはやだ。
♀一号  なに。何用?
♂一号  だから誕生日。
♀一号  今だったらさ、百合とか。あ、スズラン?
♂一号  スズランなー。花束にできんの?
♀一号  売ってる売ってる。
♂一号  白百合もすてがたいけど。
♀一号  (本を持ち出し)花言葉。スズラン。意識しない美しさ、純粋。山百合(白)、威厳、甘美。
♂一号  スズランで。・・・なあ。
♀一号  なにさね。
♂一号  女々しい?
♀一号  いいんじゃない?
♂一号  そうか?普通花言葉とかしらべなくない?
♀一号  調べたのはあたしでしょうよ。
♂一号  そうか。
♀一号  あー遅れる!(メモ板を見て)あ、二号仕事だ。出そう出そう。原稿本棚ね。じゃーねー。

   マチコ二号残される。

♂一号  ども。
♀二号  原稿どこ?
♂一号  そっちの本棚に。
♀二号  あんた一号?ビタミン知らない?
♂一号  マチコが確か。
♀二号  あのこ、飲んだか。
♂一号  あそーだ。恋人と行くような店しりません?
♀二号  食事?
♂一号  ケーキとか。
♀二号  首尾範囲外。ラーメン食うとこなら分かるけど。よっこらせっと。出かけんの?
♂一号  はあ、まあ。
♀二号  あー、吐きそう。出かけるんだったら鍵出して鍵。
♂一号  鍵?ああ。
♀二号  そ。資料入れがあかねーんだわこれが。
♂一号  今日はどこに?
♀二号  隠れた名店特集。
♂一号  何軒。
♀二号  五。もどさなきゃ身体が腐る。
♂一号  そうじは。
♀二号  それも含めてあんたんとこの三号にまかせるからいい。ねー一号、急いでる?
♂一号  いいえ。
♀二号  あ、でもいいわ。鍵にやらせる。はいはい、でたでた。また恋人?
♂一号  誕生日なんすよ。あいつ。
♀二号  いいね若いもんは。なに?
♂一号  財布なくて。あれ?
♀二号  のろい。とっとと行けば?あった?はいはい。いってらっしゃいね。三号出してけよ。

   一号ドアを閉める。
   三号。会釈しながら出てくる。

♀二号  よー、鍵。それ開けられる?
♂三号  あの、道具は。
♀二号  知らんよ。
♂三号  (道具捜しながら)すいません。
♀二号  いーえ。げ。きもわる。
♂三号  ちょっと。あ、それです。

   テレビをつける二号。鍵開けはじめる三号。

♀二号  よくやるね。ラーメンとか食べ放題とかさ。うわー、見てるだけで胃が。
♂三号  あんたみたいな食べる人が言っても説得力はありません。
♀二号  喧嘩売ってる?
♂三号  いえ。
♀二号  (テレビ切り)いらいらしてるか。
♂三号  まあ、新人が。
♀二号  心身が?
♂三号  新人です。
♀二号  聞いてやろうじゃないか。新人が。
♂三号  仕事覚えが悪い。
♀二号  ほかには。
♂三号  いえ、いいです。
♀二号  言え。
♂三号  女の子が。
♀二号  主語で切るんじゃありません。が?
♂三号  ・・・・。
♀二号  なに、かわいかったか?いくつ?
♂三号  十八です。
♀二号  若いなー。で、なんにそんなにいらいらと。
♂三号  別に二号さんにじゃありません。
♀二号  あたしじゃないのは知ってるっつーの。ほら、泥を吐け。
♂三号  まあ、不公平さを。
♀二号  誰に。
♂三号  あの人に。
♀二号  そっちの?
♂三号  (うなづく)
♀二号  一号。
♂三号  言ってしまえば。
♀二号  ねえあたし、あんたに言ってないよねえ。
♂三号  は?
♀二号  実はさ、こっちでもあるわけよ。そういうの。だいたいさ、あの子たち誰の給料で食ってんの。
♂三号  僕らの。
♀二号  だろ?なのにこっちはなんで小遣いもらってやりくりしてるわけ。おかしくない?
♂三号  あきましたよ。
♀二号  どーも。
♂三号  ちょっと見てくださいね。この中に、さびがあったんです。ほら、これ。
♀二号  話し逸らすなよ。
♂三号  趣味の話くらいはさせてもらいます。でかいでしょ?こういうの、あるんですよ。古いものだと特 に。
♀二号  なんで古いか知りたい?あのね、お金がないの、働いてんのにないの。買えないの。
♂三号  鍵、かしてください。あ、ほら、入る入る。だいじょぶですね。
♀二号  あんたさあ、
♂三号  はい。
♀二号  うれしい?
♂三号  まあ、はい。
♀二号  なんでこんなの趣味なの。
♂三号  天体観測とかと違って、お金かかりませんから。
♀二号  案外と皮肉屋だね。
♂三号  まあ。お金もないですし。あの人みたいに楽しいことばっかりでもないですし。
♀二号  今何時?
♂三号  十二時半です。
♀二号  あーうざったい、もうちょいだ。あたしだってさ、仕事は嫌いじゃないよ。でもなんであんたそんなにのーてんきなんだー!
♂三号  みんなそう思ってますよ。二号さんだってきっと。るすさんとか英検とかは分かんないけど。
♀二号  そっちの二号は、もう買収済み。
♂三号  は?
♀二号  営業とはね、大分前から話し合ってるんだ。あーあ、時間だ。今日も食うぞー!うええ。
♂三号  お疲れさんです。
♀二号  あんたもな。あ、詳しいことは、その本棚の下に紙があるはず。それに書いてある。オネェのこしてく。まあ、話し合っておいてよ。
♂三号  あ、あのひとも?
♀二号  恋愛馬鹿が思うほど、仕事もバイトも楽じゃないって。オネェも不満たらたらだよ。
♂三号  三号さんも、意外とストレスためてるんですねえ。
♀二号  いけいけ不景気!おし、出るか。よっこらせ。あの話しといたよ。化粧品?うごかしてるわけない。馬鹿。うん。そこにいんの鍵。いい?あんた眠いの?知るか。黙って。仕事。遅れる。はいはい。 うっさい。怒るよタコ。オネェのくせに。いいんだよあたしゃ女棄ててるから。はい、バイバイ!

   マチコ二号は仕事へ出ていった。
   残されたシノサカ三号、紙を出して見ている。
   眠そうなマチコ三号。

♀三号  なにさおじさんオンナのくせに。あら、三号さん。ひさしぶり。
♂三号  この、「B」って。「プロジェクトB」
♀三号  あ、うん。ぶっこわし。ぶっこわし〜♪と。
♂三号  へえ。
♀三号  ねえ三号さん、お仕事どう?
♂三号  いえ、ぼちぼち。
♀三号  バイトでしょ?
♂三号  長いスけどね。
♀三号  やだ、髪の毛変になってる。痛んじゃったんだよね。(洗面所へ)
♂三号  と、すいません。
♀三号  あたしもさ、バイトじゃない。だから理解るんだ。三号さんのキモチ。
♂三号  マクドナルドと共通点なんかあるんですかね。
♀三号  あるよー?春じゃない。
♂三号  春?
♀三号  こない?新人君。
♂三号  あー。来ますね。(ノートいじりながら)
♀三号  かわいくない?
♂三号  はい。まあ。
♀三号  こっちはね、高校生がかわいーの。特に男の子。
♂三号  女の子は。
♀三号  あんまし。うるさいし。お客にいい男いるとすぐきゃーきゃー言うし。ねえ、今日の予定は?
♂三号  体調悪いヤツがいたから。
♀三号  そう。なにしてんの?
♂三号  鍵見ると開けたくなるんですよね。
♀三号  ふうん。楽しいの?
♂三号  はい。
♀三号  なんでもできるね。
♂三号  はい?
♀三号  盗みとか。
♂三号  しません。(開けた)
♀三号  あ、すごいすごい。ねえちょっと。(肩たたきを始める)
♂三号  すんません。
♀三号  いいよ別に。働く男に弱いのよ。
♂三号  ・・・・・。
♀三号  照れてる?ふふ。
♂三号  ・・・・・。
♀三号  あたし、いくつくらいに見える?
♂三号  二十七。
♀三号  ・・・・・。
♂三号  え?先週誕生日でしたよ、ね。
♀三号  ははは。そうだね。
♂三号  ・・・・・・・・。
♀三号  ・・・・・・・・。
♂三号  (携帯がなり)もしもし。はい。はい。やっぱ休みましたか。大丈夫です。はい。お疲れさまです。
♀三号  (肩たたきをやめ)。

   シノサカ三号、一通り身支度をして。

♂三号  あの、三号さん。二十四とか。もっと。・・・・英検残していきます。いってきます。

   残されたマチコ三号。

♂四号  あの。
♀三号  英語君?
♂四号  どうか、しましたか。
♀三号  ううん。ちょっとね。
♂四号  これ見てください。ほらあ、良くできてる。
♀三号  単語帳。
♂四号  そうだ、考えました。あれ。
♀三号  見せて。
♂四号  (単語帳見せ)ここに。
♀三号  うん。まぁいいかな。
♂四号  友達、欲しいなあって。
♀三号  そう。
♂四号  (カレンダー見て)ああ、近いなあ。
♀三号  三級?
♂四号  来週日曜。
♀三号  そう。
♂四号  一号さん、なにしてますかね。
♀三号  こっちのはダァリン小池とバカップルよ。(あごでメモ板をさす)
♂四号  ほんとだ。いいなあ。あ、猫。餌を。
♀三号  なんもないよ。
♂四号  牛乳。
♀三号  はいはいはい。なついてるね。
♂四号  はい!友達です。たまに入ってくるし。あったかいんで。おい、おいで。・・・・あ。
♀三号  あ、メール。
♂四号  仕事ですか?
♀三号  うん。
♂四号  ほんとに?
♀三号  ゆきずりデート。
♂四号  三号さん。
♀三号  嘘よ。バイトの男の子にマニュアル渡しに行くの。恋人なんかいるわけないでしょ。
♂四号  ぼく、勉強してます。
♀三号  そう。閉じこもって?
♂四号  それくらいしかね。
♀三号  ま、ね。ひとりで、いい?
♂四号  四号さんいるとうれしいです。
♀三号  ひとりでいてちょうだい。
♂四号  なんで。
♀三号  英語君がね、楽しそうにするのはいやなのよ。
♂四号  他人の不幸は蜜の味、ですか?
♀三号  死なばもろとも。旅は道連れ?
♂四号  世は情け。わかりました。
♀三号  あの楽しそうな人たち、気に入らないでしょ?同じ。
♂四号  分かってます。僕、がんばりますから。
♀三号  別に欲求不満でもないけどね。あーあ、また高校生でもひっかけるか。バカップルの一つや二つしてみたいっての。じゃね。すぐ、戻るわ。

   残されたシノサカ四号。
   英語の勉強。
   
♂四号  「take my lover back to」
「take a fancy to」
「fall in love with you」
「fall back on」
「keep company with you」
「keep in touch with you」
「get rid of the past」。

   チャイムの音。扉をたたく音。
   四号、玄関へ。

♂四号  え?どうしたんですか!え、ちょっと、二号さ・・・・記者さん。あ、はい。僕同居人です。はい。具合が。いえ、そんな。有り難うございます送っていただいて。あ、はい、だいじょぶです。   ちょっ、ちょっと、(毛布とクッションを用意し)待って下さいね。(水を取りに台所へ)
♀二号  うええ。いたたたたたたたた。あいたたた。あ、へーきへーき。どうぞ心配なさらずに。
♂四号  水を・・・・

   ハイヒールの足音。
   はっとするふたり。

♂四号  (目配せして)二号さ・・・・・
♀二号  すいませんねえ、若林さん、目、つむってくださいませんかね。あーっ待って!その場で。こっち向いて。耳ふさいで。はい、ちょっとストップねー?・・・オネェ?
♂四号  あの、はい。三号さんだと思います。
♀二号  オネェだったらその場で消すからね。あーきもわる。ったく。(玄関へそーっと行き)あ、あ、あ、まだまだまだまだ。まだ目開けちゃダメ。耳もダメ。(足音に耳をすまし)
♂四号   (足音が止まった)・・・お帰りなさい。
♀二号  (小声で)ごめん!(手をたたく)

   一瞬の間。

♀二号  はいはい、いいよ。ない。意味なんてありません。はいはい、分かっておりますとも。うええええええ。
♂四号  分かりました。ちゃんと休ませます。今日は本当に有り難うございました。

   ドアを閉める音。

♀二号  ごめん、三級。
♂四号  いえ。水です。
♀二号  どうも。おべんきょはいいのかい?
♂四号  はい、まあ。熟語覚えたりしてたんですけども。あの。
♀二号  ああ?
♂四号  誰ですか?あの人。
♀二号  担当。
♂四号  そっか。
♀二号  なんで。
♂四号  僕、ここから出ることほとんどないじゃないですか。うらやましくて。
♀二号  そう。あ、来た。うああ。(トイレに駆け込む)
♂四号  (水をくみなおす)
♀二号  げ。あー。(トイレ流す)
♂四号  はい。
♀二号  ありがと。あー。うえ。もういっちょ。(トイレへ)(すぐに流す)あ、三級、営業まだ?
♂四号  帰ってません。
♀二号  Bのことはあんた知ってんだっけ。
♂四号  考えておきました。
♀二号  そっか。あたしもなんか考えとくかね。

   四号、英語のテープをイヤホンで聴き始める。
   二号横になり、資料の整理。

♂四号  イーヴン、アーティスト、セイ、ザット・・・
♀二号  見たくない・・・・あーあ。
♂四号  (飽きて眠る)
♀二号  「仕事の邪魔」とでも言うか。前の子は忙しかったらしいしな。
♂四号  (携帯が鳴る)(起きない)
♀二号  三級!さんきゅー!・・・営業?もしもし?あたし。寝てんの。そうそう。英語は今家。へいよ。いまどこ。靴!靴なんか見たって良くならないと思うけど。そう、かえってくんの。うるさいな。待ってるよ。

   食後の体操を始める二号。
   寝ている四号。
   中央線の音。
   音量最大にし、テープを回す。

♂四号  わあ!(はずし)二号さん。
♀二号  悪いね。営業帰って来るって。話があるんだけどさ。
♂四号  ・・・分かりました。
♀二号  あれ、どこ?
♂四号  単語帳に。
♀二号  そ。・・・お帰りだ。ほれ。
♂四号  (玄関へ行きながら)カップ麺がありますからって、伝えといて下さい。
♀二号  了解。
♂二号  (手をたたき)ただいま。
♀二号  おかえり。今日あたりどうかね。
♂二号  やるのか。
♀二号  あんたあたしの昔の男役やんの、どう思う?
♂二号  何だそれは。
♀二号  代わりにこっちはオネェ派遣。昔の女役。
♂二号  勝手にしろ。聞いてくれよ。係長に言われたんだ。
♀二号  まだ聞くなんて言ってないだろうがよ。
♂二号  靴をな、買い換えろって。金がないわけじゃないだろうだとさ。
♀二号  生憎ないんだよね。それが。こっちも愚痴ろうか。
♂二号  聞いてやるよ。なんだ。
♀二号  今日はラーメン四杯だった。
♂二号  腹減ってるから。
♀二号  どんなにあんたが腹減ってようとね、いいか、最初はトンコツだ。店の人はいい人だった。ラーメン一筋だ。スープにも自信がある。言ってる意味分かる?
♂二号  分かるよ。
♀二号  二件目は味噌。細麺大盛り。野菜たっぷり。三件目はしょうゆ。チャーシュー六枚。四軒目もしょうゆ。こっちもチャーシュー。しかも餃子とセット。死ぬだろうよ?
♂二号  で、任務を全うしてきたわけだ。ごくろう。
♀二号  ホントは五軒。
♂二号  ダメじゃんよ。
♀二号  時間ないからもう取材できない。と、すると、五軒目は記事書けない。そのぶん減給。で、あたしの小遣いは?
♂二号  言うな。俺はな?靴を買った。本が買えない。小遣いがない。ああ、もういい。
♀二号  そうだ、三級からの伝言。カップ麺あるって。
♂二号  お。(立ち上がる)
♀二号  あたしの視界で食べるなよ。
♂二号  湯、わかすわ。
♀二号  あー、また気持ち悪くなってきた。・・・・書かなきゃ。
♂二号  (台所で) あー、野菜食うか。やさいーと。(包丁で切る音)
♀二号  (携帯が鳴る)一号だ。馬鹿。あのこ。はい?もしもし?はぁ?聞こえない。今どこにいんの。遅れる。そうですか。今日はどうだった?うん。はい。へえそうですか。あーわかった。いいから。電話代かさむ。そりゃよござんしたね。へいへい。じゃね。ちょっとさ、切らせて。ちょっと頼むから。仕事。お金かかってんの。はい。じゃね。
♂二号  で?
♀二号  ごめん、三号呼んで。説明して。もう決めた。
♂二号  こっちの電話番号いるか?
♀二号  オネェにかけさせる。こっちは、これね。(紙切れを渡す)
♂二号  どうなりますかね。
♀二号  知るか。
♂二号  ま、実はこっちもキてたけどな。(携帯メール見せる「プレゼント買ったため小遣い減額一号よ  り。」)
♀二号  これ今日の?
♂二号  昨日の。
♀二号  アンタも役者だね。期待株だ。(紙切れを集め、単語集を開け)
♂二号  男は不言実行。どれ?(各原稿を見て)これはどうだ?
♀二号  いや、いいんじゃない?そのまま言わせた方が。うっぷん晴らしうっぷん晴らし。
♂二号  俺は押さえるかな・・・・さて、やるか。
♀二号  あぁ。

   うなづきあうふたり。
   舞台真っ暗に。
   留守電の声。

   「小池です。ただいま電話に出ることが出来ません。ピーッと言う発信音の後にメッセージをお願いしま   す」
   「ピーッ。あ、もしもし?あたしだけど。今日のあなた何なわけ?わがままばっか言うしさ、別れてもい   いんだけど。どうすんの?ちょっといい加減疲れてきたし。プレゼントももらわないしね。今度はなんか   買ってね。しつれーしまーす。」
   「ピーッ。あとさ、あんまり電話かけないでもらえませんかね。具合悪いの。ああもう今も吐きそう。あ   んなに食べさせてさ、太るっつーの。ああもう、肩も痛いし頭痛はするし。気持ち悪い。仕事も忙しいん   だからちゃんと考えて。明日明後日空いてないんでよろしく。」
   「ピーッ。すいません。マチコの・・・やっぱり失礼します。」
   「ピーッ。元カレが優しくしてくれてるから心配しないでね。バイバーイ」

   「大宮です。ただいま留守にしています。発信音の後にメッセージをどうぞ。」
   「ポーッ。あの、こんにちは。最近家にこもって勉強ばかりです。いかがおすごしですか?たまには会っ   てみませんか?友達になりたいと思います。いつも、会ってるんですよね。でも僕じゃないんです。失礼   します。」
   「ポーッ。聖子さん?昔彼と付き合ってたものです。最近彼情緒不安定で・・・・なんだか、すいませ    ん、。あたし、ちゃんとしますから。心配なさらないで。そちらもまだお若いのに大変だと思います。    こっちで何とかしますので。本当にごめんなさい。失礼いたします。」
   「ポーッ。天文なんてお金のかかる趣味はもう止めようかと思っています。どうお考えでしょうか。明日   はバイトです。予定はキャンセルでお願いします。」
   「ポーッ。仕事が忙しい。もう嫌だ。もうやめておこうかと思う。呼ばれた。また。」
   「ポーッ。聖子ちゃん?明日プラネタ行こうな、わすれんなよ。」

   電話の音。ツーツーツーツーツー・・・・
   舞台明るくなりつつ。

♀一号  ただいまー。遅くなって・・・二号?・・・仕事か。シノサカー?・・・帰ってないし。
(ノートに気づき、開け)え?え?え?ちょっとぉ、明治ちゃん・・・・留守役くんと?困った子だなあもう。うわー。クサいし。とっちめたるっ。はー。
(携帯に気づき)あ、録音一件。小池だぁ。ふふ。

   聞き慣れた、声。何処か沈んでいる。
   留守録への怒り。哀しみ。マチコに対する絶望。
   否定はしない。好きになれなくなってしまった。
   別れ。

♀一号  なん・・・・え?ちょっ・・・・

   小池にかける。取られない。「電話にお出になりません。」
   小池にかける。取られない。「電話にお出になりません。」
   小池にかける。取られない。「電話にお出になりません。」
   小池にかける。取られない。「電話にお出になりません。」
   小池にかける。取られ・・・一瞬で切られる。

♀一号  (崩れる)
(考え、三号に連絡)もしもし。何した?うるさい。応えて。ほら、怒ったりしないよ?言ってごらん?ね、何した。ねえ。何したよ。何した?何した?何した?何した?ほら・・・・・消えちまえ!

   と、シノサカ五号。郵便局から帰ってくる。マチコに気づき立ち止まる。

♂五号  ・・・・あの。
♀一号  ほっといて。
♂五号  そのノート。
♀一号  いーよ。幸せにやって。・・・・・消えて。目の前から。すぐに。
♂五号  分かりました。え?おかえりなさ・・・・

   と、ドアを開ける音。手をたたく音。
   シノサカ一号。

♂一号  ただいま。
♀一号  ・・・・・おかえり。
♂一号  はー。なんかある?おい。なんかあるかって聞いてんだよ!
♀一号  何怒鳴ってんの?渋谷は?今週中じゃないと閉まっちゃうんでしょ。行けば?ちょっと!
♂一号  ああ。悪い。
♀一号  またネクタイおかしいー。ほらあ、ちゃんとして!
♂一号  ああ。
♀一号  行けば!
♂一号  (チケット出し)やる。六月一日。夕方の回。
♀一号  いらない。
♂一号  お前・・・留守電。
♀一号  いーの。もういいの。あんたはどうぞお幸せに。
♂一号  幸せに見えるか?見えるか?なあ。マチコ。見えるか?なあ。おい。なぁ・・・・・
♀一号  な、何?
♂一号  ネクタイ、結んでくれ。
♀一号  ねえちょっとあんた。
♂一号  女のくせに結べないのかよ。
♀一号  ・・・・・・ん。
♂一号  きちんとさ、
♀一号  うん。
♂一号  治せ、って。ブンレツショウ。お父さんと、二人は無理だって。力不足だって。他に、いい、人が。
♀一号  痛いよ。
♂一号  ああ。おかしーってさ。
♀一号  うん。あのね。分かんないんだって。昔のひと、思い出して。もう、分からないって。好きだったって。ね、聞いて?
♂一号  ん。
♀一号  やられたね。
♂一号  やられた。
♀一号  やられちゃったあ。あはは。
♂一号  三号とか消した?
♀一号  もう消した。
♂一号  駅前のマック大騒ぎだったよ。人間消滅。
♀一号  やっちまった。ごめん、それどけて。
♂一号  (山梨・巨峰のパンフをしまい)あーあ。何か、食う?
♀一号  寝る・・・・
♂一号  そうか。

   明かり、暗く。
   夜。
   毛布をかぶるマチコ。
   と、上着を脱ぎ捨てる。

♂一号  どうした?
♀一号  はやく洗いたい。
♂一号  なんで。
♀一号  だって、残り香・・・・今日・・・・
♂一号  もうわかった。おやすみ。
♀一号  もう一回だけ。もう一回だけ。(小池にかける。着信拒否)ふふ。ふふふふ。ねーシノサカー。
♂一号  んー?なんだー?
♀一号  拒否られたー。あははは。ふふ。嫌われちゃったあ。
♂一号  別れだ別れ!くそ!ばーか!優し・・・せい・・・
♀一号  馬鹿!名前呼ぶな!ほら!がんばっていこう!しりとりっ!り!
♂一号  りんどう
♀一号  うみ
♂一号  水着
♀一号  ぎょうざ
♂一号  雑踏
♀一号  嘘
♂一号  ソクラテス・・・・スズラン。
♀一号  だめ、終わっちゃう。一人いっこ。す。するめ。
♂一号  メス
♀一号  スクーター
♂一号  あ、朝
♀一号  さよなら。・・・冗談!さ、さ。
♂一号  ラッコ。寝ようか。マチコ。
♀一号  こ・・・こ・・・こい・・・小池く・・・・

   中央線の響き。終電。
   静かになり、朝。小鳥の声。

♀一号  おはよう。
♂一号  うわ。おはよう。何してんの。
♀一号  荷物、まとめて。ねえシノサカ、あたし、ブンレツできなくなっちゃったあ。
♂一号  はぁ?はい髪の毛抜いて。はい吹いて。お前真剣にやってないだろ?
♀一号  できなくなった。だからここ居たってしょうがないでしょ?
♂一号  待て馬鹿女。
♀一号  なんだとこらぁ。めーわくかけたくないから出てくって言ってるでしょ?
♂一号  ブンレツできないんだろうよ。どうやって食ってくんだよ。
♀一号  てきとーに。パートくらいだったら出来るでしょ?
♂一号  まだ立ち直ってもいないくせに。
♀一号  あんたに言われたくはないね。
♂一号  ネクタイ。
♀一号  自分でやれば。
♂一号  ネクタイプラス家事。
♀一号  あたしに惚れたかー?女の涙は甘い蜜ってね。
♂一号  ネクタイプラス家事。プラスココロの絆創膏。
♀一号  ・・・・・。
♂一号  ・・・・・。
♀一号  マイナス肩もみ。やってくれる?
♂一号  分かったよ。
♀一号  いいの?マジ?
♂一号  五号がさ、出せないんだ。その分さ、お前・・・・
♀一号  (ノート持ち)やろっか?
♂一号  こっぱずかしい。
♀一号  いいじゃんよ。留守番人生スタートか。いいの?仕事に出さなくて。
♂一号  もっと朝早くに二号も三号も出かけた。稼ぎはいいからな。
♀一号  全員であたしに惚れてくれりゃあなー。貢いでもらえるけど。
♂一号  まあのーのーと暮らせるから。
♀一号  納得してんの?そっちの。みんな。
♂一号  小遣いを上げた。恋愛禁止令を解いた。以上。終了。
♀一号  うまいね。
♂一号  まあ。人にやさしく在ろうかと。
♀一号  今日は?
♂一号  一日ヒマでございますよ。
♀一号  なんか作ろうか。炒飯くらいしかできないけどさ。その前に肩もんで。あ、コーヒー飲む?
♂一号  テレビ、と。あ、これうまそう。
♀一号  食べたらさ。
♂一号  ん?
♀一号  行こうか。山梨。
♂一号  春だからな。五月は乙女座だ。泊まってくるか?
♀一号  (うなづく)

   明るい音楽。
   無言の中、楽しそうに準備する二人。
   ふっと明かりが消える。曲小さくなり、中央線の音。
   また曲が大きくなる。明るく、大きく。

   幕。



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