| *サヨナラより一瞬やさしく |
竜、八純、将太、ナオ、雪乃、田所、津島(40分)
男の子が1人いる。幼い日の竜である。
竜 負けるもんか。絶対強くなってやるんだ。僕は男の子だぞ。女の子になんか負けるもんか。僕は強いんだぞ。女の子なんかよりずっと強いんだ。僕はもっと強くなるんだ!
そこへ幼い日の八純。
八純 また泣いてるんでしょ、竜!
竜 泣いてないよ。
八純 嘘。またいじめられたんでしょ。私見たもの。
竜 そんなことないってば。
八純 いじめた人も悪いけど、竜だってもう小学生なんだから、しっかりしなきゃ駄目なんだよ。弱虫な竜!
竜 僕、八純より強いってばぁ。
八純 言ったな、やるかぁ?
竜 う・・・うん・・・。(とまどううちに八純のパンチをくらう)
八純 えーい!
竜 あ痛―。痛いよ、八純・・・。
八純 また泣いてる。
竜 (泣きながら)泣いてなんかないやい。
八純 もう、しょうがないなぁ…。
そこへ乱暴者の彰太。
彰太 泣き虫竜が、また泣いてるー!八純に泣かされたんだろ。な、な、そうだろ?
八純 うるさいなぁ。そうよ、何か文句ある?
彰太 別に…。なぁ竜、俺様のパンチもうけてみろ。
竜 やだよぅ…。(と、泣く)
八純 やめてよね。竜を殴っていいのは私だけなんだからね。絶対他の人には竜は殴らせないんだから。
彰太 どういう事だよ?
八純 竜いじめたら許さないからね!例え彰ちゃんでも!
彰太 うわぁ、八純が怒ったー!
と、彰太逃げる。
残った2人。
竜 八純、ありがとう。
八純 だって竜がいじめられてると、助けたくなるんだもん。
竜 僕、絶対いつか八純を助けてあげるよ。強くなるから。
八純 (笑って)無理だよ、竜には。ほら、遊びに行こう!
八純、竜、去る。
ナオ出てくる。探知器らしきものを持っている。
ナオ あ、通信つながってます?…そうですか。あ、そうです。ナンバー3475のナオです。…ええ、…ええ、わかりました。1999年ですね?あ、もしかしてその年代って、香春八純って人、います?…そうです、私の…いました?…そうなんですよ。やっぱり少し興味があるんで、寄り道してきます。 …ありがとうございます。はい、それじゃ。
ナオ、通信をきり、ちょっとウキウキしつつ去る。
田所、津島でて来る。
田所 どうもー。田所です!
津島 津島でーす。
田所 俺達、警察パシリーズ!
2人のコントが始まる。しかし、突然津島が
津島 ちょっと待って下さい田所さん。
田所 なんだよ、今いいところだろ。ほら続けるぞ。
津島 なんで俺達路上コントなんかやってんスか。売れない芸人じゃないんですよ。
田所 仕方ないだろう。
津島 仕方なくないですよ。俺達、警官なんですよ。何だってコントなんか、しかも路上でやってんですか!
田所 落ち着け。これはただのコントじゃない。俺が長年夢にまで見た、憧れの路上コントなんだぁ!
津島 俺は別に憧れてませんよ。1人で芸人目指して下さい。
田所 いや、路上コントは今日が最初で最後だ。
津島 何でですか?
田所 誰も笑ってくれないんだ。それ所か立ち止まってもくれない。なぜだぁー!
津島 そりゃあよんじゅう「(田所)ピー」歳の男がやっててもねぇ…。
田所 人のプライバシーを公開するな!大体なんでよんじゅうピー歳の俺が、入って2年目のお前と一緒にパシリをしなきゃならないんだ。
津島 俺もホームレスのようなおじさんと一緒なのはちょっと…。
田所 お前、先輩に向かってその口の利き方は何だ。
そこへ現在の彰太、やってくる。
田所 よし。先輩警官らしい所を見せてやろう。例えばあの少年が非行少年だったとしよう。津島はどう対処する?
津島 そうっスねー。即刻逮捕、じゃないんスか?
田所 チッチッチ。これだから2年目の若造は困る。証拠はどうした、証拠は。こんな基本的な事も分からないのか。
津島 そんな事ですか?そんなの前提だと思ってました。
田所 相変わらず生意気だな。(彰太をみて)津島、あの少年が今からタバコを吸い出したらどうする。
津島 まず年齢を聞いて、未成年ならば現行犯ですよね。連れてかえります。
田所 もっとベテラン、そう例えば俺の様なベテラン刑事なら、そうはしない。奴の事を細かく調べ上げ、同じ様な仲間を見つけ、みんな一気に一網打尽に捕まえるんだ。
津島 たっ、田所さん、それ所じゃないですよ…。
田所 何だ?お前人の話ちゃんと聞いて…。
気付くと彰太、たばこを堂々と吸っている。
津島 ど、どうします?ほんとに吸ってますよ…。
田所 そ、そ、そんな事言ったって…。お、おい津島、お前注意しろ。
津島 そんな。先輩でしょ、田所さん。
田所 俺は不良少年ほど恐いものはないんだ。声なんか掛けられるかっ。
彰太 (2人をにらみ)うるせぇなぁ、静かにしてらんねぇのかよ。
田所 はい、はい、はい、すいません。すいませんでした。静かにします。
津島 田所さん!
田所 (こそこそと)だってはむかったらナイフで刺されるかもしれないんだぞ、そんな事されてみろ。死ぬかもしれない。
津島 そんなだからいつまでもパシリなんですよ。
田所 じゃあお前、そこの非行少年捕まえてみろよ。
彰太 誰が非行少年だって?
田所 イ、イヤ、そんな事は…。
彰太 何だよ。えっ?言ってみろよ。
津島 君、歳はいくつ?
彰太 なんでそんな事に答えなきゃならないんだ。
津島 タバコ吸ってたでしょう、君。
彰太 だからなんだよ。お前誰だよ?
津島 警察の者だ。
彰太 本当に?そうは見えないけど。
田所 け、警察なんかじゃないよ。俺達ただの売れない芸人さ。(津島に)なぁ?
津島 (無視して)歳はいくつだ?
彰太 分かったよ。言えばいいんだろう、言えば。15だよ。
田所 へぇぇー、そうなんだ。それじゃ。(と、逃げようとする)
津島 (田所を捕まえて)田所さん!(彰太に)君は、未成年はたばこを吸っちゃいけない事くらい、知ってるだろう
彰太 あれ、そうなんだ。知らなかった。(と、タバコを道端に捨てる)これでいいのか、刑事さん。
津島 (拾って)道端に捨てない事。(と、渡す)
太 やめろよ、汚い。(ふりはらう)てめぇ1人で拾ってろ。じゃあな。
彰太去る。
津島 待て。
津島追う。残る田所。
田所 えっ…ちょ、ちょっと待てよ、津島ぁ…。
田所、慌てて津島を追いかける。
現在の竜がやってくる。何やらもじもじ。時計を気にする。そこへ雪乃。
雪乃 長谷川くん?
竜 あっ…は、八純?(振り返り雪乃だと気付く)なんだ、雨宮さんか。
雪乃 何よ、その言い方は。八純待ってたの?
竜 い、いや、そういう訳じゃないんだけどさ…。それより雨宮さん、こんな所で何してるの?
雪乃 手紙で呼び出されたのよ。やっぱりいたずらだったのかなぁ。(手紙を出し)
これが机の中に入ってたの。
竜 もしかして、その手紙の内容って…。
竜・雪乃 「今日の放課後4時に、体育館の裏で待ってます。伝えたい事があるので、 絶対に来て下さい。」
竜、ショックを隠しきれない。
雪乃 え、これってもしかして長谷川くんからだったの?
竜 い、いや、違うよ。だ、誰からだろうねー、ははは。
雪乃 長谷川くんじゃないなら、どうして内容知ってるのよ。
竜 そ、そんな事より、そういえば雨宮さんと八純って、教室の席となりだっけ?
雪乃 同じクラスでしょ、それくらい覚えててよ。いつも私と八純、となり同士でケンカしてるじゃない。
竜、またもやショックを隠しきれない。
そこへ八純。
八純 竜、こんな所にいたの?探したわよ。
竜 (ドキッ)八純。
八純 あれ、雪乃も一緒?なんか私、邪魔した?
竜 (慌ててひきとめ)そんなことないよ。本当に全く全然。
八純 あ、そう?もしかして雪乃、私が嫌いだからって私と仲のいい竜をいじめたりしてないでしょうね?
雪乃 そんな事しちゃいないわよ。長谷川くんいじめるなら、直接あんたをやるわよ。
八純 ま、それもそうね。今じゃみんな私が恐くて竜に手が出せないものね。
雪乃 本当にあんた達2人、仲いいわよね。
八純 幼なじみだもの。当たり前じゃない。
竜 でも昔は2人じゃなかったんだよ。もう1人いたんだ。雨宮さんは小学校僕らと違かったから知らないと思うけど。
雪乃 へえ、そうなんだ。女の子?
竜 ううん、男の子。乱暴な奴でさ、いつも僕をこき使ってばかりで。
八純 でも根は優しかったよね。私達3人いつも一緒だった。
雪乃 今はどうしてるの?
八純 小6の時引っ越しちゃって、男の子だからもちろん手紙なんてくれなくて、そのまま。でも今でも友達だって思ってる。私も、竜も。
雪乃 その人の名前は?
八純 野田彰太。
そこへナオがやってくる。手には探知器らしきものが。
ナオ おっ、この辺りだな。えーっと、(きょろきょろする)誰だろう?
八純 何1人でぶつぶつ言ってるの?あなた誰?
ナオ え、もしかしてあたしに言った?
八純 もちろん。あなた生徒じゃないでしょ。どうやって学校に入ったの?
雪乃 ちょっと八純、あんた誰としゃべってるの?
八純 誰と、って、決まってるでしょ、(ナオを指し)この人と。
雪乃 あのね、そこには誰もいないわよ。そこは空気。
八純 何言ってるの?竜にはこの人、見えるよね?
竜 いや、見えないけど。どうしたの、八純?
八純 (ナオに)何、どういう事?
ナオ あたしの姿はあんた以外見えないよ、多分。
八純 どうして?
ナオ それは、あんたが香春八純だからよ。
八純 え?そうだけど、なんで名前知って…。
雪乃 八純、あんたいい加減にしなよ。
竜 うん…、なんかおかしいよ、八純。
雪乃 私、そろそろ帰ろうかな。
竜 そう?じゃあね。
雪乃 うん。あ、私呼び出されてたんだった。どうしよう。
竜 そ、それきっと何かの間違えだと思うよ、うん。ほら、机を間違えたりとか。
雪乃 そうだよね。じゃ、いっか。バイバイ。
雪乃去る。
竜 八純、僕らもそろそろ帰ろう。
八純 でも、この人…。
ナオ 他の人には私は見えない。だから知らない振りしときなよ。
八純 じゃ、帰ろうか、竜。
八純、竜、ナオ去る。
彰太と、津島、田所の追いかけっこ。
ついに彰太、津島につかまる。
彰太 なんだよ、離せよ。しつこいなあ。
津島 君が逃げるからだろう。
彰太 たかがタバコで、こんなに追うか、普通。
田所、やっと2人に追いつく。
田所 ハア、ハア、ハア、津島、お前意外と足が早いな。
津島 田所さんと違い、まだ若いですから。
彰太 たかがタバコ吸ってただけの奴をこんなに追い回すほど、お前ら暇なのか、刑事のくせに。
津島 そ、そんな事はないが…。
田所 そうなんだ、暇なんだ!
津島 田所さん!
田所 (彰太に)聞いてくれ、俺は刑事になって早20年、ほとんど現場に行ってない。警察自体は大忙しで人手不足だって言うのに、なぜか現場に連れていってもらえない。俺の職場の親友は掃除のおばちゃんだ。並んでモップをかける仲だ。
彰太 それってあんた、掃除してるって事?
田所 その通りだ!掃除のおばちゃんと給料まで一緒だ。刑事仲間の誰より荷物を運ぶのがうまいのに。
彰太 (津島を指し)こいつは?
田所 こいつはまだましだ。死ぬほどくやしいがやっぱりこいつはまだ若い。でも俺はあー。(と、田所泣き出す)
彰太 もっと、楽しくなりたいか?
田所 もちろんだ。
彰太 (紙を取り出し、何か書き込み、それを田所に渡す)じゃあ、ここ行きなよ。結構安くしてくれるよ。
田所 (紙を受け取り)何が?
彰太 シンナーだよ、シンナー。そこ行くと売ってくれるの。
田所 ああ、シンナーね、シンナー。どうもありがとう。…え?シンナー?
彰太 そう。だって楽しくなりたいんだろ?
津島 俺達が刑事だって事忘れんなよ。
彰太 そういえば、そうだったっけ。
津島 名前を言え。
彰太 知らないの?俺もう警察にマークされてんだよ。だから名前聞かれた位じゃ恐くないんだよね。
津島 いいから言え。
彰太 野田彰太。
彰太、田所、津島去る。
影だけの中、彰太現れる。
前方からやって来た人物にぶつかる。
彰太、はっとする。後ずさり。
その人物は彰太の胸倉をつかむ。殴られる彰太。
やがて周りには相手の仲間達が群がる。
袋叩きにされる彰太。
彰太がぼろぼろになると、去っていく不良達。彰太残る。
明かり。そこにはぼろぼろになった彰太がいる。
そこへ八純とナオ。
八純 だから、あなた一体誰なのよ。
ナオ あのね、道ゆく人にはあたしは見えないんだから、1人言言ってるように見えるのよ。しゃべるのはやめておいた方がいいと思うけど。
八純 (口パクで)じゃああなた1人でしゃべってよ。
ナオ 何言ってるかわからない。(彰太に気付く)あれ?(八純に)ねえ、あの人けがしてるんじゃない?
八純 本当だ。(彰太に駆け寄り)大丈夫ですか?
彰太 やめろ。軽々しく触るな。平気だから。
八純 全然平気じゃないじゃないですか。どうしたんですか?
彰太 (八純に押されて)…別に、大した事じゃない。ちょっと対立してる不良グループにやられたんだ。見ての通り、俺、目立つから。ケンカもそこそこやるし。
八純 不良グループって事は袋叩きね?ひどい。こんなにやる事ないじゃない。
彰太 いいんだ、別に。お互い様なんだし。
ナオ そんな事より早く手当てしなきゃ。
八純 (うなずく)私の友達のおじいちゃんが医者なの。小さい所だけど、腕は確かなはずよ。行きましょう。
彰太 いいんだ、気を使わないでくれ。
八純 何言ってるのよ、ほら行くわよ。
八純、無理矢理彰太を立たせる。
ふと、彰太、八純の首にぶらさがっているネックレスに気付く。
彰太 そのネックレス…。
八純 え?これがどうかした?
彰太 いや、別に…。
ナオ 八純、早く!
八純 うん。
八純、彰太を支える。
彰太は八純のネックレスを気にしている。
八純、彰太、ナオ、去る。
時はさかのぼり3人が小6の時。彰太が引っ越す日。
竜が隅で1人泣いている。泣き声はだんだん大きくなる。
そこへ八純。
八純 いつまで泣いてるの、竜。
竜 だって僕らいつでも一緒だったんだよ?それなのに…。
八純 仕方ないじゃない。彰ちゃんのお父さんの仕事の都合なんだから。
竜 それにしても、ひどいよ、急に。
八純 いつまで泣き虫のままなのよ。そんなの彰ちゃん嫌がるよ。強くなるんじゃなかったの?
彰太やって来る。
八純 彰ちゃん。
彰太 もうそろそろ行くって。
八純 そう。
彰太 竜、お前また泣いてんのか?
竜 だって彰ちゃん行っちゃうんでしょ?
彰太 馬鹿、また会えるよ。
竜 本当に?
彰太 うん。
竜 でももし会えても、僕が彰ちゃんだって気付かなかったらどうするの?
彰太 だったらこれを思い出せばいいよ。
彰太、手首のブレスレットを見せる。
八純 わあ、かわいい。
彰太 これ、俺ずっとしておくから、そうすれば俺だってわかるだろ?
竜 うん。
彰太 それからこれ、あげる。(八純にネックレスを渡す)
八純 どうして?
彰太 八純もそれ、ずっとしておいて。そうしたらすぐ八純だってわかるから。
八純 わかった。ありがとう。
竜 彰ちゃん、僕には?
彰太 竜はこんなのなくったって、すぐにわかるよ。いつまでたってもきっと泣き虫のままだろ。
竜 何だよ、それ。
八純 私、彰ちゃんのおじさんとおばさんにあいさつしてくるね。
竜 僕も行く。
彰太 あ、竜は残ってくれる?ちょっと話したい事があるんだ。
八純 私には内緒?
彰太 うん。ごめん。
八純 わかった。じゃ、竜の分まであいさつしておくね。
八純去る。
竜 彰ちゃん、何?
彰太 八純は昔からずっと竜の事守ってたよな。竜が泣き虫だから。
竜 うん。でも僕知ってる。彰ちゃんが、八純の悪口言う奴と、蔭でケンカしてた事。
彰太 だって許せないだろ。
竜 昔は八純が一番強かったけど、今では彰ちゃんだね。僕はずっと弱虫なままなんだ。
彰太 でも竜、今日からは強くなってくれないかな。俺はもう八純を守れないから。竜しかいないんだよ。
竜 わかってるよ。強くなろうなんて、ずっと前から思ってたんだ。強くなりたい。強くなりたい。強くなりたい。八純を守りたいって。
彰太 だからね竜。何年か後にもし再会して、八純の横に八純より強い男がいたら、それは竜だって、俺にはわかるんだよ。すぐに竜だってわかる。
そこへ八純が戻って来る。
八純 彰ちゃん、出発だって。
彰太 わかった。
八純 あれ、竜、もう泣かないの?
竜 泣かないよ。泣くもんか。
彰太 それじゃ、2人とも、今までありがとう。
八純 離れても、ずっと友達だからね。私も竜も、ずっとそう思ってるからね。
彰太 俺もずっとそう思ってるよ。竜、後はよろしくな。
竜 うん。僕、ずっと彰ちゃんの事覚えてるよ。そのブレスレット見たら、必ず思い出すよ。
彰太 うん。じゃあ、八純、竜。2人とも、サヨナラ。
彰太、去る。それを見送った八純と竜も、去る。
田所、津島やって来る。
田所 おい津島、お前もういい加減あきらめろ。何日あの不良少年探せば気が済むんだ。俺達だってパシリで忙しいんだからな。
津島 パシリで忙しいって言うんですか。それにやっと自分で見つけた獲物なんですよ。あきらめられません。
田所 自分で見つけたわけじゃないだろ、元々警察にマークされてたって言ってたじゃないか。その確認もしたし。
津島 じゃあ何で野放しなんですか。
田所 俺だってパシリだぞ、知るか。
津島 俺は俺をなめていたあいつが許せません。絶対に捕まえて見せます。パシリだうが何だろうが、俺は刑事です。田所さん、あなたも刑事でしょう?
田所 わかったよ。俺も一緒にやればいいんだろう。
田所、津島去る。
竜やって来る。
竜 彰ちゃんがいなくなってから、僕と八純の間には1人分の空間があいた。僕ははじめそこを埋めようとしたけれど、やがてそれは無理だって気付いた。僕は僕で、彰ちゃんの代わりにはなれない。
僕は今でも弱いままだ。でもそれが僕だから、それはそれでいいのかもしれない。ただ1つ、寂しいのは、彰ちゃんと僕がいつか再会した時に、こんな弱いままの僕じゃ、彰ちゃんは竜だって認めてくれないだろうって事だ。そう思った時、僕は必ず思い出す。彰ちゃんが、最後に言った「サヨナラ」を。
竜、去る。
八純とナオ、やって来る。そこは竜の家。
八純 あの人、大丈夫かなあ。
ナオ 大丈夫じゃない?竜くんのおじいちゃん、腕は確かなんでしょ?
八純 い、いや…、その、あれはその場の勢いで言っちゃっただけで、本当かどうかは…。
その時、奥から彰太の叫び声が聞こえて来る。
ナオ …駄目みたいね。
八純 まあ何とかなるんじゃない?それより、今度こそ答えて。あなた誰なの?
ナオ じゃあはじめにこっちから聞かせてもらうわ。八純はどうして知らない女と一緒にいるの?
八純 それはあなたが勝手についてくるからでしょ。それに、何て言うか…、何となく、気が合うから。
ナオ ふーん。やっぱりね。
八純 何1人で納得してるのよ。
ナオ あたしの名前はナオ。香春八純、あなたの子孫よ。
八純 はあ?
ナオ つまりね、未来から来たの。
八純 何言ってるの?
ナオ びっくりするのも無理ないわ。でも、これは本当よ。あたしの仕事はタイムパトロール。あたしの時代じゃ過去に行くなんて簡単なの。だから異常がないかパトロールしてるってわけ。歴史をいじる人がいるかもしれないでしょう?
八純 ナオは今この時代を担当してるのね?
ナオ そういう事。
八純 信じられない。
ナオ そうよね。未来の事なんて、想像出来ないもの。
八純 それはそうと、どうして私にだけ見えるの?
ナオ 言わなかった?あなたの子孫だからよ。
八純 じゃあ、ナオが見えなかった竜は、私とは結婚しないって事か。
ナオ 気になるの?
八純 そういうわけじゃないけど。
ナオ 確かに血筋も関係してるかも知れないけど、似てるのよね、あたし達。
八純 え?
ナオ あたしのおじさんが、家系の事とか調べてるの。それでわかったんだ。性格とか、すごく似てるらしいの。あたしと八純って。
八純 そんな事がわかるの?
ナオ うん。
八純 だから、私にはナオが見える…。
ナオ そういう可能性もあるって事。
八純 それだけの理由で、他の人にはナオが見えないの?
ナオ 1つだけ、はっきりした理由が分かってるわ。
八純 何?
ナオ その人が、相手を必要だと思う事。必要だと思えば、相手が見えるの。
八純 必要だと思えば、相手が見える…。
そこへ竜が飛び込んで来る。
竜 大変だよ!八純!
八純 竜。どうしたの?
竜 あの男の子がいなくなっちゃったんだ。
八純 帰っちゃったんじゃないの?
竜 違うよ。傷が痛むからしばらく1人にしてくれって言って、そのままどこか行っちゃったんだ。
八純 だからきっと帰ったのよ。
竜 だってあの子、彰ちゃんだったんだよ。
八純 え?
竜 あのブレスレットしてたんだ。間違いない。あれは彰ちゃんだ。
八純 そんな…、そうか。(ネックレスを見て)彰ちゃん、私だって気付いてたんだ。
竜 探しに行こうよ、八純。
八純 うん。行こう。
駆け出す八純、竜。ナオも追う。3人去る。
彰太飛び出す。きょろきょろして、慌てて物陰に潜む。
一方から田所、津島やって来る。2人の捜索。
反対から八純、竜、ナオやって来る。3人の捜索。
彰太は八純と竜を見てつい出て行きそうになるが、何かに気付いたよう
に自分を押しとどめる。
彰太の回想。
声1 彰太、あんた何で生まれて来たの?あんたさえいなければ、こんな苦労せずにすんだのに。あんたがいるせいで…、あんたがいるせいで…!
声2 彰太の事なんかどうでもいい。これは僕らの問題だ。彰太は向こうへ行ってなさい。関係ない事だから。
彰太 父さんと母さんの事は俺に関係ないのか?俺はどうでもいいのか?どうなってもいいのか?俺はいらないのか?俺は必要ないのか?…嫌だ…、嫌だ…、そんなの嫌だ…、誰か…!
声3 離れても、ずっと友達だからね。私も竜も、ずっとそう思ってるからね。
声1 あんたなんか、彰太なんかいなくなればいいのよ!
彰太、泣き出す。
八純、竜、田所、津島、ナオ去る。
1人ぼっちになった彰太、逃げる。
ナオがいる。雪乃やって来る。
そこへ竜。
竜 雨宮さん?
雪乃 あ、長谷川くん?
竜 こんな所でなにしてるの?
雪乃 また手紙で呼び出されたの。今度も間違いかなあ。
竜 また呼び出し?(客席に)ちなみに僕じゃない。
雪乃 何言ってるの?
竜 いや、実は僕もなんだ。
雪乃 何が?
竜 呼び出し。(手紙を取り出す)これだよ。
雪乃 私はこれ。(同じく、手紙を取り出す)
竜 もしかして、その手紙の内容って…。
竜・雪乃 「今日の放課後4時に、体育館の裏で待ってます。絶対に来て下さい。」…。
そこへ八純。
八純 お待たせ!
竜 お待たせ?
雪乃 もしかして呼び出しって、八純からだったの?
八純 そうよ。
竜 (ドキッ)
雪乃 どうして私が八純なんかに呼び出されなきゃいけないのよ。用なら教室で言えばいいじゃない。
八純 教室じゃケンカだけでまともに話せないじゃない。
雪乃 長谷川くんは?
八純 ああ、竜はどうせ一緒に帰ろうと思ってたから、そのついでに。
竜 ついで?
八純 うん。
竜 (がっかりして)あ、そう…。
雪乃 もしかして前によびだしたのも八純?
竜 (慌てる)
八純 何、それ。
雪乃 あ、あの時八純いたんだっけ。八純じゃないか。
八純 何言ってるの?それより、雪乃、呼んだのは頼みたい事があって。
雪乃 何?
八純 金髪にピアスの男の子を見たら、教えて欲しいの。
雪乃 金髪に、ピアスの男の子?
八純 そう。
雪乃 いいけど、それは誰なの?
八純 前に言った、幼なじみの彰太くんなの。こっちに来てるみたいなのよ。この間、会えたんだけど、逃げられちゃったの。
雪乃 逃げられた?
竜 僕からもお願いするよ。彰ちゃんは僕らにとって大切な友達なんだ。
雪乃 別に、構わないよ。
竜 ありがとう。
八純 じゃあ雪乃、頼んだね。
八純、竜、去ろうとする。
雪乃 …この間、一緒にいた子でしょ?
八純 え?
雪乃 金髪の男の子支えて、八純、長谷川くんち向かってたでしょ。あの子でしょ?
八純 雪乃、あの時いたの?
雪乃 塾行く途中だったの。八純っぽい人がいたから見たら、知らない男の子がいて。
八純 なんだ、見たんだったらわかりやすいわよね。よろしく。
雪乃 悪いけど、やっぱり断る。
竜 え?なんで?
雪乃 ああいうのって、苦手なんだ。
八純 ああいうの?
雪乃 金髪とか、ピアスとか。
八純 …。
竜 でも、見た目じゃ…。
雪乃 わかってる。見た目じゃ人は判断できないって言いたいんでしょ?それは私もわかってるよ。
八純 じゃあ何でそんな事言うの?
雪乃 だって彼、ケンカとか相当やってそうだったじゃない。あの傷だって、ケンカなんでしょ?
八純 …。
雪乃 私はそれを心配してるの。ケンカとかに巻き込まれたらどうするの?
八純 彰ちゃんはそんな事しないわよ。私達の幼なじみなのよ?
雪乃 でも3年も会ってないんでしょう?その間に人が変わってるっていう可能性もあるじゃない。
八純 会ってなくても私達はずっと友達だったんだからね。
雪乃 あっちはそう思ってないかもしれないじゃない。だって逃げられたんでしょ?
八純 じゃあいいよ。雪乃はもういいよ。
雪乃 ちょっと待ってよ。私は2人の心配をしてるのよ。
八純 もういいってば。
雪乃 …わかった。じゃあね。
雪乃去る。
八純も反対側に去ろうとして止まる。
八純 ねえ、竜、彰ちゃんが最後に言った言葉、覚えてる?
竜 覚えてるよ。「サヨナラ」でしょ?
八純 竜も覚えてたんだ。
竜 うん。忘れられないんだ。
八純 あと、覚えてる?小さいころよく遊んだ原っぱ。
竜 覚えてる覚えてる。遊ぶってなると絶対あの原っぱ行ってたよねえ。
八純 最近行かないね。
竜 うん。
八純 …私、サヨナラって言葉嫌い。すごく切なくなる。思い出が全部消えちゃいそうで恐い。
竜 僕は、嫌いじゃないなあ。なんでだろう。彰ちゃんが最後に言ってくれた言葉だからかもしれない。
竜去る。
八純とナオ残る。
八純 未来でも、サヨナラなんて寂しいもの、あるの?
ナオ あるよ。いつの時代でも、サヨナラは変わらないよ。別れはいつもあるよ。
八純 そっか。
ナオ でもね、サヨナラがあるからコンニチハが大切なんだよ。サヨナラのないコンニチハなんて、意味ないじゃない?それに、別れの後にはきっと出会いがあるはず。私はそう思うから、サヨナラは嫌いじゃない。切ないし、時にはつらい言葉かも知れないけど、嫌いじゃない。
八純 ナオは強いんだね。
ナオ 弱くてもいいんじゃない?強い人が横にいてくれるよ。
八純 それは誰?
ナオ さあ。
八純去る。
ナオ、通信機を取り出す。
ナオ …あ、つながってます?はい、ナンバー3475のナオです。…はい、異常なしです。…でも、まだ、ここにいたいんです。…はい、まだ見えてます。だから…、はい、ありがとうございます。はい、それじゃ。
ナオ去る。
彰太がいる。シンナーを吸っている。
雪乃歩いて来る。彰太に気付くが無視して歩く。
別の場所に津島がいる。雪乃まっすぐ津島の所へ。
雪乃、ためらうが、津島に話しかける。
雪乃 あの…。
津島 (振り返り)はい?
雪乃 以前、男の子を探しているとかで、聞き込みをしていた方ですよね?
津島 そうですが。
雪乃 私…、あの…。
津島 その人、野田彰太の事で何か知っているんですか?
雪乃 いえ、あの…。(迷っている)
津島 何か知ってるんですね?お願いします。どんな事でもいいです。
雪乃 やっぱり、いいです。何でもありません。すいませんでした。
津島 野田彰太がどこにいるか、知ってるんですか。
雪乃 …はい。
2人の声、聞こえなくなる。
彰太、ブレスレットを見つめる。
意を決し、捨てようとするが、出来ない。
彰太、ブレスレットを握り締めると、少しうつむき、去る。
津島 そうですか。わかりました。ご協力、ありがとうございました。
雪乃 その子…、野田くんは、つかまったらどういう処分になるんでしょうか。
津島 まだ何とも言えませんが、保護観察になる可能性は高くないでしょう。シンナーに手を出してますし、その行動はどんどんエスカレートしてますからね。
雪乃 彼は他の人を巻き込んだりしていませんか。
津島 全く関係ない人を巻き込む事は、彼の場合ないようですね。ただ暴走族などににらまれているので、こちらとしては早く彼をつかまえないと彼の方も危ないという見方もあるんです。そうなると、あるいは彼の友人なども危ないかも知れません。幸いにも彼は一匹狼のようですが。
雪乃 そんな事ないんです。
津島 え?
雪乃 そういう関係ではないんですが、野田くんには親しい友達が2人もいます。2人とも私の友達なんです。だから私、心配で…。
津島 そうでしたか。わかりました。そのお2人に何かある前に、こちらで手をうちましょう。
雪乃 お願いします。
雪乃、津島、それぞれ別の方向へ去る。
八純、竜、ナオやって来る。
竜 彰ちゃん、どこ行っちゃったんだろう。
八純 わかんない。またケンカとかしてたら、どうしよう。それに何で逃げたんだろう。せっかくまた会えたのに。
竜 でもブレスレットしててくれたね。
八純 そうだけど。私のネックレス見て、思い出してくれたみたいだけど。
竜 え?彰ちゃん、八純だって気付いてたの?
八純 うん。多分ね。だから逃げたんだと思う。
竜 それがわからないんだ。彰ちゃんが僕らから逃げる必要なんてないはずだろ?
八純 (うなずく)彰ちゃん、ずっと友達って思ってるって言ったよね?逃げるなんて、ちょっと許せない。
ナオ 八純…。
八純 ナオ、あんた彰ちゃんがどこにいるか知らないの?
竜 八純、また変になったの?そこに人はいないって…。
八純 いるのよ。私が必要だって思うから、ここにナオはいるの。
竜 八純。
八純 だからナオ、教えてよ。
ナオ 思い出すのよ。
八純 え?
ナオ 思い出すの。彰太くんとの思い出を。彰太くんも思い出してるはずだから。
竜 …八純、わかったよ。彰ちゃんがどこにいるか。
八純 私もわかった。
竜 行こう、八純。彰ちゃんきっと、僕らを待ってるよ。
八純 (うなずく)
走り出す八純と竜。
そんな八純を見て嬉しそうなナオ。ナオも後を追い、走り去る。
入れ替わり入って来る田所。なぜか張り切って掃除を始める。
そこへ彰太。
彰太 あ!お前!
田所 ん?ああ、君は!
彰太 1人で何やってんの?
田所 やっぱりこの仕事は信用第一!町のために原っぱの掃除は大切だからねえ!ポイ捨てされた空缶なんてとんでもない!
彰太 よっぽど暇なわけね。…なあ、あんた、1人でそんな事やってて、寂しくない?
田所 え?
彰太 もっと周りに優しくされたいって、思った事ないか?
そこへ八純、竜、ナオ。
八純 彰ちゃん!
竜 やっぱりここにいた。彰ちゃんならここへ来ると思ったんだ。小さい頃、よく遊んだ原っぱだから。
彰太 …お前らかよ。
八純 何よ、その言い方。またケンカでもしてるんじゃないかって、心配したのよ。友達にも探してって頼んだんだからね。第一何で逃げたのよ。せっかくまた会えたんじゃない。
彰太 …。
八純 どうしたのよ?私も竜も、喜んでるのよ。
彰太 竜? こいつが?こんな弱い奴が竜なのか?
竜 (顔を背ける)
彰太 (竜に)お前は竜じゃないよな?竜はもっと強い奴だよな?
竜 …。
八純 竜?
竜
八純、ごめん。僕は…、僕は…。
そこへ津島。
津島 津島刑事、到着!
田所 津島!よくここがわかったな!
津島 (八純と竜に)あなた方が野田くんのお友達だというお2人ですね?
八純 そうですけど、あなたは?
津島 ああ、申し遅れました。警視庁少年犯罪課の津島です。(田所を指し)そして、こちらは同じく少年犯罪課の…。
田所 (格好つけて)田所です。
八純 警察の方が、なぜここに?
田所 あれ、知らないんですか。野田彰太くん、色々と問題を起こしてるんですよ。
八純 え?
竜 (彰太に)どういう事?
彰太 どうもこうも、そのままだよ。
竜 そのままって?
津島 例えばタバコですよ。あの様子じゃ、結構やり慣れてるみたいでしたね。
彰太 それだけじゃない。シンナーも、ケンカも、盗みもやってるぜ。
八純 そんな。
彰太 お前らには関係ないだろ。だからいいじゃないかよ。
八純 関係なくないよ。友達じゃない。
彰太 嘘だろ。3年会わなかったんだぜ?友達も何もあるかよ。
竜 やめろよ。八純も僕も、ずっとそう思ってたんだぞ?
彰太 でも俺はもう人間は信じないって決めたんだ。もちろんお前らの事も。
八純 なんでそんな事が言えるの?
彰太 だってそうだろ?例えば、八純さっき俺の事友達に探させたって言ったよな?
八純 言ったわよ。
彰太 じゃあ警察の奴等が俺がここにいるって分かったのは、その友達が教えたからだとも考えられるよな。実際そうなんじゃないのか?
八純 (津島に)違いますよね?
津島 いえ、お2人のお友達の方に教えてもらいました。彼の居場所を。
八純 雪乃が?そんな、まさか警察に言うなんて…。信じられない。
彰太 八純は、そいつの事を信じてたんだ。
八純 だってまさか警察に言うなんて思わないじゃない。
彰太 でもそいつは八純を裏切った。
八純 …。
彰太 そんなもんなんだよ。結局全部形だけなんだ。だから人は信じられない。
竜 どうしてそういう風に考えるんだよ? 雨宮さんは僕らの事を心配してくれたから警察に言ったんだろ。前の彰ちゃんはそんな風には考えなかった。彰ちゃん変わっちゃったよ。何かあったの?
彰太 竜の方こそ、俺と約束した竜になってない。今だって八純より弱いままなんだろ?
竜 それは…。
彰太 でも安心しろよ。俺はお前のことに口は出さない。だから俺のことも放ってお
いてくれ。どうせ俺の気持ちなんか誰も分からないんだから。
竜 強がってばかりいるなよ。
彰太 強がってなんかいない。
竜 じゃあ何があったのか、言えよ。
彰太 分かったよ。…俺は小6の時父さんの仕事の都合で引っ越した。でもそこに幸せなんてなかった。友達は出来ないし、父さんと母さんの仲はどんどん悪くなっていった。毎日毎日2人のケンカを見続け、俺はそれだけでつらかったの
に、2人が離婚出来ないのは俺という子供がいるせいにされた。
八純 彰ちゃんのせいに?
彰太 父さんと母さんのケンカは俺のせい。幸せになれないのは俺のせい。そう言われ続けても、強くしていたいと思ったから泣けなかった。でもつらかった。
津島 だからシンナーに手を出したのか。
彰太 はじめは楽になりたいと思っただけだった。でもだんだん抜け出せなくなって、 俺なんてどうでもいいと思えて来た。どうなろうと、構わないって。
田所 どうしてこの街に戻って来たんだ。
彰太 父さんと母さんのケンカが激しくなって、俺にまで暴力を振るうようになったから、この街のばあちゃんちに来る事になった。だから戻って来たけど、どうせどの街でも同じだ。俺はどうでもいい人間なんだ。
竜 それはただの開き直りだ。ただの強がりだ。どうして素直にならないんだ。
彰太 強がってないって言ってるだろう。
竜 じゃあなんでそのブレスレットしてるんだ。僕らの事友達じゃないと思うなら、そんなもの捨てればいいだろう。捨てろよ、そんなもの。
彰太 ああわかったよ。
彰太、ブレスレットを投げ捨てようと、手を上げるがおろせない。
竜 どうしたんだよ。早くやれよ。
彰太 わかってる。こんなもの…。…こんな、もの…。
田所 野田彰太、お前、1人で寂しくて、それで誰かに優しくされたいって思ってたんだな。
彰太 …。
田所 優しさって、弱さを認める事だもんな。そして弱さを認めた上で、でも必要って思う事だもんな。
八純 私達に彰ちゃんは必要だよ。友達なんだから。それに、必要だと思うから、
またこうして会えたんだよ、きっと。
竜 彰ちゃんだって、必要だと思ったから、この原っぱに来たんでしょ?ブレスレット、持ってたんでしょ?
彰太 (腕をおろす)…わかんねえよ…。
田所 わからなくても、これだけは事実だ。どんな人間でも、必要にされる時がある
し、誰かを必要に思う時がある。
津島 田所さん、いい事言うじゃないですか。
田所 俺だって1人前のパシリだからな。
津島 俺もパシリです。パシリでいいです。
彰太 (津島に)パシリでも、俺を補導してくれますよね?
田所 いいのか?
彰太 いいです。強がりって言われるのはもう嫌ですから。
八純 また少し、会えなくなるね。
竜 彰ちゃん、言い忘れてたけど、僕は弱いのが本当の僕だと思うんだ。だから、弱い所を見せてでも、僕は僕でいくよ。彰ちゃんがそんな僕を竜だって認めてくれなくても、でもやっぱり僕は弱い竜だから。
彰太 お前、悔しいけど竜だよ。俺が期待してた通りの長谷川竜だ。
津島 そろそろ行くぞ。
彰太 はい。(八純、竜に)それじゃあな。
八純 彰ちゃん、サヨナラ。そしてまた、会おう。
津島、田所に連れられ、彰太去る。
反対側に竜去る。
残る八純とナオ。
八純 ナオ、サヨナラの次にはコンニチハがあるんでしょ。ねえ、ヒサシブリも、あるよね、きっと。
ナオ あるよ。絶対あるよ。
八純 私、サヨナラ嫌いじゃないかもな。切ないけど、また会えるんなら。
ナオ じゃあもう一回サヨナラあっても平気だよね。
八純 え?
ナオ あたしもそろそろ自分の時代、帰ろうと思って。もう八純、平気でしょ。
八純 ちょっと待ってよ。ナオとのサヨナラの次って、ヒサシブリって、ないんじゃない?
ナオ そうね。パトロールがあるし。
八純 私、ヒサシブリのないサヨナラは嫌だからね。
ナオ あのね、確かにヒサシブリはないけど、会えなくはないわよ。
八純 どうすれば会えるの?
ナオ 思い出すのよ。さっき彰太くんとの思い出を思い出したように。思い出の中でなら、いつでもまた会えるじゃない。あたしの事、覚えてるだけでいいの
よ。
八純 …そっか。ありがとう、ナオ。
八純とナオ、顔を見合わせ、笑顔になる。
ナオ じゃあね、八純。
八純 うん。サヨナラ。
ナオ、八純に背中を向ける。
ナオ、ふと立ち止まり振り返る。
八純にナオの姿はもう見えていない。
ナオは八純を見て、笑顔になると、通信機を取り出す。
ナオ …あ、すいません、ナンバー3475のナオです。…はい、これから帰ります。…もう見えていないようです。…はい、わかりました。…はい。じゃ、失礼します。
ナオ去る。
竜駆け込んで来る。
竜 八純、聞いてよ。彰ちゃんの処分、保護観察だって。
八純 本当に?決まったの?
竜 うん。何か、彰ちゃんがぐれた原因が元々家庭にあるから、保護観察ですんだらしいんだ。本当は、警察でははじめからその事わかってたんだって。だから彰ちゃん、マークはされてたけど野放しだったみたい。でもあの刑事さんパシリだったからその辺よくわかってなかったんだって。
八純 じゃあ油しぼられただろうね。
竜 らしいよ。ま、元々パシリだけどね。
八純 まあね。ねえ、竜、早速だけど、彰ちゃんに会いに行かない?
竜 それが、入院してるんだって。精神科に。
八純 入院?なんで?
竜 シンナーやってたでしょ、あれやめるためだってさ。結構大変みたい。
八純 ふーん。じゃあ、お見舞いに行こうよ。
竜 それが、彰ちゃん本人の希望で、誰とも会わない事にしたんだって。
八純 私達とも?
竜 もっと強くなってから会うってさ。何か、昔の写真があるから、それでいいらしい。
八純 そっか。そうだよね。写真通して会えるもんね。
竜 そうだよ。だから一緒に彰ちゃんを待とう。僕が横にいるから、寂しくないでしょ?
八純 うん。
竜 そして、彰ちゃんは帰って来た。引っ越した時と同じ彰ちゃんのままで、彰ちゃんは帰って来た。手首には変わらないブレスレットがあった。八純の首にも、あの日から変わらないネックレスがあった。そして、僕は…、僕は、あの日よりも強い竜で、彰ちゃんを迎えたつもりだ。
竜、振り向く。
八純と竜の視線の先には変わらない彰太がいる。
笑顔になる3人。
八純 久しぶり、彰ちゃん!
間違いなく、それは親友達の顔である。
(この脚本を使用したい方は加藤 礼奈さん (YIU02313@nifty.ne.jp)へメールをお願いします。)