*サンタクロースの来る家(あやなさんの台本です)

(アキラ、エリ、母、友人1,友人2)30分

雪が降っている。アキラがたたずんでいる。

アキラ クリスマス。俺は、家出した。

母やって来る。

母 アキラ。ちょっと来なさい。
アキラ …。
母 分かってるでしょう、エリは目が見えないのよ。なんであんな事したの。
アキラ だから俺は目が見えないからって、エリを特別視するのはかえって可哀相だっていってるじゃないか。
母 だからと言ってプレゼントを投げるなんてひどいわよ。
アキラ だって点字の本だぜ?せめてクリスマスプレゼントくらい、もっと楽しい物にしてやれないのかよ。
母 そろそろ点字を覚えさせた方がいいでしょう?普通の小学校じゃ教えてくれないし。
アキラ でも今日はクリスマスなんだ。3年生のエリがそんな物喜ぶかよ。
母 アキラ、あんた何ムキになってるの?エリの事考えてるのは分かるけど、エリの将来の為には…。
アキラ エリの事1番分かってないのは母さんだな。エリが点字を覚えたいって言った時にやればいいんだ。今のエリにはもっと楽しい事があるだろう?
母 分かった、あんたヤキモチね?いつも母さんがエリの事ばっかり見てるから。
アキラ 違うよ。
母 そういうのが重なって、こういう時に違う形で爆発しちゃうんでしょう?
アキラ 違うって言ってんだろう。

アキラ、思わず母の胸倉をつかむ。
ハッとするアキラ。ショックをを隠しきれない母。
離れる2人。

アキラ 母の言う通りかもしれなかった。俺はエリが好きだったけれど、普段苛立ちを感じていたのも事実だった。昔から母はエリの面倒ばかり見て、俺が小学生だった頃など、俺は家でいつも1人ぼっちだった。仕方ないのは分かっていたけれど、やっぱり寂しかった。

エリやって来る。

エリ お兄ちゃん?
アキラ エリ。大丈夫か?
エリ うん。
アキラ …エリ、さっきはごめんな。プレゼント投げちゃったりして。
エリ いいよ。謝るなら、サンタさんに謝って。
アキラ エリ、お前まだサンタさんなんて信じてるのか?
エリ 信じてるよ。だってサンタさんがいてくれなきゃ、プレゼント貰えないもん。
アキラ そうだな。
エリ お兄ちゃんはサンタさんを信じてないからプレゼント貰えないんだよ。信じればいいのに。
アキラ 俺も前は信じてたんだけどな。
エリ どうして信じなくなったの?
アキラ サンタクロースはえこひいきをするからだよ。
エリ えこひいき?サンタさんはそんな事しないよ。悪い子にはプレゼントくれないだろうけどね。
アキラ そんな事より、エリ、俺な、ちょっと出かけて来るから。
エリ え?どこに?
アキラ ちょっと遠く。
エリ ふーん。分かった。でも今日は寒いよ。
アキラ 雪も降ってるしな。
エリ 今日は雪が降ってるの?
アキラ そうだよ。だから余計に寒いんだ。
エリ へえー…。ねえお兄ちゃん、雪っていうのはどんな形なの?
アキラ 雪っていうの形がないんだ。冷たくて、白くて、空から降って来るものなんだ。
エリ 分かんないや…。白ってどんな色?エリ、見た事ないから、分かんないや。
アキラ エリ、じゃあ俺、もう行くから。じゃあな。
エリ お兄ちゃん?お兄ちゃん?

エリ、去る。

アキラ そう、俺と8つ歳の離れた妹は、生まれつき目が見えなかった。そのせいとは決して言いたくないけれど、俺はこの家が嫌いだった。というより、なんだか、暮らすのが苦しかった。エリは好きだ。でも、妹として一緒に暮らし、そしてこの俺がエリの兄として存在するのは、ちょっと荷が重過ぎた。だから俺は、家出した。

アキラ、去る。
母、やって来る。

母 アキラ?アキラ!

エリやって来る。

エリ ママ?どうしたの?
母 エリ。アキラ見なかった?
エリ お兄ちゃん?今日の朝出かけて来るって言われて、それから会ってないけど。
母 出かけて来るですって?あの子、どこ行っちゃったのかしら。どこに行くかは言ってなかった?
エリ 言ってなかったよ。
母 そう、ありがとう。出かけるなら1言言ってからにして欲しいわね。
エリ きっと急いでたんだよ。
母 (何か手紙に気付く)あら?これは何?

母、手紙を読む。

母 …。
エリ ママ?何見つけたの?どうしたの?
母 エリ…。なんでもないの。ごめんね。
エリ 本当になんでもないの?
母 ええ。なんでもないわ。
エリ …嘘よ。
母 え?
エリ ママ。エリね、目は見えないけど、ママが嘘をついてるかどうかなんて、ちゃんと分かるんだよ。
母 …。
エリ ママ。
母 エリ…アキラね、お兄ちゃんね、家出しちゃったわ…。
エリ え?
母 手紙よ。手紙がここに…。
エリ お兄ちゃんから?なんて書いてあるの?
母 (読む)「この家で暮らすと息が詰まってしまいそうです。だから家を出ま
す。時々ちゃんと連絡を取るので、高校には行かせて下さい。お願いします。勝手だと思うけれど、この家ではストレスばかり溜まってしまうのです。すみません。でもだからと言って誰かが嫌いなわけではないです。分かって下さい。アキラ。」
エリ ママ。きっとエリだよ。お兄ちゃんきっと、エリの事嫌いになったんだよ。
母 エリ…。
エリ だってエリ、目が見えないもん。お兄ちゃんにいつも迷惑掛けてるもん。だからお兄ちゃん、エリの事嫌いになったんだよ。だからお兄ちゃん、家出しちゃったんだよ。
母 エリ、違うわ。お兄ちゃんはすぐ帰って来るわ。心配しないの。お兄ちゃんがエリの事、嫌いになるわけないでしょう?
エリ でも…。
母 大丈夫よ。お兄ちゃんはすぐ帰って来るわ、きっと。帰って来るわよ、アキラは。

エリ、母、去る。
アキラ、やって来る。

アキラ 俺は友達の家を転々とした。高校にはちゃんと行った。警察に届けだされたりなんかしたら面倒だから、家にも時々顔を出した。でも、エリとは会わないようにした。そうしてる間に、俺が家を出てから半年が過ぎようとしていた。

母やって来る。

母 アキラ。
アキラ ただいま、母さん。
母 元気にしてる?今は誰のお宅にお邪魔してるの?
アキラ 今もまだ田中の家にいるよ。
母 そう。まだうちで暮らす気にはならないの?お父さんも怒ってるし、エリも心配してるのよ。
アキラ …。
母 やっぱりエリの事が原因なの?そうなのね?
アキラ エリの事は好きなんだってば。でも…。
母 エリも自分のせいだと思って傷ついてるわ。アキラの気持ちも分かるけど、仕方ない事じゃない。
アキラ 分かってるんだ。でも荷が重いんだ。分かってるけど、俺も仕方ないんだ。

エリやって来る。

エリ ママ、いる?
母 エリ…。
エリ ママ、お腹すいちゃった。ごはんまだ?

アキラ去ろうとする。
母、止める。
アキラ抵抗するが母もさらに止める。

エリ ママ?どうしたの?

母、アキラを見る。
アキラ、言わないでくれという動作。

エリ 誰かいるの…?
母 そんな事ないわ。何でもないの。ごめんね。
エリ ねえママ、お兄ちゃんはまだ帰って来ないのかなあ。
アキラ …。
エリ やっぱりエリのせいだよね。エリの目が見えたら、きっとお兄ちゃんはエリの事、嫌いにならなかったよね。
母 そんな事ないわよ。エリの目は関係ないわよ。
エリ でもお兄ちゃん帰って来ないもん。
母 お兄ちゃんはきっと色んな事に疲れたのよ。それだけよ。エリのせいじゃないわ。
エリ エリね、もしお兄ちゃんが帰って来るならいい子になるよ。頑張って1人でも早く歩けるようになるし、お兄ちゃんが近くに来たら、声を聞く前に、気配で分かるようになるよ。だからお兄ちゃん、エリの事好きになってくれないかなあ。
母 エリ、お兄ちゃんに迷惑かけないようにするの?
エリ うん。
母 でもお兄ちゃんは、そんなエリを見て、余計つらくなって、エリの面倒見ちゃうかもしれないわよ。
エリ だからね、お兄ちゃんもエリの事見ないようにすればいいんだよ。エリはお兄ちゃんの事見えないんだから、お兄ちゃんもエリの事見なければいいの。
母 それでいいの?寂しくない?
エリ 寂しくないよ。だってお兄ちゃんもママも、いつもエリにそうされてるんでしょ。だから同じだよ。
母 エリは、お兄ちゃんに見てもらえなくても、お兄ちゃんに帰ってきて欲しいの?
エリ うん。エリ、お兄ちゃんがいてくれるだけでいいもん。
母 そうね。エリ、ママ、ご飯の準備するから、向こうの部屋でちょっと待っててね。
エリ 分かった。

エリ、去る。

母 アキラ。エリは、ああ言ってるわよ。
アキラ …。
母 エリの障害を1番気にしてるのはアキラじゃない。エリ本人は障害の事を重荷になんて感じてない。アキラ1人が気負いしてるだけよ。だから障害者の家族としての重荷を、1人でそんなに背負い込む事ないわ。そんな事して1番苦しむのはエリなんだから。
アキラ でも俺は今までいつもエリに気を使わなくちゃいけなくて、いつもエリ優先にされて我慢させられてきた。それなのにいきなり気を使わなくていいなんて、その方が耐えられない。俺が今までしてきた我慢は何だったんだよ。
母 アキラ…。

エリ、アキラ、母。

アキラ 兄として、障害者の妹に対してしなければならない事は何か。それを考えたら、エリに気を使わないわけにはいかなかった。だからいつでもエリの為なら我慢してきた。それがつらくて家出した。障害者の兄としての自分を忘れたかったから。でもそれは間違ってたのか?エリに気を使うのは、間違ってたのか?
母 母親として、娘の目が見えないというのは、それは責任を感じる事だった。エ
リを産んだのは、この私なのだから。でも、だからこそ私は、エリの事での苦労は喜んで引き受けようと思った。でも、アキラには何の責任もない。エリの兄であるだけで、色々苦労させなければならない事にも、私は責任を感じてしまった。
エリ 私は目が見えない。でも、見えない事は私にとって当たり前の事だ。時々恐い時もあるけれど、それを他の人に気にしてもらいたくない。もちろん、お兄ちゃんにも。だってそれは、当たり前の事なんだから。
3人 そして、何の問題も解決されないまま、今年もクリスマスが近づいてきた。
母 子供にとってのサンタクロースは、その子の親がなればいい。じゃあ親にとってのサンタクロースは、誰がなってくれるの?
エリ サンタさんが本当はパパとママだなんて事、知っている。でも目で確認できないから、仕方ない、今年もサンタさんを信じよう。
アキラ 兄と妹で贔屓をする親がサンタクロースだなんて嫌だ。だったらサンタクロースなんていない方がよっぽどいい。少なくとも、俺にとっては。
3人 そして、今年もクリスマスが近づいて来る。

アキラ、去る。

エリ ねえママ。お兄ちゃんはまだ帰って来ないのかな?まだエリの事嫌いなのかな?
母 だから違うって言ってるでしょう?エリの事嫌いなわけじゃないって。
エリ だってもうすぐ1年たつよ?今年はサンタさん、来てくれないかもなあ。
母 どうして?
エリ だってお兄ちゃんに嫌われてるエリは、絶対悪い子でしょ。
母 …もしエリが悪い子じゃなくて、サンタさんが来てくれるとしたら、何をお願いするの?
エリ お兄ちゃんをね、頼みたいの。
母 アキラを?
エリ うん。サンタさんに、お兄ちゃんを連れてきて欲しい。それで、お兄ちゃんに、エリを好きになってもらいたい。

エリ、母、去る。
アキラ出る。座っている。ため息。
後ろから声。友人達の声。

友人1 お前考え過ぎなんだって。1人で考え込んだって仕方ないだろ。それに1番悩んでるのはお前じゃないって。エリちゃんだよ。
友人2 そうよ。アキラくん、エリちゃんの事、好きなんでしょ?エリちゃんの事、ちゃんと考えてるんでしょ?だったらエリちゃんの言う通り、普通に接してあげるのが1番じゃない。
友人1 お前ね、もっと気持ちに余裕持たなきゃ駄目。障害意識し過ぎるから、障害者って位置づけられるの。分かる?障害気にしなきゃ、普通の妹だろ。

母振り返る。

母 第一、エリはアキラが大好きなのよ。兄として。
アキラ でも俺は…。
母 エリは完璧な兄なんて求めてない。無理をしていない、アキラがいいのよ。だから無理する事ないわ。
アキラ でも俺がエリに気を使わなかったら、そうする事でエリを傷つける事があるかもしれない。
母 エリはそれでいいって言ってるのよ。
アキラ …本当に、それで、いいのかな?

エリ振り返る。

エリ ママじゃない、ママじゃなくて、本物のサンタさん。もしあなたが本当にいるのなら、今年だけは、本物のあなたがうちに来て下さい。お兄ちゃんを、私の事が好きなお兄ちゃんを、連れてきて下さい。
アキラ 本物のサンタクロースさん。もしあなたがいるのなら、俺を素直にして下さい。贔屓せずに、俺にもプレゼントを下さい。
母 子供たちへのプレゼントを、今年は用意しませんでした。自分達のプレゼントの有無は、自分達で決めさせます。
3人 もし、本当にサンタクロースがいるんだったら、今年だけは、本物のあなたがうちに来て下さい。プレゼントを、届けに来て下さい。

アキラ、去る。
エリ、就寝の様子。
エリと母、客席に聞こえないくらいの声で少し、言葉を交わす。
母去る。
エリ、寝ようとしてふと動作を止める。
枕元を見て、お願いしてから寝る。
アキラやって来る。エリの寝ている横に座る。エリを眺める。
エリ、起きる。
急いでプレゼントを探すが、何もない。
がっかりして立ち上がるエリ。
と、なんとなくアキラのいる方に顔を向ける。

エリ 誰か、いるの?

エリ、手を伸ばす。
アキラに、少しだけ手が触れる。

エリ 誰…?
アキラ …。
エリ …お兄ちゃん?

エリ、再び手を伸ばす。
アキラ、その手をつかむ。

エリ お兄ちゃんでしょ?お兄ちゃんだよね?
アキラ (手を離す)…お兄ちゃんじゃないよ。
エリ え?
アキラ サンタクロースだよ。

エリ、笑顔になる。

エリ (微笑みながら)本当に来てくれたんだ、サンタさん。
アキラ プレゼントは何がいいかな?
エリ プレゼントよりも聞きたい事があるの。サンタさん。
アキラ 何だい?
エリ お兄ちゃんは、エリの事好きだと思う?
アキラ …。
エリ エリはお兄ちゃんが大好きなの。お兄ちゃんはエリの事、好きかな?
アキラ サンタさんは、エリのお兄ちゃんはエリの事が好きだと思うよ。
エリ 本当に?お兄ちゃん。
アキラ 本当だよ、エリ。

エリ、再び笑顔になる。
そこへ母。

母 …アキラ。
アキラ 母さん。
エリ 誰?ママ?
母 そうよ、ママよ、エリ。おはよう。
エリ おはよう、ママ。今日はね、すごいニュースがあるの!
母 何?
エリ サンタクロースって、本当にいるんだよ。それで、ちゃんとうちにも来てくれたよ。プレゼントも貰えたよ。エリは、目が見えないけど、悪い子じゃなかったんだ。だって、サンタさんが来てくれたもん。
アキラ 今日は、クリスマスだもんな。
エリ そうだよ。クリスマスだもん!!

クリスマス・ソングの遠くで、去っていく鈴の音が聞こえる。

(この脚本を使用したい方は加藤 礼奈さん (YIU02313@nifty.ne.jp)へメールをお願いします。)