「戀」〜ほしぞらのものがたり〜

青年、マコト、ミサキ(30分)

   大きな音楽が去った後。
   1人の人影が、原っぱに残っている。
   立ちつくす青年。
   二人の少年と少女は、木の陰に隠れて、
   楽しそうに合図を送りあったり、
   場所を変えてみたり。

青年   もういいかい?
二人   ……
青年   もう、いいかーい?
マコト  (小さな声で)まあだだよ。
青年   もういいかーぁーい。
マコト  (少し音量を大きくして)まーだだよ。
青年   もういいかぁあーいっ?
マコト  (また大きくして)まーだだよ。
青年   もう…い、
二人   (でっかく嬉しそうに)もういいよーっ!

   青年、後ろを振り返る。しかし、そこには誰もいない。
   蝉の声となま暖かい風。
   青年、落ちていた日記帳を拾うと、
   木に登り、語り始める。

青年   八月二日。花火大会は失敗に終わりました。それも、僕のせいで。点火線の配線を間違えたのがきっかけでした。先輩が気づいてくれたものの、すでに手遅れ。開始時間には間に合いません。そのままでは危険なので、仕方なく、「事故で延期」ということに。リハーサルではいつもできていたのに、なぜ。空はどんよりと曇っていました。星ひとつ、見えませんでした。

   二人、木の陰からゆっくりと出てきて

マコト  八月二日、とくになし。夜に西瓜をひとりで半分食べたら、母さんにおこられました。

マコト  (ひとりで花火をしている)せんこーせんこー、せんこーはなびさーん。あ。(落ちる)落ちる…すべる…落ちる、落ちる、落ちる…中学浪人は嫌だぁああぁああ。……ふぅ。あー。こんなこと気にしてもしょうがないんだけど。
ミサキ  そうだよー。だったらウチ帰ってはやく勉強しなよ。
マコト  うるさいなぁ…ミサキはいいよなー。高校、アメリカだろ。いーよなー。いーよなー。僕なんてさ、数学は12点だしさ。社会は20点だしさ。英語は…0点だしさ。
ミサキ  慰めようのない点数してるわねぇ。
マコト  うるさいな。
ミサキ  ばーかばーか。
マコト  たーこたーこ。
ミサキ  イカイカイカっ。
マコト  軟体動物ー。
ミサキ  あほらし。やーめた。てかさ、なんで二年生こないのよ。
マコト  …さぁ?
ミサキ  さぁって、あんた。
マコト  自分で言っててばからしくなったんじゃない?心霊写真特集なんてさ。
ミサキ  そう?夏っぽくていい企画だと思うけど。
マコト  だってさ、この夏がんばって取材して、新聞創ったってさ、みんなに配られるのは新学期だよ。九月だよ。
ミサキ  あ、そうか。
マコト  あーあ…あぁああぁああぁ。べーんーきょーぅー。しーなぁーきゃぁー。
ミサキ  得意科目って、ないんだっけ?
マコト  得意科目はない!
ミサキ  じゃあ、好きな科目は?
マコト  好きな科目もないよ。理科の実験は好きだけど、理科は別に好きじゃないし。
ミサキ  二年生来ないなら、帰る?
マコト  うん。そうしよう。
ミサキ  まったく…新学期の新聞の企画、どうするつもりなんだか。
マコト  帰ったら西瓜だー。
ミサキ  マコト、あんた新聞部員の自覚ある?
マコト  落ちこぼれ受験生の自覚ならあるよーだ。
ミサキ  死刑。バシュッ。(銃を撃つ真似)
マコト  う、うぅ〜やられたっ。しかし負けないぞマコト隊員!へーん、しんっ!とうっ!(木を蹴ろうとして)うわぁぁあああ。
ミサキ  もう、どうしたの。
マコト  は、ハチの巣があった。
ミサキ  どれ?うわ。
マコト  危ない危ない。もうちょっとで直撃だった…
ミサキ  心霊写真の代わりに、コレ撮っておこうか。記事になりそうだし。
マコト  うん。撮ったら帰ろう。
ミサキ  おやすみ。マコト。
マコト  うん、じゃーね。
ミサキ  明日も、ここ?
マコト  うーん…一応。
ミサキ  また明日。
マコト  ばいばい。

青年   (すこし間をおいて)八月三日。昨日の失敗をふまえ、対策と反省のための会議が行われました。窓の外では激しい雨が降っており、しばらくやみそうにありません。会議は夜まで、先輩がたからのアドバイスや注意は、夜中まで続きました。星は今日も見えません。

ミサキ  マコト、遅い!
マコト  あ、ご、ごめん。なにそれ?
ミサキ  (手に持っている袋を持ち上げて)いいでしょ、花火!
マコト  なんでこんなにたくさん?
ミサキ  え?だって、二年生のコたち、くるんでしょ?
マコト  あ、うん。来るといいね。
ミサキ  ま、来るんじゃないの。
マコト  二人で花火か…
ミサキ  なに、ちょっと、そういう意味に取らないでよ。
マコト  そういう意味ってどういう意味さ。
ミサキ  だから…なんか、こう、やらしい意味には。
マコト  やらしいってそんな。はははは、よいではないか、よいではないか。
ミサキ  馬鹿。(頭をはたく)
マコト  いってー。
ミサキ  はい、マコトの分。
マコト  ありがと。って、線香花火ばっかりじゃんか。
ミサキ  あんたにはそれがお似合いよ。
マコト  落ちる…落ちる…落ちる…おちるぅぅぅうう。
ミサキ  あ、そ、そういう意味じゃなくて。なんか、じめじめして、小物な感じとかが。
マコト  これが僕なら、ミサキはなんなんだよ。
ミサキ  え?私はこれ。
マコト  あー、いいなぁ、三色花火だ。
ミサキ  いいでしょー。
マコト  いいなー。いいなー。
ミサキ  (花火に火をつけ、ぐるぐるとまわしながら)私さ、花火、好きなんだよね。
マコト  僕も好きだよー。(バケツの上でちまちまと線香花火)
ミサキ  流れ星〜!あ、消える、消えちゃう、あーあ、きえちゃった。
マコト  落ちちゃった…
ミサキ  あんた…そんなことでいちいち落ち込まなくても。
マコト  お前みたいな頭のいいやつにはわかんないんだよーだ。ふーん。
ミサキ  (悲しそうに、怒ったように)マコト。
マコト  な、なんだよ。
ミサキ  なんでもないっ!
マコト  だからなんだよ!
ミサキ  私、さ。
マコト  うん。
ミサキ  アメリカ、行っちゃうんだよ。
マコト  うん。進路決まってて、いいじゃん。
ミサキ  淋しいとかは、思わないんだ。ふーん。
マコト  いや、えーと、だから。
ミサキ  ………
マコト  ………

   蝉の声。
   蒸し暑い夏の空気。

ミサキ  夏だね。
マコト  うん。夏だね。
ミサキ  ごめん、私、今日帰るね。昨日遅かったから、怒られちゃったんだ。
マコト  え、写真とかどうすんの?
ミサキ  マコト、とっといて。(カメラを渡す)
マコト  とっといて、って…
ミサキ  その線香花火も、あんたにあげるから。
マコト  え、あ、うん。
ミサキ  じゃあ、行くね。
マコト  ミサキ!
ミサキ  え?
マコト  (カメラでぱしゃり)
ミサキ  ちょっと、何撮ってるの!
マコト  心霊写真写ってたらばんばんざいー。
ミサキ  うわ。非道っ。
マコト  また明日。
ミサキ  え?明日は部活の予定表、入ってなかったでしょ?
マコト  でも、明日も来てよ、
ミサキ  いいけど…あんた、勉強だいじょぶなの?
マコト  なるようになるって。
ミサキ  じゃあ、また明日。

マコト  八月三日。とくになし。でも、明日はいい日になるといいな、と思う。

青年   八月四日。雨はまだ、止みそうにありません。ぼんやりと、窓の外を眺めながら、昔聞いた花火職人さんの話を思い出していました。花火は、円じゃなくて、球の形をしている。だから、川の向こう側から見ても、こちら側から見ても、ビルの屋上から見ても、地べたに座ってみても綺麗に、まんまるく見えるんだと。今日は雨。星は見えません。

マコト  八月四日。

マコト  ミサキ!
ミサキ  あーあ、抜け出すのに苦労した。うち、お父さん厳しいんだから。
マコト  ご苦労様です。
ミサキ  あんたが呼び出したんでしょうが。
マコト  昨日さ、あの…
ミサキ  何?
マコト  淋しくないかって聞いたよね。
ミサキ  き、聞いたけど。
マコト  うん、だから…
ミサキ  な、何よ。
マコト  あー…あ、あ、あ〜あ〜あ〜あ〜あ〜♪(歌う)
ミサキ  あんた、頭だいじょぶ?
マコト  失敬な。わしは、まだもうろくなどしておらんぞ。
ミサキ  全然だいじょぶじゃなさそうね。
マコト  えぇい、照れ隠しだってば。
ミサキ  照れ隠し?ん〜〜?
マコト  な、何だよ。
ミサキ  ふぅん、何を照れ隠すの?
マコト  違う、照れ隠しじゃなくて、照れ隠しじゃなくて…
ミサキ  ふうん、照れ隠しじゃないんだ。
マコト  うん。照れ隠しじゃなくて…
ミサキ  だったら何を言いにきたのよ。
マコト  (突然)ファイヤー!
ミサキ  …帰ろっかな。
マコト  あっと、待ってってば。
ミサキ  なーああーあにぃいー?
マコト  つき!
ミサキ  (マジメに言われそうなのでどきっとして)え…
マコト  が〜でったでーた、月がぁあ〜出た〜ぁヨイヨイっとぉ。
ミサキ  じゃあね。
マコト  初めてみたときから!
ミサキ  (立ち止まる)
マコト  す…す…
ミサキ  続きは?
マコト  すっげぇ気の強い女だと思ってましたっ!
ミサキ  あのさぁ。
マコト  何だよぉぉ。
ミサキ  あんた、私のこと、す。
マコト  好きじゃない、好きじゃないよーだ。
ミサキ  ば、……

   ミサキ、あきれかえって。

ミサキ  (でっかい声で吐き捨てるように)ばっかじゃないの?
マコト  バカとはなんだよ、おかちめんこ!
ミサキ  言ってくれるじゃない…?
マコト  す、す、好きじゃないったら!
ミサキ  まったくもう、自分に正直になりなさいよーだ!

   追いかけっこ開始。
   ケンカするほど仲がいい。
   二人とも、とても楽しそうだ。

ミサキ  マコトのばーか。脳味噌足らずー。
マコト  うるさいなぁあ。
ミサキ  男ならもっとしゃきっとしなさいよ。格好悪いったらありゃしない。
マコト  どうせ格好悪いよ!
ミサキ  ほら、言っちゃいなさいってば。す。
マコト  好きーじゃないっ!
ミサキ  私、知ってるんだから…
マコト  えっ、な、何を。
ミサキ  あんたが渡してくれた部活の予定表、嘘だったでしょー!
マコト  う。
ミサキ  二年生の子に聞いたんだから。
マコト  うるさいなぁっ!(つきとばす)
ミサキ  あんたこそ、はやくちゃんと言いなさいよ!(つきとばす)
マコト  なんだ、よっ!(つきとばす)
ミサキ  はい、はやく言う!ネタはあがっておるぞ、観念しなさいっ!
マコト  俺は負けない…逃げ切ってみせるぞぉぉ!
ミサキ  それ、意味ないから。
マコト  もう、分かったよ、はじめてみたときから、好きでしたーっ!(ハズさのあまりつきとばす)

   木にどさっと当たるミサキ。

ミサキ  あいたたた。よし、まぁ、それでよしと…きゃぁああぁあ!
マコト  え?み、ミサキ?
ミサキ  ハチ、ハチが、痛い痛い痛い!刺された…あ、頭…ぐるぐる…する…

   ミサキ、倒れる。動かない。

二人  (青年とマコト(青年は語りで、マコトはミサキのよこに座りながら泣くように))あそこで見た光景は、今でも忘れられません。すごく苦しそうで、顔と身体が、かあっと赤くなって、そのあと、小刻みに痙攣しながら、皮膚の色が真っ白になっていく、あそこで見た光景は、忘れられません。忘れられません!ぼくは動けなかった。助けを呼びに走ることもできなかった。

二人   八月四日の、夕暮れでした。

   ミサキ、ふわりと立ち上がり、
   座り込んで泣いているマコトを見て、
   ゆっくりと去る。

青年   八月五日。やっと、雨と曇りが半々の天気になりました。しかし天気予報は、一週間分の豪雨を告げています。今日はまだ、僕の街から星は見えません。星から、僕の街は見えません。

マコト  八月五日。白紙。

マコト  (あたりを見渡して、夏の空き地に、ひとり)
マコト  (ハチの巣を見て、そこらにあった石を投げつけようとする。)
マコト  (小さな石がコン、とぶつかる。と、ハチが一匹出てきてあわてて退く)
マコト  (自分が情けなくなって、沈む。ふとポケットに手をやる。すると…)
マコト  線香花火…か。
マコト  (束になっている線香花火をばらけさせて、一本を持ち上げる。)
マコト  (火をつけるものを探す。ごちゃごちゃやった後、ライターを発見)
マコト  (線香花火に火をつける)

   かすかなひかり。

マコト  (ぼんやりと)ミサキ…
マコト  ミサキ、ミサキ、ミサキ、ミサキ…(つぶやくように)

   と、かすかな、声。

ミサキ  ま・こ・と…
マコト  (振り返るが、誰もいない。機械的に次の線香花火に火をつける)
ミサキ  まーこーと!
マコト  (びっくりして振り返る。木の後ろには、白い影。目をこする。前を向く。)
ミサキ  (前を向いている間に他の木の裏に移動。木の陰から手だけ出して、ひらひらひら。)
マコト  ま、まって!(線香花火が消えかけ、あわてて次のに火をつける)
ミサキ  マコト!(出てくる)
マコト  み…ミサキ。
ミサキ  元気だせ!マコト。
マコト  待った待った待った。
ミサキ  うん。
マコト  し、死んだ、よね。
ミサキ  あんた…ものの言い方がストレートねぇ。
マコト  それも…僕のせい…で…(表情がくずれ)
ミサキ  あ、マコト、次の線香花火つけて。
マコト  え…?あ、うん。
ミサキ  へへ。不思議?私がこうして、出てくるの。(幽霊らしい動き(両手をだらんとさせるアレ)をして)
マコト  う、うん。
ミサキ  花火が終わるころになったら、言ってあげるね。
マコト  花火が終わるころ…って?
ミサキ  その花火、あと何本ある?
マコト  今?今…えーと、27本。あ、今、次のに火、つけるから、26本。
ミサキ  そっか。あと、26本か。
マコト  これがなくなったら、ミサキは…
ミサキ  うん。もう、こうやってしゃべることはできなくなるよ。ずうっと、空にいるまんま。
マコト  …僕の、せいだよね。
ミサキ  ちがうよー。あんなの、事故だってば。ハチに刺されたくらいで、あんな…。
マコト  でも僕がここに誘った。
ミサキ  マコト。
マコト  僕がつきとばした。
ミサキ  マコト、怒るよ!
マコト  怒ってよ!

   ミサキ、手を振り上げる。
   マコトの頬を、叩く。

ミサキ  ねえ、私、時間がないの。線香花火が26本燃えるだけの時間しかないの。だから、楽しくいさせてよ。マコトと、楽しく、いさせてよ。
マコト  …わかった。
ミサキ  うん。なんか聞きたいこと、ない?
マコト  い、今なにしてるの?とか…?
ミサキ  何してるもなにも…空をただよってる、としか。
マコト  空を?
ミサキ  うん。思いをこの世に残してる間は成仏できないみたい。
マコト  その想いって…?
ミサキ  だから、花火がなくなったら言うってば。
マコト  うらんで、る?
ミサキ  う〜ら〜め〜し〜や〜。
マコト  …ごめん。
ミサキ  冗談の通じないやつめ。事故だってば。
マコト  ミサキのお母さん、泣いてた、よね。
ミサキ  …うん。
マコト  お父さんも。
ミサキ  うん。…あんたも。
マコト  うん。

   会話の途中も、減り続ける線香花火。

ミサキ  あと何本あるの?
マコト  今…20本。
ミサキ  じゃあ、そろそろ私、帰るね。
マコト  え、なんで。
ミサキ  マコトとしゃべることとかも、決めたいし。あんたも今は頭こんがらがってるみたいだし。
マコト  そりゃあ、こんがらがってるけど。
ミサキ  また明日の夕方、ここに来てよ。私、待ってるから。
マコト  花火を、つければいいの?
ミサキ  そう。明日は、10本ぶん話そう。
マコト  ……わかった。あ。消え…た。(玉が落ちるのを目で追って)
ミサキ  (その間に、木の陰にふわりと隠れる。マコトに少し、手を振りながら)
マコト  ミサキ!…あ。

   ミサキはもういない。

マコト  (線香花火をじっと見つめ、にぎりしめ、去る)

青年   八月六日。雨は相変わらず上がりません。けれど、いい知らせです。明日の予報は晴天。打ち上げ日は、明日になりそうです。花火は、真上から見ても、きれいにまん丸く見えるのでしょうか?今日も雲が、ぼくの街と星空の間に厚く広がっています。明日は星が、見えるでしょうか。

マコト  八月五日。幽霊が、怨念以外でこの世に現れることってあるのかなあ。何をしたいのか、ぜんぜんわからない。楽しく過ごす、って、一体何をしたらいいんだろう。とりあえず線香花火を持って、家を出た。

マコト  (空き地にひとり。火をつける)
ミサキ  マコト。
マコト  ミサキ。
ミサキ  今日一日はどうだった?
マコト  今日は…冷やし中華を食べて、宿題やろうとして寝ちゃって、本屋で立ち読みして…
ミサキ  あんた、あいかわらずダメダメねえ。
マコト  ねえ、ミサキ。
ミサキ  ん?
マコト  この線香花火、なんか特別なの?
ミサキ  ううん、百円で五十本入りだったやつだけど。
マコト  いや、なんか、魔法みたいなのかなーと思って。
ミサキ  そりゃあ、私の気持ちがはいってるから。
マコト  気持ち?
ミサキ  …あんたさ、ほんとに私のこと好きなの?
マコト  …うん。
ミサキ  なんでそんなに怖がってるのよ。
マコト  だって…やっぱり、幽霊が「出る」っていったら「うらめしや〜」しか思い浮かばないし…
ミサキ  そんなんじゃないってば。
マコト  違う、の?
ミサキ  私の手、さわってみてよ。

   マコト、ミサキの手に触れる。

マコト  …あったかい…
ミサキ  でしょ?恨みで出来てる幽霊は、冷たいんだよ。
マコト  じゃあ今のミサキは、何でできてるの?
ミサキ  ………内緒。
マコト  内緒ってオイ。
ミサキ  だからー。最後の日に言うって言ってるでしょ。今はいいたくないのー!
マコト  口を割れ〜〜貴様ぁあ〜。(くすぐり)
ミサキ  (平然)
マコト  あ、あれ…?
ミサキ  残念でした。もう実体ないもんね〜。くすぐられても怖くないもんねーだ。
マコト  …高飛車。
ミサキ  低脳。
マコト  おたんこなす。
ミサキ  はげ。
マコト  ぶさいく。
ミサキ  なな、なんてことを。
マコト  ふっ、勝った。
ミサキ  ねえ、マコト。
マコト  ん?
ミサキ  私、どう見えてるの?
マコト  え?どう見えてる、って?
ミサキ  顔とか、かっことか。
マコト  顔はミサキのまんまだけど…かっこは、幽霊っぽくなってる。
ミサキ  え、うそ。どんなの?
マコト  なんか、昔の人みたい。
ミサキ  …怖い、感じ?
マコト  そ、そんなことないよ。可愛いよ。
ミサキ  かわいい?
マコト  うん。結構。
ミサキ  そっか。うれしいな。
マコト  成仏、したらさ。
ミサキ  うん。
マコト  どうなるの?
ミサキ  星に、なるの。
マコト  星に?
ミサキ  うん。きれいに成仏できればね。できないと…
マコト  できないと、悪霊?
ミサキ  すぐそこまではいかないけど。でも、ずっと地上でひとりぼっちだったり、地獄で働かされたり。
マコト  ミサキは、そうはならない?
ミサキ  うん。さいごの線香花火が燃えるときに、想いを、ちゃんと、伝えるから。
マコト  想いを…つたえる?
ミサキ  うん。今、残り何本?
マコト  …今、残り9本
ミサキ  あ。一本オーバーしちゃったね。
マコト  明日も、ここ?
ミサキ  うん。明日も、ここ。

   少し、距離を置くふたり。

マコト  明日…行っちゃうの?
ミサキ  うん…そのつもり。
マコト  …そっか。

   蝉の声。夏の風。

マコト  ねえ、ミサキ。
ミサキ  なあに?
マコト  (カメラをかまえ、ぱしゃり。)
ミサキ  な、何をするかと思えば。
マコト  写ってるかな。心霊写真。
ミサキ  写ってたら、見せてよ。
マコト  うん。
ミサキ  じゃあ明日、絶対ね。
マコト  うん。分かった。

   青年、ふるぼけた日記帳をひらき。
   はさんであるものをつまみあげ、見る。
   そして、読み始める。

二人   八月七日。空はどんよりと曇っていました。湿度が高く、蒸し暑い日でした。夕方、僕はあの空き地まで走りました。線香花火を握りしめて。ミサキと会えるのが最後だと思うと、かなしくて、でも、星になるんだと思うと、すこし、ドキドキして。

二人   そして、一本目に火をつけました。

マコト  ミサキ!
ミサキ  よっ、マコト。
マコト  後のこり、八本だよ。
ミサキ  うん。そうだね。
マコト  …言わないの?
ミサキ  さいごに、言うの。
マコト  なんで。
ミサキ  だって、想いを伝えちゃったら、私もう行かなきゃいけないんだもん。
マコト  …あ、…そうか。
ミサキ  できるだけ長い時間、いっしょにいたいなって思って。
マコト  そっか。
ミサキ  マコト、ちゃんと宿題やった?
マコト  やったよ!
ミサキ  嘘ばっか。
マコト  嘘じゃないってば。
ミサキ  じゃあどれをどうやったのよ。
マコト  計算問題を三問やった。
ミサキ  あんた…これから私、あんたに答えうつさせてあげることとか、出来ないんだからね。
マコト  うん。
ミサキ  しっかりしてよね。
マコト  うん。分かった。
ミサキ  写真、どうなった?
マコト  ごめん、まだ現像できてないんだ。
ミサキ  もしなにかうつってたらさ。形見にしてよ。
マコト  …うん。あのときさ。
ミサキ  あのとき?
マコト  ミサキの写真、撮ったとき。
ミサキ  あぁ。心霊写真〜とか言ってね。
マコト  あれは…ミサキのことが、す、…好きだったから、やっちゃったんだけど。
ミサキ  うん。ホントはここ、心霊スポットでもなにもないのにね。
マコト  怒って、ない?
ミサキ  怒ってないよ。
マコト  …そっか。よかった。
ミサキ  でもさ、あんたがニセの予定表でっちあげただけだったのに、ほんとに心霊スポットになっちゃったね。ここ。
マコト  え?なんで?
ミサキ  私がいるじゃない。
マコト  あ、そうか。
ミサキ  でも今日、成仏しちゃうけどね。
マコト  そうだね。

青年   どんよりと曇っていました。遠くで、太鼓のような音が聞こえていました。かすかに、かすかに。

ミサキ  今、残り何本?
マコト  あと5本
ミサキ  よかった。まだまだあるね。
マコト  成仏したら、星になるんだっけ。
ミサキ  うん。そうみたいよ。
マコト  どのへんの星になるの?
ミサキ  うーん…わかんないけど。夏の夜空のどっか。
マコト  夏の星になるんだ。
ミサキ  うん。死んだのが、夏だったから。
マコト  …そうだよね。
ミサキ  何が?
マコト  死んじゃったんだよね。
ミサキ  うん。死んじゃった。
マコト  これから、高校も決まって、いろいろ、楽しくなるとこだったのに。ミサキ、死んじゃったんだよね。
ミサキ  うん。楽しみなこといっぱいあったんだけどねー。死んじゃったよ。
マコト  …僕が死んだらさ、迎えにいってやるよ。
ミサキ  格好いいけど似合わないよ。その台詞、あんたに。
マコト  ひでぇなあ。
ミサキ  あと、何本?
マコト  これで、四本。
ミサキ  少なくなってきたなぁ…。あーあ。こうなるって知ってたら、もっといっぱい渡しておくんだったな。花火。
マコト  そうだよ。だいたい、なんで線香花火なんかなんだよ。なんか、もの淋しいじゃんか。
ミサキ  そう?でも、線香花火じゃなかったら、二十本もなかったよ。
マコト  なんでさ。
ミサキ  だって他の花火、高いんだもん。
マコト  ドケチ女。
ミサキ  計算能力がない人に言われたくないわよ。五十本入りで百円。さて一本あたり?
マコト  え?20円?
ミサキ  ほら、やっぱりバカだ。ああーっ!幸せ。
マコト  そ…そう?
ミサキ  だってさ、こんなふうにあんたとくだらない話して、笑って。幸せ。

青年   太鼓のような音が近づいてきました。一瞬、何かが光った気がしました。何か、向こうから、かすかな音が聞こえてきます。

マコト  雨だ!
ミサキ  雨…?あ、火が!
マコト  ちょっと待って。避難しよう。あそこの木の下!
ミサキ  …火、大丈夫?
マコト  うん。なんとか。ちょっと手、火傷したけど。
ミサキ  …そっか。あと、何本だったっけ?
マコト  あと四本残ってるよ。
ミサキ  そっか。あ…火、弱くなってきた。次次!
マコト  へいへいっと。(ポケットから出して、火をつけようとする。が…)
ミサキ  マコト?
マコト  ちょ、ちょっと待ってて。(次のを出す、つけようとする。つかない。何度やっても。何度やっても。)
ミサキ  マコト、火が消えちゃう!
マコト  待って、待って。(いろいろ試す。しかし、つかない。)
ミサキ  マコト、私…!

   マコト、さっと振り返り、立ち上がる。
   もう、ミサキの姿は見えない。
   火を、つけようとする。つかない。
   火薬はもう、湿ってしまっている。

二人   八月八日。八月九日。八月十日…夏休みが終わっても、もう、火薬に火がつくことはありませんでした。一本はついたけど、ただ、紙が燃えるようにして、灰になってしまいました。ミサキは…想いを残して、きっと、ここにまだいるんだ、と想っているうちに、夏は終わりました。現像が終わった写真には、蜂の巣、そして、少し微笑んだミサキ、そして、暗闇の中に光る、花火のような影がありました。

マコト  影だけが、ありました。

青年   八月七日。今夜、花火を打ち上げることが決まりました。雲一つない晴天。そして…線香花火。

青年   そこらにいるんだろう!あのときの僕。あのときのミサキ。ほら!火薬。もらってきたんだ。今、あのときの花火を、咲かせてあげるから。

   青年、線香花火をいちどほどき、
   火薬をつめなおす。

青年   ほら!
二人   (小さな声で)もういいかい?
青年   もういいよ。出ておいで。

ミサキ  マコト…?
マコト  ミサキ。
青年   ひさしぶり。
ミサキ  あ…うん。もう、だいぶ経ったんだもんね。
マコト  やっぱりずっと、ここにいた?
ミサキ  うん。
マコト  そっか。僕もずっと、僕の想いもずっと、ここにいた。
二人   これで、星になれる?
ミサキ  うん。なれるよ。想いを伝えれば。

青年   星になったら。
ミサキ  なったら?
青年   今日、花火を打ち上げるんだ。ほら、あのときの写真。これにそっくりな花火を。
マコト  ミサキ、線香花火、消えちゃう!
ミサキ  (マコトに)マコト!(ひそひそ)
青年   日が暮れたら、打ち上げを始めるから。
マコト  もうちょっとだね。
ミサキ  うん。空から、見てるから。
マコト  未来の僕もなかなかかっこいいことするだろー。光の花束プレゼント。
ミサキ  だから、似合わないってば。

ミサキ  昔のマコトの想いも、いっしょにつれてくね。
青年   どの星へ?
ミサキ  琴座のベガのそばにある、小さな、小さな星。花火、キレイに見えたら、三回、瞬くから。

マコト  さよなら。
ミサキ  さよなら。

青年   さよなら!

青年   八月七日、晴天。今日は失敗できません。現在、六時四十分。日が沈みます。そろそろ、準備を始めなければなりません。

三人   (青年以外はささやくように)雲一つない空。半円形の月。星が、輝いています。

三人   (はっきりと)星が、輝いています。

   幕。



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