| 「戀」〜いとしいとしというこころ〜 |
タクミ、キーク、織姫、彦星(途中、「かささぎ」となっているところがありますが、キークの間違いです。)(35分)
織姫 あ
彦星 か
かささぎ い
タクミ め
織姫 だ
彦星 ま
かささぎ の
タクミ さ
織姫 そ
彦星 り
ひろげた鷲の つばさ
あおいめだまの 小いぬ、
ひかりのへびの とぐろ。
オリオンは高く うたい
つゆとしもとを おとす、
アンドロメダの くもは
さかなのくちの かたち。
大ぐまのあしを きたに
五つのばした ところ。
小熊のひたいの うえは
そらのめぐりの めあて。
そらのめぐりのめぐりあい
あいをむすぶはみえぬいと
いとしいとしというこころ
てんのころもにおりこめて…
タクミ 八月二日、どようび。たなばたさまへ。えーと…「小学校最後の騎馬戦、勝てますように!」「Sくん、好きです。告白うまくできますように」「字がきれいになりますように」「かけっこで一等賞とれますように」「家内安全」「携帯買ってほしい」(少年、作業を続ける)あー流れ星!(左から右へ眺める)ふぅ。あーあ、自由研究なんてなくなっちまえーっ!毎年片づけ当番だよ……もうそろそろ、決めないとなぁ…また来年も片づけかなぁ…あーあ、七夕のばかー!夏休みのばかー!
織姫やってきて
織姫 空の巡りの巡り会い、愛を結ぶは見えぬ糸、愛し愛しというこころ、天の衣に織り込めて…
織物の手を止めて
織姫 あーもうやってらんない。ちょっと、キーク、キークっ!…って、今出かけたばっか、か。
織姫、ノートを取り出し、読み始める
織姫 三ページ目。『愛しのマイハニー織姫へ…』
彦星 (木に登って、読み上げる)愛しのマイハニー織姫へ。君と会えなくなってもう三日だね。体の調子は大丈夫?こっちでは牛がうるさくってうるさくっても…
織姫 (ノートをぱたんと閉じ)十六ページ目。
彦星 最近は…そうだなあ。別に変わったこともないんだけど。あ、こんど僕の友達が服作ってくれって言ってた。青系統でまとめてくれ、だってさ。そ
織姫 (ノートを閉じ)五十八ページ目。
彦星 今度は白の女物な。サイズはM。近況報告はとくになし。
織姫 六十三ページ目。
彦星 とくになし。
織姫 七十五ページ目。
彦星 とくになし。
織姫 百十七ページ目。
彦星 とくになし。
織姫、手元にある一本の糸をぎゅっと引っ張って
織姫 キーク!キークってば!
タクミ (願い事)あー、また流れ星!(左から右へ眺める。と、何かが落っこちたようだ。)ん?(すこし足下を探し、きらきらした水晶のようなモノを、手にとって不思議そうに眺める)ん?隕石…?隕石だぁあっ!あー、夏休みの自由研究はこれで決まりだね。うっしゃ!来年こそは、片づけナシ掃除ナシの、夏休みだぁっ!
キーク、首を引っ張られて出てくる
キーク 織姫サマ。痛い。いたいですってば。あいでででででっ!
織姫 彦星からの返事は?今日は何時?どこ?
キーク 朝七時にぃ〜…
織姫 うんうん。
キーク 朝七時。
織姫 はい?
キーク だから、朝七時にぃ〜…
織姫 に?
キーク 朝七時。
織姫 キーク!
キーク だってだって、手紙落としちゃったんすよ〜織姫サマが引っ張るから。
織姫 手紙…落とした?
キーク う〜ん…多分日本のどっかですかねぇ。
織姫 まってよキーク。それっておおごとじゃない!?
キーク キークは、織姫サマがこんなことしてる(自分の首にまかれた糸を見ながら)罰だと思いますよ〜。
織姫 とりあえず彦星呼んできて!とりあえず父さんにバレる前になんとかしなきゃ…
キーク 織姫サマ、あの…
織姫 早くしなさい、キーク?(にっこり)
キーク へい、分かりましたっ!(走り出し)
織姫 あ、ちょっとまったぁ!(糸を引っ張る)
キーク ぐえっ!(つんのめる)
織姫 ついでに、落とした手紙、ちゃんと探しといてねっ!
キーク へいへーいっ!
織姫去る
キーク まったく、隊長の面目も何もあったもんじゃないっすよぉ…(空を見て)おーい、みんな、待ってろよ〜。必ずこの隊長キークが助け出してやるからなーっ!あーぁ。日本、日本ね。へいへい、っと。
タクミ もういっこくらい落ちてこないかな?…あ、また流れ星だー。今日はやけに多いなぁ…(右から左へ)へぇえんな、のぉぉおおおおおおっつ!?
近づく流れ星に驚いて、木陰に隠れる少年。
キーク、飛び出す。
キーク あのー、つかぬことをお伺いしますが。ここらに、これくらいの手紙…てか、星のかけらみたいなの、おちてませんですかねぇ?…って、おーい。誰もいないのかな?おっいたいた、少年。
タクミ だ、だ、誰ぇえええっ!?
キーク おっその、手に持っているものはなんだ、少年!
タクミ い、隕石。
キーク ちょっと見せてみろ?
タクミ やだよ、てか、おっちゃん誰さ?
キーク おっちゃんとは何だ!
タクミ お、おにぃさん。
キーク とりあえず、その手紙、返してくれよぉ、な、お願いだから。
タクミ 手紙?
キーク いやさ、中間管理職の悲哀ってやつでさぁ…それもってかないと、おれも、おれの可愛い部下も、みーんな(首ちょんぎる動作)コレなのよ。頼むよ少年。
タクミ タクミ。
キーク 頼むよ、タクミ。
タクミ お兄さん、リストラ寸前ってこと?
キーク 生きるか死ぬかの瀬戸際ってやつさ。
タクミ そんなに大事なんだったら…もってってもいいけどさぁ。
キーク おう。そりゃありがたいや。(持って去ろうとする)
タクミ (腕をひっつかんで)かわりに、僕の自由研究のネタちょうだいよ。
と、織姫、キークの首ひもをひっぱり。
織姫の声 キーク、はやくしてっ!父さんが日本のへん、うろうろしてる!隠れろー!もどってこーい!バカキーク!…ん?なんか、手応えがおかしいわね。よいしょ、よいしょっと、キーク!
キーク、両側から引っ張られる形に。
キーク はなせ、放してくれって、タクミ〜〜。
タクミ 自由研究のネタ。
キーク ね、ネタ〜〜?
タクミ 大人だろ〜?それくらい考えてよ。
キーク ネタ、ネタ
タクミ なんでもいいんだよ。来年の僕の夏休みかかってるんだから!
キーク なんでもいいんだな?
タクミ うん。めったにないこととかなら。
キーク あ、いでででで。
織姫 ほんとにヤバいってば、キーク!よい…しょっと!
キーク よぉしわかった、少年。しっかりつかまってろ!
タクミ え?うわぁああわぁああっ!何!?
キーク 星巡りだ!文句ないだろ!
タクミ 星巡り!?
キークとタクミ、空へとひっぱりあげられる。
四人、コロスとして少し声色を変え、うたう。
あかいめだまの さそり
ひろげた鷲の つばさ
あおいめだまの 小いぬ、
ひかりのへびの とぐろ。
オリオンは高く うたい
つゆとしもとを おとす、
アンドロメダの くもは
さかなのくちの かたち。
大ぐまのあしを きたに
五つのばした ところ。
小熊のひたいの うえは
そらのめぐりの めあて。
織姫 キーク、遅い!重い!あんた太ったんじゃないのぉ?
キーク まぁ、いいじゃないすか。任務完了しましたですよ、織姫サマ。
織姫 手紙、あった!?
キーク (タクミに)おぅ、それそれ!
タクミ え?えぇと…はい。
織姫 ありがと。…って君、誰。
キーク 彦星サマの手紙を持ってたんですよ。で、めずらしいものが見たいっていうから、連れてきたんす。
織姫 大たわけもの〜〜〜〜っ!
タクミ ねえおっちゃん、この人誰?
キーク (ひっぱりまわされながら)あ、あいた。あいたたた。織姫サマ、いだい、いだだ。痛いってば。
タクミ おりひめぇ?
織姫 キークのばか!父さんになんて言い訳するつもりよ。もぉお〜〜〜っ!
タクミ あ、あのさぁ、ねぇ、ここ、どこだよ?
キーク だから言ったろ?ここは天の川のほとりの…
織姫 たこ。
キーク (口をふさがれて)もごもごもごもごっ!もご!
織姫 君、名前は?
タクミ た…タクミ。
織姫 タクミくん、このまま、銀河のチリとなって消えるのと、このままおとなしく帰るの、どっちがいい??んん〜?
彦星があらわれて
彦星 おいおい織姫、お前それは脅迫だよ。
織姫 彦星!(手を離す)
キーク あー、彦星サマ!いいんですか出歩いて。
彦星 もう日は昇りかけてる。だいじょぶだって。キーク、お前が連れてきたのか?この子。
キーク は、はい…
織姫 まったく、何にも考えずにほこほこ連れて来ちゃうんだから。
彦星 そうかぁ…。
タクミ 待って待って待ってよ?ひこぼし、おりひめ…なんで?
織姫 なんで、って何が?
タクミ 今もう八月…
織姫 しーっ!だからダメって言ってるでしょ!さもないと…(彦星に止められて)
キーク それなんだよタクミ…俺達が…(彦星に止められて)
彦星 織姫、今日はどこへ行こうか?
織姫 なに言ってるのよ、もしこの子から誰かにバレたら…
彦星 こうすればいい。(タクミに)タクミ、君は夢を見て居るんだよ。そんな深く考えるなよ。
タクミ …
彦星 夢だよ〜タクミ。
タクミ ……そっか。夢かぁ。
二人、顔を見合わせてちょっと乾いた笑い。
彦星 まずは人物紹介と行こうじゃないか。え?僕は牽牛。彦星とか、彦とか、好きに呼んでくれ。
タクミ 僕は高橋タクミ。小学校の五年生。毎年ウチの小学校の七夕飾りの片づけ屋なんだ。今年はせっかく自由研究のネタが見つかったと思ったのにな〜。夢じゃな〜。
彦星 じゃあ次。織姫な。
織姫 私は織姫。…って、知ってるわよね。私のことくらい。呼び方はなんでもいいわよ。
タクミ おにぃさんは?
キーク かささぎ銀河隊隊長のキークだ。…今はただのパシリだけど。
タクミ なんで?
織姫 七夕伝説、知ってるわよね。
タクミ 一年に一度、天の川を渡ってあうんでしょ?二人が。
織姫 …そう、なんだけど。
タクミ でも二人、一緒にいるよね。夢だから?
キーク 織姫サマがワガママいいなさるから。
織姫 ワガママなのは…わかってる…けど。
タクミ ねえさ、なんなのさ。
キーク いやね。おおまかに話すと…
キーク、話し始める。
織り姫と彦星、それにあわせて無言の芝居
キーク 昔々、星空の神様の娘と、牛飼いの青年がおりました。天の川の東と西の、その二人は恋をして…
彦星 織姫。
織姫 彦星。
キーク ついに結婚!ということになりました。(二人抱き合う)二人は毎日幸せに暮らしました。天の川にある星のかけらを拾ってみたり、星座たちの間を散歩してみたり…しかし!(二人、ばっと前を向き)
キーク あまりにも仕事をしない二人に、神様の怒りが炸裂!(キーク、二人の間に入り、二人をひきはがし)
彦星 ああ!マイハニー織姫!
織姫 彦星ーっ!
キーク 二人は天の川の東と西に、元の通りに引き離されてしまいました。
タクミ …それで、一年に一回だけ逢えるんだろ?そんなの知ってるってー。
キーク タクミ…問題はそっから先でさぁ。
タクミ そっから先?
キーク ふたりをつなぐのは、光に乗せて届く交換日記だけ…けれど、はじめは言葉にあふれていた日記も、次第に言葉少なく、愛少なく。二人のきずなは…見えなくなってゆく。(一歩ずつ遠ざかる二人)
タクミ 逢えないと…だんだん忘れちゃうのかな。
キーク と、そこで織姫サマは考えた。消えていくきずな。見えなくなった二人を結ぶ糸。どうやったら取り戻せるだろう、どうやったらまた、二人で幸せになれるだろう。
タクミ 織姫、かわいそう〜〜。
キーク そうなのよ。気持ちは俺も分かるのよ。でも方法が問題でさあ。
タクミ 方法?
キーク 織姫サマは、天界いちの美しさ、天界いちの強さを誇る、自分が紡いだ糸で、我らかささぎ銀河隊を一網打尽!
織姫 とりゃぁ!(一網打尽)
キーク ひぇえええ。…それで、俺もこんな(自分につなげられた糸をみて)感じで、俺の部下たちも…
タクミ かささぎ捕まえて、織姫さんはどうするの?
織姫 人間界よ。
タクミ え?
織姫 人間界で、ふたりで、デートするの。普通の恋人たちがするように。日が昇って星が見えなくなってから、かささぎたちに乗って、地上まできて。ふたりで。普通の、恋人みたいに。
キーク …どう思う?
タクミ う〜ん…
キーク このおかげで、恋人達のかけたしになる部下も、願い事を空に運ぶ役目のやつも、みーんな織姫サマのパシリになっちゃってさぁ…
タクミ …た…大変だねぇ。
彦星 織姫、雲が晴れてきた。
キーク 彦星サマ、送っていきますだよ。
彦星 いいって。それよりこの子をはやく送っていってやれよ。
織姫 彦星…
彦星 また、な。織姫。
彦星去る
織姫 キーク、この子送っていって。
タクミ えー、もうかえんなきゃいけないの?
織姫 またきっと逢えるわ。タクミ。
タクミ 同じ夢なんか見るほど、僕、器用じゃないってば。
キーク さ、乗った乗った。
タクミ、気が付くとひとりに。
タクミ …あれ?あ…七夕飾り…まだある。『両思いになれますように』『金がほしい』…って、もうこんな時間か。…なんだこれ。「いとしいとしというこころ、てんのころもにおりこめて」…?
タクミ、去る。
タクミ 八月三日、日曜日、天気「はれ」
今日は、友達とプールにいきました。夏休みの宿題は、まだ、ぜんぜんやってません。プールでたっくさん泳いだ後、今からひとりで、アイスを食べながら帰ろうと思います。
…あちー。あーあ。自由研究、自由研究、自由研究、自由研究、自由研究、自由研究…
キーク (走ってきて)タクミ!!
タクミ …ん?(友達だと思って)なんか、忘れ物〜〜?って。おっちゃん!
キーク 失礼な。おにいさんだって言っただろ。
タクミ 相変わらずなの?なんか、板挟みがどうのこうの。なんかさ、おっちゃんが帰った後、僕、変な夢見てさあ。
キーク そんなことはいいから。タクミ。協力して欲しいんだ。
タクミ 協力?
キーク 織姫サマのことなんだが。
タクミ そうそう、織姫とか彦星とかが出てくる夢だった。あんなんじゃネタになんないって。隕石もなくなっちゃうし…って、なんで僕の夢の中身知ってんの。
キーク 夢じゃないんだ。タクミ。
タクミ え?
キーク 織姫サマの宮殿も、彦星サマも、星巡りも、夢じゃないんだ。
タクミ まってまって。どういうことさ。
キーク とりあえず、助けが必要なんだよ。
タクミ 怪しい…
キーク 隕石、いらないか?
タクミ もう一声!
キーク 星巡り解説つき。
タクミ わかったよ。おっちゃん、悪い人じゃなさそうだし。ちゃんと説明してみてよ。
織姫 空の巡りの巡り会い、愛を結ぶは見えぬ糸、愛し愛しというこころ…
織姫 …あっ。(糸が切れる)なんで…?(糸の切れた部分を結び、またうたを続ける)
キーク 前に、お前に話したろ。織姫サマと彦星サマの話。
タクミ うん。
キーク あれはぜんぶ、本当の話なんだ。
タクミ …そう。
キーク なんだ、質問はないのか。
タクミ うん。だっておっちゃんのこと信じるって決めたからさあ。
キーク じゃあ、そのまま話、続けるぞ。前に話したとおり、織姫サマと彦星サマは、昼の間地上に出て遊んでるんだ。この夏、毎日。
タクミ じゃあ今日も?
キーク 今日は織姫サマには帰ってもらった。いろいろ理由をつけてな。
タクミ なんで。いままでずっと逢えなかったんだからさ。可哀想じゃないか。もしかしておっちゃん、織姫のお父さんに何か言われて?
キーク 違うんだタクミ。戻るように言われたのは、彦星サマなんだ。
タクミ 彦星が?
キーク もちろん織姫サマは寂しがる。でも、彦星サマは言わなきゃいけなかったんだ。
タクミ でも、なんで。
キーク タクミ、これ、見えるか?(自分の首から出ている糸をつまみあげ)
タクミ うん。白い糸。
キーク 前は?
タクミ 首でなにか引っ張られてるのは知ってたけど…見えなかった。
キーク …織姫サマの糸が、ただの糸になってきてるんだ。
タクミ ただの糸?
キーク 織姫サマの糸は、神様の衣を織ったり、星と星との、人と人とのきずなを結ぶ、人間には見えないけれど強い、美しい糸なんだ。それをつむいで、織り上げることが出来るのは、天界広しといえども織姫サマしかいないんだ。それが…
タクミ その力が、だんだんなくなっていく?
キーク そう。
タクミ 織姫は、それに気が付いてるの?
キーク まだ気がついてらっしゃらない。けど、おれも、彦星サマも気が付いている。
タクミ その糸が全部ただの糸になっちゃったら、どうなるの?
キーク 人と人とのきずなは切れて、天の星は光を失って…もちろん、織姫サマと彦星サマも。
と、織姫がキークを呼ぶ
織姫 キーク、キーク!
タクミ …よんでる、ね。
キーク 急いで行かないと。力がかかりすぎると、この糸は簡単に切れちまう。
タクミ 待ってよ、僕はなにをすればいいの?
キーク すぐ戻ってくる。彦星サマももうすぐ来るはずだ。。ちょっと待っててくれ!
織姫の宮殿。
織姫 キーク。最近は抵抗しないのね。
キーク (笑いながら)もう無駄だと分かりましたからね。
織姫 ねえ、どうして今日は駄目なの?
キーク 言ったでしょう。今日は見通しが良すぎるんですよ、お父様にすぐ見つかりますよ。
織姫 そんなことないわよ。今日も彦星と話したいことがいっぱいあるのに。昨日はすぐ夜が来ちゃって、聞きたいことも聞けなかった。
キーク こんなに長い年月いっしょにいて、そんなに話すことがあるもんですかね。
織姫 いっぱいあるわよ!出会ったときに比べてどう変わった?とか、他に好きになったひと、いない?とか…仕事ちゃんとしてる?とか…聞けば聞くほど、もっと聞きたい事が出てくる。昨日なんて、「浮気した?」って聞いたら、あの人、口ごもったのよ?結局答えは聞けないまま。ねえキーク、まだ日没まで時間があるから…ダメ?
キーク だ・め・で・す。
織姫 …けちんぼ。
キーク そんなこと…彦星サマを信じていればいいじゃないですか。今までみたいに。
織姫 …もう、無理なのよ。
キーク え?
織姫 …ううん。キーク、彦星にこの手紙、届けてきて。今度会う日はいつにする?って。
キーク …わかりました。織姫サマ。
織姫 「いとしいとしというこころ、てんのころもにおりこめて…」
キーク 待たせたな、タクミ。彦星サマ。
彦星 キーク。どうだった?あいつ…
キーク 織姫サマは…まだなんにも気が付いていないみたいで…
タクミ ねえおっちゃん、どんな協力がいるのさ?
彦星 あいつの糸がだんだん、ただの糸になってる話は聞いたろ?
タクミ うん。
彦星 あいつを、もとに戻してやってほしいんだ。
タクミ もとに?
彦星 糸を紡げたころのあいつに。ものごとを信じられるあいつに。
タクミ でも、どうやって?
キーク そこが問題だよなぁ…
タクミ だいたいさ、なんで織姫を不安にさせるようなことばっかり言うのさ。
彦星 そうだよなあ。問題は俺だよなあ…
タクミ もう織姫のこと、好きじゃないの?
彦星 う。
キーク 彦星サマ。
彦星 す…す。
タクミ す?
彦星 すすす…き、だけど…。
タクミ …口べた?
キーク (大きくうなずき)そう。
彦星 あとは…時間、かな。
タクミ 時間?
キーク 倦怠期、ってやつですよ。
彦星 なんかさ、見えなくなってきたんだよなあ…いろいろ。お互いのいいとことか、気持ちとか。
タクミ でも、好きなんでしょ?
彦星 う〜ん…
キーク とりあえず、織姫サマをどうやったら、もとにもどせるかですよ。
タクミ 彦星のことを信じられるようになればいいの?
彦星 分からないけど…
タクミ しっかりしてよ。まったく。何年つきあってるんだよ。
彦星 どうせこのままいけば、糸はただの糸になって、また逢えなくなる。その前にあいつに、笑ってほしいんだ。
タクミ 笑う?
彦星 最近さ、人間界に降りて、いっしょにいても、あいつ、笑わないんだ。…顔は笑ってるんだけど、前よりもっと、淋しそうなんだ。
三人、だまりこみ。
タクミ 要するにさあ。
彦星 うん。
タクミ 二人が楽しくて、よりを戻せるようにしろ。ってことは…
キーク 人間界に詳しいお前ならできるだろ〜〜?
タクミ 僕に、デートコースを作れ、ってこと?
彦星 俺の希望としては、な。
キーク それでなおかつ、織姫サマが彦星サマとの絆を実感できれば万々歳なんだって。
タクミ (日記帳にかきこんで)はいはい。あーあ、オトナってわかんないなー。
キーク よろしく頼むよ、タクミ。
タクミ いつがいいの?
彦星 七夕から一ヶ月。八月七日に。
タクミ 八月四日、げつようび。宿題は、ぜんぜん進みません。今日は本屋さんに行って、「大人のためのデートコース」とか「おすすめスポット穴場情報」とかをいっぱい読んでみたけど、いまいち分かりません。
キーク 織姫サマはますます元気がなくなっています。織物も光を失って、ただの薄汚れた布のよう。おれの命令で部下達はまだ、織姫サマにつかまえられたフリをしているものの…ばれるのは時間の問題。
タクミ 八月五日、かようび。東京ディズニーランド。プール。…たしかに普通のデートだけど…行くと別れる、っていう噂ばっかり。シャレになんねー!
キーク 彦星サマがひっそり、織姫サマの様子を見に来る。織姫サマは最近、自分の部屋でふさぎ込んでばかり。そのあと、彦星サマをタクミのところへつれていく。へい、とぅちゃぁ〜く!
三人、一同に介し。
タクミ えぇえぇええええぇ?
彦星 …あれ。あー、やっぱり、言ってなかったっけ…
タクミ きいてないよー、お金がぜんぜんないなんてー!
キーク え、タクミ、お前まさか織姫サマと彦星サマがお金、ってのを持ってると思ってたのか?
タクミ だってだって、二人ともなんか、豪華な感じするじゃん!昔話の中とかだとさ、黄金の飾りがどうとか、星のカケラがどうとか。
キーク そりゃ、天上のものは人間界のものよりも、もちろんずぅっと綺麗にできてるよ?でもさ、それをお金に変えたりしようもんなら…
彦星 織姫のお義父さんが…
キーク 『ん?あの腰ひもはどうした。なに、娘の髪飾りも。』
彦星 『ふむ…どうやら人間の手に渡ったらしいなぁ…おや?お前達がそこに隠しているものはなんだね?』
キーク 『ほう、人間界の通貨か…。して、お前達、どうしてこんなものが必要なんだい?』
彦星 って言って、 にーっこり。
タクミ …どうしよう、デートっていったら、二人で3万円くらいはぜったい、必要だよ。
キーク …三万円って…
彦星 三万円…って…
タクミ それくらいなら出せる?
彦星 三万円って、いったい、どれくらいなんだ?
タクミ だめじゃん。
キーク その、デートってのにはそんなにお金がかかるもんなのか?タクミ。
タクミ まぁ、お金かけないデートもあるんだろうけど…ねえ彦星、今まで、織姫とデート、っていったら、何してたの?この、人間界で。
彦星 …空を見たり。
タクミ ふぅん。まぁ、いい雰囲気じゃない。
彦星 木に上ったり。山に登ったり、
タクミ へ、へぇ…アウトドア系だったんだねー。
彦星 あとは、無言で立ってたり。ゴミを拾ってみたり。
タクミ …ねえ。それ、楽しい?
彦星 だって…何したらいいか、分からなかったし…
タクミ それで、織姫とはなにをしゃべってたの?
彦星 なんか、うーん…とりあえず頷いてみたり、適当に。
タクミ 織姫、カワイソ〜〜。それじゃ、心配になってもしょうがないよ。まったくもう。昔はもっと仲良くしゃべったり、してたんじゃないの?
キーク 昔はそりゃぁもうアツアツでしたよ。
タクミ なんで今はそうできないのさ。
キーク 交換日記を書かなかったのがいまさらになって気まずい…
タクミ ふぅぅうん。浮気とかしてたんじゃないのー?
彦星 浮気なんかしてないって!
二人 ほんとかなぁああぁあ?
彦星 してない、ってば!
キーク と、ふざけるのはほどほどにして、と。どうする?タクミ。その、三万円とかがないと、無理なのか?
タクミ うーん…貧乏デートはつらいなぁ…一日、考えてみる。それに…(ポケットからちいさな財布をだして)
彦星 それに?
タクミ 僕も…お金ないけど、ちょびっとなら出してあげてもいいよ。
彦星 ありがとう、タクミ。恩に着るよ。
キーク (かすかな糸の動きを感じ取って)織姫サマが呼んでる。おれはもう行かないと。
彦星 そうか。またな、キーク。
キーク 彦星サマ、帰るときには部下をよんでくださいね〜。(去る)
タクミ …ねえ、彦星。
彦星 ん?なんだ、タクミ。
タクミ ふたりとも、さ。ずっとずっと、会えないんだよね。
彦星 …そうだなぁ。これから何年も何年も、一年にいちどだけ。
タクミ うん。
彦星 疑ったり寂しがったりして、勘ぐりあって。
タクミ 彦星は、それでも織姫といっしょにいたいの?
彦星 そりゃあ、夫婦だからな。
タクミ 夫婦だから、とかじゃなくて。いちばんさいしょと同じ気持ちで、織姫といたいの?織姫が泣いても、こんなふうに、二人とも、お互いよくわかんなくなっちゃっても、いっしょにいたいの?
彦星 そりゃあ、いちど一緒になったんだ。だから…
タクミ そういうことじゃなくて。天の川の東と西じゃなくて、お互い、同じ岸辺にいるひとを好きになれば、こんなに苦しくなかったんじゃないの?
彦星 おっと、もう日が沈んじまう。話が途中だけど…またな。タクミ。
タクミ 彦星!
彦星 (去り際に振り返り)ん?
タクミ ぼくには、言わなくていいからさ。織姫にはちゃんと言ってあげてよ。自分の気持ち。
彦星 …わかった。また、な、タクミ。(空に向かって合図をし、去る)
タクミ 八月六日、水曜日。あぁあああぁああ。一日しかない。ってか…宿題もいっこもやんないまま、もうちょっとで夏休み半分終わりだよ…。しかもぼくのおこづかいも…ひのふのみ…わずか600円。あ、今日、少年サンデーの発売日だ。立ち読みしてこうっと。(コンビニに入り、雑誌を手に取るマイム。コミカルに。)ん?「彼とあなたの深層心理を明らかにする。心理テスト100選」…?
織姫 キーク…ごめんね。なんか、具合、わるくって…。
キーク 織姫サマは具合が悪いくらいが、おしとやかでいいですねぇ。
織姫 そう、かもね。
キーク ……いやですね。なんかこう、いつもみたいに食ってかかってきてくださいよ。
織姫 彦星から、連絡ないの?
キーク …な…なんだかお仕事が忙しいみたいですよ。
織姫 キーク、ねえ、こっちむいて?
キーク はい?
織姫 (キークの首から伸びる糸をつかんで、引きちぎる)やっぱり…切れちゃった。
キーク あ、あの、織姫サマ。
織姫 ううん。知ってたの。…このまま、なんにもできなくなっちゃうのかなぁ…
キーク 知ってたん…ですか。
織姫 彦星、も?でしょ。
キーク はい。
織姫 明日、あの人に会えない?わたし、このままじゃ…なんにもできない。
キーク わかりました。タークーミー!
タクミ あれ?…声…どっから?おーい、どっから声かけてるのー!
キーク 織姫サマの宮殿からだ!ちょっとこっちに来てくれ!
タクミ 来てくれ、っていったって…(店員に)あ、はい。250円。払います。
キーク タクミ、捕まって!(無理矢理宮殿に引き上げる)
タクミ わ、わぁああぁあ。
タクミ …相変わらずあぶないやりかただなぁ…あれ、織姫、だいじょうぶ?顔色、悪いよ?
織姫 だいじょうぶ。あした、彦星に会うの。私、ちゃんと彦星の気持ち確かめないと、なんにもできなくなっちゃう。
キーク 織姫サマは気がついていたんだよ。糸のこと。
タクミ そう、なんだ。
キーク それで、彦星サマと織姫サマが絆を実感できるような、お金のかからないデートコース、ってのはできたか?タクミ。
タクミ そう、そう思って買ってきたんだ。これ、織姫にプレゼント。
織姫 「彼とあなたの深層心理を明らかにする。心理テスト100選」?
タクミ これ、もっていきなよ。明日、日か照った頃。(紙を渡して)ここに来て。彦星も呼んでおくから。
キーク ここは…おれとタクミが会ったとこか?
タクミ そう、学校の裏山。ごめん、やっぱ、お金かかるとことか遠いとこはわかんないからさ。学校の近くだったら、案内できるよ。
織姫 わかった。
タクミ …ねえ、織姫。
織姫 なに?
タクミ もし、好きな人が、天の川の向こうじゃなくて、そばにいたら、って思ったこと、ある?
織姫 あるわよ。何度も。
タクミ それでも彦星が好きなの?いっしょにいたいの?一年に一度しか会えなくても。
織姫 だって、いっしょにいるしかないじゃない。
タクミ 結婚、してるから?
織姫 そう。
タクミ 七夕が無くなったら…
織姫 え?
タクミ ううん、なんでもない。ねえ、織姫と彦星にはさ、願い事を叶える力があるんだよね。
織姫 う、うん。あるけど。何?
タクミ ぼくの願い事、かなえてくれる?
織姫 おっけ、いいわよ。今回も、なにやらキークと彦星が迷惑かけたみたいだし。
キーク 迷惑って、そんな…
織姫 でも三つだけね。あと、「お金」とか「願い事増やしてくれ」とかは反則。ダメだからね。
タクミ わかった。明日、夜になったら、言うよ。
タクミ 八月七日。もくようび。
織姫 久しぶり、ね。彦星。
彦星 ひさしぶり。って言っても、たいして時間はたってないけど。
キーク さて、タクミ、今日のコースの確認。
タクミ 今日は…えっと。まず、草むらから出発して、せみ街道。そのあとひまわり畑。で、そこを抜けると山田さんの畑があるから、そこからまっ赤なトマト取り放題。で、道があるからそこを降りて、ベンチあり。そのあとちょっと行くと、駅の近くに出るから、そこでゲームセンターとか、本屋とか、コンビニとか好きなとこに入ってよし。
織姫 キークとタクミは?
二人 お邪魔はいたしません。
彦星 迷うような道じゃないだろ?
タクミ うん。一本道。織姫織姫。
織姫 なになに?
タクミ (織姫だけに)どんどん聞いちゃって。質問に答えるだけなら、きっと彦星、しゃべってくれるから。
織姫 わかった。なんか、楽しみなような怖いような…とりあえず、がんばるわ。
タクミ 彦星!(彦星だけに)とりあえず、聞かれたことに答えればいいから。口ごもらない、黙らない、わかった?
彦星 …わかった。
二人 それではごゆっくり〜〜〜♪(木の陰に隠れる)
彦星 あ、あの、さぁ…
織姫 (手を差し出して突然)どれでもいいから、指握ってみて
彦星 え?ゆ、ゆび?(とりあえず人指し指を握る)
織姫 あーっ!人指し指握った…
彦星 な、なんだよ。どれか握れっていうから握ったわけで…
キーク あれは、なにをやってるんだ?タクミ。
タクミ 心理テスト。あれで、深層心理が分かるんだって。
キーク あれだけで、うまくいけばいいけどなぁ…
タクミ まぁ、最終手段もあるし。
彦星 …待ってくれって。なんで怒ってるんだよ。
織姫 どの指を握るかで、その人への思いがわかるんだって。ほら、ここに書いてあるでしょ。
彦星 で、俺の織姫への思いは?
織姫 えーと。「親指から順番に、尊敬、嫌い、友達、好き、恋人」…
彦星 …ってことは?
織姫 彦星、私のこと嫌いなんだー。ふーん。あんたの気持ち、よーくわかったわ。
彦星 お…怒んなよ
織姫 うそつき。
彦星 うそつき、って…おい、機嫌直せってば。
織姫 なによ、会った頃は始終好きっていってたくせに。
彦星 そんな…こんな占いみたいなの一つで判断しなくたっていいだろ。
タクミ なんか、会話が軌道にのってきたんじゃない?
キーク あぁ、最近、あんなにぽんぽん喋ってるあのお二人を見たことはなかった。
タクミ うんうん、いい感じだねぇ。
キーク 最終手段は使わないにこしたことはないからな。天帝サマにみつかったら大目玉だ。
織姫 じゃあ…アナタは今、真っ暗な部屋の中、目を閉じています。
彦星 こんな蝉がうるさいとこで、真っ暗な部屋とか言われても…
織姫 いいから。彦星、あんたはまっくらい部屋のなかにいるの。で。パッと目を開けた時、そこに何本ローソクが見える?
彦星 ローソク?えーと…み、見渡す限り…
織姫 見渡す…限り?
彦星 それは、なんだって?愛情の多さ、とか?
織姫 ローソクの数は、一度に好きになれる人の数!
彦星 え、ご、誤解だって!
織姫 …ほらやっぱりうそつき。浮気してないとか言ったくせに。
彦星 違うってば。
タクミ …会話のテンポはいいけどさぁ。なんか、話はどんどん悪い方向に行ってる気、しない?
キーク …うーん…た、確かに…
織姫 じゃあ次の質問。
タクミ こんどははずすなよ〜〜彦星。
織姫 部屋を出ると、壁がありました。その高さはどれくらい?
彦星 う〜ん…ひざくらい
織姫 それはアナタのプライドの高さです
彦星 えっ…
織姫 壁を越えて行くと
彦星 うんうん。
織姫 湖がありました。大きさと深さは?
彦星 狭い上に膝くらい
織り姫 それはアナタの交友関係の広さと深さです
彦星 うっ…
タクミ 彦星…情けないなぁ。どう?あたってる?
キーク うーん…八割方。
タクミ なんか、これで、織り姫が逆に愛想つかしちゃったらどうしよう…
キーク 縁起でもないこというなって。
織姫 もう少し行くと、動物に出会いました。それはどんな動物でしたか?
彦星 …ご、ゴリラ
織姫 …ふーん、あ、そう!…その動物に対して何をしましたか!?
彦星 エサをちらつかせて何か芸をさせる
織姫 …それはねぇえ、彦星、アナタの好きな女の子のタイプとそのコにたいする態度なのよ!
彦星 うわ、織姫、やめろ。トマトを投げるなーっ!
タクミ ここまでくるとさぁ。
キーク うん。
タクミ 狙ってるとしか思えないよね。
キーク …どうだかなぁ…彦星サマは天然だから…
織姫 よーくわかった。アナタは、ゴリラみたいな私にエサをちらつかせて芸をさせたいと思ってる事がよーく理解ったわ
彦星 織姫、そうじゃなくて…だから…
織姫 (でっかい声でさえぎり)花瓶に水がはいっています!どれくらい?
彦星 …まってくれ。考えさせてくれ。
織姫 はやくしてちょうだい。
彦星 い、1cmくらい
織姫 (ぶちきれて)キーク、タクミ、そこらにいるんでしょ!
二人 はぁい…
織姫 あの人…私のこと、ほんとに嫌いなのかな…いちセンチくらいの愛情しか…ないのかなぁ?
タクミ …逆効果…だった…かなぁ。
織姫 いっしょにいたいとか思ってたのは私だけだったってわけ…もう…やだ。
キーク ほらほら、これなんかどうですか?人魚姫。
織姫 (無視して彦星に)ねえ、彦星。
彦星 ん?
織姫 もう…会わない方がいいのかな。
彦星 な、なんで。
織姫 あんたといると、不安になる。悲しくなる。一緒にいるときは楽しいけど、辛くなる。一年のうち、364日は、ずっとずっと辛いまんま。だから。
タクミ (キークと目をあわせ)願い事、いっていい?
キーク タクミ。
織姫 いいわよ。どうぞ。
タクミ たなばたさまへ。いっこめ。夏休み自由研究がなくなりますように。
織姫 うん。
タクミ にこめ。背が伸びますように。
織姫 うん。
タクミ さんこめ。織姫と彦星が悲しいだけの七夕なんて、なくなっちまえーっ!
はじき飛ばされる織姫と彦星。
両側から引っ張られるような力で、ひきはがされる。
キークは、彦星のそばに。
彦星 織姫!
キーク なななな、なにがおこったんだぁ?
彦星 織姫!
キーク 織姫サマ、ほんとにいいんですか?ほんとに彦星サマにもう会えなくて、いいんですか?
織姫 だって…
彦星 織姫…
タクミ (でっかい声で)もう、日が沈むよ。帰らなきゃいけないんだよ。ここでお別れしちゃったら、もう、絶対、会えないんだよ!
キーク (彦星をぎゅっとつかんで)織姫サマ!キークには分かりますよ。織姫サマの糸が、もとに、もどってる。
タクミ いっしょにいたいんだったら…その糸を…
織姫 彦星!
キーク いだだだだあだたた。
風が、やむ。
キーク …あああ。死ぬかと思った。
タクミ だ…だいじょぶ?
彦星 織姫…
織姫 彦星…
タクミ …もう二人とも、意地の張り合いはしないでよ。
キーク ほんとですよ…首は締まるし失敗したら全員、首チョンだし…
織姫 キーク…
キーク 織姫サマは相変わらずバカ力だし…彦星サマも。
タクミ あ、ほんとだ。羽根、ハゲちゃってる…
彦星 悪い悪い。
織姫 夕暮れ…
彦星 長い、七夕だったな。
織姫 キーク、隊員たちを集めて。
キーク はいっ!
織姫 あと…タクミ。
タクミ うん。
織姫 ありがと。
彦星 七夕…なくなるのかなー。
織姫 そうねえ…願い事って取り消し、きくっけ?
タクミ なくなんないよ。
二人 え?
タクミ だって僕、「二人が悲しいだけの七夕なんてなくなっちゃえ」って言ったんだもん。悲しいだけじゃないなら、なくならないよ。
彦星 …そう、か。うまくやったもんだなぁ。
タクミ あ、でも、みっつめはいいけど、いっこめとにこめはちゃんとかなえてよね。
織姫 わかった。キーク、みんなあつまった?
キーク はい、かささぎ銀河隊、架け橋の三十六人、集まりました!
彦星 日が、沈む…
織姫 また、1年後にね。
彦星 また、1年後に。
キーク また、会う機会があったら。
タクミ うん。来年の七夕、晴れるといいね!
三人去る。
かささぎたち、解き放たれる。
タクミ 真っ白い、彗星が、空まで駆け上がってく!
あかいめだまの さそり
ひろげた鷲の つばさ
あおいめだまの 小いぬ、
ひかりのへびの とぐろ。
オリオンは高く うたい
つゆとしもとを おとす、
アンドロメダの くもは
さかなのくちの かたち。
大ぐまのあしを きたに
五つのばした ところ。
小熊のひたいの うえは
そらのめぐりの めあて。
そらのめぐりのめぐりあい
あいをむすぶはみえぬいと
いとしいとしというこころ
てんのころもにおりこめて…
(幕)
(この脚本を使いたい方は使用許可メールフォームをご利用下さい)