*神様、あなたに会いたくなった(3人バージョン)

(シンゴ、ミーコ、圭一)40〜45分

   暗闇。
   車の音。
   ふわりと駆け出す、白い影が見える。
   急ブレーキ。
   シンゴ、後を追うが、途中で何かにはじかれるように止まる。
   先へは、進めない。

シンゴ  (叫ぶ)

   舞台、一瞬真っ暗に。
   明るい音楽が聞こえる。
   ミーコ、座っている。
   シンゴ、語り始める。

シンゴ  桜咲く。おっちゃんおばちゃんに、にーちゃんねーちゃん!花見客でいっぱ
     いだ!ポテトチップス、スモークチーズ、ポカリスエットカルピスソーダ!
     いいねぇいいねぇ。だけど目当ては決まってる。
     目指せツナ缶!目指せマクドナルド!僕はまっすぐ駆けだした。途中で誰か
     のお弁当のコロッケの香りが。これはヒット! でも僕は負けない。桜の根本
     にはウインナー発見。こいつはイタい。思わず立ち止まって、口に入れた。
     と、そこにヤツがやってきた。僕の宿敵。くっ、このままでは僕のツナとマッ
     クが危ない!僕は必死だ。待ってろツナ缶!十年会えなかった恋人を追うみ
     たいに、僕は走る。ひたすら走る。もう愛しのツナ姫は目前だ。そこでジャ
     ンプ!
     勝った・・・・・・僕は思った。愛しのツナを抱きしめようと手を伸ばす。
     けれどそこにはもう、愛しの彼女の姿は無かったんだぁ・・・・。ん?

   シンゴ、幕内に誰かを見つけたらしく

シンゴ  (幕内に向かって)けっ、バーカ!二度と来んな!
ミーコ  喧嘩なの?  
シンゴ  ああ。
ミーコ  どこの人?
シンゴ  一丁目のトラだ。あいつなんだよ。僕のツナ缶取ったの。
ミーコ  いいじゃない、それくらい。
シンゴ  お前なぁ、野良の世界って言うのはそんなに甘くないんだぞ。食べ物なくなっ
     たら、後は死ぬだけなんだ。
ミーコ  だって、前によくしてくれたんでしょ?
シンゴ  そんなの関係ないんだよ。
ミーコ  分かった。いいわよ。あたし謝ってきてあげる。
シンゴ  油断すんなよ。ヤられちまうぞ。今は桜の季節だからな。
ミーコ  そんな馬鹿なこと。
シンゴ  冗談だって。でもまぁ、 半分は本当だけどな。ここらは雄ばっかりだから。
ミーコ  はいはい。
シンゴ  (食べ物を出してきて)食うか?
ミーコ  なあに?それ。
シンゴ  カラスから盗ってきた。
ミーコ  いらないわ。今、お腹空いてないし。
シンゴ  そっか。あ〜あ。身分違いの恋はつらいよ。
ミーコ  やだ。何言ってるの!
シンゴ  だってそうだろ!僕が一生懸命食べ物盗ってきたって、お前食べないんだから。
ミーコ  あたし、そんなつもりじゃ・・・
シンゴ  どうせ人間が好きなんだろ!
ミーコ  シンゴ。
シンゴ  (そっぽを向く)
ミーコ  拗ねないでよ。
シンゴ  (またそっぽを向く)
ミーコ  仲間では、あんたが一番なんだから。
シンゴ  じゃあ、お前の飼い主と比べたら?
ミーコ  二番。
シンゴ  ちぇっ!
ミーコ  どんな人だって、圭一さんは特別なの。
シンゴ  (バカにしたように)へー。
ミーコ  もう・・・
シンゴ  (小声で)これでも結構本気で・・・
ミーコ  え?何?
シンゴ  何でもない。
ミーコ  そう。・・・あ、そうだ。謝りにいかなくっちゃ。

   ミーコ、立ち上がる。

シンゴ  ・・・あれ?
ミーコ  なあに?
シンゴ  お前、血が付いてる。
ミーコ  ああ、これ・・・・
シンゴ  (ミーコの言葉を聞かず)まさかお前・・・俺を差し置いて・・・
ミーコ  (意味に気づき)エッチ!(平手打ち)
シンゴ  ・・・痛ってぇなぁ。一応心配してるんだぞ。何があったんだよ。
ミーコ  どうでもいいでしょ。(出かけようとする)
シンゴ  ミーコ!
ミーコ  何でもないって。
シンゴ  ほんとに?
ミーコ  ほんとに。じゃ行ってくるわ。
シンゴ  気をつけろよ〜。何かあったら、すぐ僕に言うんだぞ。
ミーコ  (あえて無視する)

   ミーコ去る。

シンゴ  (苦笑しながら)無視しやがった・・・・

   シンゴ、身の回りのゴミなどをあさる。
   何気なく空を見上げてみたりもする。
   人の気配。
   あわてて物陰に隠れる。
   (少女、声のみ。幕内から。)

少女   圭一、遅れるよ?
圭一   ああ。
少女   何やってんのー?
圭一   ・・・・猫が。
少女   猫?
シンゴ  (警戒している)
少女   猫、好きなの?
圭一   いいや。
少女   あたしアレルギーなのよね。近づけないし。
圭一   じんましんが出るんだっけか?
少女   うん。って、そんなこと言ってる場合じゃなくて。ホントニ遅れちゃう。
圭一   なんか、食い物持ってないか?こいつにやるやつ。
少女   (ため息をつきながら)餌あげたいのね。ほら!

   舞台袖から菓子パンが飛んでくる。
   圭一、受け取る。
   なにやらごそごそとやったあとで、
   シンゴの目の前にちらつかせる。

シンゴ  (ゆっくりと圭一に近寄る。けれど、途中で止まる。)
圭一   ・・・・馴れてないと無理か。

   圭一、パンを置き、すっくと立つ。
   シンゴ、驚いて逃げる。

少女   もう待てないんですけどー。
圭一   あぁ、今行く。
少女   あーあ。これで今日一日、圭一には近づけないなー。
圭一   もともとうちには猫が居るぞ?
少女   え?圭一の家って猫いるの?
圭一   白い猫でさ。鈴つけさせてる。
少女   雄?雌?
圭一   メス猫だよ。

   二人、会話しながら去ってゆく。
   シンゴ、警戒を解き、蒸しパンに近づく。
   ミーコが帰ってくる。
   何かにおびえているようだ。

シンゴ  あ、おかえり。
ミーコ  あ、うん。
シンゴ  何て言ってた?
ミーコ  いつものことだから、って。・・・・なあに?それ。
シンゴ  ああ。人間からもらった。これなら、お前食べられるんじゃないか?キレイ
     だし、腐ってないし。
ミーコ  いらない。
シンゴ  そうか?
ミーコ  そうよ。(シンゴが口を付けるのを見て)ダメ!
シンゴ  な・・・何だよ。
ミーコ  人間のくれたものは、ダメなの。
シンゴ  どうして。
ミーコ  ・・・危ないわ。
シンゴ  何でだよ。虫がわいてるわけでもないしさ、悪いものが入ってるとでも言う
     のか?
ミーコ  ダメなの!絶対ダメ。
シンゴ  お前の飼い主になんかされたのか?
ミーコ  ううん、そんなことない。
シンゴ  ・・・・・・分かったよ。(蒸しパンを放り投げ)これで、いいだろ。
ミーコ  ありがと。・・・もう日が暮れてきたわね。
シンゴ  帰るのか?
ミーコ  明日も来るわ。明後日も。
シンゴ  送ってってやるよ。
ミーコ  いいわよ。
シンゴ  送りたいんだよ。
ミーコ  だーめ。
シンゴ  ミーコ。
ミーコ  ほんとに、来るわ。明日も明後日も、そのまた次も、昨日と今日と同じよう
     に。

   ミーコ去る。
   客席通路を、少し急いで歩き始める。
   シンゴ、見送っているが思いついたように追いかけはじめる。
   ミーコの姿はいつの間にか消え、
   シンゴは目探ししながら追いかける。
   薄暗い舞台にミーコが現れる。
   小さく、攻撃的な音楽が聞こえる。
   圭一の部屋。
   少女はキッチンの方でなにやらお菓子を作っているらしい。
   (少女、声のみ)

少女   (短く驚いた声を出し)ねぇ、、圭一のネコ?
圭一   え?

   ミーコ、隠れる。

圭一   (幕内に顔を入れ)何もいないじゃないか。
少女   そこに、白いネコがいたと思ったんだけど。
圭一   遠慮してるんじゃないか?
少女   え?何で。
圭一   邪魔しないようにってことだよ。
少女   なんだぁ、見るだけ見てみようかと思ってたのに。あ、ホットケーキ焦げちゃ
     う!
圭一   呼んでみるか?(ドアを開け)おい、ミーコ!!

   ミーコ、警戒する。
   圭一達の居る方とは逆の幕を
   わずかに持ち上げて、上半身のみであたりを伺う。
   おそるおそる一歩を踏み出そうとするが。

少女    呼んだら来るネコなんて、聞いたこともないわよ。

   少女、ドアを閉める。

少女   あ、そろそろ行かなくちゃ。
圭一   バイト?
少女   じゃあね。ホットケーキ、食べていいから

   少女、去る。
   圭一、一人になり、思いついたように呼ぶ。

圭一   ミーコ!

   ミーコ、ドアを開ける
   突然音楽、大きく。
   追いついたシンゴ、大きな音に驚いて隠れる
   ミーコ、悲しそうな表情で中にはいる。

圭一   ・・・・・さっきから居ただろ。
ミーコ  ・・・・・。

   ミーコ、圭一にすり寄る。
   圭一、邪魔そうに足を動かしながら

圭一   ったく、苦情言われんだよな・・・・・(言いながらドアを閉じる)

   と、シンゴに気づき。

圭一   恋人かよ!
ミーコ  シンゴ!
圭一   いい気なもんだな!(手近にあった本を手に取り、ミーコをひっぱたく)
シンゴ  あっ、てめぇ、何してんだよ!

   シンゴをかばい、ミーコが飛び出す。
   圭一、構わずにシンゴに向かって本やCDを投げつける

圭一   邪魔なんだよ。
シンゴ  ミーコ、何だよコイツ!
ミーコ  ・・・・・・
シンゴ  逃げなくていいのかよ!
圭一   さっきからギャーギャー鳴きやがって。春だからか!?あぁ?(二匹を蹴る)
シンゴ  ・・・お前、なんで言ってくれなかったんだよ!
ミーコ  (かばいながら)・・・・・・シンゴ。

   シンゴ、一瞬動きを止める。
   そして、振り返り振り返りしながら、去る。
   圭一、息を荒くしたまま無言で立ち続ける
   散乱した本やCDを蹴散らしながら、
   椅子に、戻る。

ミーコ  ・・・・・・・・・・・。

   ミーコ、無言で圭一にすり寄る。
   圭一は再び音楽を聴き始める。
   圭一の膝にミーコはもたれかかり、
   時間が、過ぎる。
   いつのまにか圭一は眠り、
   ミーコはそっと立ち上がる。
   ゆっくりとドアを開け、ドアをくぐる。
   音楽、小さくなる。
   そして一度振り返ると、走り出す。
   舞台薄暗くなっていき、音楽も遠くへ消える。
   
   そして、薄明かりのゴミ置き場。
   なにやら物音がする

シンゴ  ・・・・ってー!・・・ちっくしょお・・・・・・

   足音。
   薄暗い中、シンゴ構える。

シンゴ  誰だ?
ミーコ  あたしよ。
シンゴ  お前!大丈夫だったか?・・・ったく、何だよあの人間。普通あんなことす
     るか?
ミーコ  怪我、平気?
シンゴ  僕のことより、オマエのことだろ。ほら、ここも。
ミーコ  うん。
シンゴ  そこで横になってろよ。見張っててやるからさ。腹減ってるだろ?なんか捜
     してきてやるよ。
ミーコ  ありがと。
シンゴ  ・・・・あ、あぁ。
ミーコ  (微笑しながら)照れてるの?
シンゴ  そ、そんな、こと。・・・・それよりっ!あの人間ひでぇよなぁ。
ミーコ  圭一さんのこと、悪く言わないで。
シンゴ  だって、いつもあんな風なんだろ?前の、足の怪我だって・・・
ミーコ  (遮って)ねぇ、シンゴ。
シンゴ  (勢いをそがれて)え?
ミーコ  かみさまって、信じる?
シンゴ  神様?
ミーコ  あたしね、いつもかみさまに会うの。夢の中で。
シンゴ  僕が見る夢は、食い物とか、食い物とか、食い物とか。
ミーコ  (笑いながら)もう。なにそれ。
シンゴ  あとは、お前の・・・
ミーコ  (気にせず)でもね、あたしの夢は違うの。真っ暗で何も見えないのよ。そ
     して歩いていくと、壁みたいなものがあるの。
シンゴ  へーえ。
ミーコ  もちろんそこも真っ暗で、何も見えないのよ。でも、 その壁の向こうには
     かみさまが居るの。もしかしたら、壁じゃなくてドアなのかもしれない。で
     も、あたしはいつもそのドアを開けないの。開けたら、かみさまは死んじゃ
     うから。
シンゴ  ドア開けたくらいで死ぬのか?その神様は。
ミーコ  あたしがそう思ってるだけかもしれないけど、やっぱり、そう、確かにそう
     なの。それでね、いつもは、あたしがかみさまに話しかけても、何の声も帰っ
     てこない。
シンゴ  薄情なやつ。
ミーコ  そしてあたしは悲しくなるの。何度もドアを開けようって思うんだけど、開
     けたらかみさまは死んでしまうから、やっぱり開けられないの。毎晩毎晩、
     そんなことを繰り返してるけど、何十回かにいちどだけ、かみさまはあたし
     に話しかけてくれるの。嬉しくて嬉しくて、目が、醒めるのよ。
シンゴ  分かったような、分かんないような。
ミーコ  夢だもの。ねぇシンゴ、かみさまって、信じる?
シンゴ  信じてもいいかな。そういうミーコはどうなんだ?
ミーコ  あたしは信じるわ。いつもいつも夢の中にいる、壁の向こうのかみさまが、
     あたしは大好きなの。
シンゴ  ふーん。
ミーコ  そう。そうよ。
シンゴ  なあ、今度は僕の話聞いてくれよ!
ミーコ  いいわよ。なあに?
シンゴ  野良生活って、どう思う?
ミーコ  シンゴ見てると、楽しそうだなって思うけど。
シンゴ  けど?
ミーコ  何よ、顔に似合わず真剣な顔しちゃって。
シンゴ  顔に似合わず真剣な顔するって言うのは、僕が顔に似合わないくらい真剣に
     考えてるってことなんだよ。
ミーコ  だって、似合わないわ。
シンゴ  似合わなくたっていいんだよ!
ミーコ  シンゴ?
シンゴ  守ってやる。・・・・だから。
ミーコ  ・・・・・。

   間。
   止まったままのシンゴに、ミーコは笑いかける。

ミーコ  気障な台詞も似合わないわ。
シンゴ  ミーコぉ。
ミーコ  分かった分かった。分かったってば。
シンゴ  別にさっき思いついた訳じゃないんだぞ。ずっと、考えてたんだ。これでも。
ミーコ  いつから?
シンゴ  いつからか。いつのまにかだ。きっと。
ミーコ  言ってくれれば良かったのに。
シンゴ  いつもバカにして聞かなかったじゃないか。それに、飼い主のとこで幸せに
     やってるんだったら、それでもいい、って思ってたんだ。でも、あんなのダ
     メだ。あのままじゃミーコがぼろぼろになっちまう。
ミーコ  ねえ、あたしのこと好き?
シンゴ  う。
ミーコ  ちゃんと答えて。あたしのこと好き?
シンゴ  ツナ缶の3.7倍くらい好きだ。
ミーコ  それだけ?
シンゴ  何言ってるんだよ。ツナ缶の3.7倍って言ったら、俺の命三つ分くらいなん
     だぞ!
ミーコ  あたしを守ってくれるの?
シンゴ  ああ。明後日までに、みんなに協力を頼んどく。逃げ出すんだ。
ミーコ  ・・・・・・・。
シンゴ  心配するなよ。ここらの奴らは、根はいいヤツなんだからさ。
ミーコ  そう。そうね。頼りにしてる。
シンゴ  明後日だぞ。お前もよく覚えておけよ。・・・・・守ってやる。
ミーコ  ありがとう。シンゴ。でも、今日は帰るわ。明日また、話しましょう。
シンゴ  身体、大事にしろよ。
ミーコ  うん。

   ミーコ去る。
   自動車の音。
   大通りらしい、騒音。
   シンゴ、眠る。

シンゴ  なかなか眠れない。いつもと違う。それは怪我をしてるとか腹が減ったとか、
     そういうことじゃなくて、なんだかぐるぐるして眠れなかったんだ。何でぐ
     るぐるしてたのかって言うと、それも分かんないくらいにぐるぐるしてたん
     だ。ミーコの飼い主のこと?ミーコの夢のこと?ツナ缶?喧嘩?それとも僕?
     そう、そうだ。
     抱きしめたら、消えると思ってたんだ。そしたら僕は泣けばいい。何度も何
     度も何度も何度も頭の中で繰り返してきたのに、抱きしめたら、消えると思っ
     てたのに。

   朝焼け。
   薄明かりの中で、鳩の声や自転車の音が聞こえる。
   シンゴ、一つのびをして辺りを見回すと。

シンゴ  何だこれ。

   シンゴの身の回りに、食べ物や、暖かいタオルなど。

シンゴ  タオル、これは・・・ツナ缶の残りだ。こっちには・・・乾パン・・・・何
     だよこれー!もしかし て、ミーコと僕のために!(と、一瞬振り返り)お
     い誰だ。今『気障野郎』って言ったヤツ。その声はトラだなぁ?

   シンゴ、一歩踏み出そうとするが、
   トラに逃げられたらしく、諦める。

シンゴ  昨日立ち聞きしてやがったんだな・・・・アイツ。

   ミーコ、やってくる。

ミーコ  おはよう。
シンゴ  ああ。
ミーコ   (置いてあるものに気づき)どうしたの?これ。
シンゴ  持ってきてくれた。
ミーコ  ・・・・・誰が?
シンゴ  トラとか、多分クロとか、エリザベスとかが。
ミーコ  (シンゴに近づき)素敵ね。
シンゴ  (どぎまぎし)お、おい、ミーコ。
ミーコ  あ、ごめん。いやだった?
シンゴ  驚いた。
ミーコ  そう。あ、ツナ缶、あるじゃない。食べたら?
シンゴ  僕はいいよ。
ミーコ  意地はらないの。目がこっち向いてるわよ。
シンゴ  お前にやる。はやくその傷治さないと。
ミーコ  半分こ。あんただって全然治ってないじゃない。
シンゴ  そりゃそうだけど。
ミーコ  守ってくれるんでしょ?だったら傷治してくれなくちゃ。
シンゴ  ・・・そうだな。じゃ、半分こだ。

   二人、食事をする。
   と、圭一が通りかかる。
   警戒するシンゴ。

圭一   ・・・・そこで何やってる。
シンゴ  へっ!テメーなんかには分かんないだろうけどな、駆け落ちするんだよ!ざ
     まーみろ!

   圭一、胸ポケットのペンを握りしめ、シンゴに向かって振り下ろそうとする。
   シンゴ、ミーコをかばいながら飛び退く。

圭一   ・・・・・・・。
シンゴ  ・・・・・・・。

   バスの通り過ぎる音。
   圭一、急ぎだし。

圭一   あ、やべっ!

   圭一、時計とバスを交互に見る。

ミーコ  幸せ。
シンゴ  静かにしないと。またなんかされるぞ。
ミーコ  だって、幸せなんだもの。かみさまに贅沢言いすぎかもしれない。
シンゴ  また、神様か?

   圭一、少し離れ、ミーコを見つめる。

ミーコ  だってそうよ。シンゴがあたしを好きでいてくれるんだから。
シンゴ  そりゃどうも。
ミーコ  シンゴ、一人で居たとき寂しくなかった?
シンゴ  寂しかったよ。
ミーコ  今は?あたし、役にたってる?
シンゴ  ・・・・ああ。
ミーコ  あたしも寂しかったの。ずっと圭一さんと居たのに。
シンゴ  あんな所にいたんだから、そうだろ。
ミーコ  そうかなあ?
シンゴ  それとも、みんながみんな寂しいんだって言いたいのか?
ミーコ  あたしも、シンゴも、圭一さんも、あの女の子も、そこにいるおじさんも。
シンゴ  僕は今寂しくない。
ミーコ  どうして?
シンゴ  だって。なぁ。
ミーコ  準備、しなきゃね。毛布とか。
シンゴ  ここにタオルがある。これじゃダメか?
ミーコ  二人は入れないわ。あたし、自分の持ってくる。
シンゴ  (圭一達が動き出したのを見て)あ。

   圭一、歩き出す。
   圭一、ミーコを目のはしにとらえ、去る。

シンゴ  そこらあさってるよ。何か出てくるかもしれないし。
ミーコ  じゃああたしは、うちからいろいろ持ってくる。待ってて。
シンゴ  なんだよ、置いてく気かよ。
ミーコ  ・・・・分かった。一緒に行こ。
シンゴ  今ならあいつ、家にいないんだろ?チャンスじゃないか。
ミーコ  うん・・・そうね。

   舞台薄暗く。
   草をかき分けるような音。

ミーコ  ここ、どこ?
シンゴ  へへっ。やっぱり知らなかったのか。近道なんだよ。お前んちの庭に出るん
     だ。
ミーコ  でも、ちょっと通りにくくない?
シンゴ  そうかなぁ?何度も通ってるから分かんないけど。
ミーコ  何度もって・・・・(短い悲鳴をあげる)
シンゴ  ミーコ?
ミーコ  今背中に何か・・・・・変なのがいた。
シンゴ  ああ、蛾だよ。
ミーコ  気持ち悪い形してた。
シンゴ  蛾も知らなかったのか。
ミーコ  知ってたけど、あんなに大きいのは初めてだわ。近くで見たのも、初めてだ
     し。
シンゴ  このあたりは学校の裏なんだ。ここを抜けたら目的地。
ミーコ  分かった。ゆっくり行きましょう。・・・・家に着いたら、ゆっくりさせて
     ね。明日の朝からはもう戻らないんだから。
シンゴ  分かってるって。

   再び、草をかき分ける音。
   庭に出たらしい。

ミーコ  ほんとだ。何でこんな道知ってたの?
シンゴ  エリザベスが知ってたんだよ。フライドポテト一袋で教えてもらった。
ミーコ  よいしょ、っと・・・・(扉を開け、辺りを見回す)
シンゴ  お前んちにちゃんと入ったの、これが初めてだな。
ミーコ  初めてで、最後。明日からここはあたしの家じゃなくなるんだもの。
シンゴ  よし、そうと決まったら、こそ泥だ!
ミーコ  こそ泥って言い方しないで。
シンゴ  悪い悪い。
ミーコ  あ、これなんかどう?『鈴ボール』。
シンゴ  そんなオモチャは後でいいから、まずは寒さをしのぐもの。
ミーコ  (聞かずに)あーっ!ちっちゃい頃使ってた猫じゃらし!こんなところにあっ
     たんだ。
シンゴ  おいミーコ。
ミーコ  人形もある。あ、鏡。これも最初見たときはびっくりしたっけ。
シンゴ  (ミーコをのぞき込み)ミーコ!・・・・あれ?

   シンゴ、鏡を不思議そうに見る
   困惑。
   右へ行ったり左へ行ったり、
   近づいたり、
   手を出してはひっこめたりする。
   笑って見ているミーコ。

シンゴ  なんだよこれ〜〜〜〜〜。
ミーコ  鏡よ。
シンゴ  (鏡の中の自分を指し)何だよコイツ〜〜〜〜〜。
ミーコ  (からかおうとし)シンゴ・・・実はその中にはね、あなたの分身がいて、
     いつもいつもあなたに代わってこの世界に来ようと狙っているのよ。油断す
     ると、この中に閉じこめられちゃうんだから。
シンゴ  ほ、本当か?
ミーコ  (笑って)さあ?
シンゴ  う・・・・・。ま、まぁいいっ!それより毛布。
ミーコ  それでいいでしょ?あたしのいつも使ってるヤツ。
シンゴ  これか?(手で触れ) ふかふかだー。
ミーコ  いいでしょ。(毛布にくるまり)いつも、こうやって眠るの。

   シンゴ、再びものを探し始める。

シンゴ  チーズ、にぼし、タオル、毛布、あと、えーと、なんかキラキラ光るヤツ!
     カラスには何度も痛い目にあわされてるからなぁ。
ミーコ  カラス?
シンゴ  キラキラしたもの嫌いなんだよ。奴らは。
ミーコ  へぇ、そう。

   少し眠たそうなミーコに構わず、
   シンゴは部屋をあさり始める。

シンゴ  チーズ、にぼし、タオル、毛布、カラスよけ。
チーズ、にぼし、タオル、毛布、カラスよけ。
チーズ、にぼし、タオル、毛布・・・・・マクドナルドだ!しかも食いかけ!
ミーコ  (シンゴの動きに気づき)あ、ダメ!
シンゴ  (バーガーに置いた手をひっこめ)痛ってぇ〜っ!
ミーコ  ダメだって言ったのに・・・・・平気?
シンゴ  平気なもんか。画鋲が入ってる!
ミーコ  圭一さん、時々そういういたずらをするの。淋しかったりすると、特に。
シンゴ  淋しい?いらいらしてるってことじゃないのか?
ミーコ  ・・・違うのよ。手、見せて。
シンゴ  皮がむけてる。
ミーコ  貸して。(手を取り、シンゴが寒そうにしているのを見て)寒いの?
シンゴ  あ、うん。ちょっとだけ。
ミーコ  (毛布を少し持ち上げて)こっち、来る?
シンゴ  いいのか?
ミーコ  (頷き)あったかいわよ。

   シンゴ、毛布に潜り込む

シンゴ  ほんとにあったかいな。
ミーコ  ね。これなら外で寝ても、寒くないわ。
シンゴ  今まで寒かったからなぁ。
ミーコ  でも、夏になったらちょっと暑いかな。
シンゴ  夏になったら逆に涼しいところを捜さなきゃ行けないんだぞ。コンクリート
     の上だと丸焼きだ。
ミーコ  そうね。ビルの間とか?
シンゴ  狙い目はホームレスの使ってた段ボールだな。結構しっかり出来てるんだ。
ミーコ  楽しみね。
シンゴ  うん。

   間。
   ミーコ、うとうととし始める。
   シンゴ、何かを考えている。
   もしかしたら、今まで考えてきたあらすじと違う今の、
   「これから」だったかもしれない。

シンゴ  ミーコ、これから・・・・!

   シンゴ、ミーコが眠っていることに気づく。
   少しうつむき、無言で眠る。
   夢。

シンゴ  あったかい中で、僕は夢を見た気がした。はじめはそこは真っ暗だった。け
     れどそこには見えない道があって、歩いて行くと、壁があった。
     ミーコの、夢だ。僕は思った。この壁の向こうにはかみさまがいる。違う。
     壁じゃない。ドアだ。ドアを開けるんだ。向こう側には、かみさまがいる。

   シンゴ、暗闇の中、ドアを開ける。
   明転。

シンゴ  ドアを開けると真っ白だった。
     どうしてだろう。真っ白だった!
     さっきまでの、見えなかったけど確かにそこにあった道は消えて、ただ、目
     の前が真っ白だった。

   ミーコ、誰かに向かって語りかけている。

シンゴ  ミーコが居た。何故か声をかける気になれなくて、辺り一面の真っ白が、ミー
     コの毛並みに似ているなぁなんて、思っていた。ミーコがこっちに気づいた。
     走り寄って、口を開く。

ミーコ  シンゴ!

   舞台、普通の明かりに戻る。
   ミーコ、目覚めている。

シンゴ  あ、ミーコ。
ミーコ  夢、見たの。
シンゴ  ミーコも?
ミーコ  やっぱり、シンゴも見てたの?
シンゴ  真っ暗な中、歩いてくと壁があったんだ。ミーコの話してくれた夢とそっく
     りだった。
ミーコ  あたし、かみさまと約束をしたのよ。
シンゴ  約束?
ミーコ  かみさまはとても寂しいから、あたしが壁の向こうで、友達になってあげる
     約束。
シンゴ  そんな、夢の中の事なんて・・・・
ミーコ  ・・・・・・・
シンゴ  ミーコ・・・?
ミーコ  ・・・そうね。用意の続きしなくちゃ。

   ミーコ、毛布をひっぺがす。

シンゴ  うわ寒っ!何するんだよぉ。
ミーコ  こうでもしないと、シンゴまたすぐに寝ちゃうでしょ。・・・あと、何が必
     要なんだっけ?
シンゴ  チーズ、にぼし、タオル、毛布、カラスよけ。
ミーコ  まずは、毛布っと。(毛布を引きずって外に出す)あと、チーズとにぼし?
シンゴ  向こうの棚に袋が見えた。「にぼしお徳用パック」ってやつ。
ミーコ  ああ、あれね。チーズは、そこにチーかまがあるから、それでいいわよね。
シンゴ  チーかま?
ミーコ  チーズかまぼこ。美味しいのよ。
シンゴ  へーえ。
ミーコ  あと、カラスよけは・・・鏡じゃダメ?
シンゴ  カガミ?って、さっきの変なヤツが中にいる、きらきらのぴかぴかのやつ?
ミーコ  (笑って)別に中には誰もいないわよ。

   ミーコ、にぼしのパックとチーかまを持って戻ってくる。
   シンゴ、あたりを漁って、タオルを見つける。

ミーコ  あ、それでいいわ。タオル。
シンゴ  外に出しておくのか?
ミーコ  うん。あたしがにぼしとチーかま持ってくから、シンゴは毛布と鏡とタオル
     ね。
シンゴ  (まとめて、持ってみて)なんかさ。
ミーコ  なあに?
シンゴ  僕の荷物、重くないか?
ミーコ  重いっていうより、持ちにくいって感じね。
シンゴ  持ちにくいっていうより、重いって感じだよ。
ミーコ  毛布でくるんでみたら?ちょっとは持ちやすくなるかも。

   シンゴ、ミーコ、鏡とタオルを毛布で包む。
   シンゴ、試しに持ってみる。

ミーコ  どう?
シンゴ  さっきよりはだいぶいい。でもこの鏡ってのが・・・

   ミーコ、突然身を固くする。
   シンゴ、不思議そうに辺りを見回し、ミーコを見る。

シンゴ  どうしたんだよ。
ミーコ  あ、うん。圭一さんが帰ってきたの。
シンゴ  あのヤなやつか。
ミーコ  その毛布持って、今日は、帰って。シンゴ。
シンゴ  このままお前も僕のとこに来ればいいのに。
ミーコ  お別れをするのよ。・・・明日の朝、日が出たら、もう一度ここに来て。
シンゴ  分かった。

   足音。
   圭一が近づいてくる。

シンゴ  急がなきゃな。
ミーコ  ほら、早く!
シンゴ  待てよ。一つだけ聞かせてくれ。
ミーコ  もう帰ってきちゃうわ。
シンゴ  いいから!
ミーコ  分かった。なあに?
シンゴ  お前、ほんとに僕と一緒でいいのか?

   間。
   足音。

ミーコ  (シンゴに荷物を持たせ)・・・・はい。鏡、落とさないでね。

   シンゴ、困惑するが、
   足音は近づいてくる。
   そして駆け出しながら

シンゴ  明日、話そう。
ミーコ  分かった。

   シンゴ、去る。
   圭一、やってくる。
   なにやらぶつぶつ言っている。
   『芥川』の暗記。

圭一   『昔、男ありけり。女のえ得まじかりけるを、年を経てよばひわたりけるを
     ・・・・・』
     ああ、くそっ!何だっけ・・・・・(古典の教科書を取り出し)『からうじ
     で盗み出でて』?

   圭一、ミーコに気づき、
   ものが散乱した部屋にも気づく。

圭一   お前か?この部屋は。
ミーコ  (圭一を見上げる)
圭一   恋人との新生活か。どうせ上手くいきはしない。
ミーコ  (うつむく)
圭一   千年前の物語にだって書いてあるさ。男が女を連れて逃げた。女は鬼に食べ
     られてしまった。それ で、自分も消えてしまえば良かったのにってな。

   ミーコ、圭一に寄り添う。
 
圭一   でもまぁ、当たり前かもしれないな。これで女が生き残っても、追われて、
     苦労して、死んでいくだけだ。・・・・結局死にでもしないと、キレイにな
     んかまとまらないんだよな。物語なんて。
ミーコ  さよなら。
圭一   何だ?突然啼いたりして。
ミーコ  かみさまに会いに行きます。さよなら、圭一さん。

   圭一、構わず携帯電話をとる。
   会話をはじめる。
   舞台暗くなっていき、鳥の声。

ミーコ  シンゴ、シンゴ。
シンゴ  持ってきたか?チーかま!
ミーコ  なんでその話になるのよ。
シンゴ  人間がさ、昨日チーかまくれたんだ!あんなに美味しいもの食べたの、生ま
     れて初めてだった。
ミーコ  ほら、荷物もまとめて置いたんだから。行きましょう。一緒に。
シンゴ  ほんとに、いいのか?
ミーコ  うん。
シンゴ  じゃぁ、僕の質問に答えてくれよ。
ミーコ  いいわよ。
シンゴ  これから、どうする?
ミーコ  これから?
シンゴ  最初はいいかもしれない。けど夏になったら?秋になって、冬がきたら?
ミーコ  そんなこと、どうでもいいわ。
シンゴ  どうして。
ミーコ  だってまた冬がきて、また春が来て。それから?それから?それから?
シンゴ  ・・・・・・・。
ミーコ  安心していいわよ。シンゴ。あたしたち生まれたんだから、必ずちゃんと終
     わりがある。
シンゴ  ・・・・ほんとは僕、ずっと思ってたんだ。ミーコはきっと、僕が抱きしめ
     たら消えてしまうって。
ミーコ  うん。
シンゴ  抱きしめて、暖かくて、気がついたら風が吹き抜けてる。そしたら僕は泣け
     ばいい。そう思ってたんだ。
ミーコ  うん。
シンゴ  好きだって言って、かわされて、ちょっと落ち込んで、そんなちっちゃい希
     望と絶望の繰り返しで良かったのに。
ミーコ  あたしは、一緒に来ない方が良かった?
シンゴ  違う。違うんだ。すごく嬉しいんだ。けど、どうしても、怖いんだ。
ミーコ  そう言うときは、目を閉じて、かみさまに会うの。
シンゴ  かみさまに?
ミーコ  (目を閉じたまま)かみさま、かみさま、何処に居るんですか?そう言って、
     答えを聞くの。
シンゴ  そんなに都合良く答えてくれるかな。
ミーコ  答えてくれるわ。だって神様なんていないんだもの。
シンゴ  え?
ミーコ  いるのはあたし。答えるのも、ほんとは、あたし。あたし一人。
シンゴ  ひとりで?
ミーコ  シンゴと会ったとき、「仲良くなりますか?」それはYES。人間から食べ物
     をもらうのはNO。シンゴと一緒に逃げるのはYES。寂しい神様の所に行く
     のも、YES。
シンゴ  ミーコ、道に出たら危ないよ!
ミーコ  シンゴ、そこにかみさまがいるのよ。
シンゴ  道の真ん中に、神様なんているもんか!
ミーコ  ううん、居るのよ。あたしには見えるもの。寂しがりやのかみさまが、あた
     しを待ってるの。

   車の音。
   何台も行き交う。

シンゴ  何も居ないよ!
ミーコ  あたしもね、ちょっと分かるのよ。シンゴの気持ち。このままじゃ居られな
     い。踏み出したら、何処へ行くか分からない。はじめの一歩。二歩。世界が
     変わってく。一歩ごとに頭を巡るの。「それか ら?それから?それから?
     それから?」
シンゴ  神様なんていないって、言ったじゃないか!
ミーコ  ・・・・・・・・。
シンゴ  戻ってこいよ。
ミーコ  神様なんか居ないわ。いるのはあたし。でも、かみさまはいるの。寂しい神
     様の所に行って、消えるの。だってあたし、あんたが大好きなんだもの。

   ミーコ、ふわりと駆け出す。
   急ブレーキ。

シンゴ  あっ・・・・・!

   シンゴ、後を追うが、途中で何かにはじかれるように止まる。
   先へは、進めない。

ミーコ  ちゃんと、泣いてね。
シンゴ  ミーコ!

   舞台、真っ暗に。
   シンゴにだけ明かりが。

シンゴ  どこをどう間違ったのか分からないけれど、僕は彼女が好きで、
     どこをどう間違ったのか分からないけれど、彼女も僕を好きだった。

     かみさま、かみさま、何処に居るんですか?

     問いかけながら、僕はゆっくりと目を閉じる。

   音楽。
   シンゴ、空を見上げて、ひとり。
   幕。

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