| *JACK IN NEWYORK 〜Because I like it〜(メンズポッキーさんの台本です) |
幕が開く。そこは教会。
全員が下を向き立っている。
音楽《ヌイチャイナシンドローム(山崎まさよし)》。
全員、曲にあわせて踊る。
一通り踊った後、神父姿のエルダーとリーナ以外、去る。
エルダー さぁ、リーナ。一緒に逃げよう。
リーナ ダメよ。私は、もう―――。
エルダー 言うな。そんなことはどうでもいい。大丈夫だ。神が、私達を守ってく
れるさ。
リーナ エルダー。
エルダー どうした。気分が悪いのか?
リーナ 私を殺して。
エルダー 何を言い出すんだ。私に、おまえが殺せるわけないだろう。
リーナ もういや、いやなの。人間の器を捨ててまで、永遠を手に入れるなん
て、私にはできない。永遠に地獄を味わうくらいなら、いっそこの場
で―――。
エルダー 言うな!私は、まだ一人にはなりたくないんだよ。だから、そんなこと
を言うな。私を残して、行かないでくれ。
教会の鐘の音。
声1 こっちだ!
声2 殺せ!
声1&2 バンパイアを殺せ!
エルダー このままでは見つかる。さぁ、行こう。
リーナ でも。
エルダー 共に行こう。大丈夫だ。神は、縋る(すがる)者を決して見捨てたりは
しない。すぐに元に戻る方法が見つかるさ。さぁ、気づかれる前に、早
く。
エルダーとリーナ、ステンドガラスの窓を開け、そこから逃げ出す。
音楽。入ってくるのは、帽子をかぶった中年っぽい男。
拳銃《(キングコブラ)などのリボルバー形の銃がいい》を構えている。
携帯電話(あるいは何らかの通信機)を取り出すジャック。
場所は、どこかの廃屋。
ジャック (タバコを吸いながら)こちらジャック、ナナミ、状況はどうだ?
ナナミ、入ってくる。ノートパソコンを開いている。
ナナミ 感度良好です、先輩。目標はチャイナ・タウンを抜けていまだ先輩を追跡中。
ジャック 目標のデータは。
ナナミ タイプはデーモン。大きさはLサイズ。瞬発力に欠けますが、破壊力は
Bクラス。総合ランクはCです。
ジャック Cか。いつもどおりに行くぞ。で、目標は今どこにいる?
ナナミ 北西に二十五メートルの位置。
ジャック 二十五!?
ナナミ 20、15、10・・・あ、見つかった。
窓ガラスが割れる音。
怪物が入ってきて、ジャックを襲う。
ジャック、それを避けて銃を2・3発怪物に撃ち込む。
思わず倒れる怪物。
すでに攻撃を受けているらしく、あちらこちらに傷がある。
怪物 ・・・ハァ・・・ハァ。
ジャック 三度目の勧告だ。あっちの世界に帰ってくれないか。(弾丸を入れ替え
る)妖導師社特製封魔弾。頭に当たれば確実に死ぬ。無駄な殺生はした
くない。
怪物 ・・・ナメルナ小僧。人間ゴトキニコノ俺ガ・・・。
ジャック 小僧って年じゃないんだけどな。
怪物、襲い掛かる。ジャック、軽く避ける。
ジャック (タバコを吸う)そうか、残念・・・(銃を構える)サヨナラだ。
銃声。
ジャック 時は何年?そんなことはどうでもいい。僕がニューヨークの地に立って
四十五年。魑魅魍魎(ちみもうりょう)共途絶えたためしなし。僕が妖
導師になってかなりの月日が経つが、その数は相変わらず。この都市も
いよいよ鉄の時代へと移り変わって行く。それでも私は、銃を握るの
だ。それが僕の役目。それが僕の使命。なぜ僕は戦うのか?人間は何か
と理由をほしがる動物のようだ。あえて言うのなら、この街が好きだか
ら。行動にいちいち理由が必要ならば、私の理由は、これで十分だ。そ
して、ニューヨーク妖魔鬼怪は、今日も続く。
シーン二
そこは、妖導師社の社内。デスクに座っているのは九尾社長。デスクの
上には大量の請求書がのっかっている。その前に立っているジャックと
ナナミ。
九尾 二人共、今回も任務遂行ご苦労。今月も君達の活躍によって、我々達妖
導師社は魔物撃退立100%を保つことができた。非常に喜ばしいこと
だ。しかし、責任者のジャック君。
ジャック はい?
九尾 この大量の請求書、苦情、始末書は何!毎回毎回公共の施設を破壊して。
ジャック はぁ・・・。
九尾 君の妖導師としての実力は認めよう。でも、君が一つ仕事を終らせるた
びにこの会社の経済状況が火の車になるというのは一体どういうこと
だ?説明してもらおうか。
ジャック だってあの怪物、チャイナタウンのど真ん中でいきなり暴れだしたんで
すよ。
ナナミ コンクリートぶち壊して。
ジャック 窓ガラス破壊して。
ナナミ 水道管に穴あけて。
ジャック 信号壊して大渋滞。
ナナミ スコットさんちで乱闘になって。
ジャック どさくさにまぎれてケンタッキー食い逃げして。
ナナミ まだ残ってますよ(ケンタッキーのバケツを差し出す)。
九尾 いちいち説明するな!
ナナミ じゃあどう言えと言うんですか?わがままですね。
九尾 もうちょっと穏便に事を進めることができんのかと言ってるんだこの能
無しどもめが。
ジャック 何言ってるんですか。あんなに安い給料で私達は今日もニューヨークの
平和を守ってきたんですよ。
ナナミ むしろボーナスがほしいくらいですよ。
ジャック&ナナミ ねー。
九尾 ほう・・・(バットを取り出して)だったら脳天にくれてやろうか!
ジャック&ナナミ うひゃー。
しばし追いかけっこ。そこへ入ってくるスコットとハルク。
ハルク (咳払い)
九尾 あら、FBIのでこぼこコンビが、ここに一体なんのようで?
スコット 誰がでこぼこだって?
ハルク (スコットを手で制する)
ナナミ 何か用ですか?
ハルク 残りの請求書だ。
九尾 (ジャックとナナミを睨む)
ジャック&ナナミ あはは・・・。
スコット あと、食い逃げのケンタッキーの分と、俺の家で乱闘して壊さ
れたシャンデリアの請求書だ。
ジャック シャンダラリがずんだらりって何のことですか?
スコット シャンデリア。俺の家の豪華そうな電灯壊したろ。
ジャック あぁ、あのパルックみたいなやつね。
スコット パルックじゃない!
九尾 とにかく、これらを責任を持って処理しろと。
ハルク そういうことだ。
九尾 ・・・分かりました。私達が責任をもって処理します。
ナナミ 私達も入るんですか?
九尾 文句があるの?
ナナミ いえ、ないです。
ハルク しかし、毎回毎回君達は、私達の目の上のたんこぶだな。
スコット あげくの果てに食い逃げとは、とうとう泥棒にまで落ちたか?
ナナミ 何言ってんですか、そっちだって税金泥棒じゃないの。
スコット 俺の銃はな、民間人も撃てるんだぞ。
ハルク (スコットを手で制す)スコット。まぁ、とにかく何とかならんかね。
九尾 一応、最善は尽くしてるつもりなんですけど。
そこへ入ってくるのは、ウィリアムズ館長。
ウィリアムズ あの〜。
九尾 あ、はい。
ウィリアムズ 妖導師社・・・ですか?
九尾 あ、はい。仕事の依頼ですか?
ウィリアムズ はい。私、とある美術館の館長をやっている、ウィリアムズというもの
なんですが・・・
九尾 どういう御用で?悪魔退治ですか?それとも、徐霊の儀式で?
ウィリアムズ メトロポリタン美術館の、ガードマンの仕事を依頼したいんですが。
沈黙。
スコット とある美術館て、メトロポリタン美術館?
ウィリアムズ はい。あ、警察の方ですか?
ハルク FBIだ。
ナナミ メトロポリタン美術館?
ウィリアムズ ええ。
ジャック あの、メトロポリタン美術館?
ウィリアムズ だからそう言ってるじゃないですか。
九尾 ほんとのほんとに、メトロポリタン美術館?
ウィリアムズ だからさっきからそう言ってるじゃないですか。
ハルク ・・・ファイナルアンサー?(みのもんた風に言う)
ウィリアムズ しつこいですね!私はあなた達に、メトロポリタン美術館の警備を依頼
してるんです!
九尾 聞いた?
ナナミ 聞いた聞いた。
ジャック 夢じゃ、ないですよね。
三人 メトロポリタン美術館!
ナナミ あの超有名な!?
ジャック あの超有名なゴッホにセザンヌ,レンブラントとかの絵画が展示されて
いるあの大美術館の警備を!?
九尾 収蔵されている作品は300万点以上で、とても一日では回りきれない
ほどと言われるあの大美術館の警備よ!
三人 久しぶりの大仕事だ!
騒ぎに騒ぐ三人。
ハルク (咳払い)
静まる三人。
九尾 しかし、何でまた美術館の警備を私達妖導師社に?
スコット それに、メトロポリタン美術館っていったら、アメリカ最大の大美術館
じゃないですか。そんなだいじな所の警備を、何でまたこんな極小の社
長含めて社員が三人しかいない会社に任せるんですか?
九尾 社員はこれから増えるの。
スコット どうかね。
ウィリアムズ もし、魔物とかが現れたら、彼らに処理をしてもらおうと思って。
スコット 警魔物退治なら、俺たちFBIとかに任せてもいいんじゃないんですか
?FBIには、事件解決率百%のこの俺がいるんですから。
九尾 この仕事は私達のものよ!それに、その百%っていうの自称じゃないの?
スコット 自称とは失礼な。それに、大仕事で美術品を壊されたらたまんないだろ?
ウィリアムズ いちおう、FBIにも依頼しようとは思ってるんですけれども、それだ
けじゃ心もとないんで。
ハルク 聞き捨てなりませんな。
スコット こんな泥棒集団に任せるよりは、俺達の方がいいと思いますけどねぇ。
九尾 聞き捨てならないわね。
スコット 文句あるのかケンタッキー泥棒。
九尾 何よ税金泥棒。
ナナミ まあまあ。
ハルク しかし、もともとガードマンはたくさんいるのに、さらにガードマンを
増やすとは、何か理由でも?
ウィリアムズ はい。今世紀最大の美術品の警備を、あなた達に依頼したいと思ってい
ます。
ジャック 今世紀最大?
ウィリアムズ ある有名な美術家の母親の肖像画が、この度発見されたんです。
ナナミ その有名な美術家って?
ウィリアムズ ゴッホです。
九尾 ゴ、ゴッホの絵の警備を、私達に!?
ウィリアムズ そうです。今まで日の光を浴びなかったゴッホの母親の肖像画、「海辺の
老婆」と名付けられた、世界最大の美術作品を、あなた達に警備しても
らいたいのです。
ナナミ 本当に、私達に?
ウィリアムズ はい。まさかとは思いますが、魔物激退率100%っていうのは嘘、な
んてことはないですよね。
九尾 当たり前です。どんな化け物だろうが、私達の手にかかれば。
ウィリアムズ それでは、交渉成立、ですね。
九尾 ええ。
ウィリアムズ それでは、案内いたしましょう。
ジャック やった。一度行ってみたかったんだ、あそこ。
ナナミ カメラ持ってかなきゃ。
九尾 観光旅行じゃないのよ。
ジャック 分かってますって。
スコット 俺達も、行っていいですか?
ハルク スコット?
スコット 先輩、行きましょう。本署への連絡は、後でもできるでしょう。
ハルク う、うむ。
ウィリアムズ それじゃ、案内しましょう。
全員、去る。
シーン三
そこは、どこかの高級そうなホテル。そこにいるのは、一人のバンパイア。
エルダー この世は今乱れているという。化け物が現れて乱れているという。しか
し、この世が乱れる以前から、人間共は乱れていたではないか。この血
を闇に売って、どれほどの月日が経ったであろうか。どんな時代でも、
人間は愚かしい争いを続けてきた。戦乱の運命に、人間は流されつづけ
てきた。私は違う。運命にすべてを割り切られてなるものか。私は、違う。
そこへ入ってくるアイン
アイン ・・・・・。
エルダー 来たか。わが僕(しもべ)アインよ。
アイン いつから俺があんたの僕になったんだよ。
エルダー 私の力で、おまえは同類に、バンパイアになれたのではないか。だから
おまえは、私の僕。人間を敵とするバンパイアだ。
アイン 人の血を勝手に吸っておいて、それはないんじゃないの?
エルダー (アインの首をつかむ)文句が、あるのか?
アイン い、いえ、ないです、はい。
エルダー おまえが我々を忌み嫌うのは分かる。
アイン (近くにある花瓶を取り、ゆっくりとエルダーに近づく)
エルダー おまえも、ついさっきまでは人間だったのだからな。しかし、バンパイ
アもいいものだぞ。空を飛ぶこともできれば、永遠の若さをも手に入れ
ることができる。さらに、修練に修練を重ねればこのように―――
アイン !?(花瓶を振り下ろそうとするが、体が動かない)
エルダー 魔法を使うこともできるぞ。
アイン へ、へぇ。すごいなぁ。
エルダー ・・・その花瓶は何かな?
アイン え?あ、いや、水が汚いなぁ、なんて。
エルダー だったら水を替えてくれ(指を鳴らす。アインが動けるようになる)。と
ころでアインよ。何かいい情報はあったのか。
アイン 情報収集なら任せろって。
新聞を取り出すアイン。
エルダー これは。
アイン メトロポリタン美術館で新しく公開される、隠されたゴッホの母親の肖
像画、名付けて、「海辺の老婆」。今世紀最大の美術作品になること間違
いなしの代物ですよ。
エルダー メトロポリタン美術館か、面白い。前から一度、行ってみたいと思って
いた。
アイン バンパイアが美術品やアンティークが好きってイメージは前からあった
んだが、本当に好きだったんだな。
エルダー それだけではない。なぜだか、引き寄せられるのだよ。あの美術館に。
アイン 引き寄せられる?
エルダー あの建物の中の誰かが、私を呼んでいるのだよ。
アイン それも、修練に修練を重ねたタマモノで?
エルダー そのとおりだ。おまえもそのうち、このようになるだろう。しかし、そ
のためにはいくつかの試練が必要だ。
アイン 試練?
エルダー バンパイアになるための試練その一。人間としての器を捨てること。
エルダー、アインの腕を引っ張る。手首が取れるアイン。
アイン って、ギャー!!!
エルダー ホテル内では静かにしろ。おまえには気品が足りない。
アイン お、俺の手、手が!
エルダー 落ち着け、痛みはない。
アイン あ・・・本当だ。
エルダー バンパイアは人間の敵。人間の体があってはバンパイアにはなれない。
最初のうちは不便だが、バンパイアになるまでの辛抱だ。我慢しろ。
サラが入ってくる。
サラ お客様、先ほど注文なされましたワインを届けに参りました。
エルダー ちょうどいいところにやってきた。バンパイアになるための試練その
二。女に慣れること。
サラ バンパイア?
エルダー 私の名はエルダー。(バラを差し出す)あなたのような美しい女性から目
が離せない罪なバンパイアであります。
アイン ナンパしてるし。
サラ まぁ、お世辞が上手ですこと。
エルダー お世辞なんかじゃございません。ところでお嬢さん、お名前は?
サラ え、サラですけど。
エルダー ツーペア。
アイン&サラ ツーペア?
エルダー やはり、どこかでお会いしたと思ったら、私の予想は当たってたよう
だ。あれは私が十六の頃、私には好きな女の子がいました。しかし、彼
女は、引っ越して異国の地に旅立ってしまったのです。ところでサラ、
出身は?
サラ イギリスですけど。
エルダー フルハウス!
アイン&サラ フルハウス?
エルダー そうでしたか、やはりイギリスでしたか。私が好きだった彼女もイギリ
スから、ここアメリカ、ニューヨークへと去っていってしまいました。
そして、月日は流れた。ところでサラ、ベガスに行ったことは?
サラ 二年前に。
エルダー 役満!
アイン なぜ麻雀?
エルダー やはり、やはりそうでしたか!私も二年前に休暇でベガスに行ったので
す。そのときに引っ越してしまったあの子に良く似た女性を私はたまた
ま発見した。しかし当時内気だった私は――
アイン どこが内気なんだか―――
エルダー (アインを引っ叩いて)当時内気だった私はそのとき彼女に声をかける
ことができなかった。でも今こうしてまた出会うことができた。そう、
彼女の名前は、サラ。
サラ 私?
エルダー あぁ、神様!
アイン バンパイアが神様ねぇ。
エルダー サラ、私と行く気はないかい?
サラ なんか今なら、どこへでも行けそう。
アイン 騙されてる、この女絶対騙されてる。
エルダー バンパイアになるための試練その三、食事に慣れること。
エルダー、サラの首に噛みつく。
シーン四
メトロポリタン美術館。真ん中には、重々しく閉ざされた扉がある。左
右に銃を持った警備員がいる。とても暇そうだ。
警備員1 パスタ。
警備員2 タヌキ。
警備員1 キコリ。
警備員2 リンゴ。
警備員1 ゴリラ。
警備員2 ラッパ。
警備員1 パスタ・・・
ジャック、ナナミ、スコット、ハルク、ウィリアムズが入ってくる。
警備員1・2 異常、無しであります。
ウィリアムズ うむ。暇つぶしをしないように。
警備員1・2 はい、すいません。
ジャック うわ〜。さすがに警備が厳しいですね。
スコット そりゃそうだ。世界でも有数の美術作品がここに飾られてるんだ。泥棒
にでも入られたら、たまらないからな。
ナナミ それで、「海辺の老婆」はどこにあるんですか?
ウィリアムズ この扉の中です。
ハルク これはまた、ずいぶんと堅そうな扉で。
ウィリアムズ 防弾、防火、ロケットランチャーですらびくともしない超合金で作られ
ています。もちろん特注です。
ジャック うちの会社じゃ注文できないだろうな。
ナナミ 貧乏だからね。
ジャック あれ?社長は?
ナナミ さぁ。
着信音。ノートパソコンを開けるナナミ。九尾出てくる。
ナナミ 社長からのメールだ。
九尾 二人へ。残念だけど、私はあなた達が大量に持ってきた請求書の処理が
まだ終ってないためにそちらの仕事につけないの。そこで、今回は君達
二人だけに仕事を任せようと思ってる。あと、ないとは思うけど、魔
物、怪物などが現れた場合、下手な戦闘は避けること。美術館内の物品
は絶対に破壊しないこと。もし破壊した場合は、しばらく給料がないも
のと思いなさい。良い報告を期待してるわ。
九尾、去る。
ナナミ ―――とのことです。
ハルク たしかに、美術館内での戦闘は避けたいところだな。
スコット しかし、犯人が人間以外だった場合は説得はほとんど無意味じゃないん
ですか?
ハルク まぁ、今のところはな。
ジャック 犯人を美術館に侵入させないように、入り口付近を守りで固めたらいい
んじゃないんですか?
ナナミ&スコット&ハルク なるほど。
ウィリアムズ それでは、警備の方はそのような形をとらせてもらってよろしいでしょ
うか?
ナナミ 館長さん、「海辺の老婆」ってどんな絵なの?
ウィリアムズ 見たいですか?
ナナミ 見たい見たい。
ウィリアムズ う〜ん・・・分かりました。今回だけ、特別にお見せしましょう。
ナナミ やった。
ウィリアムズ、カードを取り出し、センサーに通す。
センサー 認証中・・・ウィリアムズ館長のカードであることを確認しました。ロ
ックを解除します。
ジャック へぇ、さすがゴッホの絵となるとやることが違いますね。
ウィリアムズ それでは、開けますよ。
扉が重い音を立てて開く。中から出てくる「海辺の老婆」の肖像画。
ジャック へぇ、これがゴッホの絵。(カメラで写真を撮り始める)
警備員1 こら!撮影は禁止されてるんだぞ!
ウィリアムズ ジャックさん、カメラは遠慮していただけないでしょうか。
ジャック あ、すいません。カメラを持つとどうもなにか撮りたくなるんで。
スコット 意外と小さな絵だな。
ハルク でも、さすがはゴッホの絵。出来が違いますな。
ナナミ よく分かんない。
ジャック こら、そういう時は嘘でもすごいですね、とか、すばらしい、とか言う
ものだろ。
ウィリアムズ ・・・・・。
ジャック あ、いや。もちろんいいできだと思ってますよ。
ウィリアムズ とりあえず、まだ時間もありますし、この辺を見学してみませんか。
ジャック そうですね。まだ時間もあるし。
ウィリアムズ それじゃ、案内いたしましょう。
そこへ入ってくるリーナ。
ウィリアムズ あのすいません。本日は閉館なんですけど。
リーナ 旅のお方ですか?参拝のお方ですね?小さな教会ですけど、ゆっくりし
ていらしてください。
ウィリアムズ は?
ハルク 教会?
ウィリアムズ あの、言ってることがよく分からないんですけど、ここは教会じゃなく
て美術館―――
ジャック 館長さん、下がっててください。
ウィリアムズ いきなりどうしたんですか?ジャックさん。
警備員1 あ、あぁ、出た。
ウィリアムズ 出た?なんなんですか一体。
ジャック いいから。危険な感じがします。
鐘の音。怯え始めるリーナ。
リーナ やめて。
スコット 鐘の音?
ウィリアムズ そんなバカな。この近辺に教会なんてあるはずが―――
リーナ やめて!
スコット 館長さん、どうやら敵みたいですよ(銃、できれば「デザートイーグ
ル」などのオートマチック型を構える)
ハルク 待て、館内での戦闘は避けたい。
スコット でも。
リーナ もう、やめて。
ウィリアムズ 何を言ってるんだ。
ジャック 答えて下さい。何をやめてほしいんですか?この鐘があなたを苦しめる
んですか。
スコット なにやってんだよ。怪物に説得が通じるわけないだろう。
ジャック 彼女は怪物じゃない。ゴーストだ。
スコット ゴーストだろうがなんだろうが、人間じゃないじゃないか。
リーナ もう、やめて。私を殺すのは、もうやめて。
ジャック あなたは何に縛られてるんですか。あなたをこの教会に縛り付けるの
は、一体何なんですか!
リーナ やめて!
リーナ、絶叫。周りにいる全員、倒れる。しばらくして、全員気がつ
く。リーナは消えている。
ウィリアムズ 消えた?
警備員2 また、出たね。
警備員1 また、出たな。
ハルク 知ってるのか?
警備員2 私達の間じゃ、結構有名な話なんですよ。
警備員1 美術館内に現れる、謎の女ゴースト。
ウィリアムズ 何でもっと早く言わなかったんだ!
警備員1 言っても信用してくれなかったじゃないですか。
ウィリアムズ とにかく、即急にエクソシストを。
ジャック その必要はないですよ。
ウィリアムズ どういうことですか。
ジャック 彼女は、悪霊じゃありません。
ウィリアムズ 悪霊である無しは関係ないんです。このままじゃ気味悪がって、客足が
減ってしまいます。
ハルク それになぜ、あれが悪霊じゃないって分かるのかね?
ジャック なぜ彼女がここにいるのか、それは彼女がここで死んだから。
警備員1 ここで?
スコット 回りくどいなぁ。一体何が言いたいんだよ。
ジャック 悪霊なら、ここから移動する形跡が本来見られるのですが、彼女はどう
やらここから一歩も出ていないようです。それは、彼女が悪霊ではな
く、何者かによって人為的にここに縛り付けられている証拠。そこには
必ず、縛り付ける何者かが、この周辺にいるはずなんです。だから、そ
れを何とかしない限りは、彼女は成仏することはできないでしょう。
スコット なぜそう思うんだ。そんな証拠がどこにある。悪いけど、俺は非科学的
なことは信じない性質(たち)なんでな。
ジャック この仕事も長いですからね。妖導師としての勘ってやつですよ。
スコット どうだか。
ジャック すくなくとも、あなた達よりは魔物たちとの付き合いも長いですよ。
スコット 化け物にモテても嬉しくないっての。
ジャック とにかく、その、クソなんとか・・
ナナミ エクソシスト。
ジャック そう、それ。そのエクソシストはもう少し待ってくれませんか。絵の公
開までには、こちらで何とかしますんで。
ウィリアムズ 大丈夫なんでしょうね。
ジャック 任せてください。
ウィリアムズ ・・・分かりました。そこまで言うのなら。
ジャック ありがとうございます。
警備員1 あの。
ジャック なんですか?
警備員1 今もいるんですか?ゴースト。
ジャック えぇ。もちろん。でも今のところ害はないんで、安全なうちに何とかし
ますから。
ナナミ ねぇ。早く館内見学しようよ。
ウィリアムズ それでは、案内いたしましょう。それじゃ、警備頼みますよ。
警備員1・2 はい。
警備員以外、去る。
警備員1 はぁ、やだなぁ。
警備員2 なにが?
警備員1 今日、夜の当番なんだよ。俺、ゴーストとかそういうの、苦手なんだよね。
警備員2 大の男が情けないわね。
警備員1 誰にだって苦手なものの一つや二つあるだろ。
警備員2 あら、私にはないわよ。
警備員1 あ、ゴキブリ。
警備員2 ギャ!
警備員1 ・・・なんてね。
警備員2 驚かさないでよ。
警備員1 ゴキブリは苦手なんだ。
警備員2 なによ、文句ある?
警備員1 ・・・あのゴースト、何で死んじゃったのかな。
警備員2 知るわけないでしょ、そんなこと。
警備員1 俺達も死んだら、ゴーストになるのかな。
警備員2 死んでみれば分かるんじゃないの?
音。
警備員1 ふぅ、十分休憩か。
警備員2 暇だなぁ、この仕事。
警備員、去る。
シーン五
警備員がいない館内。そこへ入ってくるのは、エルダー、アイン、サラ。
アイン とりあえず、何とか忍び込めたな。
サラ エルダー様。「海辺の老婆」って、どこにあるんですか?
エルダー 焦るな。これだけの大美術館だ。ゆっくり見物しながら探すのも、なか
なかいいものだろう。
アイン しかし、おまえ元気だな。サラ、おまえ死んでるんだぞ?化けもんなん
だぞ?
サラ レディーに向かって化け物とは失礼ね。私はエルダー様にバンパイアに
してもらって、一生この人と一緒にいれることが嬉しくてたまらない
の。嬉しいときに元気なことは、幸せなことよ。
アイン 悪徳商法に騙されるタイプだろ、おまえ。しかし、本当に広いところだ
な。このなかからお目当てのものを探し出すのか。
エルダー 時間はいくらでもある。焦る必要はない。
サラ でもエルダー様。警備員に見つかったらどうするんですか?今は閉館中
なんですよ。
エルダー サラ、心配することはない。そのときは、警備員の動きを止めればいい。
アイン 魔法を使うんですね。
サラ さすがはエルダー様。頼もしいですわ。
エルダー ・・・・・。
サラ エルダー様?
エルダー ここにいるのか。
アイン いるって、まさか。
エルダー 私を呼ぶ者よ、姿をあらわすがよい。この私に、何の用がある。
教会の鐘の音。
サラ 教会の鐘の音?
アイン なんだ!?
エルダー そんな、この鐘の音は。ここに、いるのか?
サラ エルダー様。何が起きるんですか。
エルダー 姿を現してくれ、リーナ!
鐘の音が止まる。リーナ、現れる。
アイン 鐘の音が、消えた。
サラ だれ?この人。
エルダー リーナ。何で、おまえがこんなところに。
リーナ もう、やめて。私を殺すのは、もうやめて。
エルダー そうだ。私がおまえを殺したのだ。この手で。
リーナ エルダー。私は殺されてしまうのですか?
アイン 一体なんなんだ。
サラ この人、殺されたのね。エルダー様に。
リーナ 神が、私達を救ってくれるんじゃなかったの?
エルダー この世に神なんて者は存在しない。
リーナ もうやめて。許して。
エルダー 許す?何を言ってるのだ。
リーナ 許して。
エルダー 教えてくれ、リーナ。何を許してほしいのだ。
リーナ もう、やめて。私を殺すのは、もうやめて。
エルダー リーナ!
リーナ やめて!!
再び、鐘の音。リーナ、消える。
サラ ・・・エルダー様。
エルダー リーナ。私は、間違っていたのか?
ナナミ入ってくる。
ナナミ あーもー。迷っちゃった。ジャック先輩ー。どこ行っちゃったのー?
エルダー 誰だ。
エルダーとナナミ、目が合う。音楽。
エルダー おまえは。
ナナミ (銃を構える)
エルダー ナナミ、なぜおまえがここにいる。
ナナミ 来ないで!
サラ 今度は誰?
アイン あぁ、なんかイヤな予感。
エルダー なぜ、おまえが生きている。
ナナミ 来ないでって言ってるでしょう!
エルダー 皮肉なものだな。またこうして再会するとは。
ナナミ 動かないで!
エルダー あの時は、二十年程前だったか。たまたま通りがかりの夫婦を夕食とし
て殺したときに、おまえが出てきたんだよな。まだ、おまえは十五歳く
らいの子供だったっけ。そしてついでに、私はおまえも殺した。
ナナミ 喋らないで!
エルダー そんなおまえがなぜ生きている。しかも、あの時と同じ、殺されたとき
と同じ姿で。
ナナミ やめて。
エルダー そうか!おまえも私達の仲間か!一生年をとらない、子供のままのバン
パイアか!
ナナミ やめて!!
銃を数発撃つナナミ。それが、エルダーの頭に命中する。警報音。
サラ エルダー様!
アイン まずい!警備員が来るぞ!
エルダー ・・・銃の腕を上げたようだな、ナナミ
サラ エルダー様!
エルダー 弾丸が脳内ではじけるこの感覚、なかなか心地いい。だが―――
エルダー、魔法をかける。動けなくなるナナミ。
エルダー 少し、痛かったぞ。お返ししてもらおうか。アイン、サラ。
アイン&サラ は、はい。
エルダー 彼女を捕らえろ。
アイン 一体、何をするんで。
エルダー ゲームを始める。「海辺の老婆」を、こいつの命を賭けた壮大なるゲーム
をな(手紙を書き始める)。
サラ ゲームを?
エルダー 明日になれば分かる。今日はこれで引き上げだ。
アインとサラ、ナナミを縛る。警備員1・2、銃を持って入ってくる。
警備員1・2 動くな!
エルダー おまえらが動くな!
魔法、警備員1・2、止まる。
警備員1 な、なんだぁ!?
警備員2 動けないわよ!?
エルダー 行くぞ。イッツ・ア・ショータイム!
手紙を置き、高笑いと共にさっていくエルダー。それについていくアイ
ンとサラ。連れ去られるナナミ。そこへ入ってくるジャック、スコッ
ト、ハルク、ウィリアムズ。
ウィリアムズ 一体何が起こったんだ!
ジャック 銃声が聞こえましたよ!
警備員1 三人組が、女の子を連れ去っていったんです。
警備員2 助けようとはしたんです、でも、急に体が金縛りみたいになって。
ウィリアムズ あぁ!なんてことを!しかし、何で美術館で誘拐なんて。
ハルク 人質を美術品と交換しようって手段かもしれません。
スコット なぁ。
ハルク どうした。
スコット ナナミがいないぞ。
ジャック ナナミが!?
あたりを見回す。手紙を見つけるジャック。エルダー出てくる。
ジャック&エルダー ナナミさんの保護者殿。
エルダー 明日の午後十時に、同じこの場に「海辺の老婆」の絵をここに持ってく
ること。
ハルク くそ!やっぱり交換条件に人質を出してきたか。
スコット 待ってください。まだ続きがあります。
エルダー なお、関係者以外の人間をこの場に連れてこないこと。ナナミの命が惜
しいのならば、異常の条件に従ってください。私は、関係のない人間と
はゲームを楽しみたくないのでね。それでは、明日のゲームを楽しみに
しています。闇よりの使者、エルダー・バンパイア。
ウィリアムズ ゲームを楽しむ?一体何のことなんですか!絵は、「海辺の老婆」はどう
なっちゃうんですか!
ハルク 館長さん、落ち着いて!
スコット ジャック。
ジャック ・・・エルダー・バンパイア。
ナナミのノートパソコンが落ちている。ジャック、それを拾い上げる。
ジャック ・・・ナナミ。
シーン六
妖導師社。九尾、スコット、ハルク、ウィリアムズがいる。
スコット ・・・と言うわけだ。
九尾 で、あんた達は何もできなかったわけ。
スコット それは―――
九尾 ナナミがはぐれてたことも知らないで、悠々と美術品眺めてたって
わけ!?
ハルク 九尾君、落ち着いて。
九尾 落ち着いてられるものですか!ナナミは、もしかしたらナナミはもう死
んでるかもしれないのに!
スコット ・・・すまない。俺のせいだ。
ハルク スコット。私にも責任が。
ウィリアムズ そうですよ。気が付かなかったのは、私達だって同じ―――
スコット だから、この責任を、俺はしっかりととらせてもらう。
九尾 責任って、どうするつもりなのよ。
スコット ハルク先輩。
ハルク なんだ。
スコット 俺、FBIやめます。
ハルク なんだって!?
九尾 そんなことで、責任をとるつもりなの?
スコット 勘違いするな。仮にも元FBI。そんなことで責任をとるなんて思って
ない。関係者以外は、犯人の、バンパイアの所へはいけないんだよな。
九尾 それがどうしたって言うのよ。
スコット 俺、スコット=J=キニスンは、今日を持ちまして、妖導師社の社員と
して働かせていただきます。
ハルク スコット!?
九尾 どういうつもり?
スコット これで、俺も晴れてナナミの関係者だ。
九尾 あんた、まさか。
スコット 俺がナナミを救い出す。
ウィリアムズ 本気ですか!?
スコット 俺はいつだって本気だ。
ハルク スコット、なぜそこまでして。
スコット 先輩、俺は今まで、事件解決率百%の男として、刑事をやってきたんで
すよ。だから、この事件に俺が出なかったら、俺はこの事件を解決でき
ないまま、蚊帳の外で見物するだけの男になっちまうんですよ。もしか
したら、そんな男だったから、俺はこんな会社にちょっかいだしに行っ
てたのかもしれない。
ハルク スコット、そんなことのために刑事を辞めなくても。
スコット そんなことよりも、小さなこととはいえ、ミスを犯して、一般市民を事
件に巻き込んでしまった自分が許せないんです。だから、この事件は俺
が解決しなきゃいけないんです。勝手なことをやってるのは分かってま
す。でも、俺の最初で最後のわがままです。許してください。
ハルク ・・・出来の悪い部下を持って、私はがっかりしたよ。
スコット ・・・・・。
ハルク 好きなだけやってこい。関係ないとはいえ、私も出来るかぎりの手助け
はしよう。
スコット ありがとうございます。
九尾 まだ、許してないからな。
スコット じゃあ、ここで働いても構わないのか?
九尾 好きにしろ。
スコット ナナミは、絶対に助け出す。
九尾 一人で熱くならなるな。でも、さっきは私も取り乱して、悪かった。
ウィリアムズ しかし、どうしましょうか。まさか「海辺の老婆」を要求してくるなんて。
ハルク まさか取引場所に「海辺の老婆」があるとは思わないだろうな。
スコット しかし、下手な行動をとると美術館内で戦闘が起こるかもしれない。
九尾 館長さん。お願いがあるんですけど。
ウィリアムズ なんでしょうか。
九尾 「海辺の老婆」以外の美術品すべてを、美術館外に移動させてもらえないでしょうか。
ウィリアムズ 美術館の外に?
九尾 目標の狙いはあくまで「海辺の老婆」。まさか、「海辺の老婆」を傷つけ
ようとは思わないでしょう。彼の言う大事な、「ゲーム」の景品なんです
からね。
ハルク それで。
九尾 あらかじめ断っておきますが、恐らく、館内での戦闘は避けられないで
しょう。美術館という狭い空間内では、スナイパーライフルなどの遠距
離攻撃はほぼ不可能。かといって、バンパイアを素手で取り押さえるの
は無謀ですからね。だから勝負は、ナナミが目標、つまり、バンパイア
のそばから離脱した一瞬の隙を突いての戦闘。これ以外に考えられません。
ハルク へたに警察を呼んで包囲網を作っても、逆に犯人を興奮させるだけ、か。
九尾 あと、ハルクさん。
ハルク なんだ。
九尾 今回、警官隊は手を出さないようにしてもらえませんか。
ハルク 手を出すにも、誘拐した犯人も明日にならなければ出て来ない状況だ。
現時点では、捜索活動しかやってないだろう。それに、どっちみちFB
Iに手出しは出来んさ。私達は、ゲームの関係者ではないのだからな。
まったく、情けない話だ。
スコット 本署の方へは?
ハルク 一応、連絡はしてある。しばらくすれば、ここにも来るだろう。
ウィリアムズ でも、警察が使えないなら、一体誰が犯人のもとへ?
九尾 私達、妖導師者の社員よ。
ハルク そんな無茶な。
九尾 無茶なことは分かってるわ。でも、他に方法が考えられるの?明日がタ
イムリミットなのよ。
ハルク それは、そうだが。
九尾 とは言っても、大勢で行っても犯人を興奮させるだけだわ。行くとし
て、人数は二人、三人が限界って所ね。
ハルク ちょっと待て。今ここにいる妖導師社社員って。
スコット つまり、俺とジャックと九尾社長の三人だけで、犯人を取り押さえる、
もしくは撃破する、と。
九尾 いいえ。行くのは、あなたとジャック、二人だけよ。
スコット あんたはどうするつもりなんだ?
九尾 上司に向かって「あんた」は失礼。
スコット ・・・社長は?
九尾 私は、ここから作戦の全てにおけるサポートを、今回やることにする。
この、ナナミのパソコンを使ってね。
スコット なるほど、社長が死んだら、妖導師社はお終いだもんな。
九尾 勘違いしないで。失敗したら、(銃を取り出す)私も責任をとるつもり。
自分だけ生き残ろうだなんて思ってないわよ。
スコット 社員思いの上司だな。
ウィリアムズ うまく、いくんでしょうか。
九尾 いかせるわよ。私達は、今まで仕事を百%こなしてきた、妖導師社なん
ですから。
ハルク ところで、肝心のジャック君は?
九尾 多分、タバコを吸いに外に出てるわ。
ウィリアムズ タバコを吸いに?
九尾 もともとヘビースモーカーなんだけど、でも、今日は吸ってるタバコの
本数多いみたいね。
ウィリアムズ やっぱり、ショックだったんでしょうか、ナナミさんがいなくなって。
九尾 そりゃね、長い間、パートナーやってきたからね。私も吸ってこようか
な、タバコ。
立ち去ろうとして止まる九尾。
九尾 スコット。
スコット なんすか、社長さん。
九尾 今のうちに遊んどいたほうがいいわよ。明日は、あんたにとって最初で
最後のここでの仕事になるかもしれないんですからね。
スコット 縁起でもないこと言うなよ。
九尾、去る。スコット、ハルク、ウィリアムズも去る。舞台は変わっ
て、下水道。手足を縛られながらも、逃げているナナミ。そこへ入って
くるアイン、サラ。ナナミを捕まえる。
アイン ああもう!てこずらせないでくれよ!
ナナミ ちょっと、離してよ!
ナナミ、暴れる。アインのもう片方の手も取れる。
アイン あぁ!手が!
サラ ちょっと何なのよあんた!
アイン ちょっとやめてくれよ!俺の体デリケートなんだから!
ナナミ 知らないわよそんなこと!
サラ 何であんたの体ってそんなにもろいのよ。
アイン おまえはバンパイアなのにどうして何ともないんだよ。
サラ 女の子にそんなグロテスクな表現させるわけ?女は綺麗でなきゃいけな
いの。
アイン そんなお手軽な理由でいいのか?バンパイアって。
サラ それにしても、こんなカッコで逃げようだなんて。
アイン ここであんた逃がしちゃったら、俺達大目玉食らっちまうんだからよ。
ナナミ あんた達は、何であんなやつに付いてるの?
アイン 別に、好きで付いていってるわけじゃない。
サラ 私は、好きで付いていってるんだけど。
ナナミ 好きでもないのに、どうしてあいつについていくの。
アイン いや、ついていくと言うよりは、無理やり引っ張られてるって感じで。
ナナミ 逃げようとは思わないの?
アイン そりゃ思ったさ。いきなりバンパイアにさせられて。俺、たまたま夜道
を歩いてたときにあいつが人の血吸ってたとこ目撃しただけなんだぜ?
そしたらいきなり襲ってきて、気付いたらこのありさま。俺の運命って
こんなんなのかよ。
ナナミ で、どうして逃げないのよ。
アイン 逃げられるわけないだろ。見つかったら、多分殺される。それに、時間
がたつたびに、俺はだんだんゾンビみたいに体がなくなっていく。こん
な姿で街中歩いてみろ。警官隊に撃ち殺されるだけだろが。警察が化け
もんに対して、どんなことするのか、俺は知ってんだぞ。話し合いなん
て最初から出来るものだなんて思ってない、鳥獣駆みたいに周り囲んで
蜂の巣だ。
サラ あんたも大変だったのね。
ナナミ あなたは、あいつのこと嫌いじゃないの?あなたも、人間だったのに、
あいつにバンパイアにさせられたんでしょ?
サラ だって私、あの人に惚れちゃったんだもの。
アイン まだそんなこと言ってるのか。あいつはおまえのことを僕としか見てな
いんだぞ。
サラ そんなの分かってる。でも、それでも。やっぱり私、あの人のことが好
きなの。
ナナミ その人が、間違ったことをやってるって分かってても?
サラ 人間には人間の生き方が、バンパイアには、バンパイアの生き方がある
のよ。
ナナミ 楽しい?
サラ 何が言いたいのよ。
ナナミ 私も、バンパイアよ。でも、私はそんな生き方はしたくない。自分が楽
しくない生き方なんか、したくない。
アイン 逃げられるものなら、逃げたいよな。
サラ 私は。
ナナミ 明日になれば、逃げられるわ。
アイン なぜそう思うんだ?
ナナミ 先輩が、あいつを殺すのよ。
アイン それはないね。人間の腕じゃ、あの人には勝てないよ。
ナナミ 人間ならね。
アイン え?
サラ 行きましょう。早くしないと、エルダー様に怒られるわよ。
アイン でも。
サラ 私達は、もう終ってるのよ。もう、戻れない。私はもう、人間じゃない
の。行くわよ。
サラ、アイン、ナナミを強引に連れて行く。場面はまた変わる。妖導師
社の外。ジャック、タバコを吸っている。そこへ入ってくるスコット。
スコット あまり吸いすぎると、肺ガンになるぞ。
ジャック FBI、やめたんですね。
スコット あれ、何で知ってんだ?
ジャック 中からまる聞こえでしたよ。会話が。
スコット そっか。
ジャック スコットさん。
スコット あ?
ジャック 犯人のところに、行くんですよね。
スコット ああ。
ジャック だったら、いろいろ話さなきゃいけませんね。
スコット なにを?
ジャック バンパイアを、殺すんですよね。
スコット 多分、そういうことになるな。
ジャック ナナミも、あいつも、バンパイアなんです。
スコット へ?
ジャック ナナミは,一度死んだんです。
スコット ・・・・・。
ジャック 殺した相手は、犯人のエルダー・バンパイアと名乗る人物です。
スコット なんだって?
ジャック エルダー・バンパイアは、ナナミの両親を殺し、そのあとに、ナナミも
殺したんです。そして、行き場を失ったあいつを、僕達、妖導師社が引
き取ったんです。
スコット なあ。
ジャック はい。
スコット 俺も,タバコいいか。
ジャック はい。
スコット (タバコを吸いながら)おまえも,人間じゃないんだろ。多分,九尾社
長も。
ジャック ・・・ばれちゃいましたか。
スコット なんでだ?
ジャック 何がですか?
スコット なぜ、人間じゃないのに、人間の味方をする。なぜ、人間と仲良くす
る。なぜ、同類のバンパイアを殺そうとする。
ジャック 理由、必要なんですか?
スコット いいたくないなら、言わなくてもいいさ。
ジャック 知ってますか?ニューヨークの人口の約5%は、人間じゃないんですよ。
スコット 嘘だろ?
ジャック つまり、こういうことです。化け物の中にも、人間と共存するのを望む
者がいる。平和な生活を望む者がいるんです。僕達妖導師社も、その一
つって訳です。でも、まだその殆どが、人間を忌み嫌う者達です。僕達
は、その平和を乱すもの達を、説得、または排除してるんです。
スコット 俺達は、今までおまえの仲間達を何人も殺してきたんだぞ。
ジャック それはお互い様。このニューヨークで、人間が魔物を傷つけるように、
魔物も人間を傷つけているんです。でも、いつかそんな日がなくなる日
がくれば、って思うんです。僕、人も化け物も、この街も好きですか
ら。だから、全部ひっくるめて面倒見てやろうって思ったんです。そし
て生まれたのが、妖導師社。
スコット そうか。
沈黙。
ジャック スコットさん。
スコット あ?
ジャック さっき、なんで僕が人間じゃないって分かったんですか?
スコット 人間にしては、人間らしすぎるんだよ、おまえ達は。
ジャック そうですか。
タバコを吸う。
スコット 昔、子供のころに言ったこと。僕は大きくなったら、悪い怪物たちをや
っつける刑事さんになるんだ。悪い怪物、悪いやつ。怪物が悪いなん
て、いったい誰が言い始めたのだろう。最近思ったこと。最初に攻撃を
始めたのは人間で、怪物たちは復讐をしてきているのではないか。それ
が真実だとすれば、今までたくさんの化け物どもを殺してきた俺は、正
義の味方だったのか?いや、味方をしているだけで、俺自身は、正義じ
ゃなかったのかもしれない。明日、俺はバンパイアを殺すかもしれな
い。俺に、殺せるのだろうか。本当に悪いのは、本当に痛いのは・・・
やめよう。考えて分かるもんじゃない。明日は、ただナナミを救えば、
それでいい。そんなことを考えてるうちに、時間は次の日を指していた。
シーン七
美術館内。時計は9時五十五分を指している。エルダー、ナナミ、サ
ラ、アインがいる。エルダーは剣を腰にさしている。サラは鉄パイプを
持っている。
エルダー そろそろ時間だな。どうだナナミ。とらわれのお姫様になった気分は。
そろそろ、王子様が迎えにきてくれるぞ。
ナナミ ・・・・・。
エルダー そんな目で睨むな。これから面白いゲームが始まるのだぞ。
サラ エルダ様。なぜゲームをやろうと思ったんですか?
エルダー おまえ達の人間の体の器がなくなり、新しいバンパイアの体の器が完成
するころだろう。アイン、そろそろ、新しい手が生えているだろう。
アイン へ?(アイン、手を見る。新しい、バンパイアの手が生えている)あ
ぁ!手だ!懐かしいなぁ(鉄パイプを掴む)あぁ、物を掴めるのがこん
なに便利だなんて知らなかった。
エルダー おまえ達には、バンパイアになるための最後の試練を与えようと思う。
アイン 最後の試練?
サラ それは一体。
エルダー 人間の心の器を捨てるのだ。そして、このゲームに参加する人間をすべ
て殺すのだ。
アイン 殺す?
エルダー 人間は汚れた生き物だ。欲がために、他人を消し、自らを守るために、
害となるもの全てを消す。残されたものの悲しみなど考えない獣どもだ。
サラ 残されたもの?
エルダー なんでもない。気にするな。これは、「海辺の老婆」を賭けたゲームでも
あるが、おまえ達の卒業試験でもある。それと同時に、汚れた人間ども
を消す戦争でもあることを忘れるな。
ジャック、スコット、入ってくる。
エルダー あなた達がナナミの関係者ですか。ようこそ、ゲームの会場へ。私、エ
ルダーと申します。
スコット ナナミを返してもらおうか。
ナナミ なんでスコットさんが来るの?
スコット 悪いかよ、来ちゃ。
九尾、ハルク、ウィリアムズが出てくる。通信機での会話。
九尾 ジャック、聞こえてるか。いい?まず相手の要求を聞くこと。チャンス
をうかがって。焦らないこと。あと、封魔弾の装備はできてるわね?
ジャック OKです。
エルダー まずは、こちらの要求にこたえてもらおうか。「海辺の老婆」は、持って
きてくれたかな?
ジャック 持って来る必要はない。「海辺の老婆」は、ここにあるんだから。
カードキーを取り出し、センサーに通すジャック。
センサー 認証中・・・ウィリアムズ館長のカードであることを確認しました。ロ
ックを解除します。
扉が開く。
ウィリアムズ あぁ、頼みますよ。
アイン あら、灯台下暗しってやつ?
エルダー まああいい。むしろ、こんなに早く事が進むとは思わなかった。実に気
分がいい。
スコット 要求に従った。ナナミを返してもらおうか。
エルダー 焦らなくてもいい。ナナミはちゃんとお返しする。しかし、その前に一
つ、ゲームをしましょう。
スコット ゲームだと?
エルダー あなた達がゲームに勝ったら、ナナミと一緒に、「海辺の老婆」もお返し
しましょう。勝負方法はいたって簡単。私たちが闘って、生きている方
が勝者、死んだ方が敗者、ただ、それだけです。しかし、人間のあなた
達には多少分が悪いでしょう。ですから、私は素手で戦わせていただき
ます。どうせ、私たちを帰すつもりはないのでしょう。
ハルク 意外とすんなりと事が進んどるな。
九尾 でも、こちらとしては都合がいい。まさか、あっちから戦いを挑んでく
るとは思わなかったけど。でも、ジャック、気をつけたほうがいいわ
よ。相手は、絶対にあなた達に勝つ自信があるようだから。最後まで気
を抜かないで。
ジャック 分かってますよ。さて、そうとなると話が早い。一応―――
スコット 一応言っておくが、おとなしくもとの世界に帰れば何もしない。帰らな
いのなら滅ぼしちゃうけどOK?
ジャック 僕のセリフ言わないでくださいよ。
スコット へへ、一度言ってみたかったんだ、これ。
エルダー ずいぶんな自信だな。しかし、そういわれて、立ち去るとでも思ってい
るのか。
スコット 期待通りの返事、ありがとよ。
ジャック 社長さん、やっちゃいますよ。
九尾 頼みの綱は今おまえ達しかいない。
ハルク 無茶するんじゃないぞ。
ウィリアムズ 「海辺の老婆」を頼みましたよ。
エルダー ゲーム開始だ。
エルダー、襲い掛かる。それをよける二人。
エルダー 面白い。実に面白い。正義という名の旗を掲げて偽善者共が闘う様は。
ジャック おまえは今まで闘ってきた魔物たちとは違う。一体何を考えてるんだ。
この戦いで、おまえは何を知ろうとしてるんだ。
エルダー 知りたいことなど何もない。私はただ、正義ぶっている人間をぶちのめ
し、最後には情けなく命乞いをする人間を殺すのが好きなだけよ。
スコット てめぇ、人の命を何だと思ってやがる!
エルダー おまえも、化け物を殺してきたのだろう?
スコット それは、あいつらが人を殺すから。
エルダー おまえ達人間が魔物を殺すから、我々が復讐しているとしたらどうする。
ハルク スコット!話を聞くな!
スコット 俺は。
ジャック スコットさん、聞いちゃダメだ!
エルダー おまえは、善か、悪か。
ナナミ スコットさん!話を聞いちゃダメ!無視して!
スコット 俺は。
九尾 スコット!
ウィリアムズ スコットさん!
エルダー さぁ、答えろ!
スコット 俺は善でも、悪でもないさ。俺はただの人間。妖導師社社員の、スコッ
ト=J=キニスンだよ。
スコット、銃を2・3発撃つ。倒れ、苦しむエルダー。
九尾 よし!
ハルク よくやった!
エルダー 貴様、それはただの銃ではないな。
スコット どうだ、妖導師社特製封魔弾の味は。
ハルク なんだね?「封魔弾」て。
九尾 企業秘密です。
サラ エルダー様!
九尾 どけ!立派だ。貴様ら立派だよ。しかし、目障りだ。消えろ。
鐘の音。リーナ、現れる。
エルダー リーナ、見ていろ、今から、憎き人間どもを殺して見せるよ。
リーナ もうやめて。
ジャック おまえが彼女を縛り付けているのか。
エルダー 縛る?違うな。私も、この教会に縛り付けられている。
ジャック もうこんなことをするのはやめるんだ。おまえが、彼女を苦しめてるんだぞ。
エルダー おまえ、うるさいよ。もういい。遊びは終わりだ。全部、終らせてやるよ。
リーナ もう、やめて。私を殺すのは、もうやめて。
魔法、ジャック、スコット、動けなくなる。
スコット おまえ、何をした!
ジャック まだ分からないのか!彼女を永遠に亡霊にする気か!
エルダー、美術館の柱を一本引きちぎる。
エルダー 大理石か。おまえらの墓石には十分過ぎるな。
ジャック 一体何をする気だ。
九尾 何だ!?通信が聞かない。
ハルク スコット!ジャック君!
エルダー これで終わりだ。
ジャック わ!ちょっと待―――
大理石の柱につぶされるジャック。
スコット ジャック!
ナナミ 先輩!
リーナ 私は、殺されてしまうのですか。
エルダー 次はおまえの番だ。さぁ、アイン、サラ。
アイン お、俺は、遠慮したいな。
サラ エルダー様、何も殺さなくても。
エルダー やれ。
リーナ やめて!
スコット くそ!動け!動けよ!ここで動かなきゃおしまいなんだよ!動け!動
け!動け!
アイン あんたに私怨はないけど。
サラ これもエルダー様の命令。
アイン&サラ うあああ!!
リーナ やめて!
アインとサラ、鉄パイプを振りかざす。そこに、大理石が崩れる音。全
員、思わず止まる。大理石から、鋭い刀のような左手が現れ、大理石を
切り裂く。中から出てくるのは、ジャック。
ナナミ 先輩。
ジャック (タバコを吸う)やれやれ、派手に暴れてくれる。おかげで使いたくも
ないこいつを使う羽目になってしまった。
エルダー 貴様、人間ではないのか。
ジャック、魔法をかける。スコットが動けるようになる。
ジャック 大丈夫ですか?
スコット 馬鹿野郎!助けるなら、もっと早く助けろ!
九尾 あ、やっとつながった。
ハルク ジャック君!・その手は一体。
ジャック あ、いや、えっと、その、見てのとおりです。
ナナミ あちゃ、人間にばれちゃった。
エルダー 聞いたことがあるぞ。世にある全てのものを、その左手で切り裂くこと
の出来る同族がいると。最後にその名を聞いたのは四五年前、ロンドン
だったか。恐怖の代名詞とまでなった「切り裂きジャック」と言われた
男。日本の妖怪とやらに殺されたと聞いたが。まさかこんなところで出
会うことになるとはな。ジャック=ザ=リッパーよ。
スコット・アイン・サラ・ウィリアムズ・ハルク 「切り裂きジャック」!?
ジャック (タバコを吸う)その呼び名で呼ばれるのは、余り好きじゃないんだがな。
エルダー なぜだ、なぜ恐怖の代名詞とまでなった男が、人間の味方をする。ジャ
ック=ザ=リッパーよ。おまえも人を殺してきたのだろう。
ジャック とある人にどつかれ―――もとい、諭されて、僕は人の道に入ることが
出来た。正しい道に入ることが出来たんだ。
エルダー では、その道を元に戻してやろう。人を助ける道なんて、絶対に間違っ
ているのだからな。
ジャック それが間違いであることにまだ気付かないのか。
エルダー おもしろい。どちらが正しいのか、見極めてやろうではないか。アイ
ン、サラ、おまえはその男をやれ。私は、こいつをやる。
サラ エルダー様、私―――
エルダー やれ!おまえらはバンパイアなのだぞ!もう、後戻りは出来ない。
リーナ やめて。もう許して。
エルダー 本気で行かせてもらうぞ。どちらが正義か、決着をつけようではないか。
ジャック 一応勧告をします。おとなしく―――
エルダー 帰ると思うか。
ジャック 期待通りの返事、ありがとさん。
エルダーとジャック、戦う。アインとサラ、スコットに襲い掛かる。ス
コット、警棒を取り出し応戦する。
サラ なぜ、銃を使わないの。
スコット 俺は、できればもう殺しをしたくない。
アイン 俺達は、バンパイアなんだぞ。
スコット 被害者を銃で撃ったら、、犯罪だろ。
アイン もうほっといてくれ。俺達は死んでも当然なんだ。もう、後戻りは出来
ない。
サラ 死んでも、誰も私たちのために悲しんだりなんかしないわ。
スコット それは違う!
アイン&サラ 違わない!
エルダー どうした、切り裂く者よ。おまえの力はそんなものか!
ジャック おまえはなぜそこまで人間を憎む。その目はそんなに悲しいのに、なぜ
人を傷つける。
エルダー 何が言いたい。
ジャック おまえが彼女を殺したのか。
エルダー リーナのことか。そうだ。俺が、あいつを殺したのさ。
ジャック なぜ殺した。
エルダー 昔、ここは教会だった。私はここの牧師で、いつもそばにはリーナがい
た。愛し合っていたよ、私たちは。しかし、彼女が魔物に噛まれてか
ら、周りの人々は彼女を殺そうとしてきた。そして、私たちは二人で逃げ
たよ。いつか、神が我々を救ってくれる日を信じてな。しかし、次第に
異形へと変わっていく彼女を見て、私は正直恐怖したよ。そして、彼女
を殺してしまった。この手で。
ジャック それが理由で、おまえはバンパイアに。
エルダー わかるかね、人間に荷担するものよ。後に残された者の絶望が。人間が
創った、下らない神と言う名のペテン師を信じて全てを失ってしまった
私の悲しみが!
リーナ エルダー!もう、やめて。許して。楽になりましょう。
エルダー 許す?・・ハハハ!許せないな!一番許せないのは、自分自身だからだ!
スコット おまえ達が死んだら、少なくとも俺が悲しむ。
アイン あんたが悲しむ必要がどこにあるんだよ!
スコット 俺はあんたらを救いたい。あんたら、元は人間なんだろ。
サラ だったら、私たちを殺して。私たちを救いたいのなら、私たちを殺して!
スコット 誰かを殺す権利なんて、誰も持ってない!
ジャック エルダー!おまえはなぜ人を殺す。残される悲しみを知りながら、なぜ
残される者を作る!
エルダー 知ったような口を利くな!
ジャック なぜ人殺しの奈落を知りながら、ナナミの両親を、ナナミを殺したんだ!
エルダー どれだけ仲のいい夫婦も、所詮は人間。どいつもこいつも、汚い影を隠
している。ナナミじゃなくてもよかった。人間なら、誰でもよかった!
ジャック 誰かを殺す権利なんて、誰も持ってない!
ジャックの左手が、エルダーを切り裂く。さらに追い討ちをかけるよう
に、エルダーに銃を五発撃ち込む。もだえ苦しむエルダー。
サラ やめて!もう十分よ。この人はもう闘えないわ!
エルダー くそ。人間などに、人間の心を持つものなどに、私が負けるわけに
はいかんのだ。
ジャック 最後の一発。最後の勧告だ。帰るか、否か。
エルダー 否!
ジャック そうか、残念。サヨナラ―――
ナナミ、後ろから鉄パイプでジャックを殴る。気絶するジャック。
九尾 ナナミ!?
スコット ナナミ!どういうつもりだ!
ハルク なぜだ。なぜジャック君を。
ウィリアムズ なぜですか、ナナミさん!
ナナミ 先輩、ごめんね。こいつとは、私が決着つけなきゃいけないの。
エルダー 敵討ちか。そうだな。おまえには私を殺す権利がある。
ナナミ 違うわ。私もこのゲームの参加者よ。あんたが決めた、命をかけたルー
ルで、あんたと戦うわ。ゲームを変えましょう。この中の一発の封魔弾
が、私かあなたを打ち抜くの。勝負を決めるのは、運のみ。
ウィリアムズ まさか!
九尾 ロシアン・ルーレット!?
ナナミ バトルじゃ、私が不利でしょ?これなら、勝負は五分五分。これが、私
の最初で最後の、運命を賭けた戦い。
エルダー いいだろう。最後のゲームだ。
スコット 待てよ。俺も参加する。
ハルク スコット!
九尾 何考えてるの!
スコット 俺も、ゲームの参加者だからな。だから、やる。
アイン 俺もやる。今なら、死んでも悔いがなさそうな気がするから。
サラ 私も。生きても死んでも同じなら、楽になれる死を望む。
九尾 馬鹿よ。みんな大馬鹿よ!
ハルク ナナミ君!馬鹿な真似はよすんだ!
ウィリアムズ ナナミさん!やめてください!
ナナミ ゲーム開始よ。
リボルバーを回し、銃にはめる。音楽「STRICTLY BUSIN
ESS(ANTRONIK vs EMPD)が流れる。エルダーに銃
を渡すナナミ。引き金を引くエルダー。弾は、出ない。アインに銃が渡る。
アイン もう、死んでも生きても同じだ。だったら、ここで死んでもいいかもし
れない。この一発だけで、痛みもなく死ねるのなら、俺は幸せかもしれ
ない。
引き金を引く。弾は、出ない。サラに銃が渡る。
サラ できればこんなことしたくなかった。人並みに生きて、人並みに人生を
過ごしたかった。でも、もうそれも叶わない夢なのね。
引き金を引く。弾は、出ない。スコットに銃が渡る。
スコット これは、考えも無しに正義を演じ、魔物を殺してきた俺への罰、なのか
もしれない。だとしてら、俺はここで死んでも仕方のない男だ。
引き金を引く。弾は、出ない。ナナミに銃が渡る。
エルダー 残り二発。確立は五分五分。おまえにその引き金が引けるか。
ナナミ 馬鹿にしないで。私が仕掛けた勝負よ。何も省みずに、弾いて見せる
わ。そして、勝つのは私。
ナナミ、引き金を引く。弾は、出ない。音楽、消える。
ナナミ 私の勝ちね。(銃を構える)自分じゃ引き金は引けないでしょう。私が引
導を渡してあげる。
九尾 ナナミ!もういいでしょ!
ウィリアムズ もうやめてください!ゲームはもう終ったじゃないですか!
エルダー まだ終ってないさ。私が死んでない。
リーナ 私は、殺されてしまうのですか。
エルダー 待ってろ、リーナ。今そっちに逝くから。
ナナミ 消えて。
ナナミ、引き金を引く。弾は、出ない。引き金を何度も引くが、弾は出な
い。ジャック、起き上がって、銃を取り上げ、ナナミに平手打ちをする。
ジャック 社長も、ハルクさんも、スコットさんも、ウィリアムズさんも、おまえ
のことが好きだ。もちろん僕も好きだから、おまえが今したことは、絶
対に許せない。
九尾 ジャック。
ジャック 弾は、最初から五発しか入ってなかったんです。
スコット 知ってて参加した。何もしてないのは、ちょっと不自然だったろ?
エルダー なぜ、私を殺さなかった。なぜ弾が入ってないと知りながら、私に警告
をした。
ジャック (タバコを吸って、全員に)なぜそんなに死のうとしてるんだ!
沈黙。
ジャック バンパイアだろうが、化け物だろうが、人間だろうが、だからなんなん
だよ。みんな、命だってありゃ、脳みそだってあるだろが!どいつもこ
いつも、一体何が違うって言うんだよ!こんな戦い、無意味だよ。
ナナミ 先輩、もう駄目だよ。一度壊れた模型と同じ。人生だって、同じものは
作り直せないよ。
ジャック だったら新しい模型を、新しい人生を作ればいい。今よりももっとでっ
かくて、もっと素敵な人生をさ。
アイン 俺は、バンパイアなんだぞ。
スコット だからなんだよ。関係ないじゃん。なんなら、おまえも妖導師社員にな
るか?人間だってバンパイアだって、生きていいんだぞ。
サラ でも、今の私には、もう行き場はない。
ジャック 十年二十年程度の人生で全てを諦めてしまう程度の、安い人生なんです
か。僕は、軽く三百歳を超えてますよ。長生きに損はないって。
エルダー 妻を殺し、自分を殺し、周りの全てを殺し、もう誰も信じられないよう
な私に、生きる権利など―――
ジャック うるさい!生きろ!死ぬ権利も人にはないだろが!いいかエルダー、お
まえは、死んだリーナさんのためにも、絶対に生きろ!今まで殺してき
た人たちのためにも、自分の心を殺した自分のためにも、絶対に生き
ろ!死は全てを終らせるんだぞ。罪を犯したなら、その罪とともに消え
るのはやめろ。死に逃げはやめろ!いいか!生きろ!絶対に生きろ!誰
がなんと言おうと生きろ!
エルダー 本当に、おまえは面白くて、不思議なやつだよ。ジャック・ザ・リッ
パーよ。何故に、おまえはそこまで生を望む。
ジャック 僕も、こうしてしかられたことがあるから。おまえと同じで、死で終わ
りにしようとしたから。
リーナ 全てを、終わりにしましょう。また一緒に、生きましょう。
エルダー ・・・まだ、人間を許すことも、私自身を許すことも出来ない。
スコット それでいいんじゃねぇの?誰にだって許せないものの一つや二つはあ
る。でもさ、そんなんじゃ、おまえのかみさん泣くぜ?
エルダー ・・・・・。
ナナミ 私は、私はどうなるのよ。私はどんなことがあっても、この男を許すこ
となんて出来ない。
ジャック ナナミ、妖導師社やめないか?やめてさ、二人で暮らさないか?
九尾 ジャック?
ジャック 復讐のために強くなるくらいなら、幸せのために弱くなった方がいい。
スコット そら、帰るぞ。俺、もう腹減ってしかたねぇんだ。
九尾 みんな、あんたの帰りを待ってるのよ。今日は特別に、ケンタッキーお
ごってあげるから、早く帰ってきなさい。あとジャック、会社は辞めさ
せないわよ。請求書、苦情、始末書の処分、手伝ってもらわなくちゃい
けないんだからね。
ジャック ハハ・・・。ハルクさん、警官隊、突入させてください。館長さん、「海
辺の老婆」は、無事ですよ。
ハルク 分かった。
ウィリアムズ ありがとうございます。本当に、ありがとうございます。
ナナミ ・・・・・。
ジャック さぁ、帰ろう。
ジャック、帽子をとり、ナナミにかぶせる。ナナミの目からは、涙がこ
ぼれている。そして、パトカーの音が近づいてくる。
シーン八
警備員1・2がいる。
警備員1 あの事件で、美術館の柱が一本なくなって、一時は大騒ぎになったけ
ど、メトロポリタン美術館は無事、「海辺の老婆」を公開することが出来た。
警備員2 事件の首謀者エルダーは、連続殺人、傷害、殺人未遂、自殺未遂、誘
拐、器物破損、美術品盗難、ホテルの宿代の踏み倒しなどにより、懲役
三百年の刑を受け、現在服役中である。
エルダー、出てくる。刑務所の中。椅子に座っている。後ろにはリーナ
がいる。エルダーはうつむいていて、その表情を伺うことは出来ない
が、どことなく、笑っているようにも見える。
警備員1 アインとサラは、美術品盗難及び誘拐の共犯としてつかまったが、懲役
半年の軽い刑ですんだ。そこから先をどう生きていくかは、彼ら次第。
アインとサラ、空を眺めた後、お互い見つめあう。そして、振り切るよ
うに、お互い別の方向に歩き出す。
警備員2 スコットさんは、妖導師社に入るとか言っときながら、退職届を出し忘
れていたために、現在も上司のハルクさんとコンビでFBIをやっている。
ハルク、スコット、飛び出す。物陰に隠れ、様子をうかがっている。ハ
ルクの合図で銃を構え、二人飛び出す。
警備員1 ウィリアムズ館長は、無事に「海辺の老婆」の公開も終え、一安心の様
子。今日も美術館の仕事で大忙しのようだ。
ウィリアムズ、コーヒーを飲みながら「海辺の老婆」を眺める。携帯電話
が鳴り、電話を取る。電話の相手と話をしながら、去る。
警備員1・2 そして、あの人たちは今。
ジャック、ナナミ、九尾、入ってくる。
ジャック あぁ、今日も仕事疲れた。
九尾 また請求書増やして・・・。
ナナミ まあいいじゃないですか。今日もまたニューヨークの平和が守られたん
ですから。
九尾 はいはい、気楽でいいな、おまえは。しかし、早いものだな。もう、あ
の大仕事から半年経つのか。
ジャック 社長、あの、そのことなんですけど。
九尾 なんだ。
ジャック いや、えっと、その。言いにくかったんで今まで言わなかったんですけど。
九尾 言いたいことはシャキっと言わんかい!
ジャック、トランクを開ける。中から出てくるのは、「海辺の老婆」ただ
し、少し汚い。
ジャック これ。
九尾&ナナミ あぁー!!!
九尾 なんでおまえが「海辺の老婆」を持ってる!
ジャック いや、あのときのバトルで返り血とかエルダーさんおお暴れとかでもう
ボロボロになっちゃったから。
ナナミ じゃあ、今美術館にある「海辺の老婆」は?
ジャック (カメラを取り出す)
ナナミ 拡大写真?
ジャック まぁ、何とかなるかなって。
九尾 ・・・ジャック、今日という今日は「なんとか袋」の尾が切れたぞ。
ジャック やっぱダメっすか。
九尾 おまえら二人とも根性叩きのめしてやる!
ナナミ なんで私も入るんですか!?
ジャック ギャー!食われるー!
九尾 待てー!
三人、走り去っていく。
警備員1 なぁ。
警備員2 なに?
警備員1 ここのガードマン、どれくらいやってるっけ。
警備員2 さぁね。
警備員1 ニューヨークも、そろそろ飽きない?
警備員2 そう?私、ここ好きだけど。
警備員1 もう五十年もニューヨークにいるんだぞ?そろそろ引っ越さない?
警備員2 そうね、別の土地に行くのもいいかもね。
警備員1 俺、いくならべガスに行きたいな。
警備員2 ベガスかぁ、行ってみますか。
警備員1 よっしゃ。そうと決まればさっそく準備だ。
警備員2 ねぇ。
警備員1 なんだ?
警備員2 面白いよね、人間の世界って。
警備員1 そうだな。最高だ。
音楽「Thats the way(KC&ザ・サンシャインバンド)」が流れ
る。警備員、左右に分かれ、両端に立つ。ウィリアムズ、ハルクがでて
きて、同じように 左右に並ぶ。つぎに、アインとサラ・エルダーとリ
ーナ・九尾とナナミ。最後に、スコットとジャックが中央に並ぶ。
警備員1 時は何年。
警備員2 そんなことはどうでもいい。
ウィリアムズ 電気、化学の文明が発展した今でも。
ハルク ここ、魔都ニューヨークに。
エルダー 魑魅魍魎共途絶えたためしなし。
スコット それでも、俺は銃を握る。
サラ それが、私の役目。
アイン それが、俺の運命。
リーナ なぜ、あなたはそんなことをするの。
九尾 人間は、何かと理由をほしがる動物のようだ。
ナナミ あえて、理由をあげるとしたら。
ジャック きっと、僕はこういうのだろう。
エルダー&ナナミ&九尾&ウィリアムズ&サラ&リーナ&警備員2
私は。
スコット&ハルク&アイン&警備員1 俺は。
ジャック 僕は。
全員 この街が好きだから。
声1・2 逃げろ!怪物が出たぞ!
窓ガラスが割れる音。怪物が中央奥から入ってくる。
全員 ニューヨーク妖魔鬼怪は、今日もまた。
全員、怪物に向かって、銃を撃つ。
《完》
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